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司馬遼太郎「功名が辻」にみる千代のコーチング 9

2006年02月09日 | 読書
姉川の戦い

織田三万の大軍団の行軍が始まった。
目指すは浅井氏三十九万石の本拠小谷城。
小谷城の南東に、横山城という浅井氏の支城がある。
横山城が落ちれば小谷城の防衛能力は半減する。
信長は自ら総指揮をとり、横山城を包囲した。
元亀元年六月二十六日夜半、浅井方に、越前の同盟軍朝倉氏から一万の援兵が来着した。織田軍を背後から包囲して殲滅する作戦である。
同じく二十六日、織田方の同盟軍、徳川家康の部隊一万も横山城包囲に参戦した。

姉川の北岸に浅井・朝倉の陣、南岸に織田・徳川が陣取っている。
地形は岸が崖になっている浅井・朝倉側の方が防御に有利である。

六月二十八日午前四時、徳川軍を先陣に十三段構えの織田軍の突撃が始まった。
伊右衛門達がいる秀吉の部隊は三番隊だった。
激しい戦いで、十三段構えの十一段まで崩れたが、そこから織田・徳川軍が盛り返した。
乱戦の中で、伊右衛門達も浅井方の足軽大将鬼藤三郎兵衛義兼という豪の者をしとめた。

戦に勝ったが、信長は一挙に小谷城に攻め込まなかった。そこには浅井長政に嫁いだ妹の「お市の方」が居る。

信長は、小谷城の周りの支城をつぶし始めた。
まず、横山城を落とし、木下藤吉郎三千の兵に守備させ、佐和山城を丹羽長秀に包囲させ、小谷城の北に市橋長利、南に水野信元、西の彦根山に河尻秀隆を置き、臨時要塞を築かせ、信長自身は全軍の論功行賞を行った後、さっさと岐阜へ戻ってしまった。

伊右衛門は、新知四百石。
四百石という加増は大きい。
まだ、戦闘中だから知行地もはっきり決まった訳ではないが、励みが出来た。
「吉兵衛、おれは織田家に仕えて幸運だったな」
「織田様にお仕えあそばいたこと、誠にご運がよろしゅうございました」
「人間、身を寄せる大将によって生涯の運不運が決まるものだ。ありがたい」
「大将とあおぐ木下殿もいい。この人はひょっとすると織田家第一の大将になるのではないか」と、もっとも、これは千代の観測の受け売りである。

姉川の大勝の後、小谷城が落ちるまで、この後数年の包囲戦が続くことになる。

この間、信長は摂津石山本願寺と戦い、浅井・朝倉の奇襲部隊と琵琶湖畔の坂本城で小競り合いをし、擬装講和をし、伊勢長島の一向一揆と戦い、叡山を討ち、多忙に過ごした。
が、伊右衛門らは、元亀二年の春になっても、横山城に滞陣したままだった。
城将の木下藤吉郎は、将士に惰気が生じるのをおそれ、様々な工夫をした。
こちらから仕掛けて小競り合いをしたり、敵の城下の青田を刈ったり、村を焼いたり、戦局に関係ない小戦闘を絶え間なくやっている。
一方、横山城の麓の村はずれに、小さな歓楽地を作り、遊女達の小屋掛けを許した。
城中の士は、組毎に日を決めて出掛けて行く。
が、伊右衛門には縁がない。
「わしは好かぬ、吉兵衛、新右衛門、お前達はゆけ」
「殿はお固うござるな」
と、吉兵衛等は伊右衛門にはかまわず、出掛けていっては、後で遊女の品評などをして興じている。

