文字数:917
原稿用紙:ニ枚半
豆電球 熊 バンジージャンプ
これは、私がフリーのルポライターをしていたときに聞いた話だ。
青森県のH市には、未だにマタギの職業が残っていて、冬になると、山を下りてくる熊に備え、里の周りに電気柵を作ったりする。もちろん、本業である熊狩も行っていて、枯れ枝のような老人が日を決めては集合し、骨董品のような銃をかついで山へ登る。時々、銃声が里に響き、そういう日は決まって熊の肉を使った鍋を喰らうそうだ。
しかし、銃声がした日に熊を食べないこともある。それは、射殺した熊が「人間を食っていた」時だ。人間を食べた熊と言うのは、他の熊とは全く違う匂いがするらしい。一般的な熊はどんぐりなど、植物性の物を主食としているので(北海道の鮭を喰らう熊は特別だ)、肉は爽やかな木の匂いがする。それはまるで、香草で浸け込まれた肉のようだと訊く。だが人間を食べた熊と言うのは、嗅ぐに耐えない醜悪な匂いを発するそうだ。
じゃあそういう熊の処理をどうするかって? 木に吊るすのさ。里への入り口に紐で吊るしておく。こうすると、熊は同族の血の臭いを恐れてしばらくの間里へは来なくなるそうだ。時期がよければ、君だって熊のバンジージャンプが見られるってことさ。
冬が深まり、例年よりも早くに雪が降った時、その事件は起こった。冬眠のための食料を確保できなかった熊が、子供を咥えて森の中へ入ってしまったって言うんだ。マタギの人間はすぐに集められ、豆電球のような小さな灯を頼り雪の道を歩いた。しんしんと降る新雪が、容赦なく熊の痕跡を消し去る。森の中に子供の叫び声が反響するのだが、それがどこから発せられたものなのかは、ついぞ分からぬままだった。つい昨日までは元気に熊鍋を食べていた少年。マタギたちの必死の捜索虚しく、彼は発見されなかった。そして、その年の冬が終わった。
春になり、雪解け水が川に注ぎ始めた頃、予想外の形で少年が発見されることになった。彼は熊に食べられたわけではなかったんだ。その証拠に、死体には多少の腐食があるものの、噛み付かれた後なんてほとんど無かった。だが、発見された場所があまりにも出来すぎていたんで、その日は騒然となった。
少年は、山の入口の木に吊るされていたんだ。紐で。
後書き
今回は大分短くなってしまった。というのも、0時17分から50分の間で
着想・構成・執筆の全てをやらなきゃならなかったからなんだ。(結局30分で書けた)
これもいい練習になったと思う。結構ホラーチックに書いてみたぜ!
お題をくださった奏日亜さん! ありがとうございました!
原稿用紙:ニ枚半
豆電球 熊 バンジージャンプ
これは、私がフリーのルポライターをしていたときに聞いた話だ。
青森県のH市には、未だにマタギの職業が残っていて、冬になると、山を下りてくる熊に備え、里の周りに電気柵を作ったりする。もちろん、本業である熊狩も行っていて、枯れ枝のような老人が日を決めては集合し、骨董品のような銃をかついで山へ登る。時々、銃声が里に響き、そういう日は決まって熊の肉を使った鍋を喰らうそうだ。
しかし、銃声がした日に熊を食べないこともある。それは、射殺した熊が「人間を食っていた」時だ。人間を食べた熊と言うのは、他の熊とは全く違う匂いがするらしい。一般的な熊はどんぐりなど、植物性の物を主食としているので(北海道の鮭を喰らう熊は特別だ)、肉は爽やかな木の匂いがする。それはまるで、香草で浸け込まれた肉のようだと訊く。だが人間を食べた熊と言うのは、嗅ぐに耐えない醜悪な匂いを発するそうだ。
じゃあそういう熊の処理をどうするかって? 木に吊るすのさ。里への入り口に紐で吊るしておく。こうすると、熊は同族の血の臭いを恐れてしばらくの間里へは来なくなるそうだ。時期がよければ、君だって熊のバンジージャンプが見られるってことさ。
冬が深まり、例年よりも早くに雪が降った時、その事件は起こった。冬眠のための食料を確保できなかった熊が、子供を咥えて森の中へ入ってしまったって言うんだ。マタギの人間はすぐに集められ、豆電球のような小さな灯を頼り雪の道を歩いた。しんしんと降る新雪が、容赦なく熊の痕跡を消し去る。森の中に子供の叫び声が反響するのだが、それがどこから発せられたものなのかは、ついぞ分からぬままだった。つい昨日までは元気に熊鍋を食べていた少年。マタギたちの必死の捜索虚しく、彼は発見されなかった。そして、その年の冬が終わった。
春になり、雪解け水が川に注ぎ始めた頃、予想外の形で少年が発見されることになった。彼は熊に食べられたわけではなかったんだ。その証拠に、死体には多少の腐食があるものの、噛み付かれた後なんてほとんど無かった。だが、発見された場所があまりにも出来すぎていたんで、その日は騒然となった。
少年は、山の入口の木に吊るされていたんだ。紐で。
後書き
今回は大分短くなってしまった。というのも、0時17分から50分の間で
着想・構成・執筆の全てをやらなきゃならなかったからなんだ。(結局30分で書けた)
これもいい練習になったと思う。結構ホラーチックに書いてみたぜ!
お題をくださった奏日亜さん! ありがとうございました!