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急行特急は行く…

急行特急THが、気のみ気のままに形創るブログ

『夏の橋の下物語』

2010年05月04日 23時08分38秒 | 物語・小説
『夏の橋の下物語』
 
 ある年の夏休みの事。
 中台宙也(なかだいちゅうや)は、父親の実家を訪れていた。
 毎年夏休みになると、宙也は決まってそこへ行く…というより、行かされるというのが慣習だった。
 毎年の事になり、宙也としてはもう行く事に飽きては居たが、家に居てみてつまらぬ夏休みとなってしまう。周囲の友人達も皆一応にどこかへと行ってしまい、遊ぶ機会もままらないという現実もあるので、何もしないよりは良いかな、という想いが彼の中ではあったものの、父の実家へ行けば誰かしら知り合いは居ても遊び相手になってくれるような人はおらず、テレビゲーム三昧という不健康なパターンになる事も多かった。
 
(…ん?朝か)
 目覚めると窓の向こうから力強い日差しが宙也を照らし、耳に入って来たのはセミの鳴き声。
(さて、今日はどうしようかな?)
 家の中に居るのもなぁ、と寝ぼけ頭を描きながらそう思いつつ、折角の夏なので近くの川辺にでも行こうかなと不意に考えた。

 朝食を食べて少し経ってから宙也は家を出た。
(今日もひとりか)
 そこまで友人が多いという宙也ではないが、やはり独りきりというのは寂しい物がまだまだある年齢だった。

 近くの川べりはすぐ近くが海だったので、水遊びは自由に出来るという夏に相応しい環境だった。それを宙也の父親が自慢気に子供の頃、聴かされていた。
 照りつける太陽と淡い色した空の下、宙也は1人水に戯れ、持て余している時間を最大限生かした。
 休みというのは、何をして時間を費やすか、それが課された1つの問である。
 何もしないままに膨大な時間が広がる事に、人はやはりどこかで疲れを感じる物である。
故に、何かをする。その「何か」が大切で、それを考えるのが楽しみでもあるが、面倒でもある。

 やがて日が傾きかけた頃、宙也は川辺の道を家に戻る為に歩いていた。
(あれ?)
 対岸へ渡る為の小さな橋の近くを通った時、ギターの弦を弾く音と歌声が聞こえた。
(橋の下?)
 その声と音がする所を見てみると、宙也と同じ年齢と見える少年の姿があった。
(あの人が歌ってるんだ)
 へぇー、と思いしばらく宙也はその少年を見つめた。
(良い感じじゃん)
 丁度、今時分の夕暮れにあう哀しい歌に聞こえ、なんだかもう夏休みが終わり秋が来てしまいそうな感じだったが、不思議とその声とメロディーが宙也の胸に届く物があった。
(あっ)
 しばらく聴いていたらチラッと少年に宙也は見られ、気まずさを感じたのでその場を後にした。

 それから2日後の事。
 宙也は、釣りをしていた。
 思いつきで始め、しかも午後からのスタートだったので釣れる筈も無くぼんやりとしたまま、いつしか眠り込んでしまった。
 どのくらい経過してからだろう、不意に意識が戻った時、いつかに聴いたあのメロディーが耳に入った。
(あれ?)
 どこからだろう?と宙也は釣竿を引き上げ、音のする方へ行ってみた。すると、あの少年が再びギター片手に歌を歌っていた。
「…見慣れない顔だね」
 宙也に気づくと少年は顔を上げてそう言った。
「君、名前は?」
 歌声とは違った声で宙也は問われたので、問いかけに応えた。
「俺は、印台 叔丘(いんだいよしたか)って言う。よろしく」
 と言って印台はギターをジャランと鳴らす。
「毎日、ここで弾いて歌ってるの?」
「うん。涼しくなったらだけどね。家じゃ、うるさいって言われるからさ」
 どこかつまんなそうに印台は宙也の質問に答える。
「でも歌巧いよね。ギターもだけど」
 聴いたまんまの感想を宙也はぶつけると、印台は、ふっと笑った。
「へぇー、変わってるね。俺の歌声が良いなんて言われたの初めてだよ」
(こんな明るい表情も出来るんだ)
 暗そうな印象があって、幸薄そうな感じの顔立ちからはちょっと想像つかない表情に宙也はちょっと面食らった。
「それで、この歌は誰の歌なの?」
「うん。言っても知らないだろうから、言いたくない」
 ぶっきら棒に印台に言われ、宙也はちょっとムッと来たの同時に、言われないと余計に気になる、という想いにかられた。
「ところで、西台は一体どこから来たんだい?ここらじゃ見かけない顔だけど」
 宙也の質問には答えず行き成り印台に問われた。
「言っても解らないだろうから、言わない」
 逆襲するかの様に宙也は言ってみた……だが、何故か隠し通せなかったので印台の問いに素直に応えた。
「そうなんだ。遠そうな所から来たんだね。けど、素直だねちゃんと訊かれた事に答えるなんて」
 印台はゆっくりとそう言った。
「そうかな?」
 予想外の反応に宙也は戸惑う。
(なんか面倒そうな人だな)
 近づいちゃいけなかったかな?と胸の中でそう宙也は呟いた。

