富士市を中心の郷土史

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富士市今泉の昔話(38)

2013年01月18日 13時54分28秒 | 昔話
富士市今泉の昔話(38)外伝 善得寺考 富士の大木(2)

富士南麓は古書に在る天を摩す大木の地が、何故か解らないが幕末の頃は荒蕪地・雑疎林の地
と為っていた。
先人達が此の地の開墾・植樹に努力していたが、鼠害・天災・地味に災いされ実効を上げ得ず
大変の苦労を重ねていた。内山組合の設立、活躍もその一つだったが。
明治に入り、遠州の偉人金原明善翁の指導を得て開墾植樹が進められた。明善翁は人ぞ知る天
龍川の治山・治水の功大の方である。富士南麓に関しての翁の年譜を抜いてみる。

明治34年 11月19日 静岡県山林協会設立。会長就任。(1901)
明治35年4月      山林協会経営の模範林を、富士山麓吉永村勢子辻に設ける事決定。
     11月     明治天皇行幸の途次、知事依り明善の富士山麓の植林の功を言上す。
明治36年1月      同志小野田五郎兵衛、山林協会副会長に就任、富士南麓の現場にて、             率先植林に尽力す。
 (当時植林に従事した祖父の詳細の記録が在り、何時の日か整理をしたいが、日記
  中に日本海海戦大大勝利の字が躍っていた。)

翁の指導に依る富士南麓の植林は急速に進み、育成された模範林の寄付に依り、内山組合
が活性化され、「富士ひのき」の基盤が始まった。この間の経緯は「内山組合誌」。に詳記
されている。富士熔岩地に檜が適材としての指導が「富士ひのき」の源流と為っている。
模範林は地区合計約184町で、植樹は73万本に及んでいる。
翁は質素を旨とし、修身・斎家を基本として治山・治水を全国に努力され、富士もその一
部である。

翁よりの手紙は、新聞紙を切り貼りした手創りの封筒を使用され、何通かを戴いている。
また碑文とさせて戴いた色紙の判は芋判の手創りと聞いている。
当時の林業の基地として、瀬古辻が在り、其処には明治依りの瀬古辻分校があり、内
山植林地の原動力になってきた。分校は今は市の「勢子辻ひのきの家」とし新発足してお
り、中には明治19年に発足した「植森林興学校」と大書の扁額が在る。これは此の地で
発掘された3cmの厚さの神代杉が使用されている。神代杉に関しては別稿でまた述べたい。
明治依りの林業の「生き証人」と言へるかもしれない。

「親に仕えて孝、子孫の為に林業を起こす、実に賢なるかな」85翁明善書
碑文である。「こどもの国」入り口の東の高台に在り富士に対している。





「松平家忠日記」を前稿依り続ける。
21日 降雨木引き。
22日 降雨。小材木運搬。
23日 降雨休み。
24日 木休み。
25日 富士雪。木引き105人。
26日 木引き。上出村木小屋場まで至る。
27日 小材木運搬。家康大宮にて富士大木を検す。
(此処まで推定600間やく1000m)
28日 家康大宮より甲府に赴く。
29日 家康2隊に速やかに富士大木を富士川沼久保まで出すことを命ず。然れども今日
は僅かに路頭まで引き出すを得たるのみ。
人夫137人着到。
30日 大木、大き(現在の青木の地名と推定)迄引き出す。
9月  1日 運搬。
  2・3日 運搬。
    4日 木引き沼窪川に入る。
    5日 大木川を下ること20町計。
    6日 川を下る20町許。溺死1。
    7日 大木、洲にかかりて動かず。
    (富士川の岩本よりの東流で洲が多く、困難したこと推定)
    8日 降雨、大木流下10町許。
9日 川浅くして動かず。再び陸揚げして引く。
   10日 木引き。
   11日 木引き。
   12日 大木始めて吉原に着す。これより船にて渡す。
   (吉原の地名は、吉原湊か或いは現在の今泉から吉原の地を言って居るか不明。
私見としては後者を考える。他の家忠日記の秀吉の北条征伐の折の宿舎の吉
原御殿と通ずる呼び名と思はれる。)
    13日 此の日より門木を引き、日々続く。
    18日 木引きの甲信の衆帰る。以降木引き止むこと無し。
10月 28日普請衆、引き上げ命令。

大木の引き出しは、現地に記録・口伝も無く場所の特定はできていないが、幾つかの
地名が在りさらに調べたい。
何にしても富士山に考えられないような大木が在ったことまたこの大森林が、徳川
300年の間に消滅したことは不思議である。
   
この後大木は、船に引かれて淀川・宇治川をへて、宇治より方広寺まで工事の為に
掘られた高瀬川により運ばれた。観光バスでガイドが高瀬川でこの運河を駿河より
大木が運ばれたと説明しており、昔を感じた。
今に残る方広寺の大仏殿の大石垣、柱用の金輪又柱の跡に建てられた柱様の石柱の
数の羅列等に昔が偲ばれる。

正月の雪景色。熔岩樹型の多い丸火公園の景。