今回で最終回です♪(^^)
えーと、最初にも書いたとおり、このSSは原作の続きがなかなか出ないため、仕方なく妄想で補完することにした……といったお話なので、これからバスタはこーなっていくんじゃないかな~といったような、一読者であるわたしの予想といったものは一切含まれてません
そんなわけで、今回の【3】は特に、巨人の神域と呼ばれる場所が、こんな呑気な場所なわけねえだろォォッ!!といったような展開になっています(^^;)
まあ、そこらへんはあんまし深く考えないでね☆うふっといった感じなんだと思ってください(何がうふっだか……。)
岸間信明さん著の、小説版バスタⅡを読んで、カルって「愛が何か」わかってないんじゃないかな……と感じたんですけど、そのことについて色々考えてるうちに、そもそもバスタって<神の愛>については何も伝えてない漫画なんじゃないかなって思ったりもしました
そんなわけで、今回の前文は下唇を噛んで、ラヴ☆と発音してみよう!みたいなお話(笑)
↓のSSの中で、シェラが「愛」について語ってる場面があるんですけど、そのことについて少し補足すると……「愛とは何か?」と言われたら、それは「無償で相手に良くすること」、「良くしてあげたいと思うこと」だというのが、わたし個人の感覚として一番近いことだったり(^^;)
これはトルストイも著作の中で同じことを言ってたと思います。
んで、感覚としてこのことがわかってさえいたら、べーやん☆みたいにあんなクソくだらない長広舌を振るう必要はないというか。。。
ヨーコというかリリスも悪魔に対して「そんな事もわからないなんて、可哀想だネ☆」って言ってるわけですけど……本質的に「愛」ということがわかったら、それはわざわざ言葉にする必要すらないと思う(^^;)
まあ、そのことを相手に伝えるとか、音楽で表してみるとか、絵で表現してみるっていうのは大切なことだし、素晴らしいことでもあると思うけど、「愛」という言葉に関して聖書を引いてみるとしたら、
>>「愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。
礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばず真理を喜びます。
すべてを我慢し、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。
愛は決して絶えることがありません。」
(コリント人への手紙第Ⅰ、第13章4~8節)
ということなのかもしれません。
キリスト教信仰の中心は、あくまでもイエス・キリストの十字架の贖いであり、なんの罪もない「神の御子」(メシア)であるイエスが、十字架上で<全人類の罪>のために血を流されたこと、またそのことを信じる者には「罪の赦し」が与えられ、無償で天国へ入ることが出来る、ということなんですよね。
これが一般に<福音>と呼ばれるものであり、福音というのは「良き知らせ」、つまりイエスの御名を信じる者にはすべて、罪の赦しと天国へ入ることが約束されている、ということです。
でも、このことに対する一般のというか、日本人の反応というのは、「そうですか。ではわたしはこれからああいう善行やこうした善行を積み上げてから、天国へ行こうかと思います」といったものなのかもしれません(^^;)
ええとですね、神の愛というのは本当に無償で無代価なのです。
「善行」と引き換えによってしか、神が愛や恵みや祝福を与えないとしたら……それは神御自身が「有償」によってしか愛を与えないケチくさいお方である=神の御名を貶めることにも繋がる、ということだと思います。
旧約聖書、新約聖書ともにとても長く分厚い書物であり、パラパラっと読んでみただけでは、ここに書かれていることが何故「神のことば」なのか、理解し難い部分があると思うんですけど――聖書の中で一番大切なことを要約するとすれば、それはイエス御自身も言われているとおり、
「『心を尽くし、思いを尽くし、知力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ』
これが大切な第一の戒めです。
『あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ』
という第二の戒めも、それと同じように大切です。」
(マタイの福音書、第22章37~39節)
「わたしがあなたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい」
(ヨハネの福音書、第15章12節)
ということなのだと思います。
またこれは、キリスト教が何故愛の宗教と言われるのかの、基となる言葉といってもいいかもしれません。
そしてここにさらに、
「なぜなら、救われるということは賜物なのです。
もし人が善良であることによって救いを得ることができるとすれば、救いは無償とは言えないでしょう。
しかし事実、救いは無代価なのです。
そのために労し働かない人々に救いが与えられるのです。
なぜなら、神は、もし罪人がキリストによって神の怒りから救われるということを信じるなら、その人は神の目に善良であると宣言されるからです。」
(ローマ人への手紙、第4章4~5節)[リビング・バイブル]
「もしわたしたちが救われるのが神の恵みによるのであるなら、救いはわたしたちが善良であることによるのではありません。
もし善良であることによって救われるとするなら、無代価の贈り物はもはや無代価とはならないでしょう。
報いとして得られるのなら、それは無代価ではありません。」
(ローマ人への手紙、第11章6節)[リビング・バイブル]
といった言葉も付け加えておきたいと思います。
バスタードという漫画の中では、こうした視点が明らかに欠けている=聖書を作品内で曲げて解釈している部分があると思うんですけど、まあ、そういったところが天使が天使たちなのに「愛や正義を理解していない」ように見える一因なのではないかという気が、個人的にはしています。。。
まあ、珍しく(?)ちょっと真面目な話になってしまったんですけど、本文のほうが長いので、このあたりで終わりにしておきたいと思います(^^;)
それではまた~!!
