坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

 名和晃平- シンセシスー 新たな知覚の拡大

2011年06月11日 | 展覧会
新たな彫刻概念の拡大は、未知なる造形言語を生み出します。「Cell」(細胞)という概念をもとに、先鋭的な彫刻、空間表現を展開する名和晃平さん(1975年~)の大規模な展覧会が東京都現代美術館で始まりました。
私たちは、感性と物質をつなぐインターフェースである「表皮」によって対象をリアルに感知していきます。名和さんはこの表皮をデジタル化した情報社会のメタファーとして合成し、多様な形態で提示していきます。彼は、コンピュータの画素を示す「ピクセル(Pixel)と細胞の「Cell」を合体させた「PixCell(映像の細胞)」という概念を通して、感性と物質の交流から生まれてくるイメージを探究していきます。仮想的空間の現実化という新たな知覚を12のカテゴリーのゾーンに分化し進化させています。ビーズやプリズム、発砲ポリウレタン、シリコーンオイルなどさまざまな素材を用いて、「PixCell」化することで、現実とは遊離したイメージが立ち現れます。
掲載作品は、「BEADS」というカテゴリーの代表的作品で、非公開の検索ワードでネットからダウンロードしたモチーフの表面を透明の球体(セル)で覆う、虚像として彫刻化するシリーズ。ネットから剥製を検索すると多数ヒットする「鹿」を素材に同じ剥製を重ね合わせたダブルのイメージとして、ものを情報として扱う危うさを提示します。情報社会における感覚や思考のメタファーとして、デジタルとアナログの合体の彫刻は近未来的な創造の領域を開拓しています。

◆名和晃平ーシンセシス/6月11日~8月28日/東京都現代美術館(江東区)




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