新刊の森

人文分野を中心に、できるだけその日に刊行された面白そうな新刊を、毎日三冊ずつ紹介します。役立ちそうなレシピにも注目。

じっくり読みたい「THE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語―」

2018年11月30日 | 新刊書
THE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語―
ナディア・ムラド (著), 吉井智津 (翻訳)


性暴力の批判活動によって2018年のノーベル平和賞を受賞した
ナディア・ムラドさんの自伝が刊行されました。
平和な村に突然襲い掛かってきた戦争の暴力によって
女性たちがが実際にうけた暴力のすさまじさは想像しがたいものではありますが、
そこから目を背けることも許されないでしょう。
苦痛であっても想像力を働かせながら味読したい一冊。


登録情報
単行本: 430ページ
出版社: 東洋館出版社 (2018/11/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4491036179
ISBN-13: 978-4491036175
発売日: 2018/11/30

内容紹介
2018年ノーベル平和賞受賞! ナディア・ムラドの自伝刊行!

「戦下における武器としての性暴力の根絶に尽力」


これはすべて、この世界で起きたこと――


2014年にイラクで起こった大虐殺。
家族を失い、自らも性奴隷として地獄の苦しみを受けたナディアが
その体験と、生還までの道を圧倒的な臨場感で物語る。

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「この世界でこのような体験をする女性は、私を最後(ラスト・ガール)にするために――」


貧しくも平和な村で、愛する家族と暮らしていたナディア・ムラド。
しかし、イスラム国の脅威は次第に強まり、ついに虐殺と収奪の日が訪れた――

平和で、互いに支え合うヤズィディの人々の暮らし。

イスラム国による虐殺や性暴力・暴力の凄惨な実態。

決死の覚悟で脱出し、支配地域の現状を世界に発信するまでに、

彼女を支え続けた人々。

一人の女性の身に起こった、生還と闘いの物語。


今、世界でもっとも注目されるノーベル賞平和賞受賞者の自伝、ついに翻訳刊行。

著者について
人権活動家。ヴァーツラフ・ハヴェル人権賞、サハロフ賞を受賞し、人身売買の被害者らの尊厳を訴える国連親善大使に就任した。現在は、ヤズィディの権利擁護団体ヤズダとともに、イスラム国を大量虐殺と人道に対する罪で国際刑事裁判所の法廷に立たせるべく活動している。2018年、デニ・ムクウェゲ氏とともにノーベル平和賞を受賞。

本格的な伝記に期待が高まる「アナザー・マルクス」

2018年11月30日 | 新刊書
アナザー・マルクス
マルチェロ・ムスト (著), 江原 慶 (翻訳), 結城 剛志 (翻訳)


マルクスは、古くなった、古くなったと言われながら、何度でも復活してきます。
今回はイタリアでマルクス復活の一端を担っているマルチェロ・ムストの「新らしいマルクス」論が登場しました。
同じ著者の「最後のマルクス」も気になりますが、500ページを越える本格的な伝記に
期待が高まります。



単行本: 506ページ
出版社: 堀之内出版 (2018/11/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4909237372
ISBN-13: 978-4909237378
発売日: 2018/11/30

内容紹介
近年、「新MEGA」の刊行など、マルクス・レーニン主義の終焉によって、政治的イデオロギーの世界の足枷を外されたマルクスの思想を見直す「マルクス・リバイバル」が起きています。
本書は、積極的にこの「マルクス・リバイバル」を世界中で発信するイタリアのマルクス研究者、マルチェロ・ムストによる新しいカール・マルクスを描く伝記です。
日本の読者へ向けた「日本語版序文」も書き下ろし収録しています。

著者について
ヨーク大学准教授。1976年生まれ。著書に『アナザーマルクス』『ラストマルクス』他。

読み巧者の津野海太郎さんのお勧めの「最後の読書」

2018年11月30日 | 新刊書
最後の読書
津野 海太郎 (著)


からだが若いころのように動かなくなると、読書でもしようかと思うものですが
身体的な能力の衰えのために、多読することもできなくなります。
そんなときにこそ、読むべき本を選んでじっくりと読みたいもの。
読み巧者である津野海太郎さんが、お勧めの本を紹介してくれます。



単行本: 264ページ
出版社: 新潮社 (2018/11/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4103185333
ISBN-13: 978-4103185338
発売日: 2018/11/30

内容紹介
老人になってしみじみわかる。これぞ本当の読書の醍醐味! ついに齢八十。目は弱り、記憶力はおとろえ、本の読み方・読みたい本も違ってきた。硬い本はもう読めないよ、とぼやきつつ先人たちのことばに好奇心をかきたてられる。鶴見俊輔、幸田文、山田稔、天皇と皇后、メイ・サートン、紀田順一郎、吉野源三郎、伊藤比呂美……。筋金入りの読書家による、滋味あふれる読書案内。


毎日飲みたいスープのレシピに。「血糖値を上げない朝のスープと太らない夜のスープ」

2018年11月29日 | 新刊書
血糖値を上げない朝のスープと太らない夜のスープ (GEIBUN MOOKS) ムック – 2018/11/29
石原結實 (監修), 藤沢セリカ (その他)


スープは飲みやすく、食べやすい料理ですから
食事の一品として貴重な料理です。
とくに寒くなると、暖かいスープは貴重です。
毎日のようにスープを作って飲みたいものです。
どうせ飲むなら、健康によいスープを飲みたいですね。
こうしたレシピは、そのためにも貴重なアドバイスを与えてくれそうです。


ムック: 80ページ
出版社: 芸文社 (2018/11/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4863965842
ISBN-13: 978-4863965843
発売日: 2018/11/29

