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授業日誌・キャリア・学びのスキルについて

10年後なくなる可能性が高い職業

2015年06月19日 23時51分54秒 | キャリア支援
日本版・10年後なくなる可能性が高い職業とは(前編)
Credo 2015年5月28日 05時00分 (2015年5月30日 12時18分 更新)


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10年後に無くなる可能性が高い職業とは
突然ですが、まずこちらの画像をご覧下さい。
ラーメン調理人から機械組立工、そしてコックなどの職業が
90%以上の確率でなくなると推定されています。
この結果はどのように導き出されたものなのでしょうか。
本稿ではそのことについてお話ししたいと思います。

オックスフォード大学が「10年後に無くなる可能性が高い職業」を発表
2014年11月頃、オックスフォード大学の
マイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文が話題となりました。
准教授は現代ビジネスに対するインタビューには次のように答えています。
“これはほんの一例で、機械によって代わられる人間の仕事は非常に多岐にわたります。
私は、米国労働省のデータに基づいて、
702の職種が今後どれだけコンピューター技術によって自動化されるかを分析しました。
その結果、今後10~20年程度で、
米国の総雇用者の約47%の仕事が
自動化されるリスクが高いという結論に至ったのです”
この論文で発表された内容は非常にセンセーショナルなものでした。
これまでルーティン化できないと思われていた仕事も、
コンピューターの計算能力向上に伴い、
人工知能が扱うことが出来るようになっている、
ということを多くの人が実感させられたからです。
現代ビジネスのこのインタビューは3,000回以上のTwitterシェアを獲得し、
多くの人々の目に留まることになりました。
ぼんやりと聞いた記憶がある方も多いのではないでしょうか。
しかし、そうした方々もどのようにしてその調査結果が導き出されたのか、
過程まで知っている方はあまり多くないかもしれません。
実はこの結果自体も、人工知能技術の基盤である、
機械学習によって明らかになったものなのです。

正解例を基に機械に学習させる”教師あり学習”
この論文で用いられた手法は、”ガウス過程分類”
――教師あり学習という機械学習手法の一つです。
機械学習には”教師あり学習”と
”教師なし学習”がありますが、
ここでは教師あり学習について説明したいと思います。
教師あり学習とは、一言で言えば、正解例を予め用意し、
それを基に機械に判断基準を作らせる手法です。
イメージ図と共に見ていきましょう。
教師あり学習では、まず見本として”教師データ”が
プログラムに与えられます。プログラムは
この見本を基にして判別の際の基準となるモデルを作成し、
そのモデルを当てはめることで、
未知のデータについても分類ができるようになるのです。…

先ほど述べたように”ガウス過程分類”は
この教師あり学習に分類されます。
実際の論文では70個の教師データを作成し、
それらデータから構成される判断基準の性能が高いことを確認した上で
700近くの職業全体にそのモデルを適用し、
コンピュータに取って代わられる可能性が高い職業なのか、
人間がこれからもこなしていく職業なのかを判別していたようです。
本稿で筆者が用いたのも教師あり
学習に分類される”ランダムフォレスト”と呼ばれる手法です。
教師データとして用いたのは
先の論文で示されていたものの中から、
なくなる可能性が高い職業と低い職業を
それぞれ50個ずつ抜き出し教師データとしました。※1

日本語版、「10年後になくなる職業」を推定する
今回の判別を行う際に用いた数値データは、
労働政策研究・研修機構(独立行政法人)が
2014年3月30日に発表した論文から引用させて頂きました。
『職務構造に関する研究―職業の数値解析と職業移動からの検討―』
この研究では、様々な数値的尺度から全部で
601の職業を評価しようという取り組みが行われています。
本稿ではその数値的尺度の中から、
人工知能が代替出来る指標として関係が深いと考えた

スキル…「基盤」「数理」「テクニカル」「ヒューマン」「コンピュータ」「モノ等管理」
知識…「科学・技術」「芸術・人文学」「医療」「ビジネス・経営」「語学」「土木・警備」「化学・生物学」
仕事環境…「座り作業」「他者とのかかわり」「屋外作業」「影響度・責任」「流れ作業」
という三つのカテゴリの指標を用いました。※2

