図301 加藤文太郎編 その3
前穂高北尾根第三峰
加藤文太郎とパートナーの吉田は、チムニーの中の雪を掘り出して雪庇の上に出て、先に進むつもりが、暗くなり、チムニーの穴に戻って一夜を過ごします。
以下原文から
第三峰のチムニーの下へきたときには予想外に、時を経ていた。ここで取り付きやすい左のチムニーに入ったが、これには全部雪が詰まっていて上の方に雪庇さえ懸かっていた。その雪庇を落とすために二、三度努力してみたけれど、ピッケルが思うようにとどかぬので、諦めてその下を斜めに掘り始めた。このトンネル作業はピッケル以外に適当な道具がなかったため実に労が多く、三時間ほどもかかってやっと抜け出すことができた。しかしもうそのときは夕闇がせまり、その上雪まで降り出してきた。そこからしばらく右へ雪の斜面を登ると本尾根へ出ることができた。本尾根は大きな岩のリッジになっているので、少しく右へ下り気味に涸沢側を巻き、そこより真上に岩と雪の斜面を登ろうとしたが、雪がひどく降り出して懐中電灯の光ではコースがよくわからず、とうとう諦めてこのチムニーの雪の孔へ引き返したのである。