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『おクジラさま ふたつの正義の物語』

2017年10月17日 | 映画(あ行)
『おクジラさま ふたつの正義の物語』
監督:佐々木芽生

十三・第七藝術劇場で2本ハシゴの2本目。

『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(2008)、
『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物』(2012)は、
郵便局員と図書館司書の老夫婦がささやかな趣味で集めていた現代アートが
いつのまにか世界屈指のコレクションになっていたというドキュメンタリーでした。
それがとても面白かった佐々木芽生監督がこのたび焦点を当てたのは捕鯨問題。

第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『ザ・コーヴ』(2009)。
捕鯨を非人道的行為として糾弾し、世界的論争を巻き起こしました。
ウィキペディアを見ただけでも、それがどれほど話題となったかがわかります。

世界中から非難の目を向けられたのは、和歌山県東牟婁郡太地町。
太地町は捕鯨400年の歴史がある町で、やり玉に挙げられたのは、
一般的にはイルカと呼ぶ小型のを捕まえて商売しているという点。
食用としてイルカを捕ったり、世界各地の水族館に売ったりして、
町の多くの人が生計を立てているそうです。

イルカの追い込み網漁の様子を隠し撮りした『ザ・コーヴ』が話題となり、
反対を唱える外国人たちが押し寄せるように。
以来、町の人々は外国人を見れば敵ではないかと疑ってしまうのです。

アメリカ人ジャーナリストのジェイ・アラバスター氏は、元AP通信記者。
会社の命を受けて捕鯨問題を調べるうち、
これは実際に太地町へ行かなきゃわからんのじゃないかと思い始めます。
行くだけじゃない、住んでみなきゃわからんと。

ジェイは言います。普通、日本のどこへ行こうが、外国人観光客は喜ばれる。
みんなにこやかに受け入れてくれて、時には勝手に部屋がグレードアップされたり。
ところが太地町はそうじゃなかった。
そりゃそうでしょう、誰も彼もが太地町を責め立てるわけで。

一方的な話ではなく、双方の話に耳を傾け、取材を重ねる。
これって、ジャーナリズムの基本ではないかと思います。
ずっと中立の立場だというのは、見ようによってはずるいかもしれません。
だけど、コウモリ的にあっちにもこっちにもいい顔をするのではなく、
きちんと話を聴くうちに、みんながちょっとずつ心を開く。

日本人でイルカ保護の立場を貫く女性が言うように、
日本でアンケートを採ればおそらく7割の人が捕鯨に賛成でしょう。
私も給食に鯨肉が出た世代ですから、伝統に則る町の何がいけないのか、
別にいいじゃないかと思うのです。
だけど、別にいいやん口出しすることじゃないというのは、
自分と関係のないことだから言えることでもあり。
ものすごく無責任にリベラルを気取っている自身に嫌悪感。

ジェイが心配するのは、もはや捕鯨問題ではなく、
人口わずか3千人の静かだったはずの町のこれから。

睡魔に襲われることは1秒もなし。もっとみんなで考えられたなら。

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