電脳アニメパス

アニメ及び周辺文化に関する雑感

庇い死にキャラの研究序説

2005年09月11日 | アニメ
『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』で偽ラクスことミーア・キャンベルが本物のラクスを庇って死んじゃいました。
 SFやロボットもののアニメではけっこうな頻度で起こるイベントなのですが、現実的に考えたら疑問も大きいところです。

(ここでは、あくまでも庇ったのは本人の自発的行為だと考えます。悪の親玉が部下や洗脳した一般人を盾に使って死なせてるようなのは含めません)

(1)誰が死ぬの?

 多くの場合、主人公を庇って死ぬのは恋人や親友、その他の主要キャラを庇って死ぬのは敵の寝返りキャラというパターンが見られます。蘇生の手段が無い限りは主人公が他人を庇って死んだりはしません。庇い死にというのは主人公には出来ない崇高な行為なのです。
 恋人や親友が主人公を庇って死ぬのは主に物語の発端や転機です。物語に新展開を加えたり、レギュラーキャラを入れ替えたい時にこれらのキャラは殺されます。殺されるのは単純に事故死でも、戦闘による死亡でも構わないわけですが、主人公に心境の変化を与えたり、物語を無意味に盛り上げたい場合は庇い死にのイベントが待っています。
 それに比べると、寝返りキャラの庇い死にはもっと物語に密接に結び付いています。ま、寝返りそのものが物語の転機に行われることもありますが、それもたいていの場合は唐突に起こることではありません。物語の上で張られた伏線が積み重なった上での寝返りであり、その結果の庇い死になので、視聴者にはより感動を与えます。

(2)なぜ庇うの?

 好きな人を危険から救うためというのがもっともポピュラーな理由でしょう。死ぬキャラが主人公の恋人だったり、寝返りキャラの寝返りの原因が恋愛だった場合はほぼ確実な理由です。
 他にも恋愛感情ではないけど保護対象として守りたいとか、尊敬してるから守りたいとかいろいろありますが、この場合は自分が身代わりになった方が組織としての犠牲は少ないという計算が働いてる場合も多いでしょう。主人公や他の庇われるキャラが他人には無い特殊な技能や能力を持っている場合はとくにそうです。
 寝返りキャラの場合は罪悪感による罪滅ぼしという要素を忘れることができません。安直な作品では庇い死にによって寝返りキャラを免罪にして、本来なら拭うことの出来ない罪を帳消しにして(物語から忘れさせて)ることがよくあります。

(3)どうやって庇うの?

 銃で狙われてる場合はその銃口の前に立ちはだかるのは基本です。多くの場合は狙われてる相手を突き飛ばして自分が身代わりになります。
 刃物で狙われてる場合は自分から刃物に向かっていく場合が多いです。この場合も守るべき相手を突き飛ばしたりという描写が入ることもありますが、武器が武器だけに至近距離に接近してないと襲えないし、すぐそばにいる敵を警戒してないってこともまずありえないので、その頻度は少ないです。
 以上は生身の体での場合ですが、ロボットや他のメカによる戦闘時も似たようなものです。当然この場合は庇う方も自分のメカを用いて庇うわけですが、メカの被害が操縦者の致命傷に繋がってしまうわけですね。
 変り種としては間接的な庇い死にがあります。『ヤマト』最終回で放射能ガスを撒き散らしながら乗り込んできたデスラーから古代を守るためにコスモクリーナーDを起動させで絶命した森雪がその例です。(もっとも、その後で雪は生き返ってしまいましたが)

(4)誰から庇うの?

 通常の戦闘状態で庇い死にが出ることはあまりありません。『ガンダム』のハモン襲撃の時のリュウだとか、対ビグザム戦でのスレッガーとかの例が無いわけではありませんが、これらは普通のアニメにおける庇い死にという特殊イベントというよりは、『ガンダム』における戦争描写の材料にすぎないと見た方が良いでしょう。
 庇い死にが出る情況の敵は、背後から不意打ちすることを厭わない卑怯者だったり、倒したと思って油断してる相手だったり、犠牲を出さずして止められない相手だったりすることが多いです。
 昨今はどのキャラも人が良くなってきたためか、倒したと思って油断してる相手に狙われるという展開が圧倒的に多くなってきたようですが、昔は他のタイプの方が多かったように思います。『ガンダム』でララァがシャアを庇って死んだのは、シャアだとアムロには勝てずにやられてしまうと考えたからですし、『さらば宇宙戦艦ヤマト』で森雪が負傷したのはミルが背後から古代を狙ってたからです。(いや、ミルが狙ってたのはデスラーだという説もあるけど) 『劇場版999』で嘘の命乞いをしながら鉄郎を撃つ機会をうかがっていた機械伯爵から鉄郎を庇ったアルデバランという例もあります。

