日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

京急沿線はしご酒 2014初秋

2014-08-23 19:49:02 | 居酒屋
長い腹ごなしを経て真打ち「銀次」の登場です。
六時間もの間を開けたのは、もちろん万全な腹具合で臨むためです。しかし本当の理由は違うところにありました。というのは、この店に通い続けた結果、開店からある程度時間をおくのがむしろ吉と気付いてきたからです。

この店へ乗り込むというと、かつては四時の開店直後を狙っていたものです。週末では月に一度の営業日に訪ねる以上、満席で振られるという事態は断じて避けなければならず、そのためにはいち早く乗り込むのが最も確実と思われたからです。ところが、実態はそうでもありませんでした。似たような考えの連中が、四時を狙って殺到する結果、いつ行っても開店から数分で満員札止めとなってしまうのです。混み出す前に余裕を持って入るつもりが、これでは完全な逆効果というものでしょう。
開店と同時に即満席といえば、思い出すのは名古屋の聖地「大甚本店」です。この店で土曜に呑むのは一種の戦いです。四時の開店を狙わなければ、入店できるかどうかもおぼつかず、なおかつ五時を過ぎれば早くも品が切れてきます。これに対して「銀次」の場合、混むとはいってもそこまで切迫した事情はありません。ならばお客が二回転、三回転してから悠然と乗り込む方が、心おきなく呑むにはむしろ好都合というわけです。その狙い通り、中をのぞくとカウンターには適度な空席があり、女将に向かって左側、燗付け器の脇という好位置に首尾よく着席と相成りました。

今回特筆すべきは、黒一点の板前が交代していたことです。かなりの年配と見受けられた先代の板前が、後進に道を譲ったということでしょうか。長身細身の風貌もさることながら、右奥の板場から微動だにせず包丁を捌くという立ち振る舞いが様になっていただけに、引退ということであれば残念というほかありません。しかし、後釜の板前も基本動作は同じです。何度か通えば見慣れてくるでしょう。人は代われど雰囲気がそのままなのは幸いでした。
丸椅子に腰を下ろす間もなく酒を頼み、短冊から刺身を一品、それに煮込みを注文。鯖の文化干しを続けたところで、二本目の徳利が空きました。時間には十分な余裕があり、普段ならばあと一本追加するか、それとも河岸を代えるかという頃合いです。しかし、不完全な状態の歯で無闇に欲張っても仕方がありません。腹と心を適度に満たしたところで切り上げます。

それにしても、港で眺めた夕方から夜にかけての移り変わりは劇的でした。にわか雨が上がって西日が差し、やがて雲の向こうに隠れると、佇む波止場に橙色の街灯が。辺りが次第に暗くなる中、蝉時雨は秋の虫の大合唱に、やや蒸していた風は心地のよい夜風に変わり、さらには半島の向こうで花火が上がり始めたのです。去り行く夏と近付く秋とが交差する、実に印象的な光景でした。余韻に浸りながら帰ります。おやすみなさい…

銀次
横須賀市若松町1-12
046-825-9111
1600PM-2300PM(第四土曜除く土日祝日定休)

酒二合
お通し(糠漬け)
カツオさしみ
にこみ
サバの文化干し
コメント

京急沿線はしご酒 2014初秋

2014-08-23 12:27:57 | 居酒屋
どれだけ暑くなるかと身構えた週末でしたが、いざ蓋を開けると陰影のある曇り空で適度に日差しが遮られ、冷房なしでもどうにか過ごせる気候です。これは僥倖とばかりに横須賀へ繰り出してきました。「銀次」が開く第四土曜を狙って乗り込むのが常とはいえ、はるばる足を伸ばす理由の少なくとも半分は、この店で呑むことにあるといっても過言ではありません。一軒目はもちろん、毎度おなじみ「中央酒場」の暖簾をくぐりました。

冬以来の再訪とはいえ、中年の一人客がカウンターに連なる光景と、そのカウンターの内側で立ち回る面々は何一つ変わりません。通い続けて早三年、初めて訪ねた頃の鮮烈な感動は、マンネリズムという新たな楽しみに昇華した感があります。こうなるとこちらも手慣れたもので、席に着くより先に生ビールを注文。一品目には裏メニューのなめろうを選びました。
一方、今回は歯がまともに機能しないという特殊事情があり、当店における不動の先発牛すじが選べません。谷中生姜に枝豆などの夏らしい品々も、歯がこれでは敬遠せざるを得ません。短冊を隅から隅まで眺めた結果、代わりに選んだのはかねがね気になっていた「ヨコスカコロッケ」でした。一皿二個のコロッケはカレー味、ではなくいかにも大衆酒場らしい正統派。丸くこねて粗挽きのパン粉をまぶし、千切りキャベツと辛子を添えるのが当店流です。あとはメゴチの天ぷら、焼き茄子とつないで締めくくります。刺身のつま、千切りキャベツに茄子のへたなど依然として噛みづらいものはあっても、品さえ選べば思った以上に飲み食いできるものです。本格的な活動再開を前に、最低限の目処が立ったのは好材料といえます。

店の奥ではTVが流れ、しかし居並ぶ一人客はそれに目を遣るでもなく、各自煙草を吹かしたり文庫本に目を落とすなどしています。飲食店にTVは無用というのが自身の考えであり、非喫煙者としては隣客の煙草も歓迎できるものではなく、読書しながら飲食するのも行儀が悪くていけません。しかし、この店ではそれらのことが不思議と気にならず、むしろ様になっているようにさえ思えてきます。背中に哀愁漂う中年男が、一人静かに酒を酌む光景に、昼酒の理想型が体現されているとでも申しましょうか。鉢合わせした常連同士が、挨拶を交わす光景なども秀逸です。昼から呑める大衆酒場の居心地にかけては、ここが横須賀、いや関東屈指の名店と、改めて実感した今回の再訪でした。

中央酒場
横須賀市若松町2-7
0468-25-9513
1000AM-2230PM(日祝日定休)

キリンラガー・ホッピー・菊正宗
鰺なめろう
ヨコスカコロッケ
めごち天ぷら
なすやき
コメント (2)