 その日の夜、花火大会が催された。
 沢山の人が集まる中、暗い夜空に色彩り豊かな大きな光と音で満たされた。
「やぁ、こんばんは」
 宙也は、数時間前に出会ったあの橋で落ち合った。
 2人は場所を移動し、露店が並んでいる場所を通り、花火が見える場所へと移動した。
「結構、人が居るんだね」
 普段からは想像がつかない人ごみに宙也はちょっと面食らう。
「まぁ、多分、他所から来てる人も居ると思うけどね」
 見かけない顔ばかりだよ、と、どこかつまらなそうに或いはどこかホッとした様なトーンで印台が言ったと同時に、派手な音と共に大きな花火が空に咲き、たまや、と言う人の声もした。
「今のは綺麗だったね」
 嬉しそうな印台の横顔を見て、宙也は大きく頷いた。その時だった。
「あれ、印台じゃねー」
 不意に声がした方を宙也は見ると、そこにはやや素行の悪そうな少年達3人の姿があった。
「あの隣の奴は誰だよ」
 その声がした時、グイッと印台が宙也の腕を掴み走り出した。
「わっ、ちょっと」
 行き成りだったので、宙也はよろけ、行き交う人にぶつかり、嫌な顔をされた。

 しばらく2人は走り、さっき落ち合った橋まで戻った。
「ゴメン。突然」
 ぼそっと印台が言う。
「あいつらと関わると厄介だから」
 印台の言葉に宙也は頷いた。
「こんな街だからって訳じゃないけど、余所者への風当たりはきついんだ」
 何でだろうな、と印台は言う。
「同じ人間だってのに。奴らの心は狭い」
 嫌そうな口調で言ったのと同時に近くにあった石を印台は蹴り飛ばした。
(ひょっとして)
 宙也が胸の中で思った時、
「橋を渡って、あの道の突端へ行こう。それでも結構見えるんだ」
 印台は対岸を指差し、歩き出していた。
「まってよ」
 初動が遅れた宙也は、小さな悲鳴を上げても印台はそのまま行ってしまい、背中を追いかけたが暗闇にその姿は消えてしまい見失ってしまった。
(あれ、何処行った?)
 辺りを見たが印台は居なかった。
(はぐれちゃったよ)
 宙也は途方にくれ、家に戻ることにした。それがその年に宙也が印台を見た最後になった。