そんなおり、小りんが横山城下に現れた。
その人をと、心に念じつつ、わざわざこの戦乱の里まで来た。
(山内伊右衛門一豊と言いやったな、別に面白味のある男ではないけれど)
なぜ魅かれるのか、自分でも分からない。
「いいえ、恋じゃないよ」
と、浅井の小谷城にいる従兄弟の望月六平太にきっぱり言った。
望月六平太、南近江の甲賀では知られた郷士で、いわゆる忍び、忍者、甲賀者、などといわれている役目の男だ。
近江甲賀郷は、足利の隆盛期このかた、南近江の領主六角氏に属していた。六角氏と浅井氏が同盟している関係上、望月六平太も、その下忍どもを連れて小谷城に籠り、諜報活動をしている。
小りんは、望月一族のひとりとし六平太をたすけていた。
小りんと六平太とは、既に体で結ばれてる。が、どちらも愛情があるというわけではなく、お互いのごく生理的な必要のために相手を使用しあっているにすぎなかった。
六平太の歳は、小りんより九つ上だが、歯がない。
平素はつげの木と獣骨でつくった義歯をはめている。
旅に出るときは外して空也僧の装束などを着ると、どう見ても七十ぐらいの老人にしか見えなかった。

その、小りんが、横山城下の村はずれで、五藤吉兵衛を呼び止めた。
そして、吉兵衛に「伊右衛門さまにお会いしたい」と連絡を頼み込む。
吉兵衛の話を聞き、動揺したが、結局待ち合わせの雑木林に出向いた。

そこに待っていたのは、空也僧姿の望月六平太。
伊右衛門の素性を知る六平太を怪しみ斬りかかる伊右衛門。
六尺棒で伊右衛門を打ち倒そうとする六平太。
伊右衛門の必死の打ち込みに、六平太が棒をひいた。
「よそう、おぬし、織田家の侍ながら、わしは見込んだ。いつか、会いに行く。取り敢えず、わしの女をくれてやろう」
六平太は草むらから、布を噛まされ、縛られている小りんをつかみだし、投げるように突き飛ばした。

倒れている小りんのそばにしゃがみ、脇差しで縄を切った。
自由になった筈の小りんは動かずに、伊右衛門をみつめている。
雑木林を暮色が包み始めている。
伊右衛門は小りんの細い腰を抱きすくめた。

虚脱して倒れている伊右衛門の耳元で小りんがささやいた。
「わたくし、伊右衛門様を連れて、この戦場から逃げて行きたい。六平太との打ち合いでは、甲賀きっての棒術の名手六平太の方が危うかった。伊右衛門様は近江でも一番の野武士になれます」
「世の中から踏み外すことになる」
「気楽ではありませんか。踏み外して初めて、人間らしい暮らしが出来る。伊右衛門様さえ野武士になれば、わたくしは一生おそばを離れずに済む」
「言っておくが、おれは強いのではない。天運がついているのだ。天運がおれを守っている。千代がそう申した」
小りんが起きあがった。
「千代、伊右衛門様の奥様の名ですね。こういうときにそんな名を出すものではないわ。二度といったら、千代とやらいう女を、小りんが刺します」

つづく

それにしても、伊右衛門は、小りんとの情事の後に、千代の名を出すとは・・・。
司馬遼太郎は、どこまでいっても、伊右衛門が千代の呪縛から逃れられない男として描いています。

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埼玉

2006年02月08日 | 情報日記(スーパー他)
ベイシア寄居店
埼玉県大里郡寄居町大字富田1849-1
電話 048-582-2811
衣料品も扱っているEDLPのお店。


ライフ寄居店
埼玉県大里郡寄居町大字寄居1133-10
電話 048-581-8431
JR八高線、秩父鉄道寄居駅、駅前のお店。


ヤオコー寄居店
埼玉県大里郡寄居町大字寄居1443-1
電話 048-581-9811
古いお店だが、良く手が入っている。関連販売のはみ出し陳列もキチンと出来ている。
クッキングサポートは有りませんでした。
レジに変な機械が付いていると思ったら、あんなにやりたがらなかった、クレジットカードの取り扱いを始めたんですね。
休憩所で弁当を食べました。

ベイシア寄居北店
埼玉県大里郡寄居町大字桜沢2916
電話 048-580-1112
スーパーセンターです。広すぎるので食品だけ見ました。ベイシアでした。


ヤオコー秩父大野原店
埼玉県秩父市大野原680
電話 0494-21-3211
徳樹庵(ファミリー料亭ダイニング)・ マツモトキヨシ(ドラッグ)・ ダイソー (生活雑貨)・ロイヤルグランデ (クリーニング)と共同出店。



