ハンブルク・バレエ『幻想 ― 白鳥の湖のように』
The illusions - like "Swan Lake"
[出演]イリ・ブベニチェク(王)、カーステン・ユング(影)、エリザベス・ロスカヴィオ(ナタリア姫)、アンナ・ポリカルポヴァ(オデット)、アレクサンドル・リアブコ(アレキサンダー伯爵)、シルヴィア・アッツォーニ(クレア妃)、ヤチェック・ブレス(ジークフリート王子)、アンナ・グラブカ(王の母)、ロイド・リギンズ(レオポルト王子)、ピーター・ディングル(大工の棟梁)、ラウラ・カッツァニガ(蝶)
[演出&振付]ジョン・ノイマイヤー
[美術&衣装]ユルゲン・ローゼ
[音楽]ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
[指揮]ヴェロ・パーン
[演奏]ハンブルグ交響楽団
[収録]2001年5月ハンブルク国立歌劇場
■全3幕/約2時間28分
2009年05月にクラシカジャパンにて放映されたものを録画鑑賞
これまた凄い作品だった。ノイマイヤーはすごい。
ルードヴィッヒ2世の物語が、その現実と回想を交互に繰り返すことによって、またその中に従来の「白鳥の湖」のバレエを取り込みながら展開される。その切り替えは実に巧みで、ステージはノイマイヤーらしくすべてが隅々まで凝りに凝っている。
とは言え、「白鳥」完全な読み替えではなくクラシックの「白鳥」の2幕、3幕の見せ場をうまく残しているので、普通の白鳥を観たい観客の欲望も満たしてくれるところが心憎い。
主役のイリ・ブベニチェクの狂気の王の演技が凄まじい。オデットのアンナ・ポリカルポヴァの夢のような美しさと上半身の柔軟性は理想的な白鳥。その完璧な白鳥ぶりが劇中劇のもの-虚構の存在であることを際立たせ、非常に効果的だった。それから、王の憧れの愛の形として登場するアレクサンドル・リアブコとシルヴィア・アッツォーニのパートナリングがまた完璧すぎ!この2人のPDDは振付も美しく、1幕も2幕も実に見ごたえがあった。
ハンブルグ・バレエHPによると、主人公である王の人物設定はバイエルン国王ルードヴィヒ2世であり、また本バレエの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーでもあるらしい。チャイコフスキーもモデルだったんだ・・・繊細で傷つきやすく、浪費家で同性愛者な部分だろうか?? この部分については良くわからなかった。
ノイマイヤーは情報収集力がものすごく、さらにそれを整理して、消化する高い能力の持ち主なのだろう。その上さらに創造力も同時に持ち合わせているまさに天才。だから、徹底的に調べ上げて、練り上げるからこそ、その作品には強い説得力がある。
ステージの上は情報がいっぱい詰まっていて、舞台が饒舌なのである。どことして不要な部分はなく、意図されているので、見所がやたら満載。録画だと観れば観るほどおもしろいが、とても長い!この作品は約2時間30分!実際の舞台で休憩を2回入れたら3時間20分近くになる。これを観るのは大変そう~ でも、観たいけど。
***********************************
第1幕
薄暗い中に青白い光が差し込むお城の一室。ここは王自身が建設を命じたいくつかの城の中の未完成の部屋。室内の家具には布がかけられている。
正面奥の扉が開き、呆然とした表情の王が家臣と衛兵によって連行されて入ってくる。王は精神病とされ、仮面舞踏会の最中に捉えられ、投獄されるのだ。
親友のアレクサンダー伯爵が駆け込んできてくる。アレクサンダーに目を向けるも正体無げに見た後、視線を遠くにそらす。アレクサンダーが王に抱きつくが王は宙を見つめたまま。
皆が部屋を出て、扉が閉まる。その音ではっと我に返った王は閉ざされた扉にすがりつく。ここまで無音。
前奏が始まる。王は上着の胸に刺繍された白鳥の上に手をやる。上着を脱ぎ捨てる。下手の窓辺により外を眺めた後上手へ。布を被った家具の布を剥がすと、それは祈祷台だった。ひざまずき祈りをささげる。するとその背後に不穏な気配を感じる。そして黒い影が忍び寄ってきた。振り返って駆け寄るが影はすぐに消えてしまった。祈祷台に戻って気を失う。すぐに気がつく。今のは夢だったのか?
