2013年元旦。
日本経済新聞社・社説の展開を興味深く読んだ。
社説は大凡読み切りで構成される。
しかし『国力を高める』と題する社説は計6回の力強い主張。
内容に目新しさは感じないものの読みやすく好感を持った。
以下自分専用のメモとして全文を記録(転載)した。
*私が重要と感じる段落を緑色に着色。
*私が問題と感じる段落を赤色に着色。
※※※※※
▽国力を高める(1)
目標設定で「明るい明日」切り開こう
2013/1/1/3:30 記事転載
日本の国の力がどんどん落ちている。
国内総生産(GDP)はすでに中国に抜かれた。
強みを発揮してきた産業も崩れた。
巨額の赤字を抱える財政は身動きが取れない。
政治は衆院選で自民党が大勝したものの夏の参院選まで衆参ねじれの状況は変わらない。
手をこまぬいていては、この国に明日はない。
閉塞状況を打ち破り国力を高めていくための手がかりをつかまなければならない。
<投資とイノベーション>
まず大事なのは目標を定めることだ。
どんな国家にしようとするのか?
どのように経済を立て直していくのか?
どんな社会をつくっていこうとするのか?
という思いの共有が求められる。
戦後を考えると誰もが等しく豊かで自由な社会をつくるという共通の目標があった。
吉田茂元首相が敷いた軽武装通商国家の路線のもと、経済大国をめざした。
一億総中流ということばにあらわれているようにその目的は達成された。
内閣府によると日本の1人当たり名目GDPは、
経済協力開発機構(OECD)加盟国中1993年には2位だった。
しかし、
バブルの崩壊とその後の「失われた20年」で2011年は14位どまりだ。
経済再生のための目標をどこに置くのか。
国民総所得(GNI)という指標を新たな物さしにしてみてはどうだろうか。
「投資立国」の勧めである。
GDPに海外投資の利益を加えたのがGNIだ。
個人や企業の内外での稼ぎを総合的に示す。
11年度の名目GNIは488兆円で名目GDPの473兆円を3%上回る。
グローバル化の波に乗り国境を超えて経済活動を営む個人や企業は珍しくなくなった。
こうした動きを経済連携協定(EPA)などで支え海外での稼ぎを国内に還流させる必要がある。
ただ、
GDP自体が増えない限りGNIの大幅な拡大も望めない。
強力な金融緩和と確固たる成長戦略でデフレや円高を克服し、
日本経済を確実に底上げしなければならない。
これからの国家のめざすべき方向も示す必要がある。
ひとつの提案は「科学技術イノベーション立国」の勧めである。
科学技術の力で新産業を育成し人々の生活を変えるイノベーションをおこせる国。
科学技術を創造し地球環境問題など世界の課題解決に貢献する国である。
日本は官民合わせて11年度に約17兆円を科学技術に投じた。
東日本大震災に見舞われた同年度も投資額は前年度比1.6%増えた。
GDPは3.7%は米国の2.9%を上回る。
日本は今や生命科学や先端材料などいくつかの分野で間違いなく世界をリードする。
そこでは、iPS細胞が扉を開いた再生医療のように物の豊かさだけでなく、
生活や心の豊かさにつなげることが大事になる。
社会の目標としては東日本大震災をきっかけに高まった、
「共助の精神」も忘れてはならない。
基本になるのは自助・自立だが困ったときにはお互い助け合い、
困難を乗りこえようとする「自律と連帯」の勧めである。
<国民よ、自信を持て>
こうした目標を達成していくためには「政治の安定」が欠かせない。
何よりも06年以降、7年連続で毎年首相が交代している。
政治指導者の大量消費時代と決別しなければ世界に相手にされない。
深刻な対立がつづく日中関係は危機回避の戦略を確立する必要がある。
自助努力による防衛能力の向上は当然だが「日米同盟を深化」させなければならない。
対中懸念を抱くオーストラリア、インド、ベトナム、フィリピンなどと連携し、
網状の安保協力の枠組み作りも進めるべきだ。
国力のもとである人口が増えない。
12年に日本の人口は約21万人の自然減となった。
松江市が1年間で消えていく数だ。
どうにも少子化に歯止めがかからない。
だが悲観ばかりしていてもはじまらない。
大きな国家戦略のもと新たな価値を創造する力を磨いていけば明るい明日は必ずやくると信じたい。
吉田茂元首相は回顧録『回想十年』の中で、