ベルク宮地店
埼玉県秩父市下宮地町19-16
電話 0494-23-5511
古いお店ですが、綺麗に使ってます。
「野菜が高騰しています、漬け物がお得です」のPOPが良い感じ。
節分のPOPはもう、外した方が良いと思うな。


ベルク秩父影森店
埼玉県秩父市下影森739-1
電話 0494-21-3200
ベルクの新店は、毛呂山店もそうでしたが、店内が暖かいんです。この暖かいさは他のスーパーでは感じたことのない暖かさです。店内でゆっくりお買物が出来るので凄く良い感じです。


マルフジ羽村店
東京都羽村市羽東1-21-28
電話 042-579-3315


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電子レンジが壊れた。

2006年02月07日 | 身辺雑記
まあ、随分永く使ったからな、この前から調子が悪く、もうそろそろ寿命だろうとは思っていたんですが、遂にスイッチを入れても中身が温まらなくなったんですよ。

電気屋の、電子レンジ・コーナーへ行ったんですが、いろんな種類のやつがあって、迷っちゃうな。
なんか、最新式ってやつは、凄い機能がいっぱい付いてて、値段も随分高いな。
それに、電子レンジの中がクルクル回るようになってないんだな。
今まで、家で使ってたようなやつもあるんだけど、これは、もの凄く安いんだな。
結局、中くらいの値段の、センサー付きで省エネタイプってやつにしました。
説明書にパンが焼けるって書いてあったんで、いつか機会を見付けて挑戦してみたいです。

帰宅したら、ポストに昨日出した、メール便が入っていた。
何だこりゃと、思ったが、宛先に「様」って書いてあるのに、裏側の俺の住所に届けてきやがった。
早速、メール便業者に、「直ぐに取りに来い!」って、電話で抗議しといたら、1時間ほどで取りに来ましたな。
「何で、こんな間違いをするんだ」と、聞いたら、
「伝票がこっちに貼ってあるんでこちら側が届け先と思ったんでしょう」
なんて、答えだった。
「その伝票を貼ったのは、コンビニの店員だ。俺は送り先には、チャンと「様」って書いておいたんだからな、これを見れば解るだろ」
メール便業者も、謝っていたので、
「急いで届けてくれよ」って、ことで話を収めた。

それから、ポストの中にはもう一通、甲子園へ出場するので、寄付をしてくれと云う、依頼の手紙が母校から来ていました。まあ、これには一口振り込まなくっちゃいかんわな。

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コメダでモーニングをやりながら

2006年02月06日 | 身辺雑記
本などを開いて、目を通していたんですが、隣の席の二人の会話が気になる。
本を読んではいるのだが、耳はそっちへ向いている。

三十前後の聡明そうな感じの話っぷりの女性と、五十代ぐらいの、この冬の寒さにも耐えられそうなほどに肉付きの良い、世話好きそうな話し方の女性の声が徐々に大きくなってきたからだ。

こう云う時は、つくづく人間で良かったと思いますよね。
だってそうじゃないですか、人間の耳って固定されてて、手で引っ張ったりしなければ、簡単には動かないでしょ。
これが、ウサギみたいな耳だったら、ねえ、耳が音のする方へ向いちゃいますから、直ぐに隣の席の人に見つかっちゃうじゃないですか、すると隣の席のおばさんが「あんた、何を人の話に聞き耳立ててんのよ、その長い耳向こうへ向けときなさいよ」なんてことに、なるんでしょうな。

まあ、私しゃ、ウサギの耳じゃなかったもんですから、知らん振りして聞いてました。

内容は、ごくありふれたことなんだが、その中で気になったのは、この若い方の女性と旦那が、この旦那の父親が社長の会社で働いていて、親子、嫁舅、関係が上手く行っていない、って、ことの愚痴話だった。
特に父親の、社長と息子のコミュニケーションの仲介役をさせられている、この嫁さんの苦労には同情できるところがあったので、本はそっちのけで、「ふんふん、それで、どうしたんですか」などと、質問をしたくなって困った。