このデータを用いて教師あり学習による判別を行った結果、
導出されたのが冒頭で示した表となります。
特に日本においてなじみ深いと思われる職業について
掲載しました。(2015/5/28,一部加筆修正)
判別の結果、約63%の職業が人工知能、
コンピュータに取って変わられる可能性が
今後高いことが分かりました。※3

人工知能はコックの代わりを務められるのか?
では、具体的に今、コンピューターの能力は
どの段階まで来ているのでしょうか?
ここでは、表において、単純作業が多い組立工や
店員と違って目を引く、創作性が強い職業の代表としてコック、
そして重大な責任が伴う航空管制官を例に見ていきたいと思います。

まずコックについて見ていきましょう。
コック、つまり料理人ですが一見非常に創作的な思考が求められる上、
料理スキルという築き上げられた経験によって
構成される能力がなくては務まらない、
人間にしか出来ない仕事であるように思われます。…

しかし、実際に人工知能に
料理を作らせようとする取り組みは始まっています。
次の文章はGIZMODO JAPANより引用したものです。
“メリーランド大学とオーストラリアの研究センターNICTAの研究では、
人間が料理をする88本のYouTube動画を見せ、
それを使ってロボットシェフ=人工知能に学習させているといいます。
ポイントとなるのは、
このYouTube動画はただのYouTube動画だということ。
ロボット仕様に手が加えられたものではないのです。
研究員たちも「既存の料理データよりも、
視覚的問題があり今まで以上の挑戦となった」と語っています。
でしょうね。
研究チームのロボットシェフは、
動画で人が扱う様々なツールをきちんと
理解したということです。つまり、
料理動画を理解しただけでなく、
その情報を元に異なるツールの使い方も学習できたわけです。”
更に、人工知能にレシピを学習させ、
創作レシピを作らせる取り組みもあるようです。
IBMが開発を進める人工知能”Watson”が
編み出した創作レシピ本が発売されています。

航空システムの最適化に向けて
続いて航空管制官について見ていきます。
航空管制官というのは、空港の航空管制塔などから
レーダーや無線を用いてフライト中のパイロットに
適切なルートの指示や情報を伝える仕事です。
航空管制官が状況を俯瞰して最適な情報を
パイロットに与えることで空の安全は守られています。
多くの人々の安全にかかわる仕事であり、
また経験や知識に基づいて臨機応変な判断が
求められる場面も多い職業だと思われます。
しかし、モナシュ大学クレイトン情報技術スクールの准教授である
デイヴィッド・ダウ氏が昨年12月4日に発表・寄稿した文章によれば、
人工知能は既にこうした領域にも及びつつあると言います。
“既に今、仕事の多くの部分を
コンピュータが担うようになってきている。
単純計算や繰り返し計算はコンピュータに任せているし、
GPSシステムもそうだ。そうして
既に置き換えられているものがある一方で、
人工知能が及びつつある分野もある。
航空管制システムやミサイル軌道計算、
自動運転車などがそうだ。”
(筆者意訳。小見出し: Machines already taking overの一文目より)
自動操縦の技術は飛躍的に進んでおり、
今や離陸以外の操作は条件さえ整っていれば
自動操縦のみで行うことが出来るとまで言われています。…

非常に責任の伴う航空管制という仕事についても、
今後更に人工知能が担う部分が多くなっていくのかもしれません。
現在日本で行われている取り組みとしては、
CARATS(将来の航空交通システムに関する長期ビジョン)
というものが立ち上がっています。
アジア・太平洋地域において今後一層航空機の需要が増える見込みですが、
今の航空システムでは人間が処理する部分が多すぎて
処理能力をオーバーしてしまい、重大な事故に結びつく
リスクが非常に高い状況です。
そうした状況を変えるべく、CARATSは発足されました。
具体的なビジョンについてですが、
現在航空管制は限られたエリアごとに航空機を管理し、
その現在位置を捕捉して将来位置を予測する仕組みとなっています。
これを、航空機それぞれの軌道を把握する仕組みを作り上げることで
より正確に将来位置を算出することを目指すようです。
そのためには、航空機の自動操縦技術の発達
及び航空管制システムの情報処理効率化が必要不可欠となります。
まだまだ人工知能が航空管制システムの中で
主たる役割を担っているとは言えないかもしれませんが、
今後こうした取り組みが進んでいくにつれて
意識せざるを得ないものになっていくことは間違い無いでしょう。