 1年後の夏。
 宙也は、例年通り同じ地に赴いた。
(あの人はどうしてんだろう)
 時間が経過していたとは言え、宙也は印台の事が気になっていた。
折角知り合ったのだから、もう1度会いたい、と宙也は思い、出会った橋へ行って見た。すると、あのギターと歌が聞こえてきたので宙也は橋の下へ行くと変わらない姿で印台
がそこに居た。
「……今年も来てたんだ」
 冷静でありつつも驚いた表情を印台は浮かべた。
「まさか、またここに来るとは思わなかったよ」
 驚いたな、と印台は言う。
「うん。また会いたいなって思ったからさ」
 宙也は印台の隣に座った。
「何だよ。友達なら他に居るだろ?俺じゃなくたっていいんじゃないのか?」
 そっぽを向いて印台が言う。
「居ないよ。会った事も無いよ、お前以外には」
「そっか。まぁ、あの辺りは子供が居ないからな」
 仕方ないか、と近くにあった小石を川へ向かって投げ入れた。
「ゴメン。あの時は裏切って」
「ああ、別に良いよ。あんな暗がりじゃ見失っても仕方ない」
 そこまで暗かったという訳でもなかったが、とりあえず宙也はそう言っておいた。
「俺の正体が知れちゃったかなって思ったら、何かお前と居るのが嫌になってさ」
「はい?」
 何を一体言っているんだろう、と宙也は思う。
「実は、俺もここいらじゃ、余所者に入る部類でさ」
 印台は再び近くにあった小石を川に投げ入れた。
「ここは地元意識が強くってさ、皆顔見知りお隣同士的な感じで、居心地悪いんだ」
「そうなんだ」
 苦しそうな表情を浮かべる印台に宙也は巧い言葉が出なかった。
「こんな所で独りイジケテ、ギター片手に歌なんか歌ってもどうにもならないんだけど、それしか、楽しみがなくってさ」
「……」
 つまり、友達が居ないって事か、という言葉を宙也は飲み好んだ。
「こうして歌ってると少し気分が紛れるし、割とこの場所の静かさとか風が好きでこうしているんだ」
「へぇー」
 印台の言う事が少し宙也は解った気がした。
「お前は、自分の住んでる街、好きか?」
「えっ?うん、どうかな」
 そんな事、考えた事も無い宙也である。
「俺はこの街、この場所が嫌だ。前住んでた所もそこまで好きって訳じゃなかったけどな。けど、ここよりは良かったかな」
 懐かしそうに印台は語る。
「って、まぁそんな話しても仕方ないか。ゴメンな変な話しちゃって」
「いいよ。別に」
 印台はすっと立ち上がった。
「今夜、そう言えば、花火またあるんだったな。今年は最後までちゃんとお前と見たいと思う」
 まっすぐ宙也に向かって印台は言った。
「うん。折角、こうして出会えたし別に印台が誰かからどうこう思われても俺には関係ないから、安心して」
「ありがとうな。改めてよろしく」
 印台が差し出した右手を宙也はしっかりと握った。

 こうして2人は夏の僅かな間の友達として、それからしばらくの間、親交があったものの、後に今度は宙也の方がその地へ赴かなくなり、2人は離れ離れになった。
 
(ここであの人に会ったんだよな)
 成人を迎え、宙也は懐かしさを求めて、印台と会った橋に訪れたが彼の姿は無かった。
(今、どこでどうしてるんだろうか?)
 宙也は、出会った橋の真中まで行くと欄干に両肘をついて海を見つめた。
 あの太陽にきらめく波の中に、幼き頃の記憶を落としこめた。
                                (完)

Mind Feeling0504-1 涼風鈴子のアフターヌーンオンチューズデー

2010年05月04日 12時35分04秒 | 急行特急TH発2007年→2019年5月1日AM11:59
涼風鈴子「はい~、ちはーざいますぅー。さっ皆さん、インチキDJが今日も出て来ましたよぉ~」

ポポロンハエンジェルリング「暇なんですねぇ~。あっどーもポポロンハエンジェルリングどっすー」

涼風「管理人急行特急THが昼まで寝てるから、この番組が昼からやるんですねぇ~。まぁ、急行特急THも暇ですんでね、アタシ達も出て来るとこう言う訳ですね」

ポ「いいよ出て来なくて、というリスナーの声がありますが、まあ話のネタに‘‘お約束的,,にやっていますので、お気になさらずぅ~」

涼風「もはや番組ではなく、インチキコンビによる言いたい放題ショーとなってますね。まぁですね、大型連休だからって“Morning on”をやらない管理人急行特急THが諸悪の根源ですのであたいら罪は無い訳なんですねぇ~、へぇ~」

ポ「まぁ大型連休だから“Morning on”をやらないっていうのもありますが…そーいや、昨日のアフターヌーンオンは何ですか?というメールが来ていますが、“Morning on”スタッフ&DJが一気に終結してヲチが無いというメールやら何やら来ていますが」

涼風「全てはですが、ヲチを創れない管理人急行特急THの所為ですから」

ポ「出た出たインチキDJの開き直り。ダメだねこりゃ」

涼風「あきらめしょう、それが定めなんです」

ポ「定めですか。んじゃ~、今日は、みどりの日ですから、こちらを食って下さい、急行特急THちゃん」

涼風「(急行特急THを羽交い締めにし口を開かせる)さぁーポポロンハエンジェルリングちゃん、このヘタレソツネラお独り様に、E231系刻印入りうぐいすまんじゅう、食ってもらうわよ。HETARE pointが255回復するわよ~ん。さぁ、あぐあぐして飲み込んでねぇ~(^0^)/」

