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(アリアーヌ) いいえ。というのは、そこには運命的なものは何も無いからです。私は、最初の段階を乗り越えることの出来なかった沢山の患者たちを知っています。絶望と反抗の段階のことです。そのひとたちには、あの第二の認識にまで自分を高めることができなかったのです。第二の認識というものは、自らの内に通常の認識を含んでいますが、その通常の認識を乗り越えているのです。
(ヴィオレット) あなたの仰ることについてゆくのは、わたしにはとても難しいですわ。分かりません…
(アリアーヌ) これはすべて、想像や予見を許さない経験なのですよ。それに、私、じきに書き終える本のなかで、経験を起こすことを試みましたが、私が生きているものを本にすることはできないようです。
(ヴィオレット) 本をお書きになっていらっしゃるとは存じませんでした…
(アリアーヌ) ジェローム自身、知らないと思います。それに、どうでもよいことですわ。ただ、あなたに少しでも気づいてほしかったのは、私の判断は、あの別の次元に達する機会が一度も無かったような女性のものとは、一致することはない、ということなのです。というより、判断という語そのものが、ここでは意味を失います。私はあなたを判断しませんし、一瞬でも判断したことはありません。ジェローム同様に。私の予感を立証するように来た手紙を私が受け取った時…
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(ヴィオレット) 手紙ですって?
(アリアーヌ) 匿名の。私、安堵のようなものを覚えましたわ。そう、苦悶から解放されたように感じました。
(ヴィオレット) 匿名の手紙! わたしにはそのことを全然仰っていませんでしたね。
(アリアーヌ) それは大したことではありません。
(ヴィオレット) 誰がそんなに低劣な心を持てたのでしょう?… そして、つまり、誰も気づいていなかった… ああ!… いいえ、それはあり得ません。
(アリアーヌ) 送り主はそんなに上手くは筆跡を隠せていませんでした。
(ヴィオレット) 誰だかお判りになったのですね?
(アリアーヌ) そう思っています。
(ヴィオレット) では… フェルナンドですか? (アリアーヌ、そうだという合図をする。)
(アリアーヌ) ひとりの不具者の仕草しか、そこに見てはなりません。彼女が知ってはならないのです、あなたがあの次元について知ったということを…
(ヴィオレット) さらなる気遣い、さらなる嘘。息が詰まることばかりです。それで、あなたがわたしに説明しようとなされたことは… はっきり申しますが、難しすぎて、深遠すぎて… あなたの仰っている次元とは、彼らが(つづく)
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(つづき)信仰と呼んでいるもののことですか? わたしはと申しますと、わたしは信仰者ではありません。わたしの周囲では誰もキリスト者ではありませんでした。
(アリアーヌ) 私が垣間見ている真理は、教会よりも遙かに上のものです。どんな種類の教会があったとしても、それより上のものですわ…
(ヴィオレット) わたしには思えるのですが、真理とは、すべてに浸透しているものでなければならないでしょう。光のように… 真理は、このように言わずにおくことや、ごまかすことに、少しでも甘んじることが出来るものでしょうか? そうは思えませんわ。やはり、ジェロームにあなたが率直にお話になれば、あなたが熱心に、どう言ったらいいでしょうか、彼にその知恵をお伝えになれば…
(アリアーヌ) ねえ、ヴィオレット、あなたは今、言葉に騙されているわ。ジェロームは負傷者よ。彼はほんの一瞬でもあれを忘れることができないでいるわ。
(ヴィオレット) 何を仰りたいのですか?
(アリアーヌ) あなたにこのことを打ち明ける権利が私にあるかどうか、分からないのよ。
(ヴィオレット、苦々しく。)躊躇するには遅すぎます。
(アリアーヌ) ご存じでしょう、ジェロームと私は一緒に大きくなったことを。(つづく)