呆然と後ずさりして、上手の布で覆われた物体にぶつかる。布を取ると、それは彼が愛情を持って作り上げたお城の模型だった。愛おしそうに模型を抱きしめながら眠りに落ちる。
第一の回想:建設現場―上棟(?)祝い
職人や農民たちが新しい城の屋根の骨組みの完成(上棟ってこと?)を祝っている。王も親友のアレクサンダー伯爵を伴って現れ、祭りに加わる。ビールで乾杯。酔った棟梁が骨組みの上からビールのジョッキを落として割ってしまうと、その場が静まり返る。王は自分の世界に入り込んでしまう。このソロにはよく1幕で王の葛藤を表す音楽。アレクサンダー伯爵が側に駆け寄ると王は一瞬我に返るが、再び一人の世界に入って踊る。ここでのブベニチェクは回転の後のフィニッシュで足先がとても美しいのが印象的。
王をいぶかしげに見る民たち。王はおもむろに民たちに触れるが、皆後ずさる。ジュテ、アントルラセのマネージュ。下手奥からジュテ、ジャンプしてアラスコンドで回転を繰り返して上手前へ。踊り狂う王に人々は逃げ惑う。突然倒れこむが、起こされて正気に戻ってその場を取り繕おうとする。
祭りが再び活気付く。男たちは力比べ?体力勝負?(逆上がり競争とか!)やボクシング。子供たちが竹馬に乗ったり(ドイツにもあるのか?乗り方が変だったけど??)。王もボクシングをやってみたりする。乱痴気騒ぎ。
そこへ王宮の人々が到着した。黒いスーツの家臣たち、レオポルド王子に付き添われた皇太后、王の婚約者であるナタリア姫。そして、アレクサンダー伯爵の婚約者であるクレア妃もやってきた。アレクサンダー伯爵が必死で王のグローブを取ろうとするが、間に合わず、王は皇太后の手を取ろうとグローブのままの手を出してしまい、皇太后がひく。ようやく外して、ナタリア姫の手にキス。
祝いは後から到着した人々の歓迎会となった。皆で乾杯。ここで通常のPDTの音楽。アレクサンダー伯爵とクレア妃を含む男女4組のパ・ド・ユイットに。クレア妃以外の女性3人のそれぞれのソロ。トリはジョエル・ブーローニュ。ゴージャス!リアブコをセンターに男性4人の踊り。跳躍、回転をたくさん盛り込んだステップ。皆しっかり決まっていて、すごくかっこいい。
クレア妃のソロ。ここの音楽はセルゲイエフ版とかの4幕の始めの方のもの。ジュテ、ピルエット、ジュテ、ピルエットのマネージュ。すごいスピード。
通常のPDTのコーダの音楽に戻る。8人の踊り。先ほどまでと違って、貴族らしく優雅な振付の踊り。この辺りのメリハリのつけ方もノイマイヤーは巧い。
(音楽は再びよく王子の苦悩の時の音楽に?)。王は促されて皇太后の手を取り、皇太后と踊り始める。皇太后がポワントをはいて踊るのは珍しい。ナタリア姫も入ってきてPDTに。
ナタリア姫のソロ。アティチュードでゆっくりとした回転が実に優雅。王が入ってきてPDDになるが、臣下たちが大切なお城の模型を触っているのを見るや、模型に駆け寄って臣下たちをはねつける。激しく動揺する王。ナタリアは気付かず?踊り続ける。
クレア妃とアレクサンダー伯爵のPDD。音楽は聞いたことはあるけど通常の「白鳥の湖」では使われないものと思ったら、原曲の「Swan Lake Op. 20: Act III: Numero supplementaire: Pas de deux」でバランシンの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」に使われているものだった。アレクサンダー伯爵は時折の頬にキスしながら、高度なリフトをこなしていく。幸せそうに踊る二人を羨望のまなざしで見つめる王。今にも入り込んでいきそうなところ、ナタリアに声をかけられ、我に返る。 本当に愛にあふれた素晴らしいPDDに荘厳で甘美なメロディーが盛り上げる。踊りが終わって抱き合う二人をさらに抱きしめる王。自分もその愛に入り込んで浸りきっているかのように・・・
