四国遍路テクテク日記

「四国を歩いて遍路する。」にこだわって平成14年のGWから2年間、5回に分けて歩いた記録を中心に遍路に関するあれこれ。

平成15年9月17日(土佐から伊豫・第21日目)

2005-08-01 09:27:37 | 第3回(土佐から伊予)
9月17日(水曜日)
(第5日・通算第21日目・歩行距離31.8km・歩行歩数44,181歩)

 6時には出たいとお願いしてあったので、5時半に「朝食です。」と
女将さんから声が掛かる。
窓から外を見ると、向かいのしま屋さんにも明かりがついている。
今日も天気は良さそうだ。

 1階の食堂に降りて朝食を取る。昼食用にとおにぎりのお接待を受ける。
お礼を言ってありがたく頂く。

 6:05分、へんくつやを出発する。
太陽は左手の山陰にあり、まだ日は射してこない薄暗い道を
国道に向かって歩く。

ほどなく国道に着く。昨日はこの距離が遠く感じたのに、
今朝は、すぐに着いてしまった感じだ。
疲れがあるかないかでこんなにも感じ方が違うし、実際の足の運びも違うだろう。

 国道を右に曲がり、宿毛市街を目指して歩く。
 しばらく行くとWさんが前を歩いている。
「お先に!」と言って先に行く。

バイパスとの分岐点で休んでいると、今度はWさんが追い抜いていく。
その後から三原村であった若者遍路が歩いてくる。
宿毛市内で野宿していたと思っていたのにどうしたことか?
挨拶をしてから、ポケットに入っていた飴をあげる。
道を聞かれたので、「このままバイパスにぶつかるまで真っ直ぐ行くと
良いよ。」と教える。

 宿毛市内に入ると朝の通勤時間と重なって、車が増えてくる。
前を見るとWさんがいる。
携帯をかけながら歩いているWさんをまた追い抜く。

交差点に来たので、この辺で左折するはずだがと思い辺りを見渡すと、
斜向かいのガードレールにヘンロ標識を見つける。
左を指しているので、この交差点を左に曲がる。

宿毛警察署の前を通り、西の方へ向かってドンドン歩く。 

しばらく行くと、片側2車線の大きな道路に出る。国道のようだ。
道路の向こう側にあるガソリンスタンドから若者遍路が頭を下げながら出てくる。
どうやら道が分からなくなったので聞いていたようだ。

 この交差点を渡るとヘンロ標識があり左手の山に向かって歩く。
住宅地の細い道を歩くとどんどん急な坂道になってくる。
やっと、車1台が通れるかという細い道になる。
 細くて急な山道を登り後ろを振り返ると、目の下に宿毛の街が広がり、
海も見える。

 8:15分、一山越えて小深浦の集落で一休みする。

 8:40分、番屋跡を通り、しばらく歩くといよいよ松尾峠への登り口のようだ。
この峠道はきつい。
九十九折りのほとんど登山道と言っていいような道が続いている。 

峠道に入って少し行くと、登山姿の夫婦が休んでいる。
40歳前後の夫婦だ。
テントも持っているのか結構大きな荷物を背負っている。
挨拶して通り過ぎる。

山道を歩いていくと時々カサカサと音を立てて何かが動いている。
どうも蛇のようだ。四国にはマムシがいる。要注意だ。

 この道は相当急な道だ。昔の街道とは思えないような険しい道だ。
喘ぎ喘ぎ登っていくと道が少し平坦になり、前方にお堂が見える。

 9:20分、やっと松尾大師に着く。
ちょっと休憩する。
お堂の先に3メートル近くある大きくて古い石柱が立っている。
石柱には「従是西伊豫國宇和島藩支配地」と書かれている。
支配地という文字に歴史を感じさせる。
 松尾峠の案内板には、この峠を江戸時代には普通の日で2百人、
多い日には3百人が通ったと書かれている。
そして、この石柱も江戸時代に建てられたもののようだ。
この急な峠道をこんなに多くの人が通ったとはちょっと信じられない。
昔の人の旅は歩くのが当たり前とはいえ、本当に健脚だったと感心させられる。

 この峠で「修行の道場・土佐」を終えたことになる。
お正月休みから半年以上かかったが、やっと徳島と高知の2県を歩き終えた。
松尾峠の登りは、修行の道場最後の試練として十分に存在感のある峠だった。

 ここからは、急な下り坂を一気に下る。

 一本松町の手前に古いヘンロ標識が立っている。
両側におなじみの手のマークが彫られている。
右と左を指した手が上下に彫られているが、それ以外に文字らしいものは
見えない。
その横には、松尾峠にあったものと同じような「西伊豫の国宇和島藩支配地」と
書かれた石柱が立っている。
目を引いたのは、これらの石柱の横に石造りの祠があり、小さなお地蔵さんが
祀られている。
お地蔵さんは赤い羽織が掛けられている。
この場所だけ昔のままで、まるで江戸時代にタイムスリップしたような風景だ。

