曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・立ち食いそば紀行  魅惑の東上線

2012年10月24日 | 立ちそば連載小説
 
 
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》 
 
 
魅惑の路線
 
 
池袋から埼玉西部に延びる東武東上線は、立ちそば好きには魅惑の路線だ。同じように西へと向かう西武線や京王線と比べると、特色ある個人店が実に多い。
立ち食いそばというのは外食界のサブカルで、実際本の中でもそのように扱われている感がある。そんな性質から中央線が強いという印象を持ってしまいがちだ。たしかに中央線は駅ひとつひとつが繁華街になっていて、立ちそばの店舗は多い。しかしどうも中央線、「切っても切っても金太郎」の如く「降りても降りても富士そば」で、チェーン店が根を張り、店舗にイマイチ特色がない。
ということで、やはり魅惑の路線は東上線ということになる。
 
その東上線を、しっかりと腹を空かせ、始発駅の池袋から各駅停車に乗り込むときが立ちそば好きの幸せな瞬間となる。さぁどこで降りて至福の一杯を楽しもう、と心ときめく散策の始まりとなるのだ。
パッと大山で降りてごん平か、もうちょいガマンして成増の焼肉ライスか。それとも和光市のせんねんそば、あるいは朝霞のガリレオ八兵衛か。
こうやって車内で鼻歌まじりに迷えることがうれしい。食事の店を迷うというのは食する以上に楽しい行為だ。
 
そして各駅停車は川越へ。ここのホーム上で食する手もあるが、じっと動かず次の川越市まで行く。半数ほどが終点となる、とても地味なこの駅で、いよいよ下車となる。
 
初めて降りる人は「しまった」と感じるだろう。川越と違って、ビルも商店街もない駅前風景だからだ。しかし心配不要。道をひとつ渡ってすぐのところに、笠置そばが立ちそば好きをしずかに迎えてくれるからだ。
 
この笠置そばは沿線でも1、2を争う美味さで、ここまでじっとガマンしてきた甲斐があったと思わせてくれる。わたしは、いつも揚げたてを供してくれる天ぷらそばを食することにしている。
散策の時間を取りやすい日曜日が休みというのが難点だが、わざわざ出向いてでも食しに行きたい、東上線沿線の大きなポイントとなる店舗なのだ。
 
 
(魅惑の東上線 おわり)
 
 

最新の画像もっと見る