皇太后が王の手を引き、踊ろうとするが家臣たちの動きが気になって、皇太后から離れる。すかさずレオポルド王子が皇太后と踊り始める。音楽は通常の1幕の終わりの方のコール・ドの乾杯の踊りの音楽。王は一人で模型を眺めているとナタリアが近づいたきたので、手を取って運ばれてきた飲み物を受け取り、ふと給仕の顔を見ると・・・「影の男!」王の様子がおかしいので、アレクサンダー伯爵が飛んでくる。「あいつがあいつが・・・」と振り返ると、給仕はただの少年。(これ、実際の舞台ではどうやって入れ替わるのかしら♪)
気を取り直して、ナタリアの手を取り、皇太后たちの踊りに加わる。
祭りが終わり、人々がいなくなり、王は一人建築現場に残る。オーボエのゆっくりとした音楽。これは原曲にもない曲? 立てひざをつき、土を集めて匂いを嗅ぎ、安堵したような表情。脚を後ろに上げて回転。とても美しい。一人踊っているところにナタリアが入ってくる。王は背を向け、失望するナタリア。でも、気を取り直して歩み寄る。PDD。良い感じなところで必ずナタリアを突き放す王。ここのリフトもかなり難しそう。
上手の奥から影が忍び寄ってくる。ナタリアがはかなげにパ・ド・ブレでゆらゆらとだんだん遠ざかっていく。ナタリアを引きとめようと抱きしめる・・・が、それは「影の男」だった!慌てて逃げるが、精気を吸い取られたかのように背後から近寄ってきた影に倒れかかる。場面は幽閉された部屋に戻る(この切り替えはいつの間に!)。王はそのまま床に寝かされる。
第2幕
現実
目を覚ました王は部屋の片隅に置かれていた布を被った家具の側へ寄って、カバーを外す。それは、バレエ『白鳥の湖』のためのデザイナーによる舞台の模型だった。王は、かつて自分のためだけに上演させたバレエに思いを馳せる。
第二の回想:『白鳥の湖』のプライベート上演
幽閉部屋のセットが左右に動いて消えると、そこは薄暗い劇中劇の舞台。王は自分のためだけに上演されるバレエを見ている。ロッドバルトが登場。人間の姿のオデット姫をさらって白鳥の姿に変えてしまう。この後の劇中劇のストーリーは古典の「白鳥の湖」の第2幕のまま。狩りの一行がやってくる。ジークフリード王子もやってきて、白鳥の気配に身構えると、その白鳥が美しい姫の姿に変身。白鳥が舞台袖から登場した瞬間、王もその美しさに思わず席を立ち上がる。劇中劇ではマイムが多くとても誇張して使われている。「劇」であることを強調しているのだろう。王子が私が永遠の愛を誓います。というマイムをやっている後ろで、王も同じマイムを・・・白鳥にすっかり魅了された王は次第に自分が舞台の中の存在で、ジークフリード王子だと思い込んでしまう。
ナタリア姫がアレクサンダー伯爵にエスコートされて劇場に密かに入ってくる。コール・ドの踊り。アダージオの始まり。床にオデットが伏せているところに静かに近寄る・・・王!遂に王はほんとに入り込んで踊り始めてしまう。周囲のコール・ドたちが「えぇ??」と思わず踊りを中断してしまうが、ジークフリード役が冷静に皆に戻るように指示。王様だから止めるわけにいかないのだ。
この様子を近くで見ていたナタリアは、王が白鳥と踊るほど密接な関係を持っていることに驚く。ナタリアは自分が見た光景に深く動揺しながら立ち去る。
古典お約束の4羽の白鳥があり、2羽の白鳥、オデットのソロ。ポリカルポヴァの上半身の柔らかさは驚異的。コーダ。ジークフリードは適宜サポートに手を貸すが、ほとんど王が踊ってしまう。最後の脚乗せポーズまで王が決めちゃったよ~ そして、王はほんとに愛を誓おうとしたところで、ロッドバルトがオデットを隠し、オデットが消えていく。そして、ロッドバルトが仮面を脱ぐ-その正体は「影の男」!