 10:30分、一本松町の街に来た。
交差点にちょうどスーパーがあるのでここで昼食を取る。
店に入り、アイスと飲み物を買う。
店先によしずか立てかけてあり、その影にベンチが置いてある。
ちょっと失礼して、このベンチを使わして貰う。
 小豆アイスを食べると本当に生き返る。(根っからのアイス好きなので!)
このお店のそばにはバス停があるので、このベンチはバスを待つ人のために
置かれているようだ。

 11:10分、昼食を終えたので、ベンチから腰を上げる。
暑い!暑い!太陽さんがガンガン照りつける。風もない。
一本松町の市街を抜けると、国道との大きな交差点に出る。
国道を行くなら左に曲がればいいが、お遍路道は真っ直ぐ行かなければならない。
国道は交通量も多く、車の騒音を気にしながら歩くのはイヤなので、
迷わずお遍路道を選択する。
信号が変わったので直進する。

ほとんど車が走らない道を歩くが、強い日差しが遠慮なく照りつける。

 一本松町の町境にさしかかると急な坂道になる。
やっとの思いで登ると、満倉と言う集落に着く。
ちょうど12時。お昼のサイレンが鳴る。
荒屋商店というお店があるので、店先を借りて一休みする。
 ここから今晩の宿を予約する。
へんくつやさんに聞いていた「磯谷さん」に電話する。
女将さんが出て、「今日は建設関係の人で一杯なので、相部屋になるけど
良いですか。」と言われるので、「かまいません。」と答える。
やれやれ、これで今晩の宿も決まったし、あとは観自在寺を目指し頑張るだけだ。

 荒屋商店から道が下っていく。
どんどん下っていくと、豊田に出る。
ここから、四国の道となっている僧都川の左岸にある堤防の上を歩く。
堤防の上は日光の直射がまともに当たるが、風が吹いているので暑さは
それほど感じない。
並行して走っている遍路道は、狭い上に交通量もあるので危険だ。

遙か向こうに沢山の建物が見える。橋もある。
それを目指して歩く。建物の混み具合から城辺町の中心街に来ているようだ。
少し先に交通量の多い橋が見えている。
橋を渡ると道は左に大きく曲がり、少し行くと南宇和高校がある。
ここからは、交通量の多い狭い道を、車に気を付けながら歩く。

 しばらく歩くと右側に観自在寺の標識を見つける。
右に曲がると、車が1台やっと通れるほどの狭い道の先に観自在寺の山門が
見える。


第40番札所 観自在寺

 13:25分、観自在寺に着く。
山門を入ると、境内で果物などのおみやげ物を売っているテントがある。
そこのおばさんに挨拶をして本堂へ行く。

 本堂、大師堂とお参りをして納経も済ませてから、
本堂の前にあるベンチで休む。
このベンチはちょうど日陰になっているし、本堂に入る人にも邪魔にならない
場所にあるので、靴と靴下を脱いでザックを枕に横になる。
 風がスーと吹いてきて気持ちが良い。
いつの間にかウトウトしてしまった。

 15分もウトウトしていただろうか? 
ふと目を覚まして起きあがった時に、本堂に入ろうとしている
Wさんを見つける。
声を掛けると、満面の笑みを浮かべ「今日はすごく良いことがあった。」という。
「これ!」、と言って背中を私に向け、自分のザックを指さす。
最初は何を言っているのか分からなかったが、よく見ると背負っている
ザックが小さい。
見覚えのあるザックとは違うようだ。

 Wさんの話では、「今晩泊まる磯屋さんの女将さんが一本松トンネルの
ところまで迎えに来てくれていて、荷物を車に積んで、先に宿まで持って
いってくれた。」と話してくれる。
 「いや~、荷物が軽いとこんなに楽に歩けるとは思わなかった。
すごく得した。」と満面の笑みを浮かべながら話してくれる。
「良かったですね!」と言っているときに、その横をあの延光寺の
通夜堂に泊まると言っていた老人が本堂へ入っていく。
一瞬、おやっ?と思った。
Wさんに、「今晩は、私も磯屋さんに泊めてもらうことにしました。」と話し、
先に観自在寺を立った。

 観自在時から旧市街の細い道をブラブラと歩くが、
ちょっと昼寝をしたせいか体が軽く感じる。

ほどなく国道と合流する。
国道はさすが交通量が多い。
車の騒音が耳に響く。
歩道が広いので、日陰側となる左側を歩く。

 磯屋さんは国道に面していないので気を付けて歩いていた。
特に看板などもなかったのでどこにあるか分からない。
ちょうど、おじさんがいたので聞くと、「すぐ裏だ。」と教えてくれる。
裏道に入り、ちょっと歩くと磯屋さんがあった。

 14:50分、民宿磯谷着
 玄関で声を掛けると女将さんが出てくる。
「今日は建設関係の人が泊まっているので、この部屋を使って下さい。」と
玄関奥の6畳の和室に案内される。
「相部屋になりますけど。」と言われたので、「相部屋になる相手は
知っている人なので私はかまいません。」と女将さんに話す。

