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南英世の 「くろねこ日記」

国際的緊張と軍需産業

集団的自衛権とは、軍事同盟を結んだ一方の国が攻撃を受けた場合、それを自国に対する攻撃とみなし共に戦うことを言う。2015年9月、国会は集団的自衛権の行使を認める安保法を可決した。これが意味するところは何か。簡単に言えば、自衛隊をアメリカ軍の一員として差し出すこととほぼ同義といえる。

国際政治で一番大切なことは、世界のNO1の国がどのような世界戦略を持っているかを理解することである。冷戦時代、アメリカはソ連を仮想敵国としてきた。ソ連が崩壊した後、仮想敵国はなくなった。しかし、仮想敵国がなくなれば、困るのはアメリカの軍需産業である。
軍需産業がいったん経済に組み込まれると、「軍産複合」を形成し、そこから抜け出れなくなってしまう。次に掲げたのは、アメリカの主な軍需産業の軍事費の売上高と、売上高に占める軍事費の割合である。

ロッキード・マーティン  3兆8000億円 (92%)
ボーイング        3兆2000億円 (48%)
ノースロップ・グラマン  2兆5000億円 (77%)
ジェネラル・ダイナミクス 2兆1000億円 (79%)
レイセオン        2兆円     (93%)


これらの企業は、世界中に武器を輸出することにより利益を上あげている。日本ではロッキード事件として知られる贈収賄事件も、本当は日本へのトライスターの売り込みではなく、総額1兆円の対潜哨戒機P3Cの売り込みが本命だったのではないかともいわれている。同盟国である日本の防衛力を高めれば、日本のお金でアメリカの戦力を高めることにもつながる。ともかく、軍需産業が経済構造に定着してしまえば、世の中から「政治的緊張」や「戦争」がなくなれば飯の食いあげなのだ。

ここで、自分がこれらの企業の社長になったつもりで物事を考えると、世界はまた別の姿を現す。企業の最大の使命は「利益」の追求である。そのためには、自国の安全が確保されたうえで、なおかつ、世界中に一定の緊張ないしは戦争があることが望ましい。武器を売り込むことができるからだ。

ソ連がある間、アメリカはソ連と軍拡競争をやってきた。また、アメリカは時々世界のどこかで戦争をやり「古くなった武器の在庫一掃セール」(笑)をしてきた。ところがソ連が崩壊してしまった。仮想敵国が消滅してしまったのだ。そこで、アメリカの軍需産業は、新たな敵を必要とした。選ばれたのは、イラク、イラン、北朝鮮だった。2001年のアメリカ同時多発テロ事件以来、「テロとの戦い」も始まった。


一方、中国が台頭してくると、今度は日中間の緊張も高まった。尖閣諸島問題である。ナショナリズムをあおり緊張を高めるには、領土問題が一番だ。もともと、尖閣諸島問題は、1972年に日中共同声明が出されたとき、周恩来と田中角栄の間で「棚上げ」することで了解が取れていた。ところが、ソ連が崩壊(1991年)した後、1996年に外務省は「日中間に領土問題は存在しない」などと言い始めた。そのうえ、石原都知事が尖閣を買い取るといい出し、東京都が買うより日本政府が買ったほうがいいだろうということで、結局、野田内閣は尖閣諸島を買い上げ国有化してしまった。



中国側からすれば、これは約束違反である。こうなると、中国としても黙っていられなくなる。当然である。連日、尖閣周辺に中国の漁船や公船が出没するようになった。


アメリカの軍需産業の立場からすれば、日中間に緊張が高まることは大歓迎である。日本は軍事強化のために、アメリカから武器を購入してくれる。さらに、解釈改憲で集団的自衛権の行使を容認する法律を作り、自衛隊がアメリカの力強い味方になって、地球の裏側までも行ってくれることになったのだから言うことはない。

これまで日本の政治家が中国と仲良くしようとすると、なぜか排除されてきた。理由は推して知るべし。アメリカにとって、日本と中国が敵対関係にあるほうが好ましいのだ。そのほうが、沖縄の基地の継続にも都合がいい。アメリカは安倍政権にはもっともっと長く続いてほしいと願っていることだろう。

今後、一番考えられる自衛隊の使い方としては、アメリカが進める「テロとの戦い」に参戦させることである。当分は、「慣らし運転のために」直接戦闘に加わることはないかもしれない。しかし、人道支援や後方支援といった慣らし運転を5年、10年と時間をかけてやり、国民に抵抗感がなくなったところで、テロとの戦いに参戦を求められることは間違いない。そうなれば、日本もフランス、イギリスなどと同じように、テロの対象国となる。

以上述べてきたことは一つの考え方であり、そうなるとは限らない。またそうなっては困ることでもある。しかし、自分なりに予測をすることは常に必要である。戦後71年、日本の状況はだんだん戦前に似てきた気がする。
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