第3幕
現実
幽閉された部屋の中。第3幕の音楽が流れ始める。王は祈祷台の上ではっと気がつく。窓を明けると音楽が大きくなる。音楽はライバルだったレオポルドがパレードをしている行進曲だったのだ。耳をふさぎ壁にもたれかかる。その時壁にかかっていた布に触り、その布が床に落ちると肖像画が現れた。それは王の戴冠式の時のものであった。突然戴冠式の記憶がよみがえり、彼は過去の回想の中に再び入っていく。
第三の回想:仮面舞踏会
王冠を被り、豪華な毛皮の裏打ちされたマント(?)をまとい、たくさんのシャンデリアと鏡のある広間で一人玉座に座る。
仮面と民族衣装を着た人々が登場。アレクサンドル伯爵とクレア妃はロシアの民族衣装。皇太后とレオポルド王子はハンガリーの衣装。王はジークフリード王子の衣装を身に付けて登場した。ナタリア姫は随分かさばった衣装だ。
道化たちが現れ、陽気な踊りでゲストたちを楽しませる。道化たちは舞踏会の儀典を取り仕切る進行役でもある。各国のダンスが披露される。まずは皇太后がチャールダーシュの先頭を踊った。スペインの踊りは男女3組で華やかに。ナポリは蝶を道化の頭が虫取り網を持って追いかける・・・それから、アレクサンドル伯爵とクレア妃のロシアの踊り。これまた高難度のリフトが多様された複雑な振付なのだが、2人が完璧にこなしていて、すごく見ごたえあり。
古典の黒鳥のGPDDの音楽が始まる。皆がワルツを踊り始める。ダンスのパートナーが入れ替わる。王がふと踊りの列を離れた時、ナタリア姫が白い白鳥のように登場。
ナタリアはスワンプリンセスの衣装そっくりな衣装を身に付けていた。ナタリアが劇中の白鳥のような動作をすることによって、王はすっかり彼女がオデットと思い込んでしまう。この後の振付はほぼ古典に習っている。王のソロでは、ブベニチェクが完璧なテクニック。ピルエットは回転が速いけど、フィニッシュもぴったり。恋が成就しようとしている喜びの表情とへんてこりんな衣装のコントラストが痛々しい。ナタリアの32回転。シングルだが、最後にトリプル?でフィニッシュもきれい。王のピルエット・ア・ラ・スコンドも2回に1回両手をあげたダブルで完璧。気分が最高潮になったところで王が結婚の誓いを立てようとする。
深夜になり、祭りは終わりに近づいている。仮面をとる時間だ。人々が入り乱れる中、黒装束の道化が王に近づき、他の誰もが気付かない中、ゆっくりと仮面を脱ぎ、正体を現した。『影の男』だ!王を一瞬にして想像の世界から引き戻され、ナタリアーオデットとの恋の幻想も砕け散った。王は気が狂ったようになり、ナタリアを突き飛ばし、皇太后の頬をはたき、暴れる。家臣たちが王を捕らえれ、床に組み伏せられる。
現実
王は幽閉された部屋の床で寝ている。ドアをノックする音がして目覚める。少しの間の面会を許されたナタリア妃がまだ舞踏会の白鳥の衣装のままの姿でいた。髪を振り乱している。王は背を向ける。ナタリアは王の手を取って許しを請うが、王は拒否する。涙にむせぶナタリアを気遣う王。悲しく壮絶なPDD。ナタリアの気持ちはわかっているが、どうしても自分には受け入れられない。ナタリアに身をゆだねようとするが・・・最終的にやはり彼女を拒否する永遠に。王は彼女から離れて、祈祷台で祈る。失意のナタリアは部屋から出ようとするが、もう一度だけ王の側へ寄る。が、王はひたすら祈りをささげ、もう別世界にいってしまっている。ナタリアは黒のレースのベールをかけ、静かに部屋を出て行く。
突然セットが左右に別れ、白鳥たちが現われる。王の目の前には白鳥の湖の幻想が現われ、現実と混沌とする。王ははっきりと『影の男』の存在を感じた。王は運命を受け入れたかのように影に身をゆだね、影にあやつられるまま激しいPDD。最後は逆さになって影の男に抱えられる。上からは王家の紋章が刺繍された青の幕が降りてきて2人と辺り一面を覆う。これが彼の没落とともに湖に身を投げたことを表すのだろうか。青い布は湖面のよう。奥に青白く影の男が浮かび上がる。少し前に進み布ごと王の亡骸を抱き上げる。 幕。
***********************************
ドイツで発売されているDVDにはノイマイヤー自身の解説が入っているらしい。やはりかなり饒舌らしいが。是非ノイマイヤーのウンチク聞きながら観たいものだ!