「復興再建の跡を顧みて」と題する章を次のようなことばで結んでいる。
「日本国民よ、自信を持て!」
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▽国力を高める(2)
富を生む民間の活力を引き出そう
2013/1/3/3:30 記事転載
米国の学者リチャード・イースタリン氏が「幸福の逆説」を唱えたのは1974年である。
1人あたりの国内総生産(GDP)が増えても国民の幸福感が高まるとは限らないという意味だった。
物質的な豊かさだけでは幸せを感じられない。
そんな人たちが日本でも増えているのは確かだ。
所得格差の拡大や原子力発電への不信感などが相まって脱成長や反成長のムードすら漂う。
<成長は国民生活の基盤>
だが雇用や賃金を生み出し国民に富をもたらす経済成長の効用が色あせたわけではない。
「成長は幸福の基盤になる」(法政大の小峰隆夫教授)という言葉を重く受け止めるべきだろう。
2011年度の名目GDPはピーク時の97年度を9%下回り20年前とほぼ同じ水準にある。
デフレや円高、少子高齢化などが響き日本経済の地盤沈下は続く。
成長は国力の源泉といってもいい。
このままでは国民の生活のみならず国の地位や安全を守るのも難しくなる。
民間の力を引き出す経済改革を急ぎ富を創出する基盤を固めなければならない。
第1の課題は海外の活力をどう取り込むかだ。
アジアの潜在的な成長力は強く米欧にもまだビジネスチャンスがある。
海外への輸出や直接投資、証券投資で稼ぐ力と、
海外の資金や人材を国内に呼び込む力をともに高めたい。
だが、
日本は自由貿易の出遅れや高い法人税といった多くの問題を抱える。
これらの障害を取り除き内外の企業や個人が活動しやすい環境を整える必要がある。
要になるのは環太平洋経済連携協定(TPP)への参加だろう。
日本が成長市場で稼ぎ国内に利益を還流させるには貿易・投資の自由化が欠かせない。
この交渉に一刻も早く加わるべきだ。
法人課税の実効税率は12年度に40.69%から35.64%(復興増税を除く)に下がった。
これを主要国並みの25~30%に引き下げることを検討してほしい。
行き過ぎた円高を修正する金融緩和や通貨外交も続けなければならない。
京大の若杉隆平名誉教授らの研究によると、
輸出企業は非輸出企業の3倍の雇用を生み25%高い賃金をもたらす。
製造業の海外展開で国内産業が空洞化する恐れはあるが、
グローバル化の果実に目を向けないわけにはいかない。
第2の課題は内需の掘り起こしである。
少子高齢化が進む日本では勤労世代が多く買う住宅や自動車、家電の市場が縮み、
高齢者が求める医療・介護サービスの市場が広がりやすい。
こうした「スペンディングウエーブ(支出の波)」への対応が試されている。
重要なのは規制改革だ。
医療、介護、保育、教育などの規制を緩和・撤廃し、
民間企業の参入を促すことで、
「官製市場」を真の成長分野に変えられる。
サービス業を育てれば製造業空洞化の影響を和らげる効果も期待できる。
私費の自由診療と保険診療を組み合わせて受けられる「混合診療」を原則解禁すべきだ。
株式会社や非営利組織が保育施設の経営に携わりやすくする必要もある。
学校経営に対する学校法人と企業の参入条件をそろえ強い経営基盤を持つ大学などを増やしたい。
知識や経験が豊かな社会人を小中学校の教員に登用しやすいような制度改革も急いでほしい。
内閣府によると規制改革は05~08年度に5.4兆円の恩恵を消費者に与えた。
「企業はもうけ主義に走る」「規制緩和は格差を生む」といった批判を乗り越え、
不断の改革に取り組んだ方がいい。
<地方の創意工夫も重要>
第3の課題は地方分権だ。
公共事業ばらまき型の地域活性化には限界がある。
戸堂康之東大教授は、
「地方の創意工夫を生かした特色ある発展を目指すべきだ」と話す。
過剰な国の規制をなくし地方に権限を移したい。
ひもつきの国庫補助金を減らし地方の自主財源を増やす必要もある。
こうした改革が特産品を使った新産業の創出などにつながる。
観光振興や企業誘致は地方の判断に委ねる方が効率的だし、
自然エネルギーの事業化も地方でこそ生きる。
安倍晋三政権は「成長による富の創出」を掲げた。
抵抗勢力の壁を破り必要な手段を繰り出せるかどうかが問われる。
もちろん新しい産業や技術を生む民間の知恵も要る。
