
ある日、あの『天竜人』を乗せた巨大船が海底で海底生物に襲われて難破し、魚人島に緊急入国を求めてくるという事件が起こった。
『天竜人』は、タイガーによって解放され、ジンベエによって恩赦を受けて魚人島に戻った、自分の「魚人族の奴隷コレクション」を取り返しに来たのだった。
常時崇められた生活の『天竜人』は、奴隷であり、常日頃からこの上なく蔑んでいる魚人の島へ来る事が危険であるという発想がなく、魚人島で魚人族を汚らしい下等生物として暴言を吐きまくった。
とはいえ暴言を吐かずとも、奴隷として残酷に扱った憎しみと激しい怨みは、元奴隷達が『天竜人』を殺すには充分すぎる理由であった。深海1万メートルの地で『天竜人』がどう死のうとも、誰も目撃者などいないのだ。
「お前だけと許そうにも許すことが出来ない・・・!!」積年の怨みを込め撃った銃弾は、『天竜人』を身を挺してかばったオトヒメ王妃の体に当たって止まった。

「あなた達銃を捨ててください、子供達が見ています!!あなた達の心の叫びは痛い程伝わってきます、辛いでしょうけど、その人間達への怒りを、憎しみを子供達に植え付けないで!!彼らはこれから出会い、考えるのですから!!」

難破船と聞いて竜宮城を飛び出したのはオトヒメ王妃だけでなく、3人の王子と小さなしらほし姫、そしてジンベエも一緒だった。
ジンベエはそのオトヒメの気持ちがタイガーの意志に通じる事を考えていた時、オトヒメに命を助けらた『天竜人』が、オトヒメ王妃を殺そうとした!!
母親の危機を感じたシラホシ姫は、大声で泣き、その声は不思議な周波数で島中に響きわたった。

かと思った時、港に無数の海王類が現れて、覗き込むではないか!!!

魚と会話できる魚人族ですら、海王類との会話や、まして行動コントロールなど出来ない為、港は恐怖と驚愕で一時騒然となった。
だが、この事態にニヤリと笑う男がいた。バンダー・デッケン9世である。

もう王族以外の魚人島の人達は知らないが、魚人族の間で古く語り継がれていた伝説があった。
『遥か昔、信じがたき才能が海にあり、”海王類”をも従わせる人魚姫がいた』
初代バンダー・デッケンは、その伝説を追い求めて深海に潜っていったのだった。
その夢は、バンダー・デッケンの子孫に密かに受け継がれていた。
数週間後、治療を終えて命を取りとめた『天竜人』は「覚えてろよ!お前達!!家畜の分際で飼い主に銃を向けた事を必ず後悔させてやる!!」と憎憎しい悪態をついて、地上へ帰ろうとしていた。

魚人達は、命を助けてなぜ恨まれねばならないのか・・・、島を危険に晒すこの憎き人間を助けることに我慢ならなかったが、オトヒメ王妃は手だしさせなかった。
オトヒメには考えがあったのだ。
人一倍体の弱い女である自分が人間と一緒に地上に行き、無事に戻ってこれたならば、それは地上の安全の証となるはずだと。

オトヒメはもう二度と戻ってこないかもしれない・・・、命を懸けた無謀な賭けに、不安で不安で眠れぬ夜がリュウグウ王国を包み、百日にも感じる一週間が過ぎた頃、オトヒメ王妃はついにあの横暴な『天竜人』を説得し、一枚の紙を持って笑顔で帰国した。

その紙は”魚人島の希望の光”といえるものだった。
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