SHELLA IN THE DARK 【3】
翌朝早く、ネイはグリフォンとともに巨人の神域から去っていった。
ネイ曰く、「私がこんな巨人の神域くんだりまでカルについて来たのは――この馬鹿が無茶をするのを止めるためだったの。でも、今は私のかわりにシェラがいるし、貴女がいればカルも自分の命を投げだすような無茶はしないでしょうよ。だから悪いけど、この馬鹿のことをお願いね」
……ということのようだった。
カル:「いいから、さっさと行け、ネイ」
自分の部下の前で二度も馬鹿と言われ、少しだけ気を悪くしたような顔をして、カルはそう言った。
ネイ:「言われなくてもさっさと行くわよ。
なんにしても、ダーシュに会うのは今回もまた私が先ってことになりそうね、カル」
カル:「……………」
カルは無言のままネイのことを見送り、シェラは彼女と彼女の騎乗するグリフォンが大空高く舞い上がっていく姿を――手を振って送りだしたのだった。
シェラ:「あれが、人々があれほどまで畏怖した雷帝アーシェス・ネイの素顔だとは、わたし、思ってもみませんでした」
カル:「……そうか?
なんにしてもシェラ、そろそろ出発するぞ。
わたしの千里眼によれば――ここから北北西に進路をとって、五十キロばかり行ったところが、ネフィリムたちの住む場所だとの予知が与えられたのでな」
シェラ:「千里眼による、予知、ですか?」
カル:「そうだ。そんなに度々というわけではないが、これもおそらく預言者エリヤとやらに与えられた賜物のひとつということなんだろうな……私が汎人類連合などというものを築けたのも、この能力のお陰だといえる。
次に自分が何をなすべきなのか、ある段階までくると必ずビジョンが与えられ――言うなれば私は、そのビジョンのとおりにずっと行動し続けてきたにすぎん」
シェラ:「賜物という言葉は、ギリシャ語でカリスということでしたよね?」
カル:「シェラは、随分昔の言葉を知っているようだな。
確かに、賜物という言葉は古代語でカリスというが……それがどうかしたのか?」
シェラ:「いえ、なんでもありません、カル様」
(シェラがこの時、何故嬉しそうにそう言ったのか、カルにはまるでわからないようだった。
カリスというのは、カリスマという言葉の語源である。そしてカリスマ性というのは、民を教え導く指導者になくてはならないものだ――それをやはりカル様は有しておられるのだと思うと、シェラは嬉しくてたまらなかったのである。)
(それからふたりが、十キロほど歩いた頃であったろうか、一面の雪景色が途切れ、あたりが突然春の様相を呈してきた。
気温も上がり、マントなど羽織っていてはむしろ暑いようにさえ感じられる陽気となってきたのだった。)
シェラ:「カル様、これは一体……」
カル:「気にするな、シェラ。何しろここは、巨人の<神域>なのだからな。
どんな不思議なことがあったとしても、おかしくはない」
シェラ:「はい、カル様」
(寒いよりは、適度に暖かいほうが嬉しいシェラとしては、この突然の変化はむしろ喜ばしいものだった。
シェラは、あそこの湖のほとりにラッパ水仙が咲いているだとか、花盛りのムスカリが一面に咲き乱れ、サファイアの絨毯のようだ――といった説明を、道々カルにしながら歩いていった。)
シェラ:「あの、カル様……思ったのですけど、ネフィリムたちのいる場所について、花の精たちに聞いたとしたら、より正確な位置がわかるのではないでしょうか?」
カル:「そうだな。頼むよ、シェラ。
北北西に五十キロなんて言っても――今の私には、その方向へ十数キロ歩いたといったくらいの感覚しかないのでな」
(そこでシェラは、星のように可愛らしい花を咲かせている、メイフラワーの花の精に道を訊ねることにした。銀の星のような髪飾りをつけているメイフラワーの精は、どこか照れたように「あっち」とだけ答えて、道の先を指差している……そしてすぐに消えてしまった。)
シェラ:「カル様、どうもこの道なりに行けばいいみたいです。
花の精たちの様子から見て思うに――このあたりには本当に、<人間>という存在が来たことがないのですね。
みな、突然話しかけられて驚いた様子でした」
カル:「そうか。なんにしても道なりに進んでいって、ある程度したらまた、シェラにフェアリー・テルズを使ってもらおう。
