375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(3) 『HEAVENLY CHRISTMAS』

2014年02月10日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『HEAVENLY CHRISTMAS
(2011年11月29日発売 in USA) SYCO MUSIC/COLUMBIA 88697-97768-2

収録曲 01.I'LL BE HOME FOR CHRISTMAS(クリスマスはわが家で過ごそう) 02.THE FIRST NOEL(牧人羊を) 03.AWAY IN A MANGER(飼い葉のおけで) 04.BELIEVE(ビリーヴ) 05.WHITE CHRISTMAS(ホワイト・クリスマス) 06.WHAT CHILD IS THIS(御使いうたいて) 07.O COME ALL YE FAITHFUL(神の御子は今宵しも) 08.O LITTLE TOWN OF BETHLEHEM(ベツレヘムの小さな町で) 09.WALKING IN THE AIR(空を歩いて) 10.DING DONG MERRILY ON HIGH(ディンドン空高く)


アメリカでは11月下旬の感謝祭ウイークが終わると、街はクリスマス一色となり、あちこちで毎度お馴染みのクリスマス・ミュージックが流れるようになる。日本でもクリスマスの時期が近づけば似たような状況になるのだが、アメリカの場合はキリスト教国家だけあって、その度合いは遥かに大きく、明けても暮れても定番のクリスマス・ミュージックが耳に飛び込んでくるような毎日になる。実際、同じ曲目を一日中繰り返しているFM放送局もあるので、聴いているほうは、さすがに食傷気味になってしまう・・・というのが正直なところだ。

それだけに、クリスマス・ミュージックの需要は市場的に大きく、一つのジャンルになっている。多少でも一般的な知名度のある歌手であれば、必ずと言っていいほどクリスマス・アルバムの1枚や2枚は出しているし、出せば確実に売り上げが計算できるので、どのレコード会社も、11月のシーズンにクリスマス関連の企画物をリリースするというのは、もはや定石となっている。

そして、2011年11月にアルバム『DREAM WITH ME』をリリースし、ビルボードのクラシカル・チャートで初登場1位となる大ヒットを記録したジャッキー・エヴァンコも例外ではなく、なんと、そのわずか数週間後に10曲入りのクリスマス・アルバム『HEAVENLY CHRISTMAS』を出している。こちらもビルボードのクラシカル・チャートで1位となり、2011年のクリスマス・シーズンはジャッキーの歌声がアメリカ中を席巻することになった。

この2つのアルバムは、おそらく平行して録音が進められたと思われるが、『DREAM WITH ME』 が新たなクラシカル・クロスオーバーの地平を切り開いた本格的力作であるのに対し、『HEAVENLY CHRISTMAS』はもっと肩の力を抜いたカジュアルなアルバムという作りになっている。ところがジャッキーの場合は、たとえ肩の力を抜いていても天使の歌声はいささかも穢れることはなく、芸術的な水準を立派に維持しているのだから、やはりただ者ではない、というべきだろう。

まず、アルバムに選ばれた曲目が魅力的である。 個人的に最も惹かれるのが4曲目の「BELIEVE(ビリーヴ)」。これは2004年に劇場公開されたアニメ映画『ポーラー・エクスプレス』の主題歌で、アカデミー主題歌賞候補にもなっている名曲だ。オリジナルを歌っているジョシュ・グローバンはアメリカ期待の若手クロスオーバー歌手であり、情感あふれるスケールの大きな歌唱は本当に素晴らしい。

・・・が、ジャッキーの歌唱はさらにその上を行く。かすかな鈴の音を伴奏に美しく伸びていく歌声は、どこまでも純粋・透明で、そのクリスタルのような輝きは比類がない。さながら北の大地を照らす北極星のように、俗世間のあらゆる雑事を超越したファンタジーの世界へ誘っていく。

こういう響きは女性の色気があっては出せない。ジャッキーの年齢にあたる少女が真心をこめて歌うか、あるいは最晩年の本田美奈子のように徹底的に訓練して天使の声を自分のものにしたレベルの歌手でなければ不可能な「彼岸の領域」だと思う。このような歌声が聴けるだけでも、このアルバムの価値は無限大に近い。

往年の名優ビング・クロスビーがオリジナルを歌った1曲目の「I'LL BE HOME FOR CHRISTMAS(クリスマスはわが家で過ごそう)」も素晴らしい。いかにも昔のハリウッド映画特有のノスタルジックな雰囲気を持った名曲で、多くの歌手がカバーする定番になっているが、ジャッキーの表現はゆったりしたテンポで、メロディラインの美しさを十二分に引き出すものとなっている。そこに秘められているのは、もはや死語になっているかもしれない「アメリカン・ドリーム」への新たな憧憬。それは将来への無限の夢を持っている少女だからこそ成しえた奇跡ではあるまいか。これを聴くと、ジャッキーの歌声に忘れかけていた希望を再発見している年配のアメリカ人の気持ちがわかるような気がする。同じビング・クロスビーが歌ったもうひとつの収録曲「ホワイト・クリスマス」にも同じことが言えるだろう。

9曲目の「WALKING IN THE AIR(空を歩いて)」は1982年に英国で放映されたTVアニメ「スノーマン」の挿入歌で、これも多くの歌手がカバーするクリスマスの定番になっている。アニメでは雪だるまと少年が空を飛ぶ場面で印象的に使われているが、ジャッキーはここでも幻想的なメロディラインを存分に生かしながら、夢をいっぱいに詰め込んだファンタジーを表現している。目を閉じて聴いていると、ほんとうに雪だるまと空を飛んでいるような感覚になってくるから不思議だ。

それ以外の収録曲は、古くから歌われているトラディショナルなクリスマス・キャロルが中心のラインアップ。2010年に発表したミニ・アルバム『O HOLLY NIGHT』の延長上にあたるような選曲で、ふつうの歌手なら2~3回で飽きてしまうかもしれない。ところが、ジャッキーが歌うと、どの音楽も見違えるようにリフレッシュされて聴こえるのが驚きだ。

すべての名曲を、この人の歌声で聴いてみたい・・・そう思わせるのが真の名歌手の条件だとすれば、ジャッキー・エヴァンコはこの条件に当てはまる稀有な名歌手だと思う。

今まで、いろいろな歌手のクリスマス・アルバムを聴いてきたが、もしかしたら、これが史上最高かもしれない。
 

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