The illusions - like "Swan Lake"
[出演]イリ・ブベニチェク(王)、カーステン・ユング(影)、エリザベス・ロスカヴィオ(ナタリア姫)、アンナ・ポリカルポヴァ(オデット)、アレクサンドル・リアブコ(アレキサンダー伯爵)、シルヴィア・アッツォーニ(クレア妃)、ヤチェック・ブレス(ジークフリート王子)、アンナ・グラブカ(王の母)、ロイド・リギンズ(レオポルト王子)、ピーター・ディングル(大工の棟梁)、ラウラ・カッツァニガ(蝶)
[演出&振付]ジョン・ノイマイヤー
[美術&衣装]ユルゲン・ローゼ
[音楽]ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
[指揮]ヴェロ・パーン
[演奏]ハンブルグ交響楽団
[収録]2001年5月ハンブルク国立歌劇場
■全3幕/約2時間28分
2009年05月にクラシカジャパンにて放映されたものを録画鑑賞
これまた凄い作品だった。ノイマイヤーはすごい。
ルードヴィッヒ2世の物語が、その現実と回想を交互に繰り返すことによって、またその中に従来の「白鳥の湖」のバレエを取り込みながら展開される。その切り替えは実に巧みで、ステージはノイマイヤーらしくすべてが隅々まで凝りに凝っている。
とは言え、「白鳥」完全な読み替えではなくクラシックの「白鳥」の2幕、3幕の見せ場をうまく残しているので、普通の白鳥を観たい観客の欲望も満たしてくれるところが心憎い。
主役のイリ・ブベニチェクの狂気の王の演技が凄まじい。オデットのアンナ・ポリカルポヴァの夢のような美しさと上半身の柔軟性は理想的な白鳥。その完璧な白鳥ぶりが劇中劇のもの-虚構の存在であることを際立たせ、非常に効果的だった。それから、王の憧れの愛の形として登場するアレクサンドル・リアブコとシルヴィア・アッツォーニのパートナリングがまた完璧すぎ!この2人のPDDは振付も美しく、1幕も2幕も実に見ごたえがあった。
ハンブルグ・バレエHPによると、主人公である王の人物設定はバイエルン国王ルードヴィヒ2世であり、また本バレエの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーでもあるらしい。チャイコフスキーもモデルだったんだ・・・繊細で傷つきやすく、浪費家で同性愛者な部分だろうか?? この部分については良くわからなかった。
ノイマイヤーは情報収集力がものすごく、さらにそれを整理して、消化する高い能力の持ち主なのだろう。その上さらに創造力も同時に持ち合わせているまさに天才。だから、徹底的に調べ上げて、練り上げるからこそ、その作品には強い説得力がある。
ステージの上は情報がいっぱい詰まっていて、舞台が饒舌なのである。どことして不要な部分はなく、意図されているので、見所がやたら満載。録画だと観れば観るほどおもしろいが、とても長い!この作品は約2時間30分!実際の舞台で休憩を2回入れたら3時間20分近くになる。これを観るのは大変そう~ でも、観たいけど。
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第1幕
薄暗い中に青白い光が差し込むお城の一室。ここは王自身が建設を命じたいくつかの城の中の未完成の部屋。室内の家具には布がかけられている。
正面奥の扉が開き、呆然とした表情の王が家臣と衛兵によって連行されて入ってくる。王は精神病とされ、仮面舞踏会の最中に捉えられ、投獄されるのだ。
親友のアレクサンダー伯爵が駆け込んできてくる。アレクサンダーに目を向けるも正体無げに見た後、視線を遠くにそらす。アレクサンダーが王に抱きつくが王は宙を見つめたまま。
皆が部屋を出て、扉が閉まる。その音ではっと我に返った王は閉ざされた扉にすがりつく。ここまで無音。
前奏が始まる。王は上着の胸に刺繍された白鳥の上に手をやる。上着を脱ぎ捨てる。下手の窓辺により外を眺めた後上手へ。布を被った家具の布を剥がすと、それは祈祷台だった。ひざまずき祈りをささげる。するとその背後に不穏な気配を感じる。そして黒い影が忍び寄ってきた。振り返って駆け寄るが影はすぐに消えてしまった。祈祷台に戻って気を失う。すぐに気がつく。今のは夢だったのか?