聞いているだけで、解るんだが、兎に角、コミュニケーション不足です。
そして、ここで訳知り顔に話してるお二人も、コミュニケーション不足を口にはするのだが、それだけです。
コミュニケーションの取り方が解らないって言った方が正確でしょう。

そんな話を聞いていると、「あの実は・・・・」などと声を掛けたくなるのを必死に堪えました。
だってそうじゃないですか、喫茶店の隣の席の、何処の馬の骨とも知れない見ず知らずのおっさんに、声を掛けられたら、そりゃ~もう~ね~。
そんなとこで、変質者扱いにはされたくないんで、席を立ってきました。

当事者同士では、どうしても主観が邪魔して、客観的に見られないようですね。
囲碁で言う、岡目八目ってやつですよ。
対局者よりも、観戦者の方が先手まで読むことが出来るってことですな。

そんな訳で、喫茶店の隣席でのはなしは、「コーチングしたいストレス」にはなりましたが、コーチングのシミュレーションが出来たってことで、プラスマイナスしてもちょっとお得なひとときでした。

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日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日

2006年02月05日 | 読書
日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日

ベンジャミン・フルフォード

光文社

このアイテムの詳細を見る


先日勝谷誠彦の××な日々に紹介されていた「ヤクザ・リセッション」と一緒にアマゾンに申し込んだのだが、「ヤクザ・リセッション」の方は1.2週間待ちになるとのこと。
この「日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日」は「ヤクザ・リセッション」の前編の様な作品なのかな。

著者は、1961年カナダ生まれ。上智大学比較文学科を経て、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学卒業後、日本で米紙の東京特派員を経て、米経済誌「フォーブス」東京支局長。
日本のメディアが、知っていながら書かないことを、痛烈に批判しながら、政・官・業・ヤクザの”鉄の四角形”が日本に不況をもたらし、この”鉄の四角形”を解体しない限り、日本が立ち直る道はないと、実名を出しながら訴えている。

私しゃ、田原総一郎みたいに狙われたくないので、実名は出しませんが、知りたい方は本を買って読んで下さい。
因みに、「ヤクザが不況を作った」「日本の裏社会」「メディアの癒着」・・・と云った内容が書かれていました。

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立春なれど、雪

2006年02月04日 | 身辺雑記
朝から良い天気だった。

近所の、スーパーで買い物をしたが、相変わらず「スキムミルク」が欠品している。
この「スキムミルク」実はダイエットに効果有り、と云うことで、昨年12月「あるある大辞典」と云うテレビ番組で紹介されました。
運動と食事を組み合わせた、ダイエットなのですが、食事の前にプレーンヨーグルトに「スキムミルク」を加えて食べると、ダイエット効果抜群だそうです。
おかげで、その後プレーンヨーグルトの売上げが好調だとか。
そして、「スキムミルク」は品切れ状態がずっと続いてると云うことです。
と、そのスーパーで店員さんに教えていたのは私です。

夕方、冷え込んできたので、雨戸を閉めようと外を見たら、外は真っ白、雪でした。
今は、止みましたが、2cmぐらい積もってます。

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節分

2006年02月03日 | 身辺雑記
おばあちゃんに、頼まれていたジグソーパズルを届けに、実家へ出掛けた。

役所から来た手紙を見て
「介護保険の料金が上がって、サービスがさがって、どうしたら良いんだろう」と、おろおろしていた。
家の母は、わりとシッカリしている方だと思うが、役所からの手紙は、私が読んでも判り辛いところがある。
80歳をとうに過ぎた、老人の中のどれぐらいの人達が、この手紙の内容を正確に理解できるだろうか。
甚だ疑問に思うのだが、役人のご家族は皆さん賢くていらっしゃるから、歳をとってもこれぐらいの手紙は、難なく理解できるのだろうか。

おじいちゃんに、頼まれていたアルバムを入院先に届けた。
まだ、自力では歩けないが、車椅子には自力で乗れるようになった。

夕食は、目刺しをかじり、恵方巻を黙々と食べた。

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税務署でお勉強

2006年02月02日 | 身辺雑記
「新設法人説明会」ってのがあって、出掛けてきました。
会場へ着くと、入口で書類を一束渡された。
こんなに沢山勉強するのかと、少しうんざり気味に席へ着く。

