オスモ・ヴァンスカ指揮 ミネソタ管弦楽団
2007年2月13日 夜8時開演 @カーネギー・ホール
曲目 シベリウス 「夜の騎行と日の出」(作品55)
ベートーヴェン 交響曲第4番 変ロ長調(作品60)
-intermission-
シベリウス 交響曲第5番 変ホ長調(作品82)
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2月13日(火曜日)、奇しくも管理人の誕生日の夜、カーネギー・ホールでの、ミネソタ管弦楽団のコンサートを観に行った。
ミネソタ管弦楽団は、1903年の創立以来、100年以上の歴史を誇る名門オーケストラである。音楽監督を務めた指揮者には、ユージン・オーマンディ(1931-36)、ドミトリー・ミトロプーロス(1937-49)、アンタル・ドラティ(1949-60)、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(1960-79)などの大物が名を連ねるが、1980年代以降は、やや低調というか、マイナーな存在になりかけていた気がしないでもなかった。しかし、2003年に、オスモ・ヴァンスカが第10代音楽監督に就任してからは、再び昔日の輝きを取り戻してきた感がある。
フィンランド出身の指揮者オスモ・ヴァンスカは、シベリウス演奏の第一人者として知られる。スウェーデンのBISレーベルではシベリウスの全曲録音が進行中で、そのうちの何枚かは、管理人の愛聴盤として欠かせないものとなっている。
ヴァンスカの実演を聴くのは、今回が2度目。前回は2003年10月、ニューヨーク・フィルハーモニックとの初顔合わせの演奏。この時のメインは、ニールセンの交響曲第5番だったが、いつものニューヨーク・フィルとは違う、手作りの温かさと、繊細な美音に驚かされたものだった。今回は、最も得意とするシベリウスがメインであり、期待は否が応でも高まってくる。
まずは、交響詩「夜の騎行と日の出」。夜の闇の中、馬に乗った騎士が、どこへともなく駆けてゆく。その孤独な静けさに満ちた情景が、弦の小刻みなリズムと、エコーを模した掛け合いで表現される。聴こえるか聴こえないかの超絶的ピアニッシモを駆使する、遠近感の見事さ。まさに「ヴァンスカ・マジック」健在、と言えよう。
続くベートーヴェンの交響曲第4番は、個人的には、しばらく遠ざかっていた名曲。「そうそう、こんな音楽だった」と、演奏を聴いて思い出したほどだったが、これが予想外に素晴らしかった。なにしろ、ヴァンスカの指揮が、場内から笑いが出るほどの熱演ぶりなのだ。指揮台から足を踏み外すのではないか、と本気で心配になったのは、バーンスタイン以来である。
どちらかと言えば、ベートーヴェンの「冗談好きな側面」に光を当てた演奏と言えようか。第1楽章の途中、思わぬところで、お得意の超絶的ピアニッシモが登場する。このあたりはサービス精神旺盛というか、お客を楽しませる術も心得ているようだ。
休憩を挟んで、本日のメインであるシベリウスの交響曲第5番。ヴァンスカのことだから、もしかしたら、初稿版を演奏するのではないか、と余計な心配もしたが、冒頭に聴こえてくるホルンのテーマは、これが、一般的に知られる最終稿であることを示していた。
北欧の大自然が目に浮かぶような、雄大な曲想。その一方では、突然、心の内面を見つめるように、繊細な弱音がさまよったりする第1楽章は、一筋縄ではいかない音楽でもある。しかし、さすがは、シベリウス演奏の第一人者。緊張感を緩めることなく、聴かせどころをたっぷりと聴かせていく。
牧歌的な音彩の美しさにふれる第2楽章を経て、大自然の箴言を思わせる、神秘的な第3楽章。音楽は、進行するごとに意味深さを増し、やがて、最後のクライマックスを迎える。そして、ここまで抑え気味だったティンパニが炸裂し、なだれ落ちるような和音で終結すると、場内の観客から万雷の拍手が巻き起こった。
四度、五度とカーテンコールで呼び出されるマエストロ。ついにアンコールが始まる。静寂から聴こえてくる、低弦のピチカート。シベリウスの「悲しきワルツ」(作品44-1)だ。演奏は、まさに夢見るようなひと時を味わえる絶品で、この瞬間が、いつまでも続いてほしい、と本気で願わずにはいられないほどだった。
オスモ・ヴァンスカは、現在、米国在住の指揮者の中で、最も味のあるパフォーマンスを見せてくれるアーティストの1人であることは間違いない。ミネソタ管弦楽団とは、2011年までの契約を更新しているということなので、それまでは、このオーケストラの黄金時代が続くと期待していいだろう。
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こちらからもTBを送らせていただきます。
カーネギー・ホールは、音響効果も素晴らしく、ホールそのものが芸術品ですね。通路には、昔ここで演奏したこともあるラフマニノフの自筆譜なども展示されていて、歴史を感じます。
今後とも、よろしくお願いします。