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Age of Turbulence 波乱の時代

2007-12-08 21:34:46 | オーディオブック/ラジオ/ポッドキャスト
波乱の時代(上)
アラン グリーンスパン,山岡 洋一/高遠 裕子
日本経済新聞出版社

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現在、audible.comからダウンロードして聞いている本です。グリーンスパン前FRB議長の自伝です。アメリカではベストセラーになったようです。

でたのは9月ですから、読み始めたのはちょっと遅めだし、もうすでに和訳もでています。いろいろためこんでいたので、今週になって聞き始めたばかり。全部で20時間あるうち、8時間ほど聞き終わりました。ブッシュ政権が誕生したころの話になってます。

正直、この本は読み始めるまで、理解できるのだろうか、とかなり不安だったんです。なにせ、議長時代には、曖昧模糊とした発言で有名な人でしたので。しかも公的発言のみならず、私生活でもそうらしい。ボブ・ウッドワードの本で紹介されている有名なエピソードがあります。現夫人にプロポーズしたときに、夫人は何のことかわからず、数回目(自伝ではなんと5回目になってる)でやっと理解してOKしてくれたいうのです。夫人のアンドレア・ミッチェルはNBCニュースキャスターとして有名な人で、決して頭の回転は悪くないはず。さらに、当時すでに12年のつきあいがあったといいます。そういうよく知った人間でもわからない発言をするような人物が書いた本が理解できるのかしら???とかなりおののいていました。こう恐れたのはかなりいたらしく、WSやら、NewYork Timesやらにも同様の記述がありました。それを見るにつけても、ボブ・ウッドワードに再度書いてもらったほうがいいんじゃないの、なんて考えたりもしましわよ。

ところが、蓋をあけてみると...首をひねるところなどまるでない明快な文書が続いているではありませんか。あの正反対の意味にとれてしまうような難解な発言は、FRB議長としての政治的戦略のために身につけたものだったにちがいありません。20代のころの話で、「論文について明快に書くやりかたを教わった。ただし、FRB議長になってからその術を捨てなければならなかった」なんて記述もでてきました。発言の習慣まで変えてマスコミをあやつり利用するとは、おそるべき政治的臭覚。ご本人は自分は政治とは縁が薄い技術的な専門家、みたいに書いてましたがね。どこかの国の政治家も、ちと見習ったらどうなんだろう。

また、かなり専門的で面白みのない記述が続いたら、というおそれも実はもっていたのですが、完全に払拭されました。難解な専門的記述はまったく、といっていいほどでてきません。それどころか、ボブ・ウッドワードの本よりもわかりやすいかもしれません。単なる歴史の証言として読んでみて、経済について興味を抱く人だってでるかも、という書きっぷりです。

歴史的価値があるだけでなくて、記述そのものにも魅力があります。洞察力、理性はもちろんのこと、ユーモアもあり、適度な毒(ブッシュ父子をはじめとして、政治家を結構手厳しくやっつけている)もあり、何より人間性に対する関心と理解が感じられます。たとえば、

市場の力が経済を支配しているのだが、変化の速い経済に対して、人間は変化しにくいものであり、そこから衝突が生じる。その衝突の結果、経済は成功をおさめ、同時に人間には不安が生まれている

なんて洞察!

とにかく面白いし、メモをとっておきたい箇所もいくつもあるので、本を手に入れるつもりです。たぶん和訳にすることでしょう。訳者は山岡洋一、高遠裕子という達者なコンビですしね。

日本語の副題は「わが半生とFRB」。対して、原文の副題は"Adventures in a New World"です。日本語のタイトルは、本を買う人間にとってはわかりやすくていいですから、まったく問題はありません。しかし、前例のない複雑な動きをする世界経済の中、舵取りをやってのけたグリーンスパンの精神を表しているのはやはり原文の副題なのです。

この生きた伝説の存在の秘密は、生来の頭のよさや勤勉さもさることながら、経済と人間性の衝突から生じる不安に押し流されず、難問を新たな冒険考え、乗り出していった活力にあるのにちがいないのです。

成功と背中あわせに発生した失敗に対する自己批判が少ないことを非難するコメントがAmazonなどでのっていましたが、このタイプの人に対しては的はずれの批判な気がします。後ろを振り返ってばかりいる人間に刻一刻とかわる世界を前に、冒険などできますまいよ。80をすぎてなお、好奇心いっぱいに新たな現象に興味を持ち続けて生きられるとは、なんてすばらしいんだろう。





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