白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

電化幻影

2007-09-15 | 純粋創作
電化された鉄路伝いにここへ来て
まるで銀河だな
行き交うひとびとのドットがだよ
自分で自分は見えないから
無数の心音の錯綜する交差点で
試しに渋谷 スクランブル交差点に寝そべってみたら
案の定 マセラティに轢き殺されてさ
いや、ただ ヒール履いた褐色の棒立ち暖簾に
踏み殺されてるところなんだけどね





身体を充電器にして
肉 練りあわせてるうちに
どうやら記憶が値崩れを起こしたみたいで
すりきれて赤剥けてオロナインのご厄介
静電気のせいで映像も幻燈もありゃしない
やがて心臓が糞のように ぼとり
落ちる 
にじむ
俺は昔野糞する少女阿闍梨の腹を蹴り飛ばしてやった
けっ、わざとらしい腫れぼったい涙だと思ってさ





やっと
逆巻く熱の嵐を焚き 焔立ち狂って
天空から垂れる糸に ひょい、と
量販店の3万円スーツ着て
サラリーマンが釣り上げられていくのが見えるようになった
量販店の3万円スーツ着て かろやかに
次々に、ひょい







餌付けされた労務者の鰯の群れを
一面の黒叢 錆びて濁った血布団を枕にして
天上へと陥落して砂礫化して滑り落ちるビルと 
岬の巌の波涛のような雷雲と
ぼんやりと飛び込むように見えているそのさきの 
空海へと釣り戻されてくのを眺めていて
・・・あ、あんた尿っぽいんだよ
酸っぱいから資本主義が喰えないから嘔吐したんだ
缶詰はマロニエの陰で寝てろってさ
生活はすべてのひとびとを孤独にしたんだから
あきらめなよ、ってなもんでさ





名前は明かさず 
名前がないようにして
あるいは名前を忘れて さ
黙って 罵声と怒りを誰にも浴びせることなく
口の中で破裂させて
充ちた血糊を噛み砕いてさ
十分に傷を吐き出してうつむくと 
果たして水銀の鈍い光の沼で、
こっちも飛び込むか、と
ふと見渡して後ずさり
あたりはひとびとが半身でつかえて
惨めに二股を湖面から突き出してもがく卒塔婆の桧原湖だ





人骨漂う湖底に揺らぐ青い百姓の墓が口を開けてて 
ねじれ上がる地上の皮膚と
俺の挽肉でよけりゃ喰ってもらっていいんだけどさ
ひとびとの後姿しかこの世にはなく
見えず
あるいは水銀の沼に飛び込んでも
ざぼん とはいくまいて





ぼくの後ろではいま金属音が錯綜しているみたいで
代々木の捻れたフォルムに切りつけた風が
とても生温くてねっとりとして
風の焔の旋風のあとは
飛沫が頬に針さして点描する
影に傷つけてね
鋼鉄きしみ 歪み 引き裂く轟音のなか
東京を鎮めていくオーネットのバラード





湖底乾いて 墓が裸足で歩き始めるころ
汗で冷えた女の身体が徐に起き上がって
太陽を覆い隠す
まずいことになったな
パソコンに飛び込んで枕もとの酒瓶のなかで
いつも怒鳴り散らしているうちに
いったい何度目覚めたのかわからなくなってきたぞよ





飛散する虻の群れの
爆発音で起き上がると
胃袋が引き攣り笑って座礁して
俺を消化しているみたいだったから
もう目覚めるのはやめるよ
怪訝な顔するなって
夜は所詮包装紙にすぎなかったんだ
廃材を持ってきたら簡単なことなんだから
いいから乱射しろって
紙を破いたらそこにすぐに太陽があるんだから






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