眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『瞳をとじて』

2024-09-07 15:29:46 | 映画・本

(監督・原案・共同脚本:ビクトル・エリセ 2023 スペイン)


ただじっと見ているだけで、なぜか心地よい… そんな映画と、わりと相性がいい方です。(内容がちゃんと理解できてるかどうかに、本人はあまり拘りません)

自分がさまざまな予備知識(スペイン内戦前後の歴史とか監督の履歴とか)を欠いているせいで、映画の中で起きていることの意味が、よく分かっていないのだとは思います。主人公の映画監督は、作り手本人と重なるものが無いとは思えないので。

それでも登場人物一人一人に、物語で明らかにされる以上の「事情」が存在するのは、なんとなく気配でわかります。キャストそれぞれの表情で、そういう演じ方をしているように感じられるというか。

そしてそのことが、見ているときの「心地よさ」や、物語の先を知りたいと思う気持ちに繋がっているような気もする…

実は昔、同じ作り手の『ミツバチのささやき』を観たときも、わたしは同じようなことを思った記憶があります。

「観ているのが心地よい」「そのまま物語世界に浸っていたくなる」 でも、自分が何を見ているのか、実はよくわかっていないんだろうと、自分でも思う… という風に。


こんなところに引っかかっていると何も書けないので、とにかくどうしても書いておきたいと思ったことを二つだけ、書いておこうと思います。


ひとつは、映画のラストまで来て、それが本当に「終わり」なのだと知ったとき、わたしが強く思ったのは、「この映画は男性が作ったモノ」ということだったこと。

男性監督が、男性社会だったであろう映画の世界のことを、今風に「女性に配慮したデリカシー」?を時々感じさせながら、それでも「父親が娘に何を望むか」という二重の劇の形を借りて、描いてみせた作品だと瞬間的に思ったからです。


人生における「時間」を扱った映画… というイメージがあって観にいったのですが、それは「男」の人生なんですね。冒頭、若者と老人?の背中合わせのトルソーが映る所から始まっているのも。「悲しみの王」という邸宅のネーミングも。


作り手が男性で、しかもある種私的なものも含まれる(ように感じる)映画なので、当然のことなのですが、わたしはこの頃、自分がこういう感じ方をすることが増えているのが残念なのでしょう。(フェミニズムというほどのものじゃないのは、自分でよくわかるので)

自分が年を取ったと感じる瞬間のひとつというか。かつては男性の作り手・書き手と自分の違いなど意識せずに、作品を観る・読むことができましたが、今はできない。そうしたくないのだと。


もう一つは、もしかして作り手は、映画という手段・媒体が「そろそろ終わり」と感じているんじゃないかということ。

自分が「もう映画は作らない」のではなく、「映画自体がそろそろ終焉を迎えつつある」とでもいうような。

長年、「書く」時期を挟みながらも「映画」に携わってきた人(のよう)なので、「見るべきほどは見つ」という思い、映画の将来の不確かさなどからも、そういう感慨のようなものがあっても不思議じゃないとはいえ、作品自体からそれが感じられることに、わたしはちょっと驚いたのです。(もちろん素人の当てにならない感覚です)



実は家に帰ってから、若い友人にこの映画のことを説明しようとして、あまりに込み入った話なのにようやく気づき、そのことにも驚きました。

劇中劇(というか映画中映画)でも、映画の本筋でも、父親と娘が最後に対面するのですが、そのときの「探し出された側」の気持ちは、観客の受け取り方次第。

わたしは劇中劇の父親の最後の行動は、娘のためを思ってではあっても乱暴(横暴)だと思い、本筋での父親は、古いフィルムを観て、表情はさほど変えなくても、記憶の一部を取り戻したような気がしましたが… 作り手の意図はわかりません。


ともあれ、久しぶりに観た「純文学」?は、それでもあの「観ているときの心地よさ」に助けられて(或いは惑わされて)、色々考えてしまった作品でした。

 

 

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2 コメント

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Unknown (お茶屋)
2024-09-08 22:32:08
ムーマさん、お書きになっていることがすごいです。
エリセってよくわからないけど心地よいですね、確かに。詩だからねぇ。
映画作りについても、撮ることを諦めた作中の監督と本作を作ったエリセがいるわけで、複雑な胸中を何層もの透明なベール越しに見ているようです。
私には全く気づかなかった視点からの感想で、いいものを読ませていただきました。ありがとうございました。
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気づくの遅くてすみませんでした(^^; (ムーマ)
2024-09-12 21:29:54
その後、なんだかボー然としてしまって…
コメント下さったのに気づかなくて
ほんと、ごめんなさい。

今読み返して、ムチャクチャ漠然と書いてるなあ…と
自分でも呆れています。
映画の内容については、何も書けませんでした(^^;
仕方ないので、書けることだけ書いた…という。

でも褒めて下さったの、嬉しいです。
こういう曖昧模糊、漠然至極、五里霧中?みたいな気持ちを言語化するのは
わたしの能力を超えてるんだと思います。
でも困ったことに、そういう「ヨーワカランけど心地よい」映画が
好きなんですね。たぶん。
(ポエトリーを作った監督さんとか)

なので、この先も「心地よい~」でも「ヨクワカラナイ」な映画を
いっぱい観たいと思ってます。
お茶屋さんの感想読んだから「発見」できたんですよ。
ほんとによかった。
こちらこそありがとうございました(^^)
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