 古い部屋だがちゃんとクーラーもついている。
風呂の場所を聞いてから、洗濯をしようと思ったら、「洗濯物は出して
置いてくれればこちらでします。」と言われる。

 ご厚意に甘えることにして、早速、風呂に入り今日の汗を流す。
風呂から上がり、部屋に戻るとゴロゴロする。

 Wさんがやってくる。
私が割り込んで相部屋となったことをお詫びする。
ここで初めて納め札を交わした。
Wさんは神戸の人で、「8月末から通し打ちで歩いている。」と話してくれる。

 観自在寺で一緒に本堂へ入ってきた老人のことを聞く。
Wさんと一緒に本堂に来たのは偶然らしい。
バスか何か出来たようだと話してくれる。
そして「あの爺さんには参った!」という。
昨日の延光寺で渡辺さんがお参りをしたあとに、
あの老人から私のように同じような愚痴話を延々と聞かされたようだ。
Wさんは、気の毒な話を聞かされてこのまま見捨てるのも気が咎めるので、
自分の気持ちが納まるようにと、千円をお接待したと話してくれる。
「お接待したことで自分の気持ちもスッキリするしね!」という。

 夕食は豪華だった。
御荘町は漁業も盛んなようでお刺身もイサダなど今まで出ていないものがある。
Wさんも、今日の刺身にはタタキが出ていないと言って満足している。
「高知では、どこでも鰹のタタキなので参ってしまった。」と言って、
満足そうに刺身を食べている。
この辺の名物、ジャコ天も食卓に並んでいる。

 女将さんが、夕食の間一緒の席にいてくれて、いろいろな話をしてくれる。
女将さんに聞くと、宿毛から来る歩き遍路の荷物を取りに行くお接待は、
随分前からやっているようだ。
しかし、このお接待も、人によっては、「次の宿まで運んでくれないか。」とか、
「宿毛の宿まで取りに来てほしい。」とか、わがままなことを言う人が
いるようだ。
 Wさんだって、荷物を取りに来てくれるなどと言うことを微塵も
期待していないところへ、そういうお接待を受けたからあんなに感激して
いたのではないか。
 女将さんの話では、旧道を歩いて来るか、国道を歩いてくるか分からないし、
仕事のないときのお接待なので、皆さんに同じようには出来ないと話してくれる。
それが、峠下まで荷物を取りに来るのが磯屋さんのサービスなのだという
捉えられ方をすると、サービスしてもらえなかった人にすると、
「私にはサービスが悪かった。」などと苦情を言う人がいるようだ。
本当に、わがままな人はどこにでもいるようだ。

 女将さんは、30代で漁師をしていたご主人を亡くし、この宿を一人で
守ってきたと話してくれる。
息子さんが近くに住んでいるので、民宿はお嫁さんにも手伝ってもらっている。
Wさんが、「それならいい話の一つぐらいあるでしょう。」というと、
女将さんが「そんはいい話があればねぇ~」と切り返している。
すると、「そういえば迎えに来てくれた車は神戸ナンバーだったね。」と
Wさんがいうと、女将さんが物も言わずに後ろ手でス~と台所の戸を閉める。
そして「あれ!気がついていたの!」とビックリしたような声を上げる。
このことはお嫁さんにも聞かせられないような女将さんの重大な秘密が
あるようだ。
「ほらね!」とWさんが私にいたずらっぽく笑う。

 Wさんは兵庫県の西宮市で建設用の機械などを販売している会社の経営者だ。
58歳の働き盛り、思うところがあってお遍路に出てきたようだ。
それで、朝は携帯で会社と話をしているのだ。
どおりで、私が見かけるときはいつも携帯で話をしていた。

 西宮は先の阪神大震災でも一番被害がひどかったところで、
Wさんの家も倒壊したようだ。
付近の人を戸板にのせて救助したなどと震災の時の話をいろいろしてくれる。

 明日の宿を女将さんに聞くと津島町の宿が良いと教えてくれる。
Wさんは、女将さんが推薦する津島町の三好旅館を頼んでもらう。
その次の日は、佛木寺にある「とうべや」がお勧めだといわれる。

 私は「宇和島まで行きたい」というと、
女将さんが「宇和島までは41キロもあるよ。」という。
「地図では36キロとなっているから何とかなるでしょう。」というと、
宇和島市内にある千代乃屋さんを紹介してくれる。
千代乃屋さんは大きな宿なので予約をしなくても大丈夫だろうといわれる。
 足摺岬では、45キロを歩いたのだから何とかなるだろうと考えていた。


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   この夏遍路では給水に気をつけていました。
  一番恐ろしいのは脱水症状から熱中症になることです。
  私は、500ccのペットボトルを2本もって歩いていました。
  最初は、お茶とスポーツ飲料を持っていましたが、お茶は後味に苦みが
  舌に残るのが気になって持つのを止めました。
  スポーツ飲料もそのまま飲むと甘さが舌に残りイヤでしたので、約半分に
  薄めて飲んでいました。
   暑い暑いと飲み物ばかりを飲んでいると体調を崩しやすいので飲み物の
  取りすぎにも注意が必要です。
  体と相談しながら、早め早めに一口、二口、飲むのがおすすめです。




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