1月4日(土曜日)
(第8日・通算第15日目・歩行距離31.4km・歩行歩数46,872歩)
朝食は7時からと聞いていたので、のんびりとベットの中でウトウトしていた。
そろそろ7時と思いロビーに行くと、まだ食堂の準備ができていない。
ロビーで待っていると、夜が明けてきた。
空がだんだん明るくなってくる。
今日は良い天気のようだ。
「朝食の用意ができました。」と言われ、食堂へ行く。
朝食はお盆の中にセットされているが、その中に小さな凧が置かれている。
正月料理としての演出だ。
お雑煮風のお澄ましなどもある。ちょっと正月気分になる。
食事も終え、フロントで宿代も払い、さあ、出発しようかとザックに手を掛けた
ところで、支配人の池上さんから、「お接待しますのでコーヒーでもどうですか?」
といわれる。
遠慮なくいただくことにする。
ごちそうしてくれたコーヒーはカップチーノで美味しかった。
おまけに、昼食用のおにぎりまでお接待してくれた。
7:20分、池上さんやフロントにいる従業員の人にお礼を言って、
国民宿舎土佐を後にする。
天気は良いがすごく寒い!
車道から青龍寺へ続く遍路道は谷間にあるためにまだ薄暗い。
枯れ葉の下に石などがあり、足を取られないように注意して下る。
10分ほどで青龍寺の山門に着く。
人気のない山門から本堂を望み手を合わせ、今日一日無事に歩けますようにと祈る。
ここからは昨日歩いた宇佐大橋までもどる。
宇佐大橋の上では、時折強い風が吹き笠を飛ばされそうになる。
笠の縁をしっかり両手で押さえ、飛ばされないようにして歩く。
それにしても今日は寒い。
強い風が吹くので一層寒く感じる。
宇佐大橋を渡り、宇佐の町を歩いていると、庭先の植木の中に梅の花が
咲いている木を見つける。
白い花がいくつか咲いている。
折からの日射しを受け花弁が輝いている。
そうだ、やはりこの辺は暖かいところなのだ。
この数日は、この冬一番の寒気が日本列島を襲うと予報していたので寒いだけなのだ。
後ろから差す日射しに背中を押されるようにして浦の内湾を須崎に向かって歩く。
9:05分、深浦の集落で一休みする。
左膝のお皿の上が痛くなってくる。骨ではなくて、お皿の上の筋肉が痛い。
足の小指はすっかりマメの水もなくなり乾いている。痛みもない。
足の指が痛くなくなったら、今度は膝が痛くなってくる。
普段、これほどの距離を歩くことがないのだから、どこかが痛くなっても
仕方がないかと諦める。
立目のあたりに来ると道端にポンカンを売る無人店舗がたくさんある。
ビニール袋に10個ほど入って一番安いのは2百円から5百円ほどと値段の幅もある。
よく見ると、2百円のものは粒も不揃いだ。
5百円のものは粒も大きく色艶もいい。見るからに美味しそうだ。
ところどころに大きなビニールハウスが建っている。
この中を見るとポンカンの木がある。
温室栽培もやっているようだ。
その温室の中に、立目ポンカンと書いた段ボール箱が沢山置いてある。
今度、ポンカンを買うときには立目のものにしよう。
浦の内中学校のあたりを歩いていると、目の前を何か白いものが風に飛ばされている。
雪かと思ったが、ここは南国土佐なので違うだろうと思っていたら、その白いものが
顔に当たるとひんやりと冷たい。
そうだ、やはり雪なのだ。
ここで雪を見るとは思わなかった。
冷たい風が吹いているのだから雪が降ってもおかしくはないのだが、
空には青空が広がり日射しもあると、どこからこの雪が降ってきたのかと思い
空を見たがよく分からなかった。
10:35分、横波の集落につく。
ここからは、佛坂のコースを取るか、さらに、海沿いを進むか分かれ道となっている。
どちらを行こうか悩んだが、結局、ヘンロ標識に書かれている「こちらが本当の遍路道」
に惹かれ、佛坂へと進むことにした。
11:07分、馬路のあたりで休憩する。
