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南英世の 「くろねこ日記」

政府統計の読み方

日本人が過労死するほど働くせいでアメリカは貿易赤字に陥っている。何だかよくわからない理屈で、アメリカは日本に労働時間の短縮を求めてきた。

そこで、政府は1987年、2100時間を超えていた年間総労働時間を1800時間にする目標を立てた。それ以来、週休2日制の普及やフレックスタイム制の導入などによって、2017年には1721時間に減少させることに成功した。

しかし、この説明はどうも腑に落ちない。実際に労働時間が短くなっているとは思えないからだ。むしろ、競争が激しくなって労働時間は長くなっているのではないか。多くの人がそう思っている。

私が学生時代は、「データを用いる場合は必ず政府統計を使うこと。そうでないデータを利用したら、その時点で論文としての価値がなくなる」と統計学の先生から教わった。確かに、以前の政府統計は信頼できたかもしれない。しかし、最近はどうか?

「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間は、一般の労働者よりも短いというデータもある」という安倍総理の答弁(2018年1月29日)は、あとで間違いであったことが明らかになり、総理は謝罪に追い込まれた。

また、アベノミクスによって賃金が上がっているという政府の主張に対して、実際は低下しているという指摘もなされている。どうやら、政府は都合のいいデータだけを強調し、都合の悪いデータは国民には知らせないようにしているようだ。

では、総労働時間に関する上記のデータはどう考えたらいいのか。少し調べてみたらすぐ判明した。実は上のグラフの元データには、パート労働者の労働時間も含まれているのである。パート労働者の人数はここ20年間に著しく増加している。それが一人当たり総労働時間を押し下げる大きな要因になっている。


だが、冒頭に掲載したグラフを見ているだけではこうした「カラクリ」は全く分からない。このグラフだけを示されると、日本人の労働時間は欧米並みに短くなっていると誤解する。注意が必要である。ちなみにフルタイムで働く労働者だけの平均を取り出すと、年間2026時間(2017年)だそうだ。これは欧米よりはるかに高い水準である。

しかし、それでもまだ納得がいかない。なぜなら、いわゆる「サービス残業」は労働統計には全く含まれないからだ。無賃労働というサービス残業を含めれば、日本の総労働時間はもっと長くなるはずだ。

ところで、教員の労働時間にいたっては正確な統計すらない。タイムカードが導入されていなかったり、クラブ活動の付き添いが「ボランティア」とみなされ、労働時間に含まれなかったりしているからである。2016年に文科省がサンプリング調査をした結果は、次のようになっている。



中学校の先生の半数以上は1週間に60時間以上、すなわち過労死ラインとされる1か月80時間以上働いている。しかも、上のデータは「学内」の労働時間だけであって、自宅への持ち帰りや土日の仕事は含まれていない。

統計は一国の政策の基礎となるものであり、正確なデータを国民に開示する必要がある。昔大学で教わった統計学の名物教授が言っていた「なぞかけ」を思い出す。
「統計学とかけて、水着姿の美女と解く。その心は・・・」






















「見たいところが隠されている」(笑)。
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