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(アリアーヌ) わかってるわ。
(ジェローム) ぼくはただ、マドモアゼル・マザルグに、最近ドイツで出版されたローゼンミュラーのソナタ作品を見せに来ていただけなんだ。
(ヴィオレット、ぱっとしない声で。) とても見事なソナタのようね。
(アリアーヌ) あなたは、音楽の佳作作品の予約申し込みをしていらっしゃいますか? 音楽作品は、いまでは値段がひどく高いのです。以前は私、全作品を買っていました。それはもうできません。でも私は、バールに、素晴らしくよくできた会社を見つけました。郵便で、私が注文する作品はすべて送ってくれるのです… あなたにそのアドレスをお教えできます。それで私に五十フラン戻ってきます。
(ジェローム) スイス・フランでね。つまり二百五十フラン。税込でそれ以上。ここでは目の飛び出る額だ。
(アリアーヌ) そのとおりね、あなた。私はスイス・フランで数えるのに慣れてしまって、そんなこと、もう考えることもしなかったわ。
(フェルナンド) ここでの生活は、あなたには安あがりに思えるにちがいないわ。
(アリアーヌ) それには気づかないわね。反対に、いつも私、額のものすごさに最初びっくりするの。それから(つづく)
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(つづき)私、反省すると… (ジェロームに。)聞いて、あなた、私が思案している間、助けていただけないかしら。プリュニエさん処へ車を走らせて、イセエビを一匹持って来ていただきたいのよ。フィリップが夕食に来るけど、これより彼を喜ばせるものはないことを、私、知ってるの。(ヴィオレットとフェルナンドに。)私の兄は食道楽で、私は感心してますし羨んでもいます。言っておかなければなりませんが、この二年というもの、私は食餌療法中で、水炊きのヌードルとジャガイモなんです。(フェルナンドの同情的な感嘆の声。)時々、私も療法に違反しますけれど、罰はすぐに来ますわ。
(ヴィオレット) なぜそのようなことを?
(アリアーヌ) いいですか、私思うのですけど、けっして真面目すぎてはいけません。或る点を越す真面目さは、悪徳に似ていますわ… あなたの顰蹙を買ったのでなければよいですが。
(ジェローム) プリュニエさん処へ電話できただろうに…
(アリアーヌ) 遅すぎるわ。もう、好きな時にイセエビを配達してはくれないでしょう。あなたをうんざりさせ過ぎる?… ありがとう、ご親切に。ではまたじきにね、あなた。(ジェローム、とてもぎこちなく、それじゃあ、と、二人の女性に言う。フェルナンド、ジェロームに同伴する。)
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第十一場
アリアーヌ、ヴィオレット
(アリアーヌ) 私、まず、あなたの小さな娘さんのことについて、あなたから教えていただきたく存じます。そして娘さんを抱くこともゆるしていただければと思います。ご存じのように、私は子供が大好きなんです。私たちの大きな悲しみの一つは、ジェロームと私には…
(ヴィオレット、ひそかに。) でも… 最後の言葉は多分言われていないわ。
(アリアーヌ) 不幸なことに、三年前、私は手術を受けて、子供を持つ希望が許されなくなりましたの… 私があなたに、モニクちゃんのことを教えてほしいと言ったからといって、あなたには苦痛ではないでしょう?
(ヴィオレット) 娘の名前をご存じなのですか?
(アリアーヌ) あなたのお姉さまが私に教えてくださいました… 彼女はすべてを私に語りましたが、私の思うに、私がそれらすべてを、取り決められたことみたいに判断していると、あなたが推測なさるのは、私を侮辱することではないしょうか? まったく逆です。