「新設法人のための会社の税金ガイドブック」法人会
「消費税のあらまし」税務署
「印紙税の手引」税務署
「源泉徴収のあらまし」国税庁
「源泉徴収のしかた」国税庁
「源泉徴収税額票」国税庁
「法人会の福利厚生制度」全国法人会総連合
「NEWS法人会」大和法人会
「国税電子申告・納税システム」国税庁
「無料記帳指導制度のご案内」税務署
「にせ税理士にご注意」税理士会
「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」
その他、税務署への提出書類多数。

これを、元に約3時間、みっちりお勉強しました。
会計上の経理処理と税務上の処理では、違いがあるとか。
新会社法が4月1日から施行されるとかの話をぼんやり聞いていました。
が、理解できたのは、まあ、税金はチャンと払いましょう。ってことと、解らないことは、そのままにしないで直ぐに聞きに来なさいってことぐらいです。

まあ、そんな訳で、税金を払えるような会社に早くしたいもんですな。

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司馬遼太郎「功名が辻」にみる千代のコーチング 8

2006年02月02日 | 読書
千代は、美濃不破地方では、お館さま、といわれた不破家で養われた、いわばお姫様育ちである。
ところが、うまれつき家計の切り盛りの才能が備わっているのであろう。
随分家計を切りつめているのに、彼女にはちっともしみったれた雰囲気が出てこない。
いつもゆったりとしていて、なんの屈託もなく暮らしているようだ。
そのくせ、千代は、山内家の家計を預かる主婦のくせに、まな板も持っていないのである。
千代は、米を量る升を代用していた。
材は竹板で、フチは竹である。
これを裏返してまな板に使う。
伊右衛門が一度台所を覗いて、
「まな板ぐらい、作らせたらどうだ」と、まゆをひそめたが、
「この方が、ずっと使いやすうございます、私が工夫したつもりでございますのに」と、その上で大根を切って見せた。
トントンと快いひびきが生じた。
「ね、小鼓のようでございましょう」
つい、千代の話し方のリズムに引き込まれて感心してしまった。
「なるほど、台所の小鼓か」
「ついでに、幸若舞でも舞ってさしあげましょうか」

この升兼用のまな板は、江戸末期に近い文化二年(1805)山内家から高知城下の藤並神社に寄贈されたが、昭和二十年の戦災で消失。現在はその模造品がおさまっているとか。

元亀元年(1570)六月十九日丑の刻(午前2時)城の方から、にわかに法螺の音が聞こえてきた。
千代は、飛び起き、直ぐに石を打ち燭台に灯を点じた。
「一豊様、一豊様」ゆりおこした。
伊右衛門は馬鹿のようになって、ねむりほうけている。
「お城で陣ぶれの貝があのように鳴っておりますぞ」
ワッと伊右衛門は起きた。
「なんじゃ、千代かえ?」
寝ぼけている。合戦で組み敷かれているような夢でも見たのであろう。
(困った人だ)と、千代は思った。
「一豊様、あの貝が聞こえませぬか」
「・・・・・・・・・・」
事態が解ってきたらしい。
直ぐに床の間の具足櫃へ駆け寄り、蓋をはねのけた。
「千代、湯漬け」
「はい、仕度が出来ております」
実を言うと、千代は、今夜あたり貝が鳴るのではないかと予感がしていた。