そうすれば、道に迷うこともあるまい」
シェラ:「そうですね、カル様。
でもなんだかおかしいんですよ……花がどれもこれも、季節感を無視して咲き乱れているような気がして……」
カル:「どういうことだ?」
シェラ:「いえ、通常なら秋に咲くはずの花が、春や夏の花に混ざっていたりとか……紫陽花の花がアブラナの花畑のすぐ隣に咲いていたり、まあ、大したことではありませんけど、もし天国というものがあるとしたら、こんな場所なのかな、なんて……」
カル:「おそらく、<神域>というのはそういう場所なんだろうよ。
エルフたちの国だって、元はそうした場所だったというしな。
ここは半分はプライム・マテリアル・プレーンに属し、残りの半分はアストラル界に属しているのだろう。
あの神域の入口にある時計塔より、随分奥深くへと私たちは分け入ってきた……それだけ、アストラル界の力が強まっているということなのかもしれない」
シェラ:「……………」
(カルの目が見えないのが、シェラにはあまりに残念だった。
特に、桜や桃や林檎や梨といった樹が、アーチのように枝を差し交わしている通路では――シェラは思わずうっとりと夢見心地になってしまったほどだった。
これから自分たちが何を成し遂げなければならないか、本来の目的を忘れてしまいそうになるほどに……)
カル:「そろそろ、二十数キロは歩いてきたと思うが、シェラ、どこか休むのに適した場所があったら、教えてくれないか?」
シェラ:「はい、カル様……でも、このような場所では、どの木陰で休んだとしても――休むのに適当な場所ではないかという気がしますけど……」
カル:「そうか。では一度少し休んでから、また歩きはじめることにしよう」
シェラ:「はい、カル様」
(シェラは大きな菩提樹の木陰で、カルから乾パンと干し肉を分けてもらって食べた。
それから水筒の水も与えてもらったのだが――シェラは一瞬ためらったのちに、自分の主君と同じところに口をつけて、それを飲んだ。)
シェラ:「カル様、向こうに鈴鳴りに野いちごの生っている場所があるのですが、少しとってきてそれをデザートにしましょうか?」
カル:「いや、それはよしたほうがいい、シェラ。
ここは半物質界であるとはいえ……アストラル界にあるものを食すると、元のプライム・マテリアル・プレーンには戻れないという言い伝えがあるからな。
というか、こんなにも呑気すぎる光景ばかりが続いているあたり――おそらく何かあるものと思って用心しておくに越したことはないだろう」
シェラ:「そう、ですね。
あの、カル様……先ほどからとても綺麗な、目を誘われる泉をよく見かけるのですけど、ということは、ここでは水も飲まないほうがいいということなんでしょうか?」
カル:「そういうことになるな。
自分たちが持ってきたものだけを食し、また飲むようにしたほうがいいだろう。
つまり、先を急いだほうがいいということだ。
あちらの花、こちらの泉と寄り道しているうちに、自然と腹がすいたり喉が渇いたりしてくるだろうからな……そういうわけでシェラ、おまえにはすまないと思うが、すぐに出発だ」
シェラ:「はい、カル様」
(これまで、マカパインやバ・ソリーたちとともに、長く地上をさすらい歩いたことを思えば――自分がもっとも愛する主君と旅路をともに出来ることは、シェラにとってこの上もない喜びだった。
たとえ、膝の関節や足首が、少しばかり痛んでいたとしても……。)
(それからさらに十キロほども歩いた頃、あたりは夏の景色から秋のそれへと変わっていった。
コスモスやアキノキリンソウが咲き乱れる野原を通り過ぎた時、周囲の景色は紅葉へと変わっていき――気温が再び下がりはじめると同時、陽が暮れて夜の帳がおりて来ようとしていた。)
シェラ:「カル様、わたしこんなに綺麗な紅葉を見たことって、これまで一度もありません。
さっきなんて、滝に虹のかかったその下に、紅葉の女王さまといった風情の、それは素晴らしく綺麗なもみじの樹があったんです。
本当に、とっても綺麗だった……」
(思わずうっとりするような溜息を着いてしまってから、シェラはハッとした。