後編ではマクロな視点に基づく分析を
今回の前編ではオックスフォード大学が
発表した論文で用いられている機械学習手法を用いて、
日本版なくなる可能性が高い職業を具体的に見てみました。
次回の後編では、なくなる可能性が高い職業・可能性が
低い職業それぞれについてどのような数値的特徴がみられるのか、
広いマクロな視点に基づく分析をしてみたいと思います。

(2015/5/29)後編を公開いたしました。
人工知能とうまく付き合っていくために
人間に必要なスキルを考える:日本版・10年後に無くなるかもしれない職業とは(後編)
最後に、今回の分析結果(ランダムフォレストとSVMによる推定結果)をまとめた
PDFへのリンクを貼っております。
お時間のある方は是非ご覧ください。

日本版、10年後に無くなる職業とは(Credo,深澤祐援)
Photo by Pixabay 【注釈・参考文献】

http://www.excite.co.jp/News/society_g/20150528/Credo_10347.html

20年後にはなくなっているかもしれない…と思う仕事ランキング
gooランキング
2014年12月17日 15時00分 (2014年12月24日 15時06分 更新)

オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授の
『雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか』
という論文が先月話題となりました。
時代の変化とともにコンピューター化が進み、
なくなってしまう可能性が高い職種もあるそう。
そこで今回は、20年後には
なくなっているかもしれないと思う仕事についてみなさんに聞いてみました。

20年後にはなくなっているかもしれないと思う仕事ランキング
1位:タバコ店員
2位:レジ打ち係
3位:新聞配達員
⇒4位以降のランキング結果はこちら!

1位は《タバコ店員》でした。
ビルの一角の窓付きスペースでタバコを販売するおばちゃんは、
どこか懐かしく、身近な光景の一つでもあります。
しかし24時間購入できるコンビニエンスストアや
自動販売機の普及により、
20年後にはタバコ店がなくなってしまうのでは…
と思っている人が多いようです。
2位は《レジ打ち係》でした。
最近はスーパーのレジの中にも客が自らレジを行う“セルフレジ”を導入しているお店も
少なくありません。このセルフレジを導入することでお店側には
レジ係の人件費の削減にもつながるというメリットがあるようなので、
数年後には全てセルフレジに切り替わっている可能性もあるかもしれませんね。
3位は《新聞配達員》でした。
インターネットの普及にあたり、
ニュースは新聞ではなくニュースサイトで読む人が増えてきているそう。
また、紙媒体の他に“電子版”を展開している新聞社もあり、
今後どんどん電子化がすすむのではないかと考えている人が多いようです。
このように、コンピューターが取り入れられることで
生活が便利になる一方で、なくなってしまう仕事もあるのかもしれません。
便利になることは嬉しいことですが、
今まで目にしてきた光景が
なくなってしまうのは、少しさみしい気もしますね。

調査方法:アイブリッジ(株)提供の
「リサーチプラス」モニターに対してアンケートを行い、
その結果を集計したものです。
調査期間:2014年11月27日~12月3日
有効回答者数:500名(男性:250名 女性:250名)

http://www.excite.co.jp/News/net_clm/20141217/Goorank_454.html

日本の家電がアジアでヒット(パナソニックなど)

2015年06月19日 12時28分43秒 | 学習支援・研究
日本家電がアジアでヒット、現地化の新潮流

05月28日
09:21プレジデントオンライン


パナソニックはかつての失敗から学び、韓国勢と戦う。(時事通信=写真)
(プレジデントオンライン)
PRESIDENT 2015年2月2日号 掲載

競争優位の確立かそれとも戦略なき膨張か
構造改革で業績を回復させ、
新たな戦略投資に踏み出そうとしているパナソニック。
家電の成長をアジア市場で狙うとの方針を打ち出している。
現在、東南アジアにおける同社の売上高の
およそ半分を家電事業が占める。
とはいえ、東南アジアの家電市場でシェアの上位を占めるのは、
サムスンやLG電子などの韓国勢だ。