内容紹介
朝食に糖質が高い食事をとると、1日中高い血糖値で推移してしまいます。
とはいえ、朝食を抜くと糖尿病のリスクが高くなったり、肥満しやすくなります。
そこで、血糖値が上がりにくい野菜たっぷりのスープがおススメです。
さらに、体温が上がる食事は、免疫力を高め、代謝を上げてくれます。

また、夜ごはんは活動量が減る時間帯なので、糖質の多い食事は太りやすく、
さらに不眠にもつながります。睡眠不足は血糖値を上げてしまうため、
質の良い睡眠と消化のいい食事が理想的です。

そこで、ここでも、スープの出番です!
本書では、朝のスープと夜のスープにそれぞれ適した食材を使用して、
朝はなるべく簡単に、夜は一皿でボリュームがあって太りにくいスープを紹介しています。
毎日スープが作れるように、スープ元になるスープだね、
時間がないときのお湯を注ぐだけのクイックスープなど、
毎日スープを取り入れられるアイデアを紹介。
血糖値コントロールとダイエットに効く、バリエーション豊富なスープたちです。

この本のスープの特徴
1.糖質量・塩分量明記 糖質制限中の人にも安心
2.野菜がたっぷりとれる
3.セカンドミール効果が高い
4.安眠効果の高い栄養使用
5.代謝と免疫力が上がる!


多彩な作品について考えるための手引きに。「ヒッチコック: 生誕120年 」

2018年11月29日 | 新刊書
ヒッチコック: 生誕120年 (文藝別冊) ムック
河出書房新社編集部 (編集)


ヒッチコックが生まれてからもう120年にもなるのですね。
今でも彼の作品は古典として鑑賞されつづけています。
ヒッチコックについては多くの書物が刊行されていますが
今回の書物も彼の多彩な作品について考えるための
手引きになるのではないかと思われます。
詳細は明らかにされていないので、見ての楽しみというところでしょうか

ムック: 192ページ
出版社: 河出書房新社 (2018/11/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4309979602
ISBN-13: 978-4309979601
発売日: 2018/11/29

知られない少数民族を紹介した労作「現代ロシアにおける民族の再生」

2018年11月29日 | 新刊書

現代ロシアにおける民族の再生
ポスト・ソ連社会としてのタタルスタン共和国における「クリャシェン」のエスニシティと宗教=文化活動


ロシアに暮らすイスラム系の少数民族「クリャシェン」の民族性と宗教性を追跡した労作。
著者がどのようにしてこのテーマにたどりついたのかはわからないが
その熱意は、目次からもうかがうことができる。
まだまだこのようにして掘り出すべき多くの民族があるのだろうと思う。
ロシアにも中国にも。
これからいずれその多くが紹介されてくるだろうと思うと楽しみだ。


単行本: 379ページ
出版社: 三元社 (2018/11/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4883034682
ISBN-13: 978-4883034680


「クリャシェン」は、なぜ「民族」を名乗るのか。
彼らの民族的、宗教的な自己認識を、歴史的な背景や社会的・政治的な状況と関連づけながら明らかにし、特に宗教との関連に注目しつつ、この集団が「民族化」する過程とそのメカニズムを解明する。

定価=本体 5,093円+税
2018年11月25日/A5判上製/392頁/ ISBN978-488303-468-0




[目次]

凡例

序章 ポスト社会主義時代の民族、宗教の展開とタタール、クリャシェン 1
   1.  はじめに  2
   2.  旧ソ連・ロシア社会における民族と宗教  4
      2.1.  エスニシティと民族  4
      2.2.  ソ連・ロシアにおける民族とエスニシティ  9
      2.3.  宗教の復興とエスニシティ  15
      2.4.  ポスト社会主義という視点  19
   3.  研究対象-タタール、クリャシェンとタタルスタン共和国  23
      3.1.  タタールとクリャシェン  23
      3.2.  ロシアの中のタタルスタン共和国  26
   4.  調査概要  31
   5.  本書の構成  38

第I部 タタールの中のクリャシェン 41

第1章 受洗タタールからクリャシェン、そしてタタールへ 43
   1.1  イスラームの浸透と正教改宗政策  44
      1.1.1.  ロシア以前の沿ヴォルガ中流域  44
      1.1.2.  カザン陥落と正教宣教活動  45
   1.2.  受洗異族人の大量棄教とイリミンスキー  49
      1.2.1.  受洗異族人の大量棄教  49
      1.2.2.  イリミンスキーの宣教活動  52
      1.2.3.  棄教の限界とクリャシェンの名乗り  54
   1.3.  クリャシェンの認定からタタールへの統合  58
      1.3.1.  革命とクリャシェン  58
      1.3.2.  クリャシェンのタタールへの「融合」  63
   1.4.  歴史の狭間の存在としてのクリャシェン  71

第2章 『ジョレイハ』とクリャシェン 75
  2.1  タタールとジョレイハの物語  76
      2.1.1.  ムスリム・アイデンティティと「ジョレイハ」の物語  76
      2.1.2.  イスハキーのジョレイハ  79
   2.2  映画『ジョレイハ』の制作と特徴  82
      2.2.1.  『ジョレイハ』映画化の試み  82
      2.2.2.  映画『ジョレイハ』のあらすじ  86
      2.2.3.  映画『ジョレイハ』の特徴  88
   2.3  『ジョレイハ』の波紋  93
      2.3.1.  『ジョレイハ』への反応  93
      2.3.2.  『ジョレイハ』の描写と現実  98
   2.4  「誤ったタタール」としてのクリャシェン  104

