坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

パウル・クレー展ーおわらないアトリエ 東京展

2011年05月30日 | 展覧会
パウル・クレーというと色彩の魔術師といわれ、ファンタジックなイメージをつなぎます。日本でも人気の高いクレーの魅力はどこからくるのでしょう。軽やかな自由さと客観的な思考が織りなす振幅のある表現ともいえます。画家自身もヴァイオリン奏者で、夫人がピアニストの音楽家の家庭でもあったクレーの絵からは、ポリフォニックな音楽的な旋律が聞こえてくるようです。実際に彼が活躍した20世紀初頭は、音楽や文学、演劇や美術がその分野の垣根を超えてインスパイヤーされ、想像の奥行きを広げていきました。
写真は東京展の開催に向けての記者会見の様子ですが、暗く画質が悪くて申し訳ありません。
京都国立近代美術館から東京国立近代美術館へとバトンが渡された本展は、会場のギャラリー空間も建築家が加わり展示の工夫もなされ、セクションごとにぐるっと回っては、またもう一度なんていうこともできます。この展示も本展が、クレーがアトリエでどのような制作方法を用いていたかに焦点をあてた小さな作品群が色彩や線の多様なリズムを生んでいるからでしょう。
パウル・クレー(1879-1940)は、1911年から終生、制作した作品リストを作り続けました。ワイマールでバウハウスの教授をしていたクレーは、実験的な姿勢を崩さず、油彩転写や完成した作品を切って貼り合わせたり、厚紙の裏表に描いたり、完結した作品ではなく進行していく過程を作品化していきました。そして自身の作品群を8つのカテゴリーに分け、特別クラスの作品は非売とされ画家の手元に置かれました。
本展でも目を引く「襲われた場所」(1922年)もその一つで色彩のグラデーションと小さな形のかけらの構成が画面に動きを与えます。従来のモダニズムの絵画の形式を逸脱し、コラージュ的に文字を配したり、遊び心も楽しめる展覧会です。

◆パウル・クレー展ーおわらないアトリエ/5月31日~7月31日/東京国立近代美術館(竹橋)

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