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IT断食で増益の企業、なぜ増加?
2014.03.12連載 連載
IT断食で増益の企業、なぜ増加?
スマホやPC導入がもたらす“甚大な”経営的損失
【この記事のキーワード】IT, スマホ, パソコン
「Thinkstock」より
「昭和な会社」を再評価する動きが高まっている。
スマートフォン(スマホ)をやめたら月額5,000円の「反スマホ報奨金」を出すのは、
岐阜県の機械部品メーカー、岩田製作所。
社員に対する新聞購読補助制度もあり、
月1回、新聞記事の感想文を提出すれば、
月額2,000円が給料に上乗せされる。
「朝9時30分まで会社のパソコンの電源が入らない」というのは、
埼玉県の電機メーカー、キヤノン電子。
朝6時45分に出社した部長はパソコンに頼らずに、
社長、部下との対話を行う。
東京都渋谷区のIT企業、ドリーム・アーツでは
「社内向けのCC(同報送信)メールや
パワーポイントの資料作成」を禁止している。
「日経ビジネス」(日経BP社/2月17日号)では、
『昭和な会社が強い スマホ・パソコンを捨てる』
という画期的な特集企画を組んでいる。
「社員の机にパソコンはなく、業務連絡にメールは使わない。
携帯端末の支給もなく、取引先とはファックスでやりとりする」……
こうした昭和的な社内の仕組みは、
平成に入ってから「業務効率」や
「社員の意欲向上」などの理由により
職場環境の改善がなされ、ほぼ絶滅した。
しかし、本当に日本の職場は「あの頃」より効率的に、
働きやすくなったのだろうか?
IT化で社内の対話がなくなり、
知(ナレッジ)の共有ができなくなる恐れが
高まっているのが今の日本の職場だ。
●反ITで高収益
一方で、時代遅れにも見られがちな反IT経営に乗り出した企業は、
収益性が高い傾向にあるとの報告がある。
例えば岩田製作所では、かつては
休憩時間の工場脇のベンチはくつろぎの場所であるとともに、
製品開発のアイデアの源というべき場所だった。
ところがスマホ時代を迎え、ベンチはゲーム、
メールというスマホのための場所になってしまった。
営業マンの成功事例の共有も減少、
コミュニケーション力も思考力も低下し、
このままではスマホに会社が潰されてしまうと考えた社長は
反スマホ経営を打ち出したのだ。
キヤノン電子の社長は「ITに関しては厳しいルールをつくらないと、
社員は必ず易きに流れてしまう。
(パソコンの)電源が入れば部長は
私の指示をメールで部下に送ってしまう」
とITには厳格な規制を打ち出し、
1999年度に1.5%だった売上高経常利益率が、
2013年度には12.9%まで改善したのだという。
同社にはIT化の弊害に悩む企業からの視察が相次ぐが、
「ある中堅会社では、友人とのメール交換や
ネットサーフィンなどで時間を潰し、
わずか3分しか働いていない女性がいた。
またあるサービス系企業では
1日50通以上のラブメールを交換しているカップルもいた」
と社長は明かす。パソコンの業務外利用によって、
年間1億100万円の損失が発生した中堅商社もあるのだという。
ドリーム・アーツでは、パソコンを導入すればするほど、
「新規のプロジェクトや新しい受注があるわけでもないのに、
社員がなぜか忙しそうに働いている」ことに気がついた社長は
徹底的にIT断食に乗り出した。
会って話せば1分で完了するコミュニケーションが、
メールでは何倍も時間がかかる。
しかも、部下はCCメールを送っただけで責任回避のツールとなり得るが、
幹部クラスになれば、大量のCCメールの中から
重要なメールを探すだけでも余計な時間がかかってしまう。
また社内向けにパワーポイントで凝った資料を作成する時間は、
顧客訪問に充てるべきとして、
パワポによる資料作成を禁止した。
こうしたIT断食の結果、競争激化の業界にあって
13年12月期は前期比3割増を達成したという。
社長は「安易なITの導入こそが業務効率を悪化させている」
という結論にたどり着いた。
●「IT化=効率化」ではない
特集記事は「平成に入って以降、効率化の旗印の下、
急速に進んだ『昭和』の排除。だが、
一部の大企業で部分的昭和回帰が始まっているように、
その中には、今の日本の閉塞を打ち破るような知恵も
少なからず含まれている。『新しいものは良いもの』と盲信し、
そのすべてを捨ててしまうのは、
もったいない」とまとめている。
今年に入って経営者サイドの視点が多かったはずの
「日経ビジネス」が面白い。
経営者サイドの視点は変わらないが、
労働者の立場にも配慮した特集を組んでいるのだ。
同誌2月10日号の特集『働き方革命 「“超”時間労働」が日本を救う』では、
「長時間労働こそが美徳」という日本社会の労働意識に疑問を投げかけ、
同誌2月24日号の特集『賃上げ余力 格付け500社
あなたの会社はもっと払える』では、
「ベア1%では足りない。厚生年金保険料の引き上げに
消費増税といった環境を考えれば、
数年間3%の賃上げが必要だ」と提言しているほどだ。
たしかに、労働者にとって働きやすい環境は、
企業にとっても理想だ。そのために必要な効率化とは、
IT化一辺倒ではないはず。ブラック企業、
モンスター消費者などの現在の問題を解決するキーワードの1つが
「昭和な会社」なのかもしれない。
(文=松井克明/CFP)
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IT断食で増益の企業、なぜ増加?