第II部 「クリャシェン」という運動 111

第3章 クリャシェン運動の勃興 113
   3.1  タタール民族運動とタタルスタン共和国  114
      3.1.1.  ペレストロイカとタタール民族運動の開始  114
      3.1.2.  タタール民族運動の展開とタタルスタン共和国の確立  117
   3.2  現代のタタールとイスラーム  121
      3.2.1.  タタールのイスラーム復興  121
      3.2.2.  タタールと改宗の歴史  124
   3.3  クリャシェン運動の萌芽から国勢調査を巡る論争  127
      3.3.1.  クリャシェン運動の萌芽と組織化  127
      3.3.2.  第 1 回国勢調査とタタール・クリャシェン問題  134
      3.3.3.  国勢調査の結果  141
   3.4  クリャシェンの焦点化  145

第4章 クリャシェン運動の公認と分裂 149
   4.1.  民族運動の沈静化から公認  150
      4.1.1.  運動の沈静化  150
      4.1.2.  運動の公認と発展  153
   4.2.  第 2 回国勢調査とクリャシェン  159
      4.2.1.  第 2 回国勢調査の準備過程  159
      4.2.2.  第 2 回国勢調査とクリャシェン  162
      4.2.3.  国勢調査の現場で  164
   4.3.  クリャシェン運動の分裂  167

第5章 国勢調査と論点 171
   5.1.  国勢調査とロシアの諸民族  172
      5.1.1.  ソ連における民族の制定と統合  172
      5.1.2.  現代ロシアにおける国勢調査と民族概念の見直し  177
   5.2.  クリャシェンの語り方  182
      5.2.1.  クリャシェンの起源は何か  182
      5.2.2.  クリャシェンは宗教的か?  184
      5.2.3.  クリャシェン文化は存在するのか?  187
   5.3.  民族を規定するもの  191

第III部 クリャシェンと宗教 193

第6章 クリャシェンの宗教復興と日常 195
   6.1.  クリャシェンと宗教意識  196
      6.1.1.  無神論国家から宗教復興へ  196
   6.2.  宗教と人々の結びつき  202
      6.2.1.  結婚と宗教  202
      6.2.2.  タタールとクリャシェンの間の子供たち  206
      6.2.3.  埋葬をめぐって  208
   6.3.  宗教と差異の顕在化  211

第7章 エスニック・シンボルとしての教会 213
   7.1.  クリャシェンによる教会の復興  214
   7.2.  現在の教会における活動  217
   7.3.  教会への視線  223
   7.4.  クリャシェンと教会の現在  231

第8章 儀礼の位置 233
   8.1.  クリャシェンの祈願儀礼  234
   8.2.  コルマンの実践  238
      8.2.1.  コルマンの過去  238
      8.2.2.  シャシャウニク  241
      8.2.3.  コルマンの現在  243
   8.3.  儀礼に向けた視線  245
      8.3.1.  コルマンとロシア正教会  245
      8.3.2.  伝統としてのコルマン  252
   8.4.  コルマンとクリャシェンの現在  257

第IV部 クリャシェン文化を求めて 261

第9章 「クリャシェン文化」の現在 263
   9.1.  ソ連とタタルスタンにおける文化の「発展」  264
      9.1.1.  ソ連における民族と文化  264
      9.1.2.  タタルスタンにおける文化の実践  269
   9.2.  「クリャシェン文化」の展示  280
      9.2.1.  学校  280
      9.2.2.  博物館  285
      9.2.3.  アンサンブル  289
   9.3.  クリャシェンを語る場  294

第10章 「クリャシェン文化」のハイライト 297
   10.1.  タタール文化の祭典としてのサバントゥイ  298
      10.1.1.  タタールとサバントゥイ  298
      10.1.2.  サバントゥイのポリティクス  302
   10.2.  クリャシェンとピトラウの展開  311
      10.2.1.  ピトラウの変遷  311
      10.2.2.  クリャシェンの祝祭としてのピトラウ  315
      10.2.3.  ピトラウへの視線  322
   10.3.  祝祭のポリティクス  327

結論 329
   1.  クリャシェン・エスニシティの発現から民族の名乗り  330
   2.  現代ロシアにおける宗教とエスニシティ  333
   3.  民族を語る装置  338
   4.  狭間の解消と民族という拘束  342

参考文献一覧 347
あとがき 374

なんだかワクワクしてくる「牡蠣の歴史」

2018年11月28日 | 新刊書
牡蠣の歴史 (「食」の図書館)
キャロライン・ティリー (著), 大間知 知子 (翻訳)


牡蠣の歴史というような本がでるとは思っていませんでした。
すばらしい着想ではないですか。
砂糖の歴史などは、抑圧と暴力の歴史としてすでにいくつもの書籍が刊行されていますが
あまり歴史的なエピソードに縁のなさそうな牡蠣の歴史がありなら、
鯛の歴史とかあなごの歴史とかサツマイモの歴史とかニンニクの歴史とかも書けそうです。
なんだかワクワクしてきます。




単行本: 192ページ
出版社: 原書房 (2018/11/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4562055618
ISBN-13: 978-4562055616


有史以前から食べられ、二千年以上前から養殖もされてきた牡蠣をめぐって繰り広げられてきた濃厚な歴史。古今東西の牡蠣料理、牡蠣の保護、「世界の牡蠣産業の救世主」日本の牡蠣についてもふれる。レシピ、牡蠣便利ガイド付。

映画化してもらいたい自伝的な作品ヒシャーム・マタール「帰還: 父と息子を分かつ国」

2018年11月28日 | 新刊書
帰還: 父と息子を分かつ国 単行本 – 2018/11/28
Hisham Matar (原著), ヒシャーム マタール (著), 金原 瑞人 (翻訳)


リビアの小説家として注目されるヒシャーム・マタールの自伝的な作品。
わたしたちのよくしらない歴史と風土についての叙述が
あたかも映画のシーンのように語られる感じが素敵です。
いつか読んでみたい一冊。


単行本: 309ページ
出版社: 人文書院 (2018/11/28)
言語: 日本語
ISBN-10: 4409130412
ISBN-13: 978-4409130414

