海人の深深たる海底に向いてー深海の不思議ー

地球上の7割を占める海。海の大半は深海。深海生物、潜水調査船など素晴らしい深海の秘蔵画像を紹介。奇抜・奇妙な姿に驚愕!!

ジャイアントチューブワームとは

2018年10月25日 | 日記
ジャイアントチューブワームとは   山田 海人

●ジャイアントチューブワームとは?  深海に生息する生き物の中で、最も深海らしい生活をしているのがハオリムシの仲間のジャイアントチューブワームとよばれる生き物です。
 1977年にガラパゴス諸島沖の水深2500mで海底の煙突のようなものから黒い煙の雲を出している様子が発見され、その周りにはこれまで知られていなかったユニークな生き物達が棲んでいることがわかりました。
 このユニークな生き物の中心的な存在が長さ2.4m 太さ10㎝にもなるジャイアントチューブワームでした。チューブワームと呼ばれるように身体の大部分はキチン質でできた硬い管の中に入っていて、管の先から明るく真っ赤な羽のような羽毛(plume)が出ています。
 このチューブワームが棲む環境は、海底からマグマで熱せられた"熱水"がはげしく噴出していて、この熱水に含まれる鉱物と硫化水素、メタン、硫黄などの"鉱物・化学的スープ"のおかげで周りは普通の生き物では致死量に達するほどの驚愕の生息環境でした。

●発見の経緯  発見の経緯となったのは1970年代はじめ頃、新しく海底ができる海域には高温の海底温泉(hot springs)があるのではないか?という疑問でした。1975年にはFAMOUS(フランスのアメリカ中央海嶺研究)プロジェクトで潜水調査船「アルビン」が潜航した折りも海底温泉の存在を探したのですが、この時は見つかりませんでした。
 1976年5月、Peter Lonsdale博士は深海曳航体(deep-tow:カメラ、CTD,海水サンプリングなど搭載)によって海底40m上から初めて熱水噴出孔と周囲に生息する生物の撮影に成功しました。その後、1977年、ガラパゴス諸島沖の hot springs をアルビンに搭乗して自分の眼で確認し、論文「Close proximity to the hydrothermal vent Life (mussels, anemones )」が発表されました。
 この後、1979年にナショナルジオグラフィックの映像クルーとして後にタイタニック号の調査で有名になった Robert Ballard と Fredrick Grassle がアルビンに乗船してこのガラパゴス諸島沖の hot springs を撮影し、ジャイアントチューブワーム、Foot - long clams, Galatheid crabs など化学合成生物群集に生息する生物を撮影し、世界にこの衝撃的な映像が流されたのでした。
 こうして華々しく世に出たジャイアントチューブワームは、学名を Riftia Pachyptila M. L. Jones 1981 と名付けられました。
 分布はガラパゴス諸島沖の熱水噴出孔付近。体長は2.4m(8フィート)まで成長し、太さは10㎝(4インチ)にもなります。寿命は数十年と推測されています。


●共生バクテリア  棲菅はエビ・カニの甲羅より硬いキチン質でできていて、周囲に生息するユノハナガニ、リミカリス、コシオリエビ、魚などから挟まれ、咬まれても壊れ難い丈夫なものになっています。 棲菅から出している明るい真っ赤な羽毛(Plume)は高度に導管化された器官で硫化水素、二酸化炭素、酸素などを交換できる能力があります。
 こうしてジャイアントチューブワームの体内に共生しているバクテリアに栄養素である硫化水素、二酸化炭素、酸素など供給しています。明るい真っ赤な羽毛に流れている体液はチューブワームヘモグロビンと呼ばれるもので、硫化水素と同時に酸素も効率よく運ぶ能力があるものです。
 栄養体と言われる体内に共生しているバクテリアは非常に多く、体重の半分(ある計測では2850億ものバクテリア)ほどにもなり、これら硫化水素などをチューブワームの栄養になる有機物質に変えています。
 このチューブワームは小さい時には原始的な口や腸をもっていて、これで共生バクテリアを体内に取り込んでいるようです。こうして内に共生バクテリアが入ってくると原始的な口や腸は消滅してしまい、成体では口も胃も腸も肛門もない珍しい生き物です。 この共生バクテリアはチューブワームの棲菅の中にあり、体内にいることで快適に、そして安全に生活できるのです。
 羽毛の部分を普段出して海水から硫化水素など取り込んでいますが、周囲に生息する魚類やエビ、カニに時折突っつかれているようです。もちろん俊敏に棲菅に引っ込めて大半は逃げています。

 こうしてジャイアントチューブワームと共生バクテリアは連携を組んでいて、チューブワームが海水から酸素、硫化水素、二酸化炭素を真っ赤な羽毛でろ過し、体内の共生バクテリアは炭水化物を生産するためにこれらの合成物を利用しています。チューブワームは自分では"食べていない"けれども栄養となるこれら硫化水素などを吸収していることになります。


●生息環境  ジャイアントチューブワームの棲菅は熱水活動域の熱い地面に埋まっていますが、それを調べたところ90㎝も埋まっていました。そして棲菅の元と羽毛の温度差を測ったところ、一例では、羽毛 1.6℃、棲菅の元 30℃。別の例では、羽毛 22℃、棲菅の元 80℃にもなっていることが判りました。この80℃って生き物が生きられる環境ではありませんね。棲菅の中は冷たい周囲の海水で冷やしているのでしょうか。
 1993年12月に 東太平洋海膨(East Pacific Rise)でジャイアントチューブワームは年間どのくらい成長するのか調査が行われ、年間33インチ(84㎝)と著しい成長の様子が判明しました。

 チューブワームは腸も肛門もない生き物で、一般の生物では致死量に達するほどの硫化水素の濃い環境に生息しています。従って臭いの強い生き物です。さらに肛門もないという生き物ですから、化学合成の残留物である硫酸塩が寿命の数十年の間すべて体内に溜まっていますので、解剖の時の臭いニオイには閉口しているようです。

 今のところジャイアントチューブワームは太平洋でのみ発見されています。







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