(5)庇ったキャラは本当に死ぬの?

 メカ同士の戦闘で乗っていたメカが爆発したらパイロットも助からないでしょうけど、そのメカにしたって急所に当たらなければ爆発しないだろうし、ましてや生身の人間同士の戦いで一発で致命傷を与えるのはかなり困難なはずなのですが……
 体を掠めただけでショック死してしまうような殺傷能力の強い銃とか、致死量を十分に超えてる猛毒を塗りたくった刃物を使っていたとかなら別ですが、通常、銃や刃物で狙われていた相手を庇った場合、庇った本人が致命傷を受ける確率はそんなに高いのでしょうか? アニメの場合、庇った本人が主人公だとか、特に物語の上で殺せないキャラでも無い限り、庇い死にの確率は異様に高いように思えます。
 まず、遠くから狙撃している場合ですが、邪魔が入った時点でターゲットへの照準は外れてしまいます。それから邪魔をした相手に照準を切り換えてる時間なんか無いから最初にターゲットを狙ってた位置に撃ったと考えるのが普通だと思いますが、本来の標的と庇ったキャラの急所の位置が狙撃者からみてまったく同じ位置というのは確率的には非常に低いはずです。
 そりゃ、銃口から標的を覆い被さるように庇った場合なら急所の位置は近くなるかもしれませんが、よくある標的を突き飛ばして庇うとかの場合は、庇った本人と本来の標的とじゃ体勢が全然違うから急所も離れてるし、何より運動が入ってるから当たる方が奇跡って感じじゃないでしょうか。例えゴルゴ13を連れて来てもこの情況で庇ったキャラを殺せる確率は小さいものと思われます。

 それじゃ、刃物で襲う場合はどうでしょうか。遠くから駆けてくる相手から庇う場合は庇った本人も身構える時間があるだろうから、能動的に致命傷を避けられる可能性はあります。襲撃者側にすれば邪魔が入って戸惑ったりするから余計に狙いが定まらなくなります。
 逆に至近距離で不意打ちした場合なら庇う側には余計な動作を行う余裕はありませんし、襲撃者も戸惑ったりする暇が無いからそのまま襲い掛かるしかありません。標的が普通に立ってて、庇ったキャラも普通に立ってたなら、庇ったときに急所の位置は近くなります。この場合なら庇った相手が致命傷を受ける確率は高いと言えるでしょう。
 でも、刃物の一撃で致命傷を与えるというのもそれ自身がけっこう困難な感じがしますが……

 そんなわけで、現実的に考えると至近距離から不意打ちを受けた場合でも無い限り、庇い死にというイベントはそうそう起こらないように思います。ま、相手が一撃で終わらずに反復攻撃を仕掛けてきた場合は別ですけど……
 『さらば宇宙戦艦ヤマト』の森雪だって、ミルの銃撃では死んでいません。重症のまま治癒に至らなかったところを都市帝国の攻撃によって床に叩きつけられた時の打撲が重なって死んでしまいましたが……

(6)それでも庇い死には起こる?

 要するに庇い死にが起こるというのは科学的な戦闘の結果ではなく、あくまで物語上の都合だということですね。(いや、そんなこと言われなくても最初からわかってるだろうけど)
 シリーズの転換期にはそろそろ危ないと思える重要キャラが狙われたり、適当な寝返りキャラが出そうな場合は要注意です。
 でも、安直な庇い死には見る方からすれば作品が冷めて来るだけだから、作り手も頻発するのはやめた方が思いますね。

(文中の例に挙げた作品が古臭いのは御容赦くださいませ)