過ぎ去ってしまったことなどどうでもいいのだが…

仕事場に嘗ての部下が訪ねてきた。
気を使わなくて済む唯一の部下だ。
現役でなくなったあとに取り組もうとする仕事の話だった。

歳をとってしまうことなど想像もできなかった…
と、でも言うかのように話し始めて30分。

未だにラクをして小金を稼ぎたいというのだ。


悪いがそんなビジネスはない。
人を使って儲けるなどと考えるのは余りにも稚拙なのだ。汗と涙と土と埃にまみれた人にしか世間は金を払ったりはしない。

そんな空虚な時が流れ、僕は昔付き合ってたおんなのことを思い浮かべていた。

それは30年も、まえのことだ。
懐かしのでもなく、会いたいのでもなかった。
ただ、あんなに気の合うオンナはいない。
別れてから、彼女以上のオンナとは会っていない。一緒に過ごす時間が嘘じゃないかと四六時中思えた。でも、それは確かに現実だったしいっだって手のひらから溢れ落ちてしまってもおかしくない幸福感だった。怯えと憔悴の繰り返しの毎日。何もかも捨ててしまっていた日々。
怖くて仕方がない今よりは確かに生きている実感があった。
そんな毎日が懐かしいわけではない。


しかし、あの時があって今がある。

そんなことを実感させられてしまっている。

何もかもが夢中のうちに過ぎてしまう事などそう多くはないんだ。