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山里の日々の生活と自然、そして稼業の木工の話

家具工房 独立・創業 20周年(回顧 その1)

2013年04月01日 | 木工
注文家具の工房を立ち上げて、この4月で20年がたちました。


まあ、「創業」というほどのものではありません。
木工の仕事を覚えた研修施設を出て、こつこつ買いそろえた道具をもって、
機械が一通り揃っている森林組合の小屋をお借りし、
自分の作った製品を売ってお金をもらう生活を始めたのが20年前。
26歳でした。

1年後、今いる場所に工房を移し、借り入れをして機械を買い、材木を買い、そのまま19年。
この風変わりな稼業を続け、木で家具や小物を作ることで生計を立てて家族を養っています。


木という素晴らしい素材に出会い、木の美しさに励まされ、
多くのお客様に支えられて今日までやって来ることが出来ました。

丸太を買って製材に立ち会うような材の仕入から、
営業、デザイン、制作、塗装、記帳、納品まで
全てのことをほぼひとりでする個人工房スタイルを貫いてきました。


この仕事を続けてこられたことに深く感謝しつつ、
20周年のこの機会に、この道に入った頃のことや今でこそ思うことなどについて、
何回かに分けてお話しできればと思います。




まずは注文家具の工房を始めるそもそものきっかけからお話したいと思います。


大学4年になり、私は職人になることを決心しました。

誰もが進学や就職のことを考える頃、
私も職を得て暮らしていくことを考えざるをえませんでしたが、
しかし私にはどうしても会社員になっている自分が想像できませんでした。
面倒くさい人間関係が苦手だったということもありました。
幼いころから工作が好きだったので、物を作ることを仕事にしたいと思いました。
自分の頭で考え、自分の手と体を使って物を作る職業に着こうと決めました。
好きなことを仕事にして、それに打ち込む人生を送りたいと思いました。

しかし普通に大学まで来てしまった人間としては
その決心に至るまではそれ相当の葛藤や紆余曲折がありました。

特に作りたい物や憧れた作家がいたわけではありません。
ただ、物を作る仕事がしたかったのです。



最初に思いついたのは楽器制作です。

音楽が好きで、特に大学時代は熱心にジャズバンドでベースを弾いていました。
しかしそれだけ一生懸命にやると、逆にいかに自分に音楽の才能がないのかがよく分かります。
コントラバスの修理、調整をする方にお話を聞いたりもしました。
良い音とは何か、よい楽器とは何か、といったようなことは繊細な感覚の領域です。
結局、自分の音楽的な耳に自信がもてず、楽器作りに進む気にはなりませんでした。



そのころから、やるなら木や竹などの生物素材がいいと決めていました。
土や金属ではなく。

しかし、20年前の当時でさえ、どうすれば職人・もの作りになれるのかわかりませんでした。
徒弟制度はすでになく、仕事を覚え生計を立てるための道筋はまったく見えませんでした。
今ならネットの検索などでいろいろな情報が手に入るでしょう。
訓練校があるのは知っていましたが、もう学校には行く気がありませんでした。



なんでも手に入る情報から当たってみました。

近しい友人のお父様が著名な竹細工の作家で、九州まで会いに行きました。
大分は粗野な北関東の育ちの私から見ると、雅なところです。
竹細工は主にお茶の道具のようでした。
その方には本当に歓待して頂き、御恩が出来ました。
今思うと失礼な話ですが、私は本当にどうしても竹細工がしたくてお伺いしたのではなく、
そのような仕事をしている方のお話が訊きたかったのです。
ずうずうしくも、弟子を採ったりするのかとも尋ねました。

その方とのお話はとても実りの多いものでした。
もの作りの道は簡単ではないとのこと。
力のある作家さんでも作品作りだけだは食べていけず、
食べるための仕事をして作家活動をしているようなお話も聞きました。
大学まで行って職人になるのはもったいないのではないかとも言われました。


大きな岐路になった話は、こんなことです。

竹細工は使用目的が特殊だと。(例えば茶道など)
同じもの作りでも、例えば焼き物や木工品ならばもっと日用品としての需要があるので
そんな方面でやってみてはどうかと。

「なるほど、木工か。」と思った。

いま思えば、私は試されていたのかもしれません。
どうしても、どうしても竹細工がやりたい気持ちが私にあったなら、
許されて私は九州に修業に行き、今は九州の人間になっていたのかもしれません。
でも私はその点いい加減だったので、
ならば木工屋にでもいいかと、思ってしまった。
木工なら家具作りがかっこいいかな、みたいなチャラい発想で。


かくして、私は家具職人への道を探す「就職活動」へと軸足を固めてゆきます。



(つづく)