カル様は目が見えないというのに、自分はなんということを……と、シェラがそう思うのと同時、カルは少しだけ微笑んだ。)
カル:「いいんだ、シェラ。私の目のことであれば気にすることはない。
それよりも、おまえが目で見たことを、これからも色々話してほしい」
シェラ:「はい、カル様。
あ、あの……それで早速なんですけど、陽が暮れると同時に、いかにもおあつらえ向きといったような廃屋が、丘を越えた野原に見えるのですけど、そちらへ行ってみますか?」
カル:「なるほどな。
陽が暮れて寒くなってきたら、今度はちょうどいい折に休めるような場所が見つかるというわけか。
なんにしろ、今日はもう相当歩いたし、明日には北北西に五十キロとお告げのあった地点まで楽に到達できるだろう……そう考えて、そこで休むことにするのがいいようだな」
(野原の真ん中にぽつんと立っていたその廃屋は、不思議と小綺麗だった。
カルは早速いろり端に座すと、そこに魔法の炎を焚いた。それから残り少なくなった食料を、シェラと半分ずつにして食べたのだった。)
シェラ:「あの、カル様……わたし思ったんですけど、もしネフィリムがわたしたち人間に敵対的な感情を持っていたとしたら、とっくにわたしたちのことを攻撃してるんじゃないでしょうか?」
カル:「そのことは、私も考えていた。
だが、まだ油断は出来ない……なんにしても今夜は、明日に備えてぐっすり眠ったほうがいいだろう」
(この夜、カルとシェラの間に交わされた言葉は少なかった。
カルは明日、ネフィリムに遭遇した時のことをあれこれ考えていたし、それはシェラにしても同様だった。
そして巨人を倒すことにも効果を発揮するという楽譜を再読し――シェラはある覚悟を心の内に決めたのだった。
女悪魔メフィストフェレスがくれた楽譜は、ソナタ形式で第4楽章まである。
だが、その最後の章(起承転結でいうとすれば「結」の部分)、<法悦>と記されている楽章は、もし最後まで歌いきったとすれば、確かに生命力が極限まで削られるかもしれないと、シェラはそうはっきり悟ったのである。)
(いろりを挟んで互いに横になり、背負い袋を枕にするような形で横になりながら、シェラは自分の主君が目を閉じている寝姿をじっと見つめていた。
もし明日、ネフィリムと呼ばれる巨人を倒すためでも、あるいはいつか、追いつめられて悪魔を倒すためにか、いずれにせよ、自分は死ぬことになるだろう……むしろ、そのことがわかっていればこそ、あの女悪魔は自分にこの楽譜を渡したのだろうということが、シェラにはよくわかっていた。
自分の命を取るか、それとも仲間の命を守るために、己の生命力を使い果たしてでもこの歌を最後まで歌いきるか――その選択を迫られた時、おそらく自分は後者を選びとるだろうと、シェラにはわかっていた。
シェラが歌う歌というのは、ようするに<霊歌>と呼ばれる種類のものである。普段彼女が竪琴で奏でる曲、美声を振るって歌う歌は、強い魔力を感じさせるものではあっても、己の精神力や生命力にまでそう影響を来たすものではない。
だが、ある種の強い言霊の宿る特殊な音楽には、歌唱者の命さえも奪うものが存在するのである)。
シェラ:「(カル様……わたしはもう二度と、貴方と離れることで後悔したくない……)」
(シェラはそう思い、音もなくスッと立ち上がると、迷うことなく自分の敬愛する主君の隣までいき、カル=スの背中にそっと抱きついた。
自分が男ではなく女であるということを――カルがすでに知っているのかどうか、シェラにはよくわからなかった。だが、カルは目が見えないにも関わらず、それ以上に<物が見えている>ような仕種をすることがよくあり、また、雷帝アーシェス・ネイが自分が女であると話した可能性も高いことから……そのことをカルはすでに知っているのではないかと、シェラはそう思っていたのだ。)
カル:「どうした、シェラ。眠れないのか?」
(シェラが思ったとおり、主君カル=スはやはり眠ってなどいなかった。
彼女は、普段の自分では到底考えられないこと――カルの腰のあたりに手をまわし、ぎゅっと彼の体と自分のそれを密着させると、小さな囁くような声でこう言った。)
シェラ:「もう、二度とは同じ我が儘を申しませんから……カル様、今宵一晩だけ、わたしを抱いてくださいませんか?