海辺から山道にはいると、風の当たりが和らぎホッとする。
そろそろ今日の宿をきめなければと思い、安和までいくことにして3軒ある宿に電話する。
今回は、宿を決めるときにヘンロ本に記載されている名簿の後ろから電話している。
民宿安和乃里は休業中との返事。
次に岬旅館に電話するとOKの返事。
宿代は6,800円だと念を押される。
財布には1万円あるから大丈夫だし、これで今日の宿も決まった。
後は安和の町を目指して歩くのみだ。
車道の左側に岩不動への標識を見つける。沢の中へ道が続いている。
この地点が佛坂のようだ。ここから、左へ曲がり沢の中へ続く山道へ入っていく。
11:40分、岩不動につく。
誰もいないお堂にお線香をあげる。
お堂の中を見ると、薄暗い中に大きな岩が見える。
この岩がご本尊のようだ。谷間で陽が当たらないので寒い。
お参りもそこそこに、須崎を目指して歩く。
車道にでてしばらく歩くと向こうの方から紙袋を下げた老人が歩いてくる。
お遍路のようだが、服装がホームレスのようにも見える。
その老人とすれ違うときに会釈をして通り過ぎようとすると
「岩不動はまだかい。」といわれる。
後ろを振り返り、車道の先に見える山道を指さして、後、10分位ですよといったが、
「まだそんなに歩くのか。」といって、スタスタと歩いていった。
山間の道から目の前が開けてきて、左の方にはたくさんの車が行き来する
車道が見えてきた。どうやら国道のようだ。
新川橋を渡り、国道を横切り、妙見町から須崎の市街へと続く旧道を歩く。
人通りもなく寂しい町並を冷たい風が吹き抜けていく。
その風に笠を飛ばされないように両手で押さえながら歩く。
多郷の駅をすぎ、車の交通量が増えて商店街らしい通りを歩いていると、
「鍋焼きラーメン」と書かれた黄色い旗がヒラヒラしているお店を見つける。
お腹もすいたところで、この店で昼食を取ることにする。
12:35分、店にはいると小上がりが満員なのでカウンターに座り、
鍋焼きラーメンの小を頼む。
メニューはこの鍋焼きラーメンの大と小のみらしい。
ほかのメニューを頼んだ客は断られている。
鍋焼きラーメンは初めて食べた。
どんなものがでてくるか興味津々だったが、でてきたラーメンは、
なるほど鍋焼き用の鍋に入れられている。
中を見ると、醤油タレの中に、ちょっと細めで縮れのないラーメンに
卵と青菜が入っているだけで、すごくシンプルだ。
箸でかき混ぜると、鶏肉を微塵切りにしたものがはいっている。
これがスープの素らしい。
スープを一口すすると、熱いスープで口の中をやけどしそうになる。
でも、体が暖かくなる。
国民宿舎土佐でもらったおにぎりを出し、おにぎりと鍋焼きラーメンで
お腹は一杯になるし、体は暖かくなるし、やっと気力がもどってくる。
交通量の多い国道に出て、その左側を歩いていく。
既に、須崎の町に入っているようで賑やかになってくる。
酒屋さんを見つけたので、地酒の無手無冠があるか確かめるために入る。
店の中を見渡したがなかったのでご主人に聞くと、ここにあるといって
棚の前へ連れて行かれる。
確かに、無手無冠が数本置かれてある。
さっそく、2本を札幌へ送るように頼んでお金を払う。
財布の中には6千円ほどしかなくなってしまう。
これでは、今晩の宿代を払うことができない。
安和の町に郵便局はあると思うが、小さな町なので開いているかどうか分からない。
今日は土曜日だし、開いていない可能性の方が強い。
とりあえず須崎の町で郵便局を探しながら歩いていくと、
番外霊場大善寺の看板を見つける。
国道を左に折れ、少し進むと右側に小高い山が見えてきた。
この山の上が大善寺だ。
急な階段を上がると本堂がある。
人気のない本堂でお参りをする。
納経は下にある宿坊でするようなので、急な階段を下りる。
納経所に行くと、横の方から小さなリフトで山の上まであがれるようになっている。