2014.03.12連載 連載
IT断食で増益の企業、なぜ増加?
スマホやPC導入がもたらす“甚大な”経営的損失
【この記事のキーワード】IT, スマホ, パソコン
「Thinkstock」より
「昭和な会社」を再評価する動きが高まっている。
スマートフォン(スマホ)をやめたら月額5,000円の「反スマホ報奨金」を出すのは、
岐阜県の機械部品メーカー、岩田製作所。
社員に対する新聞購読補助制度もあり、
月1回、新聞記事の感想文を提出すれば、
月額2,000円が給料に上乗せされる。
「朝9時30分まで会社のパソコンの電源が入らない」というのは、
埼玉県の電機メーカー、キヤノン電子。
朝6時45分に出社した部長はパソコンに頼らずに、
社長、部下との対話を行う。
東京都渋谷区のIT企業、ドリーム・アーツでは
「社内向けのCC(同報送信)メールや
パワーポイントの資料作成」を禁止している。
「日経ビジネス」(日経BP社/2月17日号)では、
『昭和な会社が強い スマホ・パソコンを捨てる』
という画期的な特集企画を組んでいる。
「社員の机にパソコンはなく、業務連絡にメールは使わない。
携帯端末の支給もなく、取引先とはファックスでやりとりする」……
こうした昭和的な社内の仕組みは、
平成に入ってから「業務効率」や
「社員の意欲向上」などの理由により
職場環境の改善がなされ、ほぼ絶滅した。
しかし、本当に日本の職場は「あの頃」より効率的に、
働きやすくなったのだろうか?
IT化で社内の対話がなくなり、
知(ナレッジ)の共有ができなくなる恐れが
高まっているのが今の日本の職場だ。
●反ITで高収益
一方で、時代遅れにも見られがちな反IT経営に乗り出した企業は、
収益性が高い傾向にあるとの報告がある。
例えば岩田製作所では、かつては
休憩時間の工場脇のベンチはくつろぎの場所であるとともに、
製品開発のアイデアの源というべき場所だった。
ところがスマホ時代を迎え、ベンチはゲーム、
メールというスマホのための場所になってしまった。
営業マンの成功事例の共有も減少、
コミュニケーション力も思考力も低下し、
このままではスマホに会社が潰されてしまうと考えた社長は
反スマホ経営を打ち出したのだ。
キヤノン電子の社長は「ITに関しては厳しいルールをつくらないと、
社員は必ず易きに流れてしまう。
(パソコンの)電源が入れば部長は
私の指示をメールで部下に送ってしまう」
とITには厳格な規制を打ち出し、
1999年度に1.5%だった売上高経常利益率が、
2013年度には12.9%まで改善したのだという。
同社にはIT化の弊害に悩む企業からの視察が相次ぐが、
「ある中堅会社では、友人とのメール交換や
ネットサーフィンなどで時間を潰し、
わずか3分しか働いていない女性がいた。
またあるサービス系企業では
1日50通以上のラブメールを交換しているカップルもいた」
と社長は明かす。パソコンの業務外利用によって、
年間1億100万円の損失が発生した中堅商社もあるのだという。
ドリーム・アーツでは、パソコンを導入すればするほど、
「新規のプロジェクトや新しい受注があるわけでもないのに、
社員がなぜか忙しそうに働いている」ことに気がついた社長は
徹底的にIT断食に乗り出した。
会って話せば1分で完了するコミュニケーションが、
メールでは何倍も時間がかかる。
しかも、部下はCCメールを送っただけで責任回避のツールとなり得るが、
幹部クラスになれば、大量のCCメールの中から
重要なメールを探すだけでも余計な時間がかかってしまう。
また社内向けにパワーポイントで凝った資料を作成する時間は、
顧客訪問に充てるべきとして、
パワポによる資料作成を禁止した。
こうしたIT断食の結果、競争激化の業界にあって
13年12月期は前期比3割増を達成したという。
社長は「安易なITの導入こそが業務効率を悪化させている」
という結論にたどり着いた。
●「IT化=効率化」ではない
特集記事は「平成に入って以降、効率化の旗印の下、
急速に進んだ『昭和』の排除。だが、
一部の大企業で部分的昭和回帰が始まっているように、
その中には、今の日本の閉塞を打ち破るような知恵も
少なからず含まれている。『新しいものは良いもの』と盲信し、
そのすべてを捨ててしまうのは、
もったいない」とまとめている。
今年に入って経営者サイドの視点が多かったはずの
「日経ビジネス」が面白い。
経営者サイドの視点は変わらないが、
労働者の立場にも配慮した特集を組んでいるのだ。
同誌2月10日号の特集『働き方革命 「“超”時間労働」が日本を救う』では、
「長時間労働こそが美徳」という日本社会の労働意識に疑問を投げかけ、
同誌2月24日号の特集『賃上げ余力 格付け500社
あなたの会社はもっと払える』では、
「ベア1%では足りない。厚生年金保険料の引き上げに
消費増税といった環境を考えれば、
数年間3%の賃上げが必要だ」と提言しているほどだ。
たしかに、労働者にとって働きやすい環境は、
企業にとっても理想だ。そのために必要な効率化とは、
IT化一辺倒ではないはず。ブラック企業、
モンスター消費者などの現在の問題を解決するキーワードの1つが
「昭和な会社」なのかもしれない。
(文=松井克明/CFP)