わたし、マカパインたちと地上を彷徨い歩いている間、何度も死にそうな目にあいました。だから、これから先ずっと、後悔するようなことがないようにしたいんです」
カル:「……………」
(暫くの間、沈黙の帳があたりにおりた。
シェラにとってそれは、永遠にも思われるほどの長い<間>だった。
やがてカルは、どこか居心地悪そうにもぞもぞと体を動かしはじめ――それから、シェラと向き合った。)
カル:「おまえは……どうして私のことを赦せる?
私は多くの人間を殺め、破壊神を甦らせた人類の敵であり、シェラ、おまえのことをもこの手にかけたのだぞ?」
シェラ:「わたしたち魔戦将軍は、カル様のもの……つまりわたしたちの命は、カル様がお好きにしていい権利があるんです。
もしカル様が死ねというなら、わたしたちはひとり残らず喜んで死を選びとるでしょう。
だからいいんです、カル様。わたしが今思うのはただ――明日ネフィリムに遭遇したのち、自分が生きているとは限らないという、そのことだけなんですから……」
カル:「そういえばおまえは、私が幼い頃に受けたトラウマを、あの時知ったのだったな。
おまえの、哀れみに満ちた眼差しを、私は今もよく覚えている……だがシェラ、それとこれとはまったく別のことだ。
第一私には、おまえのような娘を抱く資格がない」
シェラ:「カル様、それはどういう……」
(意味ですか、と問いかけるシェラのことを、カルはその胸の中に抱きしめた。
その何気ない優しい仕種によって、彼には自分を別の意味では抱く気がないのだと、シェラにははっきりとわかる……けれど、彼女はそのことに失望したりはしなかった。
何故なら、シェラにとって一番怖ろしかったのは敬愛する主君に軽蔑、もしくは拒絶されることだったのだから……しかし、カルにはそうしたすべてがわかっているのだと、シェラにはよくわかる。
だからせめても、という意味をこめて、こうして抱きしめ返してくれているのだということが、シェラにはよくわかっていた。)
カル:「そうだな。私自身、うまく説明することは出来ないが――私にはどこか、魂に致命的に欠けた部分がある。
だから、誰か人を<愛する>であるとか、<愛される>ということが、今この年になってもよくわかっていないのかもしれない……シェラ、おまえの言った願いのとおりにするのは、簡単なことだ。
だがおまえはいずれ、深く後悔するに違いない。何故こんな男に、自分の貞節を捧げてしまったのだろう、と……」
シェラ:「そんなことはありません、カル様。
わたしが生まれ育った部族の長老たちは、よくこう申していました。
与えられるよりも与えるほうがより幸いなのだと……また、人間が他者に与えられるもののうちで、<自己犠牲>よりも深く強い愛は存在しないのだと……。
でもわたしは思うんです、それよりももっと深くて大きい愛というものがこの世界にはあって――その<愛>というのは、自己犠牲を捧げることですら喜びであるという、そうした種類のものなんです」
(おまえという娘は、そこまで言うのか……そう思いつつ、カルはシェラの髪の毛を手櫛で梳かすようにしながら、ふとあることを思いだした。
あれは一体、いつのことだったろう。シェラが魔戦将軍の最後のひとりとなってから、まだ間もないある日のこと――カルも今はもうよく思いだせないのだが、彼女が自分が女であるとバレたのではないかと疑い、いかにも男らしく振るまおとうとしている姿を見て……むしろカルはその時、シェラの服を引き千切り、動かぬ証拠を目の前に突きつけてやりたいような衝動に駆られたことがある。
それから、自分の寝所へ引き入れ、彼女が女であることを嫌というほど思い知らせてやりたいような――カルにしては滅多にない感情に、その時動かされたのだ。
もちろん、そのようなことを実際に行動へ移したりはしなかったものの、カルは今、それと同じような思いが胸に去来するのを感じていた。)
カル:「……シェラ、本当にわたしでいいのか?」
シェラ:「はい、カル様……」
