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『キツツキと雨』

2012年02月23日 | 映画(か行)
『キツツキと雨』
監督:沖田修一
出演:役所広司,小栗旬,高良健吾,臼田あさ美,古舘寛治,
   森下能幸,嶋田久作,平田満,伊武雅刀,山崎努他

『南極料理人』(2009)がとってもよかった沖田修一監督の作品。
全国のシネコンで公開中。

人里離れた山間の村。
3年前に妻を亡くした木こりの克彦は、息子の浩一と二人暮らし。
浩一は定職に就かずにぶらぶら。
にわか雨が降ろうとも洗濯物の取り込みすらしない浩一に克彦はイライラするが、
最近は父親と息子の間でまともな会話ができずにいる。

ある日、克彦は立ち往生している車を見かける。
ゾンビ映画の撮影をしているというスタッフたちを克彦の車に乗せ、
撮影に合いそうな場所まで案内することに。

同乗させたスタッフのうちの一人はくるくるとよく動くが、
もう一人はひどく気弱そうなうえに、まったく動かない。
実はその気弱そうな若者こそが、動かなくても当たり前、監督の幸一だった。

なりゆきでゾンビとして出演することになった克彦は、
最初は嫌々だったものの、初めて目にする映画の撮影現場に興味を惹かれる。
やがて、現場のあれこれを率先して手伝うように。

一方の幸一といえば、起床して靴下を履こうにも、
どこかから「その色はやめとけ」と幻聴が聞こえるような精神状態。
好きな甘いものを絶てば撮影が成功すると信じようとしているが、
役者は勝手、スタッフも適当で、どうすればいいのか思い悩み……。

冒頭の克彦とスタッフの会話に、
全部言わずともわかってもらえると思うのは喋り手の傲慢だなぁと苦笑い。
けれど、『南極料理人』も然り、本作にも悪い人は一人も出てきません。

映画のことを何にもわかっちゃいない克彦に、
それとなく幸一が相談を持ちかければ、てんで見当外れなアホなことを言われる。
けれどもそれが救いとなっていたりして、
先日読み終えたばかりの伊坂幸太郎の『モダン・タイムス』に出てきた、
「楽観とは、真の精神的勇気だ」という言葉を思い出しました。

役者陣の表情がとてもいいです。
克彦(役所広司)が幸一(小栗旬)から映画のあらすじを聴くところなど、
まさに少年のように目をキラキラと輝かせる顔。
浩一(高良健吾)が予想もしなかった克彦の(親戚に向けた)一喝に唖然とする顔。
ベテラン俳優(山崎努)の痔に苦しむ顔も最高ですが、彼はさすが。
のちほどたったひと言で幸一と観客を泣かせます。

この監督の作品は、食事のシーンが相変わらず楽しい。
味付け海苔の「正しい食べ方」。見ていて嬉しくなりました。

そうです、ゾンビは走らないんです。これ以外では。

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