内容紹介
1979年、リビア。反体制運動のリーダーだった父がエジプトに亡命。だが11年後に拉致され、消息を絶った。2011年、カダフィ政権が崩壊。息子のヒシャームは、ついに故郷の地に降り立つ――。バラク・オバマ、C・アディーチェ、カズオ・イシグロが絶賛する、世界的ベストセラー。ピューリッツァー賞(伝記部門)受賞作。


「本書は、ヒシャーム・マタールが故国リビアに「帰還」した旅の記録であると同時に、そこへ至るまでの家族の歴史と、彼自身の心の軌跡を綴った作品である。ノンフィクションでありながら、ときに抒情的に、ときにシニカルに、ときに激しい憤りをこめて語られるストーリーは、美しい情景描写やリアルな人物描写ともあいまって、まるで小説のようでもある。

印象深い場面がたくさんある。たとえば、十代の頃の親友と、大人になってからロンドンの通りでばったり会って、再会を喜び、電話番号を交換するものの、立場の違いから、お互い決して連絡をとることはないだろうと思って別れる場面。「聖ラウレンティウスの殉教」「皇帝マクシミリアンの処刑」といった絵画にのせて語られる心情や、建築学を専攻した作者ならではの、建築物や街並みに関する考察も興味深い。イタリアの支配に対する抵抗運動に身を投じていた、祖父ハミードのエピソードも印象的だ。故国への旅のあいだ、マタールは様々に心を乱され、不眠に陥ったりもするが、そんな彼をあたたかく迎え入れてくれる人が大勢いたことにほっとさせられる。図書館でのイベントに、昔、彼の父親と一緒に発行していた同人誌を持って訪れる老人、彼の母親から受けた恩に対して深い感謝と敬意を表明する男性、そして、父親の故郷で彼を出迎え、手を握ってくれる、父親にそっくりの目をしたおばたち……。(中略)

『帰還』は、二〇一七年のピューリッツァー賞(伝記部門)ほか、数多くの文学賞を受賞した。二〇一八年七月には、オバマ前米大統領が、退任後初のアフリカ旅行を前に、「この夏、お薦めの本」の一冊にあげて、話題になった。ナイジェリア出身の女性作家、チママンダ・アディーチェは本作について、「心を動かされ、涙した。愛と故郷について教えられた」と述べ、カズオ・イシグロも「引き裂かれた家族をめぐる、不屈の精神に貫かれた感動的な回想録」と称賛している。」

――訳者あとがきより

内容(「BOOK」データベースより)
1979年、リビア。反体制運動のリーダーだった父がエジプトに亡命。だが11年後に拉致され、消息を絶った。2011年、カダフィ政権が崩壊。息子のヒシャームは、ついに故郷の地に降り立つ―。バラク・オバマ、C・アディーチェ、カズオ・イシグロが絶賛する世界的ベストセラー。ピューリッツァー賞(伝記部門)受賞。

著者について
ヒシャーム・マタール(Hisham Matar)/1970年、ニューヨークでリビア人の両親の間に生まれる。幼少年期をトリポリ、カイロで過ごす。1986年以降、イギリス在住。2006年、『リビアの小さな赤い実』(金原瑞人・野沢佳織訳、ポプラ社、原題 In the Country of Men)で小説家としてデビュー。自伝的要素の色濃い作品は高い評価を受け、ブッカー賞の最終候補にノミネートされたほか、英国王立文学協会賞など、数々の賞を受けた。その後、二作目の長編小説、『消失の構造』(原題 Anatomy of a Disappearance、2011年、未訳)を発表。リビアのカダフィ政権崩壊後に発表した本作The Return: Fathers, sons and the land in betweenでピューリッツァー賞(伝記部門)を受賞した。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
マタール,ヒシャーム
1970年、ニューヨークでリビア人の両親の間に生まれる。幼少年期をトリポリ、カイロで過ごす。1986年以降、イギリス在住。2006年、『リビアの小さな赤い実』(金原瑞人・野沢佳織訳、ポプラ社、原題In the Country of Men)で小説家としてデビュー。自伝的要素の色濃い作品は高い評価を受け、ブッカー賞の最終候補にノミネートされたほか、英国王立文学協会賞など、数々の賞を受けた。リビアのカダフィ政権崩壊後に発表したThe Return:Fathers,sons and the land in betweenでピューリッツァー賞(伝記部門)を受賞した

イギリスの著名な歴史家による貴重な第三帝国の歴史『第三帝国の歴史(全六巻)』

2018年11月28日 | 新刊書
第三帝国の到来(上) (第三帝国の歴史(全六巻))
リチャード・J・エヴァンズ (著), 大木 毅 (監修), 山本 孝二 (翻訳)


ビスマルクからヒトラーまで。
ドイツの近現代の歴史の焦点となる第三帝国の形成と発展の歴史は、
本格的な通史がいくつあってもまだ足りないほどの複雑さを抱えています。
イギリスの著名な歴史家による貴重な貢献です。


単行本: 402ページ
出版社: 白水社 (2018/11/28)
言語: 日本語
ISBN-10: 4560096643
ISBN-13: 978-4560096642

内容紹介
記念碑的名著、待望の翻訳!