すべての力を結集し日本経済の再生を目指す時だ。
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▽国力を高める(3)
産業の新たな担い手を育てたい
2013/1/5/3:30 記事転載
産業の視点から2012年を振り返ると、
戦後の日本の成長を牽引した家電産業の失速が誰の目にも明らかになった年だった。
自動車などなお強い部門もあるが、
それも拠点の国際展開が進み国内における事業の裾野は徐々に小さくなる方向だ。
産業ピラミッドの頂点に立つ一握りの大企業が日本全体の競争力や生産性を引き上げる。
そんな20世紀型の成長の構図は通用しなくなりつつある。
<隠れたチャンピオン>
いま求められるのは新たな成長の担い手だ。
「人口が減るので日本の停滞はやむを得ない」といった宿命論を排して、
足元を見つめ直せば成長の芽はあちこちに眠っている。
その一つが世界に通用する技術やサービスを持った中堅・中小企業群だ。
見過ごされがちな彼らの真価に気付いているのは、むしろ海外企業かもしれない。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)は有望な技術を持つ日本企業を発掘し、
その情報を全世界のGEの技術者に発信して新たなビジネスに結びつける、
「ジャパン・テクノロジー・イニシアチブ」という取り組みを始めた。
航空機エンジン向けに耐熱性の高い新素材を生産するために、
中堅素材メーカーの日本カーボンと合弁会社を設立するなど既に成果も上がっている。
米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)も日本で同様の試みを進め、
ビジネスのタネ探しに余念がない。
自ら世界に飛躍する企業も多い。
工作機械などに使われる位置決めセンサーを製造するメトロール(東京都立川市)は、
従業員100人の中堅企業だが海外展開を始めて15年でアジアや欧米で、
1200社の顧客企業を開拓した。
ホームページで注文を受けクレジットカードで決済し国際宅配便で発送する。
松橋卓司社長は、
「優れた商品と経営者の意欲、そして多少の英語力とIT(情報技術)のスキルがあれば、
資本力のない企業でも簡単に世界に売り込める時代が来た」
という。
ドイツには「隠れたチャンピオン」と呼ばれる企業群がある。
規模は小さいがニッチ分野に特化し世界市場で高シェアを誇る。
そんな無名の企業群がシーメンスなどの大企業と並び、
独製造業の競争力や雇用創出を支える片方の主役である。
日本でも世界に飛び出す中堅企業が増えれば、
新たな成長の核になり得るだろう。
もう一つの成長の担い手はゼロから業を起こすベンチャー企業だ。
長らく日本は「ベンチャー不毛の地」といわれたがその常識は徐々に変わり始めた。
昨年は求人サイトのリブセンスが東証1部に上場し、
村上太一社長(26歳)は1部上場の社長として最年少記録を更新した。
若者だけではない。
リチウムイオン電池を生産するエリーパワーの吉田博一社長は元住友銀行副頭取で75歳。
ソニーのカリスマ技術者として知られた近藤哲二郎氏(63歳)はアイキューブド研究所を設立し、
テレビの解像度を高める「4K」技術で世界をけん引する。
<リスクマネーの確保を>
起業の流れを太く確かなものにするにはリスクマネーの確保が欠かせない。
中小企業金融円滑化法のような不振企業の延命策ではなく、
新しい産業を生み出すために資金を振り向けるという発想の転換が政府にも必要である。
農業などの非産業セクターにも成長の手がかりはある。
福島原発事故に直撃された福島県川内村で建設の進む「野菜工場」は、
レタスの収穫量が通常に比べて3割以上増えるのが特徴だ。
発光ダイオード(LED)の光をうまく調整することで光合成を促しレタスの成長を早める。
野菜工場はコストの高さが弱点だったが、
日本が強いLED技術と世界最先端の水耕栽培ノウハウの融合で突破口が開けた。
農業用水の節約にもつながり中東などへの輸出も有望だ。
異分野の「知」を混ぜ合わせることでイノベーションが生まれる典型である。
安倍晋三首相は昨年末の就任会見で「政権の使命は強い経済を取り戻すこと」と述べた。
だが経済の活性化は政治の力だけで達成できるものではない。