(カルにはこの時、確かめたいことがあった。
シェラが男の振りをしていた時に、もし自分が寝所へ引き入れていたとしたら――その関係はおそらく、そう長く続くものではなかったろうと、カルはそう思う。
何故なら、自分はいい年をしていまだに<愛>というものがよくわからず、戸惑っている子供にも等しい存在だったからだ。そしてそういう自分を誰にも知られたくないと感じ、むしろシェラのことを傷つけるような言動をとるか、まるで何もなかったかのような冷たい態度をとっていたに違いない。
だが今、言葉でうまく説明できないにしても、その<違い>のようなものがカルにははっきりわかっていた……いや、はっきり<見えて>いたといってもいいかもしれない。)
(震えているシェラの体を抱いた時、カルはそこに、寒さに震える子供時代の自分がいるような気さえした。
実際、何故こんな自分を受け容れられるのか、シェラの考えていることがカルにはよくわからない。けれど、まるで招くような柔らかい乳房に触れ、彼女のとろけるような熱い中に分け入ることが許された時――暗い地下の教会でうずくまる自分の元に、幼い姿のシェラが迎えに来てくれたような気がした。)
(まるで、「出口はこっちよ」と案内するように、シェラが幼いカルの手を引いて、光あふれる外のあたたかい世界へと導いてくれる……そしてカルはそのまぶしさに、目もくらむような生まれて初めての喜びを感じたのだった。)
カル:「シェラ、寒くないか?私の体は冷たいから……」
(カルがそう言い、いろり端の、つまり炎に近い側の場所を彼女に譲ろうとした時、シェラはカルの胸の上に頬を寄せたまま、ただ黙って首を横に振った。)
シェラ:「気にしないでください、カル様。
それよりも、今はもう暫くの間、このままでいたいんです……」
カル:「そうか……」
(それ以上会話が続かず、カルはどうしたものかと思案した。
ネイがグリフォンに乗って巨人の神域から去っていく間際――自分のことを引っ張って、シェラの耳が届かない場所で、あれやこれや言っていたことを、カルは不意に思いだす。
『まったくもう、あんな健気な子、あんたにはもったいないったらありゃしないわね!いい、カル!?あんないたいけな子を泣かしたら、自分の魂にはもう二度と救いはないくらいに思っておくのよ!わかったわね!?』
その時、カルにはネイの言っている言葉の意味がよくわからなかった。
そこでいつもどおり曖昧に頷いていると、ネイは怒ったような顔をしたまま、踵を返したのである。
というよりも、ともに育った何十年もの昔より、ネイはそうしたカルにはよくわからない種類のことを怒鳴ってばかりいた気がする……だが今のカルには、何故ネイの態度がそうだったのか、突然にして理解できていた。)
(カルは、ネイに好かれていない自分を幼い頃よりずっと感じて育った。
それはダーク・シュナイダーの好奇心や興味といった感情が、時折気まぐれに自分に集中するそのせいだろうと、以前まではずっとそう思っていた。
だが、今はわかる……自分自身を閉ざして心を開かない者のことを愛するのは、誰にとっても不可能に近い話なのだということが。
にも関わらず自分は、はっきりそうと自覚していないながらも、何故こんなにも可哀想な自分を誰も愛してくれないのかと駄々をこねるような、傲慢な子供だったに違いない。それだけでなく、自分にとって居心地の悪い感情については、すぐに冷たく凍りつかせるという悪い癖がカルにはある……しかもそれは、条件反射的に引き起こされるものだけに、彼自身にもどうすることも出来ないものだったのだ。)
カル:「(こういう時に人は、「愛している」という言葉を口にしたりするものなのか?)」
(カルがそう思い、その言葉を言うことを逡巡していると、先にシェラが彼に対して口を開いた。)
シェラ:「カル様、愛しています……もし貴方が私と同じ気持ちじゃなくても、それでいいんです。
わたしはもう、何も思い残すことはありませんから……」
カル:「シェラ、何故そんなふうに思う?