本書は、豊富な史料を駆使して、19世紀のビスマルク帝国から、第一次世界大戦、ヴァイマール共和国とナチスの台頭、1933年にナチスが権力の座に就くまでを物語る、通史の決定版だ。政治・経済から社会・文化、戦争まで幅広く網羅し、同時代の人びとの肉声も再現している。
ナチスがいかにして、何故に権力を得たのかを理解することは、これまで同様に、今日でも重要である。おそらく、人びとの記憶が薄れていくにつれ、いっそう重要になるだろう。われわれには、ナチス自身の心のなかに分け入っていく必要がある。なぜ、彼らの対手がナチスを止められなかったか、理由を見出す必要がある。第三帝国がヨーロッパと世界を他に類を見ない残虐な戦争に追いやり、ついには自ら破滅、崩壊していった過程を理解する必要がある、と著者は「第三帝国の歴史」の執筆意図を述べている。
著者はケンブリッジ大学で近代史欽定講座担当教授を務めた、ドイツ近現代史家。学術的功績を称えられてナイトに叙されている。口絵写真・地図多数収録。

著者について
ケンブリッジ大学で近代史欽定講座担任教授を務めたドイツ近現代史家。2012 年、学術的功績を称えてナイトに叙される。編著の抄訳『ヴィルヘルム時代のドイツ――「下から」の社会史』、D・ブラックボーン及びG・イリーの論文を合わせて共著という形を取った『イギリス社会史派のドイツ史論』、単著の『歴史学の擁護――ポストモダニズムとの対話』(以上、晃洋書房)、『力の追求 ヨーロッパ史1815-1914 上・下』(白水社)の邦訳がある。

ユニークな視点から世界史を読み直す「共通語の世界史:ヨーロッパ諸言語をめぐる地政学」

2018年11月27日 | 新刊書
共通語の世界史:ヨーロッパ諸言語をめぐる地政学 単行本 – 2018/11/27
クロード・アジェージュ (著), 糟谷 啓介 (翻訳), 佐野 直子 (翻訳)


人間を言語を話すホモ・ロクエンスという観点から考察しながら
世界史を新たな視点で捉え返す一冊。
クロード・アジェージュの本はこれまで読んだことがないので
ぜひ新たな視点での考察を読んでみたいと思います。



単行本: 380ページ
出版社: 白水社 (2018/11/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4560096597
ISBN-13: 978-4560096598

内容紹介
ホモ・ロクエンス全史と商業・宗教・軍隊

ヨーロッパに息づく少数言語から、世界中で息まく連合言語まで!
ホモ・ロクエンス(話すひと)の驚くべき多様性がおりなす人類史をめぐり、ことばの「シェア」に秘められてきた三大要素をときあかす。
「アメリカ合衆国からオーストラリアやニュージーランドまで、南アフリカからカナダまで、さらには、インドのように、英語が国民語ではないまでも公用語の地位に就いている国々が同じくらいのひろがりを見せていることも考えに入れるなら、英語が商業と軍隊によって地球上の津々浦々にまでもち運ばれて、広大な空間を占めるにいたったわけである。[…]ヨーロッパでは、言語が愛国意識を高めるきっかけとなることがよくある。そのヨーロッパにおいて、言語による自己主張の渇望は、共通語の必要性をなきものにしないまでも、共通語の圧力を減らそうとする性質をもっている。こうしてみると、ヨーロッパは、英語に開かれていると同時に、言語的多様性を守ろうとする明確な態度を示していると言える」(本書より)。
社会言語学の泰斗による名著、待望の邦訳。巻末に、言語分布地図・言語名索引付。

著者について
1936年生まれ。フランスの言語学者。著書に『ホモ・ロクエンス』、『言語構造と普遍性』(白水社)、『絶滅していく言語を救うために──ことばの死とその再生』(白水社)ほか多数。

「デリダと死刑を考える」

2018年11月27日 | 新刊書
デリダと死刑を考える
高桑 和巳 (著, 編集), 鵜飼 哲 (著), 江島 泰子 (著), 梅田 孝太 (著), 増田 一夫 (著), & 2 その他



死刑の問題は、デリダが晩年にセミナーで集中的に考察したテーマです。
すでに白水社から『死刑I 』(ジャック・デリダ講義録)が刊行されていますが、
このたび、この問題について日本の論者たちの文章がまとめて書物になりました。
死刑の問題について、ニーチェ、カミュ、ユゴーなどの文章をデリダの観点から考察するもののようです。
どんな議論が展開されているか、楽しみです。


単行本(ソフトカバー): 270ページ
出版社: 白水社 (2018/11/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4560096716
ISBN-13: 978-4560096710

内容紹介
ソクラテスからオウム真理教まで!

デリダで/とともに考えるのは、ソクラテスからオウム真理教まで! デリダの脱構築を手がかりに、政治と宗教と権力の力学をあぶりだし、死刑を考えるためのハンドブック。編者の緒言をはじめ、六人の執筆者による書き下ろし。
本書のタイトルは、〈仮に英語にするならば「Thinking Death Penalty with Derrida」とでもなるが、「with」は「……を用いて」という意味にもなる。デリダについて考えながら、デリダを伴走者としつつ、デリダを用い、あらためて死刑制度を考えよう、というわけである〉(「はじめに」より)。

収録論考は「ギロチンの黄昏──デリダ死刑論におけるジュネとカミュ」(鵜飼哲)、「ヴィクトール・ユゴーの死刑廃止論、そしてバダンテール──デリダと考える」(江島泰子)、「デリダの死刑論とニーチェ──有限性についての考察」(梅田孝太)、「定言命法の裏帳簿──カントの死刑論を読むデリダ」(増田一夫)、「ダイモーンを黙らせないために──デリダにおける「アリバイなき」死刑論の探求」(郷原佳以)、「デリダと死刑廃止運動──教祖の処刑の残虐性と異常性」(石塚伸一)。

著者について
慶應義塾大学理工学部准教授。専門はフランス・イタリア現代思想。著書に『アガンベンの名を借りて』(青弓社、2016年)、編著書に『フーコーの後で』(共編、慶應義塾大学出版会、2007年)、訳書にジャック・デリダ『死刑I』(白水社、2017年)、ミシェル・フーコー『安全・領土・人口』(筑摩書房、2007年)、イヴ゠アラン・ボワ&ロザリンド・E・クラウス『アンフォルム』(共訳、月曜社、2011年)、ジョルジョ・アガンベン『ホモ・サケル』(以文社、2003年)、同『思考の潜勢力』(月曜社、2009年)、同『王国と栄光』(青土社、2010年)など。