足の不自由な人のために設けているが有料のようだ。
ここで、須崎の郵便局までの道を聞き、お金を降ろしに行く。
5百メートルほど街の中にもどると郵便局があった。
帰り道にあるお菓子屋さんに立ち寄り、お餅と金鍔を買う。
お店のおばさんと、しばし、立ち話をする。
「最近は、会社がリストラになったとか言ってお遍路する人が多くなった。」と
話してくれる。
店に張ってある納札を見せてくれてこの人もそうだと教えてくれる。
若いのにお遍路をするなんて感心だといわれ、そんなに若くはないのですよと答える。
お礼を言って、このお菓子屋さんを後にする。
大善寺へもどり、その先から国道へと進む。
新荘川橋の手前のある道の駅をのぞき、ちょっと休む。
道の駅は、すごく込んでいる。トイレを借りて、その辺をのぞくが、
お土産を売っている店が多く、今の私には用のない店ばかりだ。
道の駅を後にして歩き出す。
しばらく歩くと、道は上り坂となっている。
ほどなく、角谷トンネルが見えてくる。
歩道もないトンネルで交通量も多い。
ちょっと気後れする。
しかし、進まないわけには行かない。
トンネルを抜けると、左側に海が見える景色のいい道となる。
ところどころに、ポンカン売りの店が建っている。
右の山を見ると、ポンカンの木らしい果樹園が広がっている。
道が下り坂になり、安和の町へはいる。
ほどなく、右手に岬旅館が見えてきた。
15:35分、岬旅館に着く。
岬旅館は、結構大きな旅館だ。
3階建てのビルで、1階は料理屋さんになっている。
海賊料理と看板に書いてある。
旅館の入口を捜したが、見あたらない。
料理屋さんの入り口は自動ドアとなっているが、電源が入っていないのか、
入り口の前に立っても開いてくれない。
ドアを、手でこじ開け、「ご免ください。」と声を掛けると、
中からやっと人がでてきた。
3階の部屋に案内される。
風呂は2階にある女性用の風呂を使ってくださいといわれる。
どうやら今日の泊まり客は私一人のようだ。
外の非常階段下にある洗濯機を借りて、昨日の分も併せて洗濯をする。
風呂に入り、部屋にもどると、後はなにもすることがない。
布団を引いて、テレビを見ながらウトウトする。
電話が鳴り、食事ですよといわれたので1階の食堂へ行く。
立派な和室に通され、鍋や天ぷら、それに、鰹のタタキとさらに別なお刺身などがあり、
今までで一番盛り沢山の料理が出ている。
ご飯もお代わりしてくださいといわれたので、2杯食べて、すっかり満腹してしまった。
夜中に何か外が騒がしいので、目を覚ましてしまった。
窓を開けると、外は一面の雪で真っ白くなっている。
国道も真っ白で、わずかに車が走った跡が上下線で四本の細い線になって続いている。
車の姿はほとんど見えない。
隣にあるコンビニの駐車場で、若い男女が雪玉をつくって投げ合っている。
その声がうるさかったのだ。
空からは、ボトボト音がしそうなくらい大粒の牡丹雪が降っている。
この景色は、札幌の雪景色と変わらないくらいだ。
どおりで、先ほどからまったく車の走る音がしないと思った。
これほど雪が降ると、こちらの車は冬用のタイヤなどは使っていないだろうから、
スリップして走れなくなってしまう。
寒くなってきたので、窓を閉めて布団の中に潜り込む。
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「南国土佐」は暖かいというのが私のイメージだった。
実際、室戸岬ではバナナが露地で実っていたし、Tシャツ1枚になって歩いていた。
しかし、今晩は雪が降っている。
それも、ボタボタと音がするくらいの振り方だ。
今日一日は本当に冷たい風が吹き、寒かった。
幾ら、この冬一番の寒気が入ってきたと天気予報で言っていたとしても、
南国での雪は本当に意外だった。