呆然と後ずさりして、上手の布で覆われた物体にぶつかる。布を取ると、それは彼が愛情を持って作り上げたお城の模型だった。愛おしそうに模型を抱きしめながら眠りに落ちる。
第一の回想:建設現場―上棟(?)祝い
職人や農民たちが新しい城の屋根の骨組みの完成(上棟ってこと?)を祝っている。王も親友のアレクサンダー伯爵を伴って現れ、祭りに加わる。ビールで乾杯。酔った棟梁が骨組みの上からビールのジョッキを落として割ってしまうと、その場が静まり返る。王は自分の世界に入り込んでしまう。このソロにはよく1幕で王の葛藤を表す音楽。アレクサンダー伯爵が側に駆け寄ると王は一瞬我に返るが、再び一人の世界に入って踊る。ここでのブベニチェクは回転の後のフィニッシュで足先がとても美しいのが印象的。
王をいぶかしげに見る民たち。王はおもむろに民たちに触れるが、皆後ずさる。ジュテ、アントルラセのマネージュ。下手奥からジュテ、ジャンプしてアラスコンドで回転を繰り返して上手前へ。踊り狂う王に人々は逃げ惑う。突然倒れこむが、起こされて正気に戻ってその場を取り繕おうとする。
祭りが再び活気付く。男たちは力比べ?体力勝負?(逆上がり競争とか!)やボクシング。子供たちが竹馬に乗ったり(ドイツにもあるのか?乗り方が変だったけど??)。王もボクシングをやってみたりする。乱痴気騒ぎ。
そこへ王宮の人々が到着した。黒いスーツの家臣たち、レオポルド王子に付き添われた皇太后、王の婚約者であるナタリア姫。そして、アレクサンダー伯爵の婚約者であるクレア妃もやってきた。アレクサンダー伯爵が必死で王のグローブを取ろうとするが、間に合わず、王は皇太后の手を取ろうとグローブのままの手を出してしまい、皇太后がひく。ようやく外して、ナタリア姫の手にキス。
祝いは後から到着した人々の歓迎会となった。皆で乾杯。ここで通常のPDTの音楽。アレクサンダー伯爵とクレア妃を含む男女4組のパ・ド・ユイットに。クレア妃以外の女性3人のそれぞれのソロ。トリはジョエル・ブーローニュ。ゴージャス!リアブコをセンターに男性4人の踊り。跳躍、回転をたくさん盛り込んだステップ。皆しっかり決まっていて、すごくかっこいい。
クレア妃のソロ。ここの音楽はセルゲイエフ版とかの4幕の始めの方のもの。ジュテ、ピルエット、ジュテ、ピルエットのマネージュ。すごいスピード。
通常のPDTのコーダの音楽に戻る。8人の踊り。先ほどまでと違って、貴族らしく優雅な振付の踊り。この辺りのメリハリのつけ方もノイマイヤーは巧い。
(音楽は再びよく王子の苦悩の時の音楽に?)。王は促されて皇太后の手を取り、皇太后と踊り始める。皇太后がポワントをはいて踊るのは珍しい。ナタリア姫も入ってきてPDTに。
ナタリア姫のソロ。アティチュードでゆっくりとした回転が実に優雅。王が入ってきてPDDになるが、臣下たちが大切なお城の模型を触っているのを見るや、模型に駆け寄って臣下たちをはねつける。激しく動揺する王。ナタリアは気付かず?踊り続ける。
クレア妃とアレクサンダー伯爵のPDD。音楽は聞いたことはあるけど通常の「白鳥の湖」では使われないものと思ったら、原曲の「Swan Lake Op. 20: Act III: Numero supplementaire: Pas de deux」でバランシンの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」に使われているものだった。アレクサンダー伯爵は時折の頬にキスしながら、高度なリフトをこなしていく。幸せそうに踊る二人を羨望のまなざしで見つめる王。今にも入り込んでいきそうなところ、ナタリアに声をかけられ、我に返る。 本当に愛にあふれた素晴らしいPDDに荘厳で甘美なメロディーが盛り上げる。踊りが終わって抱き合う二人をさらに抱きしめる王。自分もその愛に入り込んで浸りきっているかのように・・・