実際の経済の担い手である、
企業や個人が新たな挑戦に踏み出すところから日本経済の再生が始まる。
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▽国力を高める(4)
国際ルール順守だけでなく創出を
2013/1/6付 記事転載
日本人はルールを守るのは得意だが全く新しいルールをつくり出すのは下手だといわれる。
世界のどこかで誰かが決めた規範を真面目に守るだけでは。
国際競争で優位に立ち日本の国力を高めることはできない。
国際的な技術基準や通商の約束事など新しい枠組みを創出する力を強めたい。
<潮流読むアンテナ高く>
スポーツでは日本が国際的な規則づくりで負けた苦い経験がある。
柔道やバレーボールなど試合の手順や判定基準が変更されるたびに、
日本選手が力を発揮できなくなった例が思い浮かぶ。
経済や外交も同じだ。
ゲームのルールが変われば勝敗の行方も変わる。
優れた技術を開発しながら世界市場で主流の規格を握れず、
宝の持ち腐れとなる日本企業が目立つ。
政府は貿易自由化に乗り遅れ日本に有利な提案ができないでいる。
世界的な潮流の変化を読む能力が衰えていないだろうか。
たとえば技術分野ではアナログからデジタルに移る際に企業の感度が明暗を分けた。
ソニーの「ウォークマン」と米アップルの「iPod」を比べると分かりやすい。
携帯音楽プレーヤーは、もともとソニーが世界に先駆けて開拓した市場だが、
アップルはインターネットで音楽を配信し新しい収益の仕組みを築いた。
録音方式が違うソニー製品は次第に海外市場から追い出されてしまった。
技術をいかす土俵を築かなければ真の競争力は備わらない。
中途半端に大きい国内市場に目を奪われ独自路線に傾きやすいのは日本企業の弱点だろう。
電子決済の「おサイフケータイ」や携帯端末向けテレビ放送、電気自動車の急速充電など、
いずれも技術水準は高いが世界への普及はいまひとつだ。
携帯電話で顕在化した「ガラパゴス現象」の予備軍にならないか心配する声がある。
金融の分野では米英主導の基準を「所与の規範」として受け入れる場合が多かった。
日本はリーマン・ショックの直接の震源地ではない。
本来なら一歩引いた立場から、もっと果敢に世界に自己主張できたはずだ。
2013年から段階的に実施する銀行の自己資本規制「バーゼル3」をめぐる動きは、
日本の経済外交の課題を浮き彫りにする象徴的な事例だ。
当初、規制の厳格化を急いだのは米英だが準備不足などを理由に規制の緩和論が浮上している。
必死に対応を急いだ日本の銀行は不利な競争を強いられかねない。
米国では今年、ボルカー・ルールなど金融規制改革の細目が固まる見通しだ。
英国では金融サービス機構が解体され中央銀行が中心となる金融監督の新体制が始まる。
米英は危機後の秩序づくりで再び主導権を握ろうと強かに動いている。
その流れを追いかけるだけでは国力は高まらない。
外交の面では環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加が遅れている。
米国の要求を受け入れるかどうかという受け身の判断ではなく、
米国や他の諸国とともに新たな通商ルールを描くのが、
経済大国である日本の責任だ。
直接投資や原産地規則、競争政策など、
関税以外の分野で日本ならではの斬新な提案を期待したい。
<意思決定スピード勝負>
紛争地域への援助や環境対策、資源開発など、
明確な国際ルールがないまま各国が競い合う分野はなお多い。
経済協力開発機構(OECD)に未加盟の中国は、
今では世界で屈指の援助供与国だが対外援助の基準は不透明だ。
支援の名の下で自国の利益を優先した機敏な行動が目立つ。
世界に向けて発信し影響力を高める上で欠かせないのが迅速な意思決定だ。
日本の官庁や企業に散見される国内での過剰な競争意識は外から見ると致命的な弱点となる。
組織内や業界内のライバルとの足の引っ張り合いに時間を費やし、
戦略がまとまらず対外的な行動が遅れるからだ。
国際ルールには一つの正解があるわけではない。
枠組みづくりの交渉は時間との勝負でもある。
先に構想を練り先に提案した国の政府や企業が主導権を握る。
内向き志向が目立つ日本は世界を舞台とするスピード競争に太刀打ちできないでいる。
他者の追従ではなく自ら能動的に秩序を築く。