パナソニックやシャープなどの日本企業は、
機能やデザインの現地化でかつて韓国勢に後れをとった反省から、
新たな取り組みを進めている。
たとえばインドネシアでは、
洗濯機を使用する場合にも、
洗濯板で念入りにこすり洗いをする習慣があったり、
地域によっては電力供給が不安定だという。
そこでパナソニックやシャープは、洗濯板付き洗濯機や、
蓄冷材を搭載し停電時に備えた冷蔵庫を投入し、
ヒットを飛ばしている。

商品がヒットするのはよいことだ。
しかし、グローバル・リーダーをめざすのであれば、
散発的なヒットだけでは不十分。
これは電機産業だけの問題ではない。
地力のある日本企業にとっての課題は、
こうした個々の商品のヒットを、
企業としてのグローバルな成長につなげていくことである。

そのためには、どのような経営の舵取りが必要なのだろうか。
今回は、長らく繰り返されてきた
国際マーケティングの論争に目を向ける。

近年の日本では、食品メーカーによる海外企業の買収、
あるいはレストラン・チェーンの海外出店などが相次ぐ。
以前は海外事業の比率が低かった産業においても、
グローバル化へと経営の舵を切る動きが目につく。
国内市場の成長見込みの少なさを考えると、
これは当然の動きである。とはいえ、
単に売り上げを追うだけでは、
グローバル化の重要な果実を取り逃してしまう。

何のためにグローバル化に挑むのか。
グローバル化は新たな売り上げだけではなく、
新たな競争優位を企業にもたらす。
海外での販売拡大をめざす企業は、
新たな売り上げに加えて、
競争優位の確立を追求するようにしなければならない。
そうでなければ、グローバル化への挑戦は
戦略なき膨張となってしまう。

グローバル化が企業にもたらす競争優位については、
国際マーケティングの研究者たちが
数々の議論を重ねてきており、論争は今も続く
(小田部正明、クリスティアン・ヘルセン著『国際マーケティング』碩学舎)。

グローバル化が企業にもたらす競争優位。
その第一の源泉は、標準化である。
事業をグローバル化することで生じるひとつの優位性は、
その規模である。そして、
この規模による強みを十分に引き出すためには、
企業活動のグローバルな共通化が必要となる。

標準化されたマーケティングをグローバルに展開する企業は、
ローカルな事業展開では実現できないスケールによるコストダウン、
あるいは取引先への交渉力を実現したり、
グローバル・ブランドとしての存在感を高めたりすることができる。
グローバルに事業を展開する企業が、
各国・地域におけるその製品やサービスや
プロモーションを共通化できれば、
開発コストの重複を削減したり、
生産や調達の規模を拡大したりすることで、
企業活動の効率は大きく向上する。

あるいは、グローバル化はブランド・イメージにも大きく貢献する。
たとえば、アップルやコカ・コーラといった
グローバル・ブランドがもつ圧倒的な存在感を思い起こしてほしい。
共通の製品やデザインによるグローバルな成功と存在感は、
一流のイメージをブランドにもたらす。

グローバル化による競争優位の第二の源泉は、
調整である。グローバル化は、
企業にとっての学習機会の増大でもある。
グローバル企業は、各国・地域を担当する部門間で調整を行い、
ローカルな事業展開では実現できない多様な経験―
―すなわち異なる生活習慣や
インフラ整備や法制度のもとでの
マーケティング実践の経験――そして
そこから編み出される気づきやアイデアを社内で共有して、
いち早く新たな取り組みを進めることができる。

中国市場に適応するためにGMがしたこと
米国インディアナ州の中堅企業ウィーバー・ポップコーンは、
1980年代半ばに、日本にポップコーンの輸出をはじめたことから、
日本企業の高い品質への要求に直面することになった。
生産工程を改善し、品質を高めたことで同社は、
90年代に、海外だけではなくアメリカ国内での売り上げも
伸ばすことができた。このようにグローバル化は、
調整を経由することで、母国での企業の競争力にも
はね返っていくのである。

グローバル・マーケティングとは、
以上のような標準化と調整を通じて、
事業のグローバル化の果実を得ようとするマーケティングである。
とはいえ、ハーバード大学教授だった故セオドア・レビット氏が、
こうしたグローバル化の利点の指摘を
83年の論文(“The Globalization of Markets,”
Harvard Business Review, 61,May/June)で行って以来、
グローバル・マーケティングをめぐる論争はいまだに絶えない。