皇太后が王の手を引き、踊ろうとするが家臣たちの動きが気になって、皇太后から離れる。すかさずレオポルド王子が皇太后と踊り始める。音楽は通常の1幕の終わりの方のコール・ドの乾杯の踊りの音楽。王は一人で模型を眺めているとナタリアが近づいたきたので、手を取って運ばれてきた飲み物を受け取り、ふと給仕の顔を見ると・・・「影の男!」王の様子がおかしいので、アレクサンダー伯爵が飛んでくる。「あいつがあいつが・・・」と振り返ると、給仕はただの少年。(これ、実際の舞台ではどうやって入れ替わるのかしら♪)
気を取り直して、ナタリアの手を取り、皇太后たちの踊りに加わる。
祭りが終わり、人々がいなくなり、王は一人建築現場に残る。オーボエのゆっくりとした音楽。これは原曲にもない曲? 立てひざをつき、土を集めて匂いを嗅ぎ、安堵したような表情。脚を後ろに上げて回転。とても美しい。一人踊っているところにナタリアが入ってくる。王は背を向け、失望するナタリア。でも、気を取り直して歩み寄る。PDD。良い感じなところで必ずナタリアを突き放す王。ここのリフトもかなり難しそう。
上手の奥から影が忍び寄ってくる。ナタリアがはかなげにパ・ド・ブレでゆらゆらとだんだん遠ざかっていく。ナタリアを引きとめようと抱きしめる・・・が、それは「影の男」だった!慌てて逃げるが、精気を吸い取られたかのように背後から近寄ってきた影に倒れかかる。場面は幽閉された部屋に戻る(この切り替えはいつの間に!)。王はそのまま床に寝かされる。
第2幕
現実
目を覚ました王は部屋の片隅に置かれていた布を被った家具の側へ寄って、カバーを外す。それは、バレエ『白鳥の湖』のためのデザイナーによる舞台の模型だった。王は、かつて自分のためだけに上演させたバレエに思いを馳せる。
第二の回想:『白鳥の湖』のプライベート上演
幽閉部屋のセットが左右に動いて消えると、そこは薄暗い劇中劇の舞台。王は自分のためだけに上演されるバレエを見ている。ロッドバルトが登場。人間の姿のオデット姫をさらって白鳥の姿に変えてしまう。この後の劇中劇のストーリーは古典の「白鳥の湖」の第2幕のまま。狩りの一行がやってくる。ジークフリード王子もやってきて、白鳥の気配に身構えると、その白鳥が美しい姫の姿に変身。白鳥が舞台袖から登場した瞬間、王もその美しさに思わず席を立ち上がる。劇中劇ではマイムが多くとても誇張して使われている。「劇」であることを強調しているのだろう。王子が私が永遠の愛を誓います。というマイムをやっている後ろで、王も同じマイムを・・・白鳥にすっかり魅了された王は次第に自分が舞台の中の存在で、ジークフリード王子だと思い込んでしまう。
ナタリア姫がアレクサンダー伯爵にエスコートされて劇場に密かに入ってくる。コール・ドの踊り。アダージオの始まり。床にオデットが伏せているところに静かに近寄る・・・王!遂に王はほんとに入り込んで踊り始めてしまう。周囲のコール・ドたちが「えぇ??」と思わず踊りを中断してしまうが、ジークフリード役が冷静に皆に戻るように指示。王様だから止めるわけにいかないのだ。
この様子を近くで見ていたナタリアは、王が白鳥と踊るほど密接な関係を持っていることに驚く。ナタリアは自分が見た光景に深く動揺しながら立ち去る。
古典お約束の4羽の白鳥があり、2羽の白鳥、オデットのソロ。ポリカルポヴァの上半身の柔らかさは驚異的。コーダ。ジークフリードは適宜サポートに手を貸すが、ほとんど王が踊ってしまう。最後の脚乗せポーズまで王が決めちゃったよ~ そして、王はほんとに愛を誓おうとしたところで、ロッドバルトがオデットを隠し、オデットが消えていく。そして、ロッドバルトが仮面を脱ぐ-その正体は「影の男」!
