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南英世の 「くろねこ日記」

経済学が分からなくなってきた


以前、名古屋大学のある著名な先生が、「何十年も経済学を学んできて、経済学とは分からないということが分かった」という名ゼリフをを語っておられたことがある。その時は、「ふーん、そんなもんかな」と思っていたが、最近、私も同じような迷いに陥っている。

バブルが崩壊して20年以上過ぎた。しかし、日本経済は一向に不景気から脱出できる気配がない。どうすれば不景気から脱出できるのか。金融政策でゼロ金利にしても、いわゆる「流動性の罠」に陥ったままで、まったく効果がない。財政政策も、GDPの200パーセントを超える借金で身動きが取れない。一体どうすればいいのか・・・・。結果を後講釈をするのは簡単だ。しかし、大切なのは「これからどうすればいいか」だ。

そんなとき、たまたま手にした本が『さっさと不況を終わらせろ』(クルーグマン著、2012年、早川書房)である。原書名は 
 ”End This Depression Now! ”
クルーグマンは2008年にノーベル経済学賞を受賞した人物である。この大先生がどのような処方箋を書いているのか。

半分も読まないうちに結論が読めた。経済が流動性のわなに陥っているときは、財政拡大政策をとれ。財政破たんのことなんか心配する必要はない。経済が成長路線に戻り、適度の物価上昇をするようになれば、GDPに占める財政債務は次第に減少する。だから安心して財政支出を拡大しろ。
国の借金が膨らめば、やがて財政が破たんするだの、金利が上昇するだの、ハイパーインフレに襲われるだのと、間違った主張が世界に蔓延している。しかし、今のような不景気の状態では、金利は上がりようがないし、インフレは起きようがない。好況なくしてインフレなしである。今の状況は、1930年代と似ている。大規模な財政支出を行い、さっさと不況を終わらせるべきである。

クルーグマンの主張を要約するとこんなふうになろうか。何のことはない。かつてケインズが主張したこととまったく同じである。今の政府は財政破たんを心配するあまり、小規模の財政支出を小出しするばかりである。それどころか、増税を行って、景気をさらに悪化させようとしている。

クルーグマンと同じ主張を、数年前にリチャード・クー氏が主張していた。クー氏が「今の日本でインフレを起こせるものなら起こしてみろ」と言っていた言葉が印象に残っている。それに対して「それでは、膨れ上がった債務残高をどうするのですか?」とクー氏に反対する人は問うていた。


一体、何が正しいのやら。正直、分からなくなってきた。かつて、大学でマルクス経済学全盛の頃、マルクス経済学と近代経済学とでは、正しいのはどっちだと死ぬほど悩んだ。悩んだ挙句、私はマルクス経済に疑問を感じ、マルクスから離れた。マルクスをベースに行われる大学の講義にはほとんど出席しなかった。今にして思えば、それでよかったと思っている。

学問の最先端は、いつの時代も「群盲象を撫ず」の状態なのかもしれない。生徒には、今の心情を素直に語るしかない。真理は常に闇の中である。

真理は分からない・・・・・、実はそうした謙虚さがいちばん大切なのかもしれない。そう思うことにしよう。
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