アルヴァックスの古典的な名著「記憶の社会的枠組み」

2018年11月27日 | 新刊書
記憶の社会的枠組み (ソシオロジー選書)
モーリス・アルヴァックス (著), 鈴木 智之 (翻訳)


わたしたちの記憶というものは、たんに個人的な部分もありますが
実際にはわたしたちが属している集団や、生きている社会から強く影響されたものです。
何を特に記憶するかというのは、わたしたちが暮らしている生活のうちで決められているものだからです。
ブーヘンヴァルト収容所で亡くなったアルヴァックスの記憶論としては、
すでに晩年の『集合的記憶』が翻訳されていますが、
前期の『記憶の社会的枠組み』の翻訳が新たに刊行されることになったのは、うれしいことです。



単行本: 416ページ
出版社: 青弓社 (2018/11/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4787234439
ISBN-13: 978-4787234438

内容紹介
エミール・デュルケムの集合意識論を批判的に継承し、フランス社会学派第2世代の中心を担ったアルヴァックス。近年、海外でも再評価が進むアルヴァックスが1925年に執筆した「記憶の社会学」の嚆矢が本書である。 社会のメンバーがみずからの過去を想起するとき、「記憶の社会的枠組み」がいかに機能するのか、過去の出来事の記憶を社会のメンバーはどう組織化し、「集合的記憶」を形成するのか、「集合的記億」は社会にどのような影響を及ぼすのか――。 アルヴァックスは本書でまず、個々人の夢や記憶などを論じるベルクソンやフロイトなどの哲学や心理学を緻密に検証する。そのうえで、「家族」「宗教」「社会階級」などを切り口に、社会集団にとって記憶が、人々を統合するばかりでなく、ときに分断もするというその社会的な機能を析出する。 記憶をどう継承するのか、歴史と社会の関係をどう考えていくのかが様々な局面で問われる今日にも、集合的記憶という視点から問題提起を差し向けるアクチュアルな古典的名著。

前言

第1章 夢とイメージ記憶

第2章 言語と記憶

第3章 過去の再構成

第4章 思い出の位置づけ

第5章 家族の集合的記憶

第6章 宗教の集合的記憶

第7章 社会階級とその伝統

結論

訳者あとがき――鈴木智之

人名索引

事項索引

著者について
1877年生まれ、1945年没。フランスの社会学者。デュルケム学派第2世代の中心的存在の一人として、社会階級論、記憶論、社会形態学、集合心理学など多岐にわたる領域で研究をおこなった。ストラスブール大学、ソルボンヌ大学、コレージュ・ド・フランスの教授を歴任するが、1944年、ナチスドイツに捕らえられ、45年にブーヘンヴァルト収容所で病死する。著書に『労働者階級と生活水準』『自殺の諸原因』『社会形態学』『聖地における福音書の伝説的地誌』など、邦訳書に『社会階級の心理学』(誠信書房)、『集合的記憶』(行路社)がある。

写真を眺めるだけでも楽しい「日本料理の季節の椀」

2018年11月26日 | 新刊書
日本料理の季節の椀
奥田 透 (著), 末友 久史 (著), 松尾 慎太郎 (著)


この時期は、椀ものが恋しくなる時期ですね。
レシピを見ても、特に椀ものは真似することが難しいのですが
写真を眺めるだけでも楽しいものですし
料理のヒントがわずかでもえられるといいですね。


単行本: 168ページ
出版社: 柴田書店 (2018/11/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4388062723
ISBN-13: 978-4388062720

内容紹介
日本料理の<椀もの>は、料理人が献立の中でもっとも力を入れるジャンル。

「椀料理こそが、日本料理の魅力と技術の<粋>を体現する」と言ってもいいほど、花形の存在だ。

東京・京都・大阪の実力派料理人による、春夏秋冬のお椀料理61品を調理のプロセス写真つきで紹介。

使用した食材は椀種、あしらい、吸い口、椀地とジャンル別に索引をつけた。また、登場するお椀一覧では外見はもちろん蓋の裏の意匠も見せる写真も収録。

※本書は、月刊専門料理誌上で連載した奥田透氏の「季節のお椀12か月」を基に、祇園末友、
北新地弧柳での新規撮影を加え、連載時の倍以上の52品と椀替わり9品を収録したものです。

買い逃していたのを買うチャンス。「ライプニッツ著作集第1期 新装版(4)認識論『人間知性新論』上」

2018年11月26日 | 新刊書
ライプニッツ著作集第1期 新装版(4)認識論『人間知性新論』上 単行本 – 2018/11/26
G・W・ライプニッツ (著), 下村 寅太郎 (監修), 山本 信 (監修), 中村 幸四郎 (監修), & 4 その他



ライプニッツ著作集は、第二期の三冊の刊行が完了したのに合わせて
第一期の十冊も、新装版で復刊されることになりました。
買い逃していたのを買うには、チャンスですね。


内容紹介
微小表象とは何か?
ジョン・ロック『人間知性論』への反論

A・N・ホワイトヘッドが「天才の世紀」と呼んだ17世紀に生をうけ、
デカルトやニュートンをはじめとする同時代の偉才の思想に向き合い、
さらなる可能性を求めつづけたライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz, 1646-1716)。
経験論の主柱J・ロックの『人間知性論』を精読し、生得観念、無意識、微小表象などをもって
つぶさに反論を開始する。

単行本: 352ページ
出版社: 工作舎; 新装版 (2018/11/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4875024983
ISBN-13: 978-4875024989

