南英世の 「くろねこ日記」

国家と情報

民主主義を守るために重要なことは、国民が正しい情報を知らされ、自由に表現できることである。そのいずれが欠けても民主主義は機能しない。

「世の中で一番信用できる機関又は人物を挙げよ」と授業で質問したところ、「政府」と答えた生徒がいてびっくりしたことがある。彼らは戦前の大本営発表や思想統制を知らないのだろうか? 

先日「昭和と戦争」という全8巻のDVDを見た。そこには私も知らなかった国家によるプロパガンダ映像が多数含まれていた。

 

国家権力が「ウソ」をつくというのは過去のことで、現在はそんなことはあり得ないと思っていたら大間違いである。権力者は自らの政権延命のために都合の悪い情報は隠すし、改ざんもする。ときには意図的に誤った情報を発信することもある。ヒトラーがその典型である。

民主主義の盟主とされるアメリカだって例外ではない。ベトナム戦争のきっかけとなったトンキン湾事件、湾岸戦争で油まみれになった水鳥の写真、イラク戦争の原因となった「大量破壊兵器の保有」などなど、情報操作によって国民をだました例はいくらでもある。

そもそも情報はだれのものか? 答は「国民のもの」である。銀行に預けたお金が銀行のものでないのと同じく、政府が持っている情報は国民のものである。もちろん、情報の中には軍事機密などオープンにできないものも当然ある。しかし、情報は基本的に国民のものであり、公開が原則で、秘密は例外でなければならない。

戦後、政府の「ウソ」を暴露した新聞記者に西山太吉がいる。1971年、翌年の沖縄返還をめぐり米国側が負担すべき米軍用地の原状回復補償費400万ドルを、日本側が肩代わりするとの密約を暴いた。しかし、佐藤栄作首相の怒りを買い、情報入手に際しての情交を攻撃され世間から葬り去られた。2023年2月に91歳で亡くなったと聞き、彼の最後の著作を読んだ。

日本で情報公開法が成立したのは1999年。アメリカから約30年遅れである。秘密文書は通常30年経てば公開されるというのが世界常識である。日本もその例にならって一応30年原則が導入されてはいる。しかし、安倍内閣はアメリカから軍事機密を保護する法整備をしてほしいという要望を受け、2013年に特定秘密保護法を成立させた。

特定秘密保護法の何が問題か。軍事機密だけを秘密にするのであれば問題はない。ところが日本の場合、公安警察が自分たちの力を拡大させるために「テロ防止」という名目のもとに国民のプライバシーまで調べ挙げて「特定秘密」に指定することも可能な内容になっている。つまり、行政機関が国民に知られたくない情報は何でも「特定秘密」に指定して、国民の目から隠してしまえるのである。

特定秘密保護法が成立して10年がたつ。「ほら、この法律ができても我々の生活は何も変わらないでしょ。心配いりませんよ」という政府の声が聞こえてくるような気がする。しかし、政府はいまマイナンバーカードの普及を進めている。しかも、ポイント(=現金)を配布してまで強引に推し進めている。特定秘密保護法とマイナンバーカードがセットで運用されたら・・・

アメリカ第4代大統領のジェームス・マディソンは「国民が情報を持たない民主的な国家は、悲劇の序章」とのべている。情報公開は民主主義の根幹をなす問題であることを忘れてはならない。

「過ちは繰り返します秋の暮」

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