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南英世の 「くろねこ日記」

車いす

(写真はイメージです)


 娘が脚の手術をした。数ヶ月は車いす生活である。昨日は入院先の病院から一時帰宅するというので、初めて娘の車いすを押した。
病院から近くのJRの駅までタクシーで移動する。車いすをトランクに積んでもらうが、車いすは意外と大きくトランクからはみ出してしまう。病院専用のタクシーだから、そこは心得たもので、トランクが開かないようにきちんとひもで縛ってくれる。

 JRの駅に着く。2階にある改札口に行くためにエレベータに乗る。健常者が結構乗っているので「すみません」と申し訳なさそうに乗る。切符を買って改札口を通る。駅員さんが車いす専用の改札口を開けてくれ、電車に乗る際「渡し板」がいるかどうかを聞いてくれる。乗る電車の時刻、乗る車両、行き先を告げて駅のホームに降りる。

 駅のホームにはわずかな勾配がある。水が高いところから低いところに流れるように、車いすも物理法則に従って高いところから低いところに走り出そうとする。普段は気がつかないわずかな勾配も、車いすの人間には命に関わる非常に危険な場所であることを知る。

 電車に乗る。どこに車いすを置こうか迷っていると、座席の一番はしに座っていたおじさんが、端っこの場所を譲ってくれた。これで私も気兼ねなくゆっくりすわることができる。

 目的地の駅に着いた。もうすでに「渡し板」をもった駅員さんが待機してくれている。感謝の気持ちを述べて、電車からホームに降りる。そして出口に向かってホームを歩いていく。そこでまた思った。ホームの幅が場所によっては非常に狭いのだ。少しでも操作を誤れば、たちどころに線路に落ちてしまいそうだ。盲人用の点字ブロックも車いすには不都合だ。ガタガタガタガタ、すごい衝撃が車いすを押す手に伝わってくる。



 改札口を出て、地下から地上に出る途中でも問題があった。一見なだらかだが、結構勾配のきついスロープが2カ所ほどあるのだ。歩いているときはほとんど気がつかなかったが、娘の非力な力では、この坂を登るのは相当困難らしい。

 ようやく地上に出る。そこからは家まで歩いて10分あまりの距離だ。人がたくさん通る歩道をゆっくりと歩いていく。歩道は意外とガタガタしていて、小さな段差がいっぱいある。おまけに、歩道には水はけのためにわずかな勾配がつけられており、ここでも車いすはその勾配に沿って道路のほうに向かっていこうとする。それをずっと修正しながら車いすを押していくのは、結構大変だ。

 歩道に面したお店にも目が行く。ほとんどの店の床面は、歩道より一段高いところにあって、しかも入り口に階段がある。これでは車いすは店に入れない。

 40分ほどかけてようやく自宅のマンションにたどり着いた。いくら本を読んでも分からないことがたくさんあることを改めて知る。今日は、娘に多くのことを教えてもらった。
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