「連」で腹八分目になったとき、品書きにある「もずく雑炊」なるものが気になりました。それで締めくくれば過不足がなかったでしょう。しかし、初めての土地ともなるとつい欲張ってしまうのが人情というものです。時間からして選択肢は自ずと絞られ、もう一軒の推奨店である「山海」を訪ねました。
輪島の町は想像していた以上に静かです。改めて自分の足で歩いてみても、「居酒屋王国」どころか繁華街らしきものさえ見当たらず、商店や住宅に混じる形で飲食店がまばらに散らばっているだけでした。その明かりも途切れ、いくら何でもここに呑み屋はないだろうと半信半疑になりかけたとき、通りから左へ折れたところに番組で見た雑居ビルが忽然と現れました。他の店はスナックばかりで、扉の向こうからは酔客の歌声が漏れてきます。奥にあるこの店にも暖簾はなく、スナックから転用したかのようなドアノブ付きの玄関は、一見すると勝手口のようにしか思えません。ここだと分かっていても一瞬躊躇させられる店構えです。時間からして早仕舞いもあり得るかと覚悟しつつ扉を開けると、小上がりにはまだ先客がおり、首尾よく入店という顛末です。
居酒屋を標榜する「連」に対し、こちらの屋号には大衆割烹とあります。外観こそやや怪しげながらも、店主と女将が二人で仕切る店内は、その名の通りの大衆割烹でした。怪しげな雑居ビルの店構えと、大衆割烹然とした店内の設えの対比は、高松の聖地「美人亭」のようでもあります。
カウンターの背面にあるガラス戸つきの食器棚に品書きが一品ずつ貼られ、カウンターの突き当たりにも小さな短冊の品書きが並んでいて、中央に鎮座するネタケースには様々な魚介が整然と収められています。まず目に留まったのは春を告げるさよりですが、それ以外の魚もぴかぴかに光ってうまそうです。これをむざむざ見過ごすこともできず、二軒目にもかかわらず盛り合わせを注文すると、サザエ、ガスエビ、アオリイカ、平目、ノドグロ、ホウボウ、それに目当てのさよりを入れた七点盛りが出てきました。もちろん味についても申し分ありません。次いで注文したいしる鍋は、能登特産のいしるを使った出汁で茄子、大根、アオリイカとガスエビ、それに新わかめを煮た、肴にはお誂え向きの一品でした。
放映開始から五年にわたり、月に二回の割合で制作された教祖の番組も、今週の放送で120回目を迎えます。それだけの回数を重ねると、教祖といえども持ち駒が尽きてくるということか、最近では初見の町が紹介されることも増えてきました。この場合、教祖御自ら長年通った店ではなく、人伝に聞いた店を取材する形になるため、教祖の推奨店としては首を傾げるような店がいくつか出てきます。佐渡の店が二軒紹介されたときも、是非行ってみたいと思うまでには至らず、昨年訪ねたときは町に泊まらずキャンプをしました。
去年の夏に放映された輪島の回についても、やや懐疑的な部分はありました。教祖の推奨店らしい老練さまでは感じられず、むしろ「酒場放浪記」にでも出てきそうな、悪くいえばありふれた店のようにも感じられたからです。しかし、なまじ評価が高いとこちらの期待値も上がってしまい、結果としてその期待以上の感動までは得られないという経験をしばしばしています。過剰な期待をせずに臨み、その期待を超える結果だったという点では上々といってよいでしょう。想像していたのとやや違う形だったとはいえ、「居酒屋王国」の名に偽りなしと実感した次第です。
★山海
輪島市河井町6-21-12
0768-22-5254
1800PM-2300PM(LO)
日曜定休
酒三合
刺身盛合せ
いしるなべ
輪島の町は想像していた以上に静かです。改めて自分の足で歩いてみても、「居酒屋王国」どころか繁華街らしきものさえ見当たらず、商店や住宅に混じる形で飲食店がまばらに散らばっているだけでした。その明かりも途切れ、いくら何でもここに呑み屋はないだろうと半信半疑になりかけたとき、通りから左へ折れたところに番組で見た雑居ビルが忽然と現れました。他の店はスナックばかりで、扉の向こうからは酔客の歌声が漏れてきます。奥にあるこの店にも暖簾はなく、スナックから転用したかのようなドアノブ付きの玄関は、一見すると勝手口のようにしか思えません。ここだと分かっていても一瞬躊躇させられる店構えです。時間からして早仕舞いもあり得るかと覚悟しつつ扉を開けると、小上がりにはまだ先客がおり、首尾よく入店という顛末です。
居酒屋を標榜する「連」に対し、こちらの屋号には大衆割烹とあります。外観こそやや怪しげながらも、店主と女将が二人で仕切る店内は、その名の通りの大衆割烹でした。怪しげな雑居ビルの店構えと、大衆割烹然とした店内の設えの対比は、高松の聖地「美人亭」のようでもあります。
カウンターの背面にあるガラス戸つきの食器棚に品書きが一品ずつ貼られ、カウンターの突き当たりにも小さな短冊の品書きが並んでいて、中央に鎮座するネタケースには様々な魚介が整然と収められています。まず目に留まったのは春を告げるさよりですが、それ以外の魚もぴかぴかに光ってうまそうです。これをむざむざ見過ごすこともできず、二軒目にもかかわらず盛り合わせを注文すると、サザエ、ガスエビ、アオリイカ、平目、ノドグロ、ホウボウ、それに目当てのさよりを入れた七点盛りが出てきました。もちろん味についても申し分ありません。次いで注文したいしる鍋は、能登特産のいしるを使った出汁で茄子、大根、アオリイカとガスエビ、それに新わかめを煮た、肴にはお誂え向きの一品でした。
放映開始から五年にわたり、月に二回の割合で制作された教祖の番組も、今週の放送で120回目を迎えます。それだけの回数を重ねると、教祖といえども持ち駒が尽きてくるということか、最近では初見の町が紹介されることも増えてきました。この場合、教祖御自ら長年通った店ではなく、人伝に聞いた店を取材する形になるため、教祖の推奨店としては首を傾げるような店がいくつか出てきます。佐渡の店が二軒紹介されたときも、是非行ってみたいと思うまでには至らず、昨年訪ねたときは町に泊まらずキャンプをしました。
去年の夏に放映された輪島の回についても、やや懐疑的な部分はありました。教祖の推奨店らしい老練さまでは感じられず、むしろ「酒場放浪記」にでも出てきそうな、悪くいえばありふれた店のようにも感じられたからです。しかし、なまじ評価が高いとこちらの期待値も上がってしまい、結果としてその期待以上の感動までは得られないという経験をしばしばしています。過剰な期待をせずに臨み、その期待を超える結果だったという点では上々といってよいでしょう。想像していたのとやや違う形だったとはいえ、「居酒屋王国」の名に偽りなしと実感した次第です。
★山海
輪島市河井町6-21-12
0768-22-5254
1800PM-2300PM(LO)
日曜定休
酒三合
刺身盛合せ
いしるなべ