第3幕
現実
幽閉された部屋の中。第3幕の音楽が流れ始める。王は祈祷台の上ではっと気がつく。窓を明けると音楽が大きくなる。音楽はライバルだったレオポルドがパレードをしている行進曲だったのだ。耳をふさぎ壁にもたれかかる。その時壁にかかっていた布に触り、その布が床に落ちると肖像画が現れた。それは王の戴冠式の時のものであった。突然戴冠式の記憶がよみがえり、彼は過去の回想の中に再び入っていく。
第三の回想:仮面舞踏会
王冠を被り、豪華な毛皮の裏打ちされたマント(?)をまとい、たくさんのシャンデリアと鏡のある広間で一人玉座に座る。
仮面と民族衣装を着た人々が登場。アレクサンドル伯爵とクレア妃はロシアの民族衣装。皇太后とレオポルド王子はハンガリーの衣装。王はジークフリード王子の衣装を身に付けて登場した。ナタリア姫は随分かさばった衣装だ。
道化たちが現れ、陽気な踊りでゲストたちを楽しませる。道化たちは舞踏会の儀典を取り仕切る進行役でもある。各国のダンスが披露される。まずは皇太后がチャールダーシュの先頭を踊った。スペインの踊りは男女3組で華やかに。ナポリは蝶を道化の頭が虫取り網を持って追いかける・・・それから、アレクサンドル伯爵とクレア妃のロシアの踊り。これまた高難度のリフトが多様された複雑な振付なのだが、2人が完璧にこなしていて、すごく見ごたえあり。
古典の黒鳥のGPDDの音楽が始まる。皆がワルツを踊り始める。ダンスのパートナーが入れ替わる。王がふと踊りの列を離れた時、ナタリア姫が白い白鳥のように登場。
ナタリアはスワンプリンセスの衣装そっくりな衣装を身に付けていた。ナタリアが劇中の白鳥のような動作をすることによって、王はすっかり彼女がオデットと思い込んでしまう。この後の振付はほぼ古典に習っている。王のソロでは、ブベニチェクが完璧なテクニック。ピルエットは回転が速いけど、フィニッシュもぴったり。恋が成就しようとしている喜びの表情とへんてこりんな衣装のコントラストが痛々しい。ナタリアの32回転。シングルだが、最後にトリプル?でフィニッシュもきれい。王のピルエット・ア・ラ・スコンドも2回に1回両手をあげたダブルで完璧。気分が最高潮になったところで王が結婚の誓いを立てようとする。
深夜になり、祭りは終わりに近づいている。仮面をとる時間だ。人々が入り乱れる中、黒装束の道化が王に近づき、他の誰もが気付かない中、ゆっくりと仮面を脱ぎ、正体を現した。『影の男』だ!王を一瞬にして想像の世界から引き戻され、ナタリアーオデットとの恋の幻想も砕け散った。王は気が狂ったようになり、ナタリアを突き飛ばし、皇太后の頬をはたき、暴れる。家臣たちが王を捕らえれ、床に組み伏せられる。
現実
王は幽閉された部屋の床で寝ている。ドアをノックする音がして目覚める。少しの間の面会を許されたナタリア妃がまだ舞踏会の白鳥の衣装のままの姿でいた。髪を振り乱している。王は背を向ける。ナタリアは王の手を取って許しを請うが、王は拒否する。涙にむせぶナタリアを気遣う王。悲しく壮絶なPDD。ナタリアの気持ちはわかっているが、どうしても自分には受け入れられない。ナタリアに身をゆだねようとするが・・・最終的にやはり彼女を拒否する永遠に。王は彼女から離れて、祈祷台で祈る。失意のナタリアは部屋から出ようとするが、もう一度だけ王の側へ寄る。が、王はひたすら祈りをささげ、もう別世界にいってしまっている。ナタリアは黒のレースのベールをかけ、静かに部屋を出て行く。
突然セットが左右に別れ、白鳥たちが現われる。王の目の前には白鳥の湖の幻想が現われ、現実と混沌とする。王ははっきりと『影の男』の存在を感じた。王は運命を受け入れたかのように影に身をゆだね、影にあやつられるまま激しいPDD。最後は逆さになって影の男に抱えられる。上からは王家の紋章が刺繍された青の幕が降りてきて2人と辺り一面を覆う。これが彼の没落とともに湖に身を投げたことを表すのだろうか。青い布は湖面のよう。奥に青白く影の男が浮かび上がる。少し前に進み布ごと王の亡骸を抱き上げる。 幕。
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ドイツで発売されているDVDにはノイマイヤー自身の解説が入っているらしい。やはりかなり饒舌らしいが。是非ノイマイヤーのウンチク聞きながら観たいものだ!