曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・立ち食いそば紀行  ブックそば

2012年09月28日 | 立ちそば連載小説
 
 
ブックそば
 
 
立ち食いそばをじっくり堪能したいのであれば、入店する時間帯も重要となる。街の中華料理屋とは違って立ち食いそば屋には中休みなどないのだから、お昼時を外せばいい。たったそれだけのことで、じっくりと味わうことができる。
 
わたしはその日、立ち食いそば屋に向かっていたのがちょうど昼時だった。このままストレートに向かえば混みあうこと必至だ。それでわたしは時間をつぶすべく、一旦書店に入ることにした。
 
都内の大型書店は、本好きであれば三十分程度の時間はすぐにつぶれる。各ジャンル充実しているので、興味のある棚をうろつけば時間がどんどんすぎてゆくのだ。わたしなど本好きと同時に書店好きでもあるので、書店内のレイアウトに目を向けているだけでも時間をつぶせてしまう。
 
ところでその大型書店、最近はカフェを併設するところも増えている。
書店にカフェ。実にいい組み合わせだ。珈琲(書物には漢字が似合う)や紅茶を飲みながら好きな本をぱらぱら。うん、悪くない。悪くはないが、しかしわたしとしては一軒くらい、書店に立ち食いそば屋が併設されていてほしいものだと思う。
 
もちろんいくつかの書店が採っているような、購入前の持込みができるサービスは、汁物ということでご法度だ。しかしそのサービスがなくたって併設の意義はある。
 
大型店というのはまるで図書館で、特に買う目的がなく、あちらこちらの棚を長い時間ふらふらと見て歩く客が多い。だからその場でパッと食事を済ませられれば、そういった客はさらに滞在時間が長くなる。普通に考えれば、滞在時間が長いほどお金を落とす度合いだって上がるだろう。
 
その、パッと食べられる施設が立ち食いそば屋であれば、まずなによりコストがかからないで済む。
茹でる、揚げるだけで炒めることがないのである程度の調理器具で充分。作り手もさほどの技術を要さずに済む。そして立ち食いなので場所も取らない。なにしろ書店では立っているのが普通なので、メシで立たせても客はなんとも思わないだろう。
すべてにおいて都合がいいと思うのだが、これを計画している書店は聞いたことがない。少なくとも最初の一店舗は、物珍しさからけっこう流行るとは思うのだが……。
 
わたしは文庫を買ってその書店をあとにしたが、後ろを向いて、立ち食いそば屋が併設されていればこの倍の金を落としたのに、書店さんよ、残念だったなとぶつぶつ呟いたのだった。
 
 
(ブックそば おわり)
 
 

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