例によって何も知らず、何も考えず、ただ第二次大戦でのドイツ軍の暗号「エニグマ」を連合国側が解く話なんだろう・・・とだけ思って、軽~い気持ちで観に行ったら・・・そんな単純な話じゃあ全然なかった!!
この映画は(戦場は出てこなくても)「戦争」を扱っていて、スパイ物のサスペンス風味もあれば、繊細なラブ・ストーリーでもあり、今ならアスピィと言われそうな「空気の読めない(というか他人の気持ちを推し量ることが不得手な)」天才数学者が主人公で、しかもさまざまな差別がまかり通っていた時代の話でもある・・・
しかも、脚色されているとはいえ「実話に基づく」話だということが、終盤本当に辛くて切なかった。私は主人公のアラン・チューリング博士という人を、名前はおろかその業績のカケラも知らなかったので・・・余計に。
あらすじをざっと書くと・・・(パンフレットからプラス・アルファ)
1939年、英国。ケンブリッジの若き数学者アラン・チューリングは、ドイツ軍の暗号機「エニグマ」の暗号を解読するという政府の極秘任務に就く。チェスの英国チャンピオンなど各分野の精鋭によるチームが結成されるが、自信家で不器用なチューリングは彼らとの協力を拒み、一人で「電子操作による解読マシン」を作り始める。そんなギクシャクとした雰囲気の中、女性数学者のジョーンがチームに加わったのをきっかけに、仲間との協力体制が少しずつ整い、やがてチームの一体感が生まれる頃、予想もしなかったきっかけで、彼らは「エニグマ」の暗号を解くことに成功するのだが・・・
映画はこのあらすじとは別に、大戦後のチューリングと、十代のパブリック・スクール時代の彼も、時代を行き来しながら同時に描く。そうすることで、この主人公がどういう人間なのかが、観る者の中に重層的に形作られていって・・・映画はあのラストを迎える・・・というように。
それにしても、アラン・チューリングという人は大変な人生を生きたんだなあ・・・というのが、今の私の実感だ。
人の世に差別は常に横行するもの・・・とはいえ、チューリングは当時3重の意味で「少数派」の立場にいる人だった。1つは彼の抱えていた「秘密」、1つはアスピィという言葉が浮かんでくるような彼の性格・言動、そしてもう1つは、「天才」と呼ばれるほどの彼の才能それ自体・・・。
社会(今の場合は「国」)はそれでも、「天才」については利用しようと企む。しかし、それは「国家の論理」においての話で、その結果本人がどうなるかまでは「国家」は興味を持たない。あくまで本人の成した「仕事」の内容をどう扱うか・・・だけが、国にとっては問題なのだ。といっても、この「国」「国家」というのは特定の個人(複数?)なのかもしれないけれど。
20代の後半という若き日のチューリングは、数学については自負心の塊で、暗号解読にも、ただ「ゲーム」としての興味を持っていただけだった。それがチームの中での人間関係の好転と共に、少しずつ「人の命を救うため」という風に変わっていく。同僚も、自分たちとは格段に違う彼の才能を認め、彼の言動も好意的に解釈される?ようになっていった。
しかし、暗号解読に成功したとき、チューリングは「人の命を救う」ことの難しさに直面する。
それから後の彼は、チームの仲間にも言うわけにいかない秘密が増えていく。チームの1人はそもそもソ連のスパイで、もう1人は彼のことを「救えたのに兄を見殺しにした」と思っている。女性数学者のジョーンも、婚約解消を申し出た彼の本当の意図を誤解したまま、彼の元を去る。・・・孤独に苛まれながら、「誰を殺し、誰を生き延びさせるか」という「神」のような作業を続けた数年間の後、戦争は終わる。
この映画で一番印象に残ったのは何か?と尋ねられたら、私は主人公を演じたベネディクト・カンバーバッチという俳優さんの、圧倒的な存在感とその魅力だと答えると思う。
戦後も、マラソンでオリンピック出場候補になれそうなくらいの長距離のアスリートだったというチューリングの「身体性」(とでもいうのかな)が、映画の中から伝わってくる。「天才」というほどの頭脳明晰さを演じていて、それが似合って見えて「とってつけた」感がない。(だからこそ、あの薬物治療の結果、どれほど彼の「身体」も「頭脳」も壊されたか・・・が、生々しく伝わってくる)