私がおまえを愛していないなどと、どうしてわかる?
私がこんなに――おまえを愛しているということが、何故おまえにはわからないんだ?」
(シェラは、自分の主君のその言葉が、ただの思いやりに満ちた心遣いによるものなのか、本当に言葉どおりのものであるかどうかを確かめるために……恥かしいとは思ったが、そっと上目遣いにカル=スのことを見上げた。)
(そして、そうしてしまってからシェラは、心が――いや、魂が震えるほどにドキリとした。
自分がダーク・シュナイダーのことを話した時、カル=スの顔には明らかな変化が表れていたように、彼の中には今はっきりと、何かの大きな<変化>と呼べるものが表れていたからだ。)
シェラ:「(カル様は、もしかして本当に、わたしのことを……?)」
(不意に、あたたかい液状のぬくもりを自分の肌に感じ、カルは驚いた。)
カル:「シェラ、まさか泣いているのか……?」
(それがどういう種類の涙であるのかわからないだけに、カルは混乱した。
処女を失ったことに対する、悲しみの涙であるとか、そういうことなら、自分は(いくら女性を慰めるのが不得手であるとはいえ)言葉を尽くしてシェラのことを慰めてやらねばならない。
だがシェラは、そうした主君の狼狽ぶりについてもすぐ理解し、彼のことをいじめるようなことはしなかった。)
シェラ:「カル様……人は悲しい時だけでなく、嬉しい時にも涙するものなんですよ。
ご存知ありませんでしたか?」
カル:「……………」
(カルはもう言葉もなく、ただ愛しいと思う娘のことを、さらに力をこめて抱きしめるだけだった。
それから心あたたかな、永遠とも思われる長い沈黙が流れたのちに――その間カルは、自分の胸に眠るシェラの髪を、手櫛で梳かすように撫でてやっていたのだが――不意にその神聖な沈黙を破るように、カルは自分のほうから言葉を紡いだ。)
カル:「初めて会った時……シェラ、おまえは何故男の振りなどしていたんだ?
魔戦将軍となるためには、男であることが必要だという、不文律のようなものがあるのは確かだが、それ以前におまえはすでに男の振りをしていた……そうだったろう?」
シェラ:「ええ。わたしたち吟遊詩人である旅の部族は、カル様もご存知のようにジプシーのような生活を送っています。
そうすると、<女である>ということは、時に都合の悪いことがあるんです……わたしの父は、母によく似たわたしのことを偏愛していました。
だから、何かあった時のためと、小さい頃からわたしを男のように育てたんです。それに、わたしたちの一族には、カストラートという習慣がありました。
つまり、去勢することで変声期をなくすという手段がある一部の者にとられていたんです……いうまでもなく、吟遊詩人の一族はその<声>ひとつに生活のすべてがかかっていますから、歌の才のある男子は、本人がそう望むか、あるいは周囲の者がそう望むかすることによって――カストラートという手段が取られたんです。
だからわたしは、そうした男の振りを……」
カル:「そうか。なんにしても私は、おまえの声が好きだ。
時々おまえの歌声を、そのまま永遠に聴いていたいと思うほどに……」
シェラ:「……………」
(シェラはこの時、少しだけ顔を赤らめた。先ほど、自分がカルにとってある意味何かの楽器のような存在だったことを、彼女は自覚していた。
カル本人は、音楽の才は自分にないものだと、かつてシェラに語っていたことがあるけれど……『この方はどうすればわたしがいい音色を奏でるのか、よくご存知だ』と、シェラはそんなふうに感じていた。)
(このあとふたりは、夜明け近くになってからようやく眠りにつき、次に起きたのは、おそらくは太陽の位置から見て――昼近くになってからのことだった。
シェラは思わず慌てたが、一方カルはといえば実に呑気なものだった。
彼は外から野草を摘んでくると、シェラのために美味しいきのこスープを作り、彼女が起きてくるのを待っていたのだから……。)
