曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

『駅は物語る』  20話

2013年01月24日 | 鉄道連載小説
《主人公の千路が、さまざまな駅を巡る話》
 
 
甲州街道
 
 
12月だって1月だって寒いのだけど、1月の方がより寒く感じる。「大晦日」「正月」を控える12月にはイベント前の心浮き立つ感覚があり、対して1月は祭りや楽しみにしていた旅行の終わったような感じがある。気持ちの中の空白が、同じ寒さでもより寒々しく感じさせるのだ。それになにかと慌しい12月よりも人の流れが減り、実際に閑散とした街並みは見た目も寒く感じさせる。
 
その寒々しい駅を見たくて、ピンと張り詰めるような冷えた晩に千路は電車に乗り込んだ。
京王線の下りを高幡不動まで乗り、モノレールに乗り換える。そして立川方面に。
 
どういうわけか、夜のモノレールというものはより寒々しく感じる。高架だからだろうか。いや、単に高架というだけなら鉄道の駅にだってたくさんある。たしかに武蔵野線など、他の路線よりも寒々しく感じるのだが、しかしモノレールはそれ以上の冷え込みを感じるのだ。なんとなく、電車よりも機械的なイメージがあるからだろうか。
万願寺も人の気配がなく寒々しかったが、千路はそこでは降りず、次の「甲州街道」で降りた。
これもまた根拠はないのだが、東京にある街道と名の付く駅は妙に寂びれていて、侘しい気持ちを味わえる場となっている。先日行った青梅街道もそう、同じ多摩都市モノレールの桜街道もそうだ。
 
千路は改札を出て階段を下り、道の方の甲州街道から駅を写した。年の瀬は混雑していただろう街道も、今は通る車も少なく、かなりのスピードですぎてゆく。
暗闇の中で光り輝く無人の小さな駅。千路は脈絡もなく、コロニーなんていう言葉を頭に浮かべた。
 
寒さが肩や腿、頭に、まるで鋭い歯で食いついたようだ。千路は肩を怒らせながら駅へと戻っていったのだった。
 
 

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