[目次]
序文
第1部「生得的概念について」
第2部「観念について」

下巻([5]認識論『人間知性新論』下)
第3部「言葉について」
第4部「認識について」

出版社からのコメント
待望の新装復刊!
『ライプニッツ著作集 第I期(全10巻)』は、下村寅太郎・山本 信・中村幸四郎・原 亨吉各氏を監修者に迎え、バロックの哲人ライプニッツの普遍的精神の全容を精選・翻訳した本邦初、世界に類のない著作集。論理学、数学、自然学、哲学、宗教から中国学まで、多岐にわたる主要著作を総合的に編み、1999年に完結しました。第35回日本翻訳出版文化賞受賞。『第II期(全3巻)』の完結を機に、『第I期(全10巻)』を函なし新装版にて順次復刊します。

精神分析の新たな展開が期待される岡野憲一郎「精神分析新時代】

2018年11月26日 | 新刊書
精神分析新時代
岡野憲一郎 (著)



岡野憲一郎さんには、下に示すような多数の著書や訳書があります。
多重人格や自己愛を中心として理論を展開してこられたようです。
精神分析という分野は、フロイトの時代からすでに何度も改革が続けられていますが
まだまだ新しい展開が求められています。
岡野憲一郎さんの1999年の「新しい精神分析理論」からどのように理論が展開されているのか、
読むのが楽しみです。



単行本: 275ページ
出版社: 岩崎学術出版社 (2018/11/16)
言語: 日本語
ISBN-10: 4753311481
ISBN-13: 978-4753311484

内容紹介
(序文より抜粋)
精神分析の未来形
妙木 浩之

若い時から良く知っているが,岡野憲一郎は「書く人」である。彼はいつも考えていることを書きながら歩いている。その思索は,書くことによって再帰的に着想になり,オリジナルな思考がその循環のなかから生み出される。本書は,そのオリジナルな思索を,文字通り,精神分析とは何かという問いに,改めて組みなおそうとした本だ。…
おそらく日本を含めて,精神分析のパラダイムに地殻変動が起きていることは間違いない。それを「静かな革命」と呼ぼうと「分析新世代」と呼ぼうと,パラダイムの変更がはっきりして私たちの目に見えるのは,まだ先のことだろう。これからの精神分析を考える上で,期待や願望を含めて,重要な論点を列挙するなら,
1 精神分析の理論の全体を,既存の対象関係論のパラダイムをもとに,組み替えていく。結果として,
2 精神分析が他の諸科学との接点のなかで,オリジナルな思考を展開する。
3 新しい精神科学の知見に合わせて理論の更新と修正を繰り返していく,ということが求められている。
これら後半の二つが,本書の主題であり,岡野が問い直していることだ。もちろん,これらの行為を現代ではEvidence-basedな世界との接点を求めることで行っていく必要もあるだろうが,そもそも,他の隣接科学への接点という着想があるかないかは大きい。例えば,かつてフランクフルト学派,つまり批判理論は,マルクス主義と精神分析を車輪の両軸のようにして発展した社会学だったが,それだけ精神分析の着想が担保されていた時代があるのだ。現在,精神分析理論が他の学問に影響する回路は,「臨床」という名前で学問が閉ざされ始めてから,すっかり失われてしまったように見える。精神分析は独自な方法論であることは確かだが,理論は汎用性が必要であり,そのためもう一度,他の諸科学にインパクトのある理論に組みなおしていく,問い直していく必要がある。岡野の仕事は,そうした着想に満ちている。
だから本書で登場する,これまでの前提を「問い直す」という各章は,精神分析臨床そのものを脱構築しようとする彼の意思表明だ。そして最後に脳科学,さらには現代のAIの深層学習に触れながら,無意識を再定式化しようとするところはなかなかスリリングである。解釈って何か,終結って何か,といった技法への問い直しのみならず,フロイトがジャネとの関係で踏み込まなかった「解離」を愛着理論の視点からとらえなおして,右脳の機能的な理解から,さらには深層学習の理解から,新しいアイデアを提示しようとしている。私たちが当然の前提としてしまっている精神分析のジャーゴンやドグマに対する異議申し立て。「書く人」岡野憲一郎の思索は,精神分析の未来を考える上で,重要な一石を投じている。
できる限り,大きな波紋が拡がることを願っている。

 序  文──精神分析の未来形
 まえがき
第Ⅰ部 精神分析理論を問い直す
 第1章 精神分析の純粋主義を問い直す
 第2章 解釈中心主義を問い直す(1)─QOL向上の手段としての解釈
 第3章 解釈中心主義を問い直す(2)─共同注視の延長としての解釈
 第4章 転移解釈の特権的地位を問い直す
 第5章 「匿名性の原則」を問い直す
 第6章 無意識を問い直す─自己心理学の立場から
 第7章 攻撃性を問い直す
 第8章 社交恐怖への精神分析的アプローチを問い直す
 第9章 治療の終結について問い直す─「自然消滅」としての終結
第Ⅱ部 トラウマと解離からみた精神分析
 第10章 トラウマと精神分析(1)
 第11章 トラウマと精神分析(2)
 第12章 解離の治療(1)
 第13章 解離の治療(2)
 第14章 境界性パーソナリティ障害を分析的に理解する
 第15章 解離の病理としての境界性パーソナリティ障害
第Ⅲ部 未来志向の精神分析
 第16章 治療的柔構造の発展形─精神療法の「強度」のスペクトラム
 第17章 死と精神分析
 第18章 分析家として認知療法と対話する
 第19章 脳からみえる「新無意識」
 第20章 精神分析をどのように学び,学びほぐしたか?

