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(つづき)私の九歳になる息子にヴァイオリンの初歩を教えてくださることに、あなたが同意してくださるか、お訊きするためなのです。
(ヴィオレット) とても嬉しゅうございますわ、ムッシュー、ルプリユール夫人が…
(フィリップ) ジャックは音感が優れており、音楽がとても好きなのです。困った生徒にはならないと思いますよ。私は最初、彼にピアノを習わせようと思っておりましたが、彼がどうしてピアノをあんなに嫌うのか、まったく見当がつきません。ヴァイオリンには気を惹かれるのに。
(ヴィオレット) それはよくあることですわ。
(フィリップ) 最初は、週に一時間で、おそらく充分でしょう。家庭教師が稽古に付き添って、子供に練習させることが出来るようにします。
(ヴィオレット) 申し分ありませんわ。
(フィリップ) あなたが家に来てくださるか、反対に、ジャックがここで稽古を受けるか、あなたのご選択にお任せします。諸々の必要事に関しましては、ご遠慮なく私に仰ってくださいますよう… 彼が立派に音楽を学ぶことに、私はたいへん期待を寄せています。
(ヴィオレット) すぐに合意いたしましょう、ムッシュー… (つづく)
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(つづき)ご都合は、とりわけ何時が宜しいのか、仰って頂きたく存じます。
(フィリップ) 手紙で書きましょう。これでよし… あなたのお噂を聞く喜びに優るものがあったとは、私は思わないのです、マドモアゼル。
(ヴィオレット) わたし、コンサートで演奏する機会が滅多にありませんの。
(フィリップ) ついでに申しますと、私自身、コンサートに通うことがだんだん少なくなっているのです。プログラムの脈絡のなさと単調さが私をうんざりさせて… 以前は妹が音楽について私に沢山教えてくれましたが。残念なことに、妹が一年の殆どを山地で過ごすようになってからというもの… 実際には、あなたと妹は、もし私が存じ上げていることが正しいなら、交際するようになってから、ほんの少しの時しか経っていないのですよね…
(ヴィオレット) わたし、マダム・ルプリユールには、この何週間か以前には、一度もお会いしたことがありませんでした。
(フィリップ) 妹は、あなたにたいして、全く特別な感情を持っています。
(ヴィオレット) わたし自身、持っています、彼女にたいして…
(フィリップ) ええ、妹はほんとうに、普通からとてもかけ離れた女です。
(ヴィオレット) 傑出した音楽家ですわ。
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(フィリップ) あなたは、妹が芸術家だと確信しておられますか?
(ヴィオレット) でも…
(フィリップ) 私は、それには納得していないと、即座に申し上げます。それどころか私は、そうではないと思っています。私が、妹にとって真の音楽家であった私の父親と、妹を比較するとき、その違いにびっくりします。芸術、それは妹にとって、とりわけ、ひとつの手段なのだと、私には思われるのです。
(ヴィオレット) よくは解りませんが。
(フィリップ) 説明するのは難しいですね… それにしても、私の妹は容易く見抜ける人間ではありません。
(ヴィオレット) いえ、そうとは思いませんが。
(フィリップ) 妹が自分の内心を打ち明けるほど、多分、見抜けなくなるでしょう… とても奇妙なことだ。というのは、山地が彼女にとって無くてはならないものになったのは、健康上の理由のためだとは、私は思わないのです。彼女は勿論、反対のことを確信しているにしてもです。私には、むしろ彼女は、自分自身にとっての憧れを象徴する風景のなかで生きたいという欲求を覚えている、と思えるのです。
(ヴィオレット) それはかなり自然なことですわ…
(フィリップ) 私はそうとは得心できないのですよ… 私たちは昔は、結構しばしば、一緒に旅行したものです。いくつかの魅力ある土地を憶えていますが、(つづく)
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(つづき)彼女はそれらの土地に我慢できないのです。ほら、例えばトゥーレーヌ、あるいはアルザス、そういう処を彼女は、安易な土地、と呼ぶのです。私の妹の好みを、また嫌いなものすら、私がそれを自分に説明し始めたのは、やっと私が発見をした時からです… でも、どうして私がそんな心理学的な解釈に関わり合うようになったのか、自分でもあんまり分からなさすぎます… それでも、もし… こういったすべては、あなたにとって関心を惹くものや、有益なものすら、無いとはいえないかも知れないのです。多分、本人は気づいていないでしょうが、アリアーヌは自分のすべての経験を、あるひとつの、彼女自身という観念と、結びつけているのです。よく分かってください、私は、意見、とは、全然言いたくないのです。彼女は、自惚れ屋であるには余りに知性がありすぎます。雰囲気という観念、気候という観念、そういう観念の外では、彼女は文字通り、生きることも、呼吸することも出来ないのです。
(ヴィオレット) とても奇妙なことですわ。
(フィリップ) 彼女が繁く会いに行く人々にたいしても、きっと同様です。病人たちにたいする彼女の明らかな偏愛は、おそらく其処から来ています。そしてこの傾向を消滅させること無しには、彼女はこの自分の傾向を自分自身に白状することは出来ないでしょうが、この傾向は、時に、ある軽率な行動の原因となったのです…
(ヴィオレット) まあ…
(フィリップ) その結果たるや、(つづく)
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(つづき)重大なものでしたし、重大なものだったかも知れないのです。物事はあるがままに見なければなりません。マドモアゼル、特異なものだと言える人間関係への私の妹の好みの中には、何らかの無意識な不健全さの要素が入り込んでいるのです。
(ヴィオレット) ひじょうに解り兼ねますわ、ムッシュー。事柄がすべて、あまりにも微妙で、そのうえ、わたしに少しも関係するところがなくて… わたしたちが初めのほうでお話ししたことについては、わたしにお手紙を書いてくだされば… でも、いまのお話は繰り返されませんように。実を申しますと…
(フィリップ) まったくあなたのお望みのとおりに、マドモアゼル。明日一番の郵便で私からの言伝があなたに届きます。(ヴィオレット、彼が右側へ行くのに付き添い、外に通じるドアを開ける。驚きの叫びと、そしてアリアーヌの声が聞こえる。)
(アリアーヌ、外で。) ここで兄さんと会うなんて!
(フィリップ、同様に。) マドモアゼル・マザルグが事情を話すよ。
(アリアーヌ) ちょっとの間、戻らない?
(フィリップ) ぼくは正装しに行かなくちゃ。街で夕食をするんだ。ではまた、マドモアゼル。(ドアが閉められる音。アリアーヌ、ヴィオレットと中へ入る。)