傲岸不遜で、自信家で、人を人とも思わないような言動。でも「言葉が通じない」人々の中で生きているという居心地の悪さ。ある日突然暴力的になるかもしれない生き物(「人が暴力を振るうのは、それが快感だから」)に囲まれている不安・・・。(そもそも、人並みはずれて敏感で、繊細な感覚の持ち主なのだ)
そういった複雑な人格を、一見無表情に見えるカンバーバッチは、驚くほど的確に演じてみせる。不本意な誤解にうろたえる時も、遠慮がちに微笑む時も。感情が込み上げたあまりの泣き顔でさえ・・・
驚いたのは、警察の取調べ室で、尋問が始まるまで一人で待っている場面だったかもしれない。暗い、無彩色に近い色調の中、腰掛けて、足を組んで、ただ静かに待っている彼の姿は、とても美しかった。静謐という言葉を絵にしたような美しさ・・・こういう佇まいが似合う人なんだなあと。
イギリスのTVドラマ「SERLOCK(シャーロック)」で「世界的にブレイクした」というこの俳優さんのことを、私はもう少し不器用な人だと思っていた。ドラマはとても面白かったし、私も彼の「シャーロック」は大好きなんだけれど、私が見た映画の中では、この人はあまり記憶に残っていなかったから。(上手にアンサンブルの中に溶け込んでしまうから・・・ということもあるんだろうけど。)漠然と、舞台の方がその良さが生きる人のような気がしていたのかもしれない。
そんなことを言ってたら、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の悪役はカリスマ性があって凄かったよ~と何人かから言われた。機会を見つけて、絶対観ようと思う。楽しみが、また一つ増えた~(^^)。
他のキャストも皆適役で、ごく自然な説得力が感じられ、悪役(と言っていいのかな?)は厳然として、恐ろしい人は凄みのある恐ろしさ。2人の少年は、それぞれ初々しく、多感に見えて。チューリングが実際に暗号解読に従事したブレッチリー・パークや、少年時代を過ごしたシャーボーン校での撮影などなど、当時を髣髴とさせる雰囲気も魅力的だった。
学生時代の友達(クリストファー)は、私も不思議な感じの男の子だなあ・・・って思って見てました。
でもその後、彼の病気のことを知って、ああそうだったのか・・・と。
チューリングに語りかける時の、同年輩とは思えない優しい口調。
一方で何かの折にふと見せる、遠いところをみているような眼差し・・・
クリストファーは、若くして自分の人生の終わりが見えている人だったからこそ
「生きているもの」に対しての愛、「苦しむ必要などない」くらい意味のない、ツマラナイこと(人間の暴力性)に苦しめられているチューリングへの愛情から
彼を大切にし、親しくしてくれたんだと、私は思いました(違ってるかもしれませんが)。
yellow flog fishさんはお仕事のことで、周囲に理解されなかったことがおありなんですか?
あんなに社会的に重要な職業についておられるのに。。。(と私は思っています)。
私は、自分も含めてずっと「少数派」に囲まれた人生?なので
チューリングのキャラクターには(勝手に)親近感を感じてしまって
その分、彼の不運・不幸?が身に迫って可哀想でなりませんでした。
カンバーバッチはいい俳優さんですね。
あの、ある種浮世離れした感じ?が私は好きです。
(シャーロック、良かったよね~(^^))
chonさんのお好きなジャンルに
いかにも出てきそうな人でした~(^^)
「人工知能」についての幅広い分野に興味のあった人だそうで
「コンピュータ」の前身が目の前に現れたときは
私でさえ感動しました(本当)。
映画の方はもう上映が終わっているようですが・・・
でも、この映画のチューリングはchonさんの好みに合う
男性なんじゃないかなあ・・・と、私は勝手に想像します(^^;
いつか機会があったら、DVDででも、どうぞご覧になってみて下さい。
(って、無理強いするつもりじゃないんですが(^^;)
ともあれ、見に来てくださって、書き込んでくださって
本当にありがとうございました。
なんだかまたちょっと元気が出てきました(^^)。
私の好きなジャンルの小説にはよく出てくるんですよね。
人工知能を扱ったものには必ずと言っていいほど出てくる有名なテストなのに、チューリングというのが人の名前だって事(考えたら当たり前の事なのに)、思いもしなかった。
本当に驚きました。
ちょっと調べてみたくなりました~。
え?映画は?・・・やっぱりやめときます。
すいません。ヾ(´▽`*;)ゝ"