ストックオプションの是非、三角合併の是非、コーポレートガバナンスの仕組みの是非、資本主義の未来、アメリカは買いか、そして日本の将来は・・・これらのトピックスに関する、日頃のあいまいな認識、無駄な情報収集、どうしても周囲に迎合的になりがちな価値判断・・・本書はこれらを振り払うためのバイブルになる。
本書の力は、著者がベンチャーキャピタリストとして、「ポスト・コンピュータ時代の基幹産業を創出する」という強固なミッション、その一点の目的、を見据えて、米国資本主義のただ中を渡ってきたことから来るものだ。どこに目的を置くかで価値判断が変わってくるのは当然だが、少なくても技術や製造業に軸足を置いている人は、本書をバイブルとして、著者の視点に入り込んで、情報の取捨選択、価値判断を行うことによって、多大な損失を回避する/利益を得ることができると感じた。つまりは、投資哲学を持つ、ということになるわけだが・・・お金の投資のみならず、時間の投資、アテンションの投資でも同じだ。
90年代以来揺れ続けてきた資本市場に関する著者の見立ては明快だ。「株価は通貨としては使えない」ということ。株価は通貨として欠陥を持ち、その欠陥は資本市場を著しく不安定にし、次世代産業を育てるための障害になる、ということ。なぜ欠陥を持つかというと、株価を上げるためのテクニックによって株価を上げることが可能であるため、それを貨幣代わりにすると、株価は自己膨張、ネズミ講、バブルのメカニズムを孕んでしまうからだ。そのような株価を通貨に見立てた企業マネジメントのツール、例えば上場企業のストックオプション、三角合併などは、次世代産業育成に対する敵であり、廃されるべきことになる。
では、通貨として見据えるべきものは何か。それは、新しい技術による価値創造のヴィジョンとその実現の蓋然性であり、それを周到に管理することに経営の焦点は当てられるべきことになる。本書ではそのヴィジョンについても語られている。そしてヴィジョンの担い手となるべき企業ガバナンスのあり方のみならず、資本市場のあり方、会計・法律・税制のあり方、公的部門の活動のあり方についても広く提言がなされている。ただし、ヴィジョン実現の蓋然性を周到に管理するための方法や組織運営のあり方についてまでは突っ込んで書かれていない。