シェラ:「あ、あの……カル様。
こちらの世界のものは、食さないほうがよろしかったのでは……?」
カル:「ああ、まったくな。
だが結局のところ私達は今日、死ぬかもしれないのだ。
そう考えたら、思う存分美味しいものを食べたほうがいいのではないかという気がしてきてな」
(そう語る主君カル=スのまばゆいばかりの顔の輝きを見て、シェラはすっかり驚いてしまった。
この方は、変わられた……と、そうはっきりシェラは感じる。
カルの作ったきのこのスープはとても美味しく、また彼が野で摘んできたという苺も、いくらでもお腹に入りそうなくらい、口に甘かった。
もちろん、シェラの心の中には、(もしやこれは、敵の罠ではないのか?)と疑う気持ちが根強く残ってはいる……けれど、自分が心から愛し崇拝する男が、きのうとは別人のように屈託なく笑う姿を見ていると、そうした不安も自然、胸よりかき消えていった。)
シェラ:「(この方は本当に、優しくて大きくて、偉大な方だ……わたしなど、この方に愛された喜びで胸が打ち震えるあまり――このままここでこうして永遠に暮らせたら、などと思う愚かな女だ。
けれど、この方は違う。もっと広い、荒野の地平の遥か彼方を、同時に見ておられるのだから……)」
(食事が済むと、ふたりはどちらから合図するでもなく、野原の真ん中にぽつりと存在する、この廃屋をあとにした。
シェラの心の中には名残り惜しいような甘い余韻が残っていたが、その気持ちを振り切るようにして、彼女は主君カル=スの背中を追っていった。)
シェラ:「カル様、野原の丘の向こうには、一面に可愛いヒナギクが咲き乱れています。
カル様はヒナギクの花言葉って、ご存知ですか?」
カル:「いや……」
シェラ:「平和や希望っていうんですよ。あるいは、乙女の無邪気、わたしはあなたと同じ気持ちですっていう花言葉などがあるんです」
カル:「そうか」
(シェラの言葉に対し、カルは短くそう答え、まるで目が見えてでもいるように足許へ屈みこむと――白いヒナギクの花を一本手折り、それをシェラの耳にかけてやることにした。
やがて、あたりには嵐の到来を思わせるような強い風が渦巻きはじめ、空には重い雷雲がたれこめはじめていたが、カルとシェラの心に恐れることは何もなかった。
まったき愛はすべての恐れをしめだす、と聖書には記されているが、それと同じように今、ふたりの心はまったくひとつだった。
ゆえに、あの重い乱雲の向こうがどうやらネフィリムたちの住まう場所らしいということがわかっても――カルとシェラはただ眼差しだけで互いの意思を確認しあい、地平の向こうにある荒らぶる世界へと一歩踏みだしていったのだった。
これから先、一体何があろうとも、後悔することだけは決してない……そのことがシェラにもカルにも、互いによくわかっていたのだから……。)
終わり
いえ、わたしそのへんのことって実は今までよく考えたことなかったというか(笑)
十二魔戦将軍のうち、ひとりくらいはカルの護衛として残ってたほうがいいのかな……とか思ってましたww
あの遠征って、確かに下手したら死ぬってくらい危険な任務だっただろうし、手元にひとり残しておく必要があったとして、それが何故シェラだったのかとか、なんかすごく気になりますよね♪(^^)
マロンとピロン(笑)に力で押されてたところを見ると、シェラってたぶん戦闘能力では十二魔戦将軍中、下のほうじゃないかと思うので……(←なんかまた色々妄想したらしい☆)
カル:「シェラ、おまえは残れ」
シェラ:「ですが、カル様。私もみなと一緒に……」
カル:「これは命令だ」
とか。。。
なかちーさん、新たな萌えのヒラメキ☆をありがとうございます♪(←それにしてもこの人、ほんとにどっかビョーキなんじゃ……笑)
10、11巻読み返して、シェラだけ遠征に行かずに残っているのが不思議だなーと思いまして・・。カルがシェラの事を女だと知っているから遠征に行かせてないのかなーとか。ルシアさんはどう思いますか?