世界に目を向け動きを加速しなければならない。
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▽国力を高める(5)
多様な人材が革新と成長を生む
2013/1/7付 記事転載
国籍や性別、年齢などにとらわれず多様な人材を組織に集める、
「ダイバーシティー」が日本でも重視され始めている。
日産自動車は社内の上位98のポストのうち48を外国人が占める。
新型車の企画などの現場でも外国人はざらだ。
スイスのネスレなどの欧米企業のように、
国籍が多様で価値観や感性の異なる人材が協力して新しいものを生みだす。
<外国人や女性が貢献>
たとえば人気車の小型多目的スポーツ車(SUV)「ジューク」。
SUVらしい頑丈さとクーペの軽快さという相反する要素を融合したデザインは、
英国の拠点の案をもとに日本で仕上げた。
女性の視点も企業にとって貴重だ。
ローソンはプライベートブランド(PB=自主企画)商品の試作品を女性社員が評価する。
使い勝手の良い日用雑貨や健康志向の食品などの開発につなげている。
人口が減るなかでも労働力の減少を抑え経済の活力を損なわないためには、
女性や高齢者の就業をもっと促さねばならない。
政府の試算によれば2010年で6298万人の就業者数は、
2020年に5937万人に落ち込むが、
女性、高齢者や若者の就労を進めれば20年時点で6289万人と10年並みの労働力を保てる。
職歴や経歴の異なる人材を取り込む中途採用も多様性を高める。
情報技術(IT)分野では外部から採った人材が斬新な発想で新規事業を伸ばしている例が多い。
環境・エネルギー、医療関連などの成長分野を伸ばすうえでも、
専門性のある中途採用者は重要な担い手になるだろう。
日本社会は長らく日本人の「男性」「新卒者」で組織を固めてきた。
男性が家計を支え女性は家事といった暗黙の分担があった。
勤続年数に応じて賃金が上がる年功制では社員を生え抜きで固め、
入社年次ごとにグループ分けする必要があり、
そこから生まれたのが「新卒一括」採用だった。
そうした人材の自前主義は同質で硬直的な組織を生む。
グローバル化や技術革新の速さについていけない。
人材の多様性を高めることは時代の要請だ。
にもかかわらず、
日本のダイバーシティーへの取り組みは欧米に比べ周回遅れだ。
外国人の大学新卒者を採用し日本で勤務してもらう企業は一部にとどまる。
中途採用は広がりを欠き働く女性の6割が出産を機に退職する状況はこの20年変わっていない。
多様な人材を受け入れにくくしている仕組みや慣行を改める必要がある。
まず、
「あうんの呼吸」で動く日本の組織のカルチャーだ。
企業が外国人や中途入社者に力を発揮させるには、
どんな仕事をどこまでこなせば昇進や昇給につながるか、
明確な説明が不可欠になる。
世界では当たり前の人材マネジメントだ。
今も根強い年功制を見直し実力主義でポストや報酬を決めることも、
外部から採った人材に活躍してもらうには避けられない。
日本的な人事・処遇の改革をダイバーシティー経営では迫られる。
<大学入試を変える時>
政府の後押しも要る。
たとえば出産で退職した女性が就業しやすくするため、
保育士の数などの国の基準を満たした認可保育所を増やす必要がある。
規制緩和で企業が認可保育所を運営できるようになって10年あまりたつが、
企業の参入を自治体が認める例はまだわずかだ。
こうした裁量行政を国は許すべきでない。
多様な資質や能力を持った人材を社会に送りだすために、
均質性を重んじすぎる学校教育のあり方を見直す必要もある。
そのなかでも重要な課題は大学入試の改革だろう。
選抜のモノサシを変えればさまざまな学生に道を開くことができるし、
高校以下の教育も変わらざるを得なくなる。
1990年に始まった大学入試センター試験は、
もっぱら受験知識をどれだけ身につけているかを問い、
小数点刻みで受験生をふるい落とす役割を担ってきた。
こうした選抜を続けていては本当に優れた能力は発掘できず、
多様な人材をみすみすとり逃して「受験秀才」ばかりを社会に送り出していくことになる。
センター試験の大学入学資格試験への転換や、
大学ごとのもっと手間ひまをかけた選抜への改革を急がなければならない。
それもダイバーシティーを実現する道筋になる。
*****
▽国力を高める(最終回)