 参考文献
 あとがき
 索  引


著者について
1982年東京大学医学部卒業,医学博士。1982~85年東京大学精神科病棟および外来部門にて研修。1986年パリ,ネッケル病院にフランス政府給費留学生として研修。1987年渡米,1989~93年オクラホマ大学精神科レジデント,メニンガー・クリニック精神科レジデント1994年 ショウニー郡精神衛生センター医長(トピーカ),カンザスシティー精神分析協会員。2004年4月に帰国,国際医療福祉大学教授を経て現職京都大学大学院教育学研究科臨床心理実践学講座教授,米国精神科専門認定医,国際精神分析協会,米国及び日本精神分析協会正会員,臨床心理士。 著訳書 恥と自己愛の精神分析,新しい精神分析理論,中立性と現実新しい精神分析理論2,解離性障害―多重人格の理解と治療,脳科学と心の臨床,治療的柔構造,新外傷性精神障害─トラウマ理論を越えて,続 解離性障害―脳と身体からみたメカニズムと治療,脳から見える心―臨床心理に生かす脳科学,恥と「自己愛トラウマ」,臨床場面での自己開示と倫理(以上岩崎学術出版社)



岡野さんには次のような著書や訳書があります。

■精神力動的サイコセラピー入門 : 日常臨床に活かすテクニック
セーラ・フェルス・アッシャー著 ; 岡野憲一郎監訳 ; 重宗祥子訳
岩崎学術出版社 2018.9
■精神分析過程における儀式と自発性 : 弁証法的-構成主義の観点
アーウィン・Z.ホフマン著 ; 岡野憲一郎, 小林陵訳
金剛出版 2017.11
■週一回サイコセラピー序説 : 精神分析からの贈り物
高野晶編著
創元社 2017.11
■自己愛的 (ナル) な人たち
岡野憲一郎著
創元社 2017.11
■快の錬金術 : 報酬系から見た心
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2017.9 脳と心のライブラリー
■臨床場面での自己開示と倫理 : 関係精神分析の展開
岡野憲一郎編著 ; 吾妻壮, 富樫公一, 横井公一著
岩崎学術出版社 2016.11
■心理療法における終結と中断
岡野憲一郎, 松下姫歌, 高橋靖恵編
創元社 2016.3 京大心理臨床シリーズ, 11
■解離新時代 : 脳科学、愛着、精神分析との融合
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2015.8
■臨床医のための精神科面接の基本
日本精神神経学会精神療法委員会編 ; 松木邦裕 [ほか] 著
新興医学出版社 2015.6
■恥と「自己愛トラウマ」 : あいまいな加害者が生む病理
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2014.6
■脳から見える心 : 臨床心理に生かす脳科学
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2013.7
■解離の病理 : 自己・世界・時代
柴山雅俊編 ; 松本雅彦 [ほか] 著
岩崎学術出版社 2012.11
■心理療法/カウンセリング30の心得
岡野憲一郎 [著]
みすず書房 2012.7
■関係精神分析入門 : 治療体験のリアリティを求めて
岡野憲一郎 [ほか] 著
岩崎学術出版社 2011.11
■構造的解離 : 慢性外傷の理解と治療
Onno van der Hart, Ellert R.S. Nijenhuis, Kathy Steele著
星和書店 2011.10
■脳と身体からみたメカニズムと治療
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2011.9 解離性障害 / 岡野憲一郎著, 続
■わかりやすい「解離性障害」入門
岡野憲一郎編 ; 心理療法研究会著
星和書店 2010.8
■恥と自己愛の精神分析 : 対人恐怖から差別論まで
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2010.4 オンデマンド版
■解離性障害
岡野憲一郎責任編集
中山書店 2009.12 専門医のための精神科臨床リュミエール, 20
■新外傷性精神障害 : トラウマ理論を越えて
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2009.8
■多重人格者 : あの人の二面性は病気か、ただの性格か : 不思議な「心」のメカニズムが一目でわかる
岡野憲一郎監修
講談社 2009.2 こころライブラリー : イラスト版
■治療的柔構造 : 心理療法の諸理論と実践との架け橋
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2008.8
■多重人格の理解と治療
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2007.8 解離性障害 / 岡野憲一郎著, [正]
■女性心理療法家のためのQ&A
岡野憲一郎編 ; 心理療法研究会著
星和書店 2007.7
■「特集」ボーダーライン(境界性人格障害)
星和書店 2006.3 こころの臨床a・la・carte, ; 第25巻第1号
所蔵館10館
■脳科学と心の臨床 : 心理療法家・カウンセラーのために
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2006.11
■忘れる技術 : 思い出したくない過去を乗り越える11の方法
岡野憲一郎著
創元社 2006.10
■気弱な精神科医のアメリカ奮闘記
岡野憲一郎著
紀伊國屋書店 2004.12
■自然流精神療法のすすめ : 精神療法、カウンセリングをめざす人のために
岡野憲一郎著
星和書店 2003.10
■中立性と現実
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 2002.10 新しい精神分析理論 / 岡野憲一郎著, 2
■心のマルチ・ネットワーク : 脳と心の多重理論
岡野憲一郎著
講談社 2000.9 講談社現代新書, 1519
■新しい精神分析理論
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 1999.10-
■米国における最近の動向と「提供モデル」
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 1999.10 新しい精神分析理論 / 岡野憲一郎著, [1]
■恥と自己愛の精神分析 : 対人恐怖から差別論まで
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 1998.9
■対象関係集団精神療法 : 対象・道具・訓練の基盤としてのグループ
ラモン・ガンザレイン著 ; 岡野憲一郎 [ほか] 訳
岩崎学術出版社 1996.10
■外傷性精神障害 : 心の傷の病理と治療
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社 1995.11
■ある精神分析家の告白
H. S. ストリーン著 ; L. フリーマン口述筆記 ; 岡野憲一郎訳
岩崎学術出版社 1993.7
■解離性障害
岡野憲一郎著
岩崎学術出版社