南英世の 「くろねこ日記」

選択的夫婦別姓

暮れからお正月にかけて、夫婦別姓に関する本を集中的に読んだ。

結論を簡単に言うと、夫婦別姓問題の本質は女性の社会的地位にかかわる問題である。すなわち「夫婦同姓を強いるのは女性は男性(あるいは家)の付属物であるという考え方が根本にあり、時代に合わない」とする。女性の社会進出とともに1980年代から世界的に議論され、次々と法改正がなされるようになった。

まずは各国の状況を見てみよう。

【イギリス】

夫婦同姓、別姓、途中からの改名もすべてOK。そもそも個人の名前をどうするかは当人が決めるべきものであって、国が法律で「あーだ、こーだ」と決める筋合いのものではない。一般に、労働者階級は結婚して夫の姓にしたいと望むものが多い。高学歴・高収入の共働きの中流世帯では別姓が多い。上流階級になると、「first name, middle name, last name」のうち、先祖につながる血筋を誇るmiddle nameを入れたり、両家の名門家系の名をとどめるために連結姓にすることが多い。

【スウェーデン】

教え子の女性がスウェーデンの人と結婚していたので聞いてみた。すると「こちらでは奥さんの姓をとったりご主人の姓をとったり別姓を名乗ったりいろいろですが、やっぱり男性の名字をとるケースが一番多いです」ということだった。ちなみに彼女はmiddle nameに旧姓を入れ「名、旧姓、夫の姓」を名乗っている。ただし、子どもの姓は夫の姓しか認められていない。

【フランス】

フランスでは生まれた時の姓が一生そのまま続き、結婚によって姓が変わることはない。たとえば、山田夏樹さんがフランス人のプラドさんと結婚した場合のパスポートは

  姓 YAMADA

 通称 PRADO

 名前 NATSUKI

と書かれている。日常生活では NATSUKI YAMADAーPPADO と連結姓を名乗っていたが、YAMADAがフランス人には読みにくいので、今は NATSUKI PPADOを名乗っているとのこと。

【ドイツ】

現在は法改正されて、夫の姓、妻の姓、別姓、連結姓など自由にできる。実際には夫の姓を名乗ること人が74%と最も多い。

【アメリカ】

夫の姓、妻の姓、連結姓(夫の姓と妻の姓を並べたりハイフンでつないだりする)、別姓、全く新しい姓を創作など全く自由。ちなみに、John Fitzgerald Kennedy のミドルネームは母方の苗字。

【中国】

古くは「三従の教え」として有名な儒教の影響で、女性は男性の付属物でしかなかった。妻の社会的な存在意義は子孫を絶やさないための子作りにあるとされた。したがって、結婚しても夫の姓を名乗ることはできず(毛沢東の夫人は江青であり、毛青とはならない)、女性蔑視という意味での夫婦別姓であった。家系図の中でも名前が載るのは男性だけで、女性の名前が系図に記されることはなかった。

ところが、中国が社会主義国家になった後、男女平等を実現するための「夫婦別姓」を定める婚姻法が1950年に成立した。ただしその場合も子どもの姓は父親の姓とされた。

中国は1979年から35年間一人っ子政策を実施したが、この間に面白いことが起きた。子どもの名前を父の姓にするか母の姓にするかでひと悶着起きたのである。そこで考え出されたのが父と母の両方の姓をくっつけてしまうというやり方である。

たとえば、毛さんと江さんの間に女の子が生まれ「華」という名前を付けたとする。この場合、この子の名前は「毛江華」となる。毛も江も姓であるが、役所には姓は父親の「毛」であると主張し、名を「江華」だと主張する。中国では姓と名を分けて呼ぶ習慣がないから役所としてはそれ以上反論できない。さすがに「上に政策あれば、下に対策あり」といわれる国である。

【韓国】

韓国は過去「絶対的夫婦別姓」といわれ、女性差別が最も激しい国であった。すなわち、結婚しても女性は夫の姓にすることは許されなかったし、子どもの姓も父親の姓が絶対であった。だから家族の中で父親と子どもがみな同じ姓であるのに、母親や祖母だけが異なる姓なのである。それが韓国では当たり前とされてきた。

しかし、女性の社会的地位を高めるための運動が展開された結果、2005年にこうした法律(民事令)は廃止された。

【日本】

日本は源頼朝の妻が北条政子であったように、もともとは夫婦別姓であった。特に、武士や公家の間では妻が生家の苗字を名乗るのはその威光を高めるために当然のこととされた。

明治になって市民平等を実現するために、すべての人が姓を持つようになり、戸籍がつくられた。1898年に定められた明治民法では、「妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」とされ、家制度の考え方のもとで「戸主」が一家の責任者として戸主権を持ち、妻は夫の姓を名乗ることが決められた。

第二次世界大戦後、家制度は廃止され、姓に関しては「夫婦は、婚姻の際に定めることろに従い、夫または妻の氏を称する」(民法750条)と定められた。すなわち、夫婦どちらの姓を名乗ってもよいことになった。とはいうものの、実際には男性が女性の姓を名乗るのは2.3%であり、その大半は婿養子だといわれている。

現状では、女性がどうしても旧姓を名乗り続けたい場合は、「通称」として使うか、または婚姻届けを出さずに「事実婚」として二つの表札を出すしかない。最高裁はこれまで2度「現在の民法750条は違憲ではない」という判決を出している。選択的夫婦別姓を導入したいなら、それは国会がやるべきだというスタンスである。

別に全員、夫婦別姓にしなさいと言っているわけではない。別姓にしたい人はどうぞという立法措置がなぜ取れないのか。夫婦別姓に対する岩盤派の反対派は、自民党の中でも1~2割だといわれている。グローバル化が進む中で、結婚によって女性の姓が変わることによる職業上の不利益はいかほどのものか。管理職に占める女性の割合が日本では極端に少ないことも夫婦同姓と無縁ではない。

男女雇用機会均等法が女性の地位を高める役割を果たしたのと同じように、民法750条を早急に改正して、法律面から真の男女平等の実現を後押しすべきである。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日常の風景」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事