世界の人々から求められるために
2013/1/8付 記事転載
外交、科学技術、生活文化。
日本が世界から求められる国であるために強みとして生かしたい分野だ。
人々が平和で豊かな生活を送るための貢献が結果として日本の地位を高めることになる。
第2次世界大戦後、
経済大国として台頭した日本は太っ腹な援助国という国家像を世界に発信した。
1990年代に政府開発援助(ODA)の額で日本は世界一となり、
国連平和維持活動(PKO)への参加も広げてきた。
<平和国家の強み生かす>
しかし財政難からこの10年以上ODAは減り続け今では5位に転落した。
PKOの派遣要員数は世界で30位台だ。
いずれもすぐに規模を増やすのは無理だが限られた予算や人員をうまく生かし、
日本にしかできない貢献を工夫したい。
戦後、一貫して平和国家として歩んだ強みを生かす時だ。
たとえば2002年から04年にかけて、
東ティモールのPKOに自衛隊を最大700人派遣した。
紛争の一因である、
宗教対立から距離のある日本を地元が好感をもって迎えたのは“その好例”だ。
初のアフガニスタン復興支援会議も東京で開催。
パキスタン安定の支援国会合でも協力策を取りまとめた。
戦闘に直接参加しない日本だからこそ果たせる役割だ。
経済協力でも平和国家としての歴史は強みとなる。
パレスチナ自治区で農作物を加工しヨルダン経由で輸出する施設の整備が進む。
中東と対立の歴史を持たない日本の橋渡しで、
イスラエル、パレスチナ、ヨルダンが連携したのだ。
インドシナ半島を東西に結ぶ幹線道路づくりも日本が援助し、
このうちミャンマー部分はタイと日本が協力して青写真を描いている。
完成すればベトナム、ラオス、ミャンマーと、
成長するタイ経済がつながることになる。
<戦後目指してきた科学立国の基盤も強固なものにしたい>
昨年のノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥京都大学教授の研究は、
再生医療に大きく道を開き対日感情が悪化する韓国や中国も「日本に学べ」とたたえた。
科学技術の成果は人類共有の財産だ。
独創的な結果を生み続ける国は世界の称賛を集める。
日本がそうした力を維持するためには山中氏が「米国の研究所で偉大な師に出会えた」と語るように、
若い頭脳が刺激を受け競う環境が欠かせない。
若者の海外留学支援に加え優秀な外国人が「ここで研究したい」と思う場を日本につくることも大事だ。
新素材やロボットなどで世界最先端の研究設備をもつ大学や研究機関は国内に多い。
そのトップに外国人を招き英語を公用語化するなどの方法で世界の頭脳が集まる知の拠点に育てたい。
日本独自の眼力で有望な成果を選び表彰する仕組みもほしい。
賞金額ではノーベル賞に匹敵する賞が既ににいくつかある。
選考を工夫し各賞が連携するなどで発信力を強めてはどうか。
戦後の豊かな社会が育んだ生活文化も日本の資産になる。
<中間層の生活を快適に>
高度成長期以降、海外で日本のイメージを高めたのが車や電気製品だ。
技術力に裏打ちされた快適で便利な日本の生活を象徴した。
工業製品の競争力が陰るなかでも衣食住や娯楽が関心を集める。
いま生活関連企業がアジア市場の開拓に力を入れている。
東京急行電鉄は沿線開発の蓄積を生かしベトナムで住宅街を開発する。
ファミリーマートは海外の店舗数が国内を上回った。
ユニ・チャームも東南アジアや中国で紙おむつや生理用ナプキンが好調だ。
高温多湿な風土、都市への人口集中などアジアの生活環境は欧米よりも日本との共通点が多い。
増える中間層、とりわけ都市の若年層や働く女性のために日本の生活産業が蓄積してきた、
快適で便利な暮らしのための商品やサービスが果たす役割は大きい。
サービスの充実した高齢者向け住宅、鉄道と駅ビルを組み合わせた街づくりなど眠れる資産はまだ多い。
身近な場で日本の魅力を実感すれば優秀な人材の日本企業への就職や、
「本場」日本への観光、留学も増えよう。
日本の好感度を上げ多くの人に日本という国が、
「世界に存在してほしい国」だという思いを持ってもらう。
そうした努力は「国家対国家」の摩擦が高まるとき、
冷却材としても機能するはずだ。
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