昨日の夕刻、屋敷の屋根を建て増しするために大工と打ち合わせのため、路上へ出ていた。
その時、藤吉郎が通った。
「やあやあ、伊右衛門の内儀殿」と、気さくに声を掛けてきた。
「ご精が出るな。ご加増になったゆえお屋敷を建て増しなさるのか」
「は、はい」千代は、どぎまぎしている。
藤吉郎は、千代のそうした若女房らしいういういしさが、たまらなく気に入っているらしい。
「結構、結構。伊右衛門は美濃、尾張に行っていたようじゃが、よい郎党がみつかりましたか」
「はいとても」千代は嬉しかった。
嬉しさをいっぱいに表現できる表情に恵まれている。
「それはよかった。そんな郎党ならば、藤吉郎も見たいものじゃ」
馬から飛び降りて、屋敷へ案内せい、と言うのである。
郎党を見てあげようというのだ。
郎党にとっても、織田家の大将からこういう処遇を受けるのは、破格な仕合わせである。
折悪しく、伊右衛門は不在だったが、庭先に吉兵衛、新右衛門以下をひざまずかせ、それぞれ藤吉郎の言葉を頂戴した。
藤吉郎は、直ぐ鞍の上に戻り、夕焼けを見ながら、
「明日は晴れればよいのにの」
ことさらにつぶやいて、行ってしまった。
その呟きに、何か意味があるように千代は思った。ひょっとすると、と思い、出陣の準備だけはしておいたのである。

「千代、出掛ける」と、門わきへ声を掛けた。
門わきで、千代が無言で頭をさげた。
門前を、おびただしい松明が駆け過ぎて行く。陣触れの貝を聞いて城へ向かう人馬である。
(我も遅れをとるまじ)と、伊右衛門はそのとどろな蹄の音、具足の金具のひびきの中に巻き込まれて。
もう、千代のことは念頭にない。
(男は振り返るな、と千代は言った)
伊右衛門は、もはや、この瞬間より将来の中に思いを置いている。
(功名・・・・・)
伊右衛門の生活感情は単純である。いや、単純なようにあの利口な千代は仕向けてくれているのかもしれない。
男とは、と伊右衛門は思うのだ。いかに高言を吐き、才芸に優れていても、それがなんであろう。男が、男であることを表現するものは、功名しかない。
若い伊右衛門の哲学になっている。

つづく

千代は、まな板が無いことに不満を言わず、升の裏側を使えば音までが楽しく聞こえると、マイナス思考せずプラス思考で日常を送っているようだ。このプラス思考がコーチにとっては大事な要素である。
藤吉郎の言葉のはしから、出陣を予想して準備をする。この様な観察力も良いコーチの条件のひとつです。

良いコーチを選ぶなら、千代の様な人を選びたいものです。

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博士が愛した数式

2006年02月01日 | 映画
公式HP

今日は、一日で映画の日です。
外は朝から、雨でしたが出掛けてきました。
「雨あがる」「阿弥陀堂だより」の小泉堯史監督作品だったので、期待して観に行った。
館内は、私より上の年代の方々で八割ぐらいの入りでした。
映画は、期待に違わず、しっとりとした雰囲気の心にしみ入るような作品でした。

数学教師のルート(吉岡秀隆)の寝癖の付いた髪型の可笑しさと、淡々とした授業風景に、こう云う、教師に教わってみたかったななどと思ってしまった。

ルートの子供時代(齋藤隆成)の演技が実に良かった。そして、吉岡秀隆の子役時代のような雰囲気を持っていたので、過去と現在の違和感がなく物語を観ることが出来ました。

交通事故の後遺症で、事故前までの記憶はあるが、現在の記憶が80分しか続かない元数学教授(寺尾聰)は、数学を愛し、子供を愛する心を持って、今の80分を生きている。

働き者の家政婦、杏子(深津絵里)は、ルートのシングルマザーだ。博士の症状を理解し心の交流を図ろうとする。「明日になったら忘れてるわよ」なんて、悲しいはずの台詞なのに、杏子の爽やかさで暗く落ち込みそうな場面も救われてました。
なんだか、いっぺんでこの女優さんが好きになっちゃいました。

未亡人で博士の義姉(浅丘ルリ子)は、過去を悔やみながら、今でも博士を愛している。それは杏子への嫉妬として現れる。浅丘ルリ子も随分老けたな、俺も歳をとる筈だ。

う~ん、役者も良いし、演出も良い。私しゃこんな映画が好きです。

清い、爽やか、心、真実、優しさ、そんな言葉がよく似合う映画でした。
★★★★★(5★満点で星5です)

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