なぜなら一方で、先の東南アジア向けの家電の事例に見たように、
グローバル企業が対応しなければならない
世界の各国・地域の市場の異質性は、
依然として大きいからである。
自国とは異なる生活習慣やインフラ整備や法制度に対応しようとすれば、
企業は、自国をはじめとする特定の国・地域で
成功したやり方を、他の国・地域にそのままもち込むのではなく、
現地適応化を求められることになる。

日本市場では存在感の薄いアメリカ車。
しかし中国市場では、比較的大きなシェアを獲得している。
そこに至るプロセスでは、
さまざまな現地適応化の取り組みが行われていた。
90年代末にゼネラルモーターズ(GM)は
上海で合弁会社をつくり、現地生産をはじめた。

このときGMは、中国市場向けにビュイックの設計変更を行っている。
ビュイックはアメリカではファミリーカー。
後部座席は子供の席だ。しかし中国では、
社用車としての利用が中心となる。
後部座席には中国企業の重役が座る。

そこでGMは、中国向けのビュイックでは後部座席を高くし、
足を伸ばす空間を広げた。一方、
エンジンのサイズは、3.5リットルから
2.8リットルに削減した。これは、
3リットル以上の車の使用は、大臣クラスか
それ以上の政府高官に限るとの中国の規則に合わせた対応だった。

海外で事業を展開しようとすれば、
企業は現地適応化という課題を避けて通るわけにはいかない。
ここを強調するのが、
マルチ・ドメスティック・マーケティングである。
これは、各国・地域ごとにそれぞれの市場特性を踏まえて
異なる対応を行うというマーケティングで、
企業がこれを徹底しようとすれば、
経営の現地化を進めていくのが効果的である。
現地の事情にスピーディに対応するには、
現地に近いところで意思決定を行うのが一番だからである。

グローバル・マーケティングがひとつの現実を捉えているのと同様、
マルチ・ドメスティック・マーケティングもまたひとつの現実を捉えている。
各国・地域の異質性に対応しようとすれば、
マルチ・ドメスティック・マーケティングが理に叶っている。

企業はひとつの行動原理にのめり込むな
しかし問題もある。
企業が各国・地域への権限委譲を進め、現地子会社の独立性を高めていけば、
この企業はやがては国内企業の寄せ集めと変わらなくなっていく。
つまり、マルチ・ドメスティック・マーケティングを徹底していくと、
それぞれの国・地域の現地企業との競争における、
グローバル企業であることの優位性は消滅してしまうことになる。

日本の家電のアジアでの再挑戦に限らない。
グローバル化を進めていくなかで企業は、
避けがたく2つの現実に直面する。
各国・地域での販売を伸ばそうとして、
企業が現地適応化にのめり込んでいけば、
事業のグローバル化がもたらすはずの競争優位は確立できなくなる。
逆にグローバル化による競争優位を享受しようとして、
標準化と調整を進めていけば、現地適応化が犠牲となる。

グローバル化の2つの現実をめぐり、
国際マーケティング研究では数々の論争が繰り返されてきた。
この論争からの教訓は、
企業はひとつの行動原理にのめり込んではならないということである。

では、どうするか。標準パーツの組み合わせで
多様な機能を実現する「モジュラー方式」、
あるいはベースとなるプラットホームを標準化する
「共通プラットホーム方式」などは
グローバル化にともなう業務の道筋を構想する手がかりとなろう。

戦略的な事業定義を行い、グローバル化による標準化や
調整の利点を享受しやすくするという手もある。
それなりの規模の企業であれば、
グローバルな事業展開を進める際には、
市場環境の違いの小さい国・地域に優先的に参入したり、
こうした違いの影響を受けにくい製品・サービス領域――たとえば
一般に食品は、嗜好の国・地域差が大きいことで知られるが、
なかにはワインのように標準品を世界中で
販売できる領域もある――をグローバル化の主軸に
したりすることを考えるべきなのである。

ビジネスでは、相対立する現実を見落とさず、
それらを併せ呑んだうえで次の一手を考えなければならない。
これはグローバル化に限らず、
ビジネスの多くの局面で必要となる基礎教養でもある。

(神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契=文 
時事通信=写真 平良 徹=図版)

http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/president_15317.html