経済(学)あれこれ

経済現象および政策に関する意見・断想・批判。

マルクス主義入門(2)

2009-06-08 00:40:15 | Weblog

         
    
 経済学歴史派の大御所第一号がマルクスだ。彼はリカ-ドと同じく改宗ユダヤ人で哲学から経済学へ入った。彼の理論の出発点は疎外論と歴史認識。マルクスの関心の第一は国富の増進でも資本の蓄積でもなく、労働者の貧困への対処、その原因究明にある。この関心事を彼はヴィコ・ヘルダ-・ヘ-ゲルと続くドイツ歴史主義の影響下に考察する。彼は労働者を貧困にしている現制度への批判から始める。なぜこんな制度なのか、と疑問は続く。未来の理想的制度を考案する為には現在と過去を比較するのがご定法。彼は制度を歴史的に分析して制度間の差異を見つけ、人類は(厳密には西欧は)奴隷経済、封建経済、資本主義経済、の三段階を経て来たと概括する。歴史の発展段階の差は経済構造で決定される。経済つまり富財物が歴史従って人間社会を根本的に規程する、とマルクスは説く。唯物史観あるいは唯物論だ。

 歴史的に経済現象を把握する事はもう一つの結果をもたらす。経済現象の過酷さの認識だ。マルクスはそれを原始的蓄積と名づける。資本主義が発展の基礎を作る為には暴力による収奪が前提であったのだと言う。当たっている。囲い込み運動と私拿捕船(国家公認の海賊行為)そして奴隷制度を考えるだけで想像はつく。
発展論の構築に当りヘ-ゲルの弁証法はマルクスに大きな影響を与えている。マルクスの発展論は単純な直線的進歩史観ではない。彼の発展段階論はヘ-ゲルの即自・対自・即且対自の図式に従う。即自とは現象そのものへ素朴に埋没した状態での対象認識、対自は認識する自己を自覚しての対象認識、即且対自は前二者の統合、つまり自他の分裂を克服して自他が一体になり統一された状態とされる。最後の段階で意識レベルは一段階向上し、そこから再び即・対・即対の運動が続けられる。ヘ-ゲルの哲学は自己が他者との関係で常に矛盾を形成し、自他の関係から疎外される事により相互に発展する、と説き、自他間の認識像の変化発展を述べる。対してマルクスはこの図式を経済現象に適用し、生産力と生産関係の相互作用と運動に適用する。生産力は常に増大する、増大する生産力が既存の生産関係とうまく折り合わない時、両者は対立し変革が起こる、とマルクスは説く。機械的あるいは道徳的な歴史観を排し、ヘ-ゲルの弁証法を導入する事でマルクスは歴史により単に規定されるだけでなく、歴史に積極的に作用し抗議する主体としての労働者を発見した。マルクスもヘ-ゲルにおけると同じく矛盾が変化の原動力だ。

 労働者が歴史の主役として躍り出る。では近代経済体制の特質は何か?市場の万能性、資本蓄積衝動。矛盾は?労働の商品化、労働しか売る物のない階層であるプロレタリアの出現、商品としての労働、労働者の労働からの疎外。労働者は商品でしかない。労働以外の物を売る事ができないから労働者は徹頭徹尾効率的に使用される。ここでマルクスはスミスやリカ-ドから労働価値説を取り入れ、同時にフォイエルバッハの、神へと疎外された人間の論、を援用する。疎外論は経済学に接続する。労働者は労働そのものから疎外されて単なる商品になる、商品としての労働がただ商品になるだけだ。だから生産物商品は労働そのものだ。となると資本家による労働者の搾取は論理的必然となる。見事な哲学的憶測だ。しかし労働は全くの商品なのか?この思考は労働をある単純なエネルギ-とみなす事によってのみ可能になる。あるいはヘ-ゲル弁証法をフォイエルバッハの人間学ですり替えたのが手品の種だ。

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