急行特急TH「うがぁー(涙+火炎を吐く効果音)」

涼風「はい、ご協力ありがとざんした~。以上、アフタヌーンオンチューズデーでしたぁ」

ポ「こんなんじゃダメだな(頭上から盥が落ちて来る)いで」

涼風「しのごのいうじゃねぇ~(恐竜の鳴き声)」

『4月20日物語』

2010年05月04日 02時58分43秒 | 物語・小説
『4月20日物語』


「なぁ、春彦、俺の代わりに合コン行ってくんねー?」
「はぁ?何だよいきなり」
 4月18日、殿町 春彦(とのまち はるひこ)は大学の学食で友人と昼を食べていて行き成りそう言われた。
「いや、実はその日さ、先輩から別の合コンに誘われててさ」
「えーっ?」
 計画性の無い奴だな、と春彦は思う。
「お前、ほら、そう言うの行った事無いって言ってたじゃん。だから行ってみろって。良い経験になるぜ」
 という友人のオシを断り切れず、春彦は合コンに参加する事になってしまった。

(気乗りしねー)
 2日後の4月20日、春彦は友人の代わりという事で生涯初めての合コンに参加する事になった。
(大体、何かでコネないと合コンってついていけないって話じゃなかったけ?)
 そう言ったのは、何を隠そうこの合コンを春彦に送り込んだ友人だった。
 
 不安のままに始まった合コン。
 春彦の予想通り、完全に場の雰囲気について行けなかった。
(やべー。早く帰りてー)
 比較的手ごろな値段の居酒屋で始まったのだが、既に周囲は出来上がり、地味でこういう場になると特に大人しくなってしまう春彦にとって無理があり過ぎた。そんな時だった。
(うん?)
 さっきの自己紹介で、今日が誕生日と紹介された都賀 華子(つが はなこ)も春彦同様にすっかり周囲から切り離されていた。
「あっ」
 お互いの視線が合うと、どこか気まずそうな顔を都賀は浮かべた。そしてよく見れば都賀の隣の席は誰も居なかったので、春彦は彼女の隣へ行ってみる事にした。
(嫌がられるかな)
 そんな不安をよそに、
「隣、いいかな?」
 と、春彦が訊くと、彼女は頷いた。
「今日が誕生日なんだって?その割に、随分淡白だよね」
 ありきたりな言葉を春彦は都賀にかけて見る。
「うん。やっぱ、私なんかじゃ駄目みたいね。っていうか、誕生日を武器にして来て見ない?って誘われたんだけど、この有様だもんね」
 都賀は溜息をついた。
「へー。そうなんだ。けど、良いよね、何かそう言うのがあるって言うのは」
 話題を惹く物がこう言う場では大切だろう、春彦は、友人の言葉を借りてそのまま口にしてみた。
「うん。まぁね」
 少し嬉しそうに都賀が答えた後、春彦に名前を訊ねて来た。さっきの紹介だけでは覚えられない、と言うのだ。
「春彦くんか。よろしく」
 さっきまで少し萎れた表情をしていた都賀が一転して明るくなり、春彦はちょっと安心した。
「あたし達、この季節らしい名前してるんだね」
「えっ?そうかな?」
 どういう事なんだろうと春彦は思う。
「今の季節ってさ、花が一杯あるじゃない。あたしは、花って漢字は違うけど、華子。それ季節は春。だからさ」
「なるほど。それは面白いね」
 面白さと同時に嬉しいという気持ちが春彦の中で生まれた。
 これが、春彦が都賀と出会ったきっかけだった。


 その後、春彦は都賀の事は忘れかけていた。
 合コンの最中に一応は携帯の番号とアドレスを交換はしたものの連絡を取り合うと言う事は無かった。
春彦の中であと1歩を踏み出す気持ちを躊躇っていた。きっともう別の彼氏が居るだろうと勝手に決め込んだのと同時になんだか連絡を取り合うのが怖い気がしたからだ。


(今日はかったるいな)
 ある日の電車の中、座席に座って半ば眠りかけていた春彦は、大学に行くのをサボろうか、と思っていた時だった。
(あれ?)
 電車が駅に着き、扉が開いた。すると、見覚えある人を春彦は見た。
(都賀さんか?)
 あの頃より少し髪が長くなったような印象があったが、よく似ていた。
(ま、他人の空似だな)
 彼女の通う学校は確かに春彦が通う学校の近くで今乗って居る電車の沿線にあるという話ではあったが、そう都合良く行く物でもないだろう、と彼は思い特に気に止めなかった。

 それから毎週1回春彦は都賀に似た女性を同じ駅同じ時間に見かける様になったが、声をかける事は出来ないままに、時が過ぎていった時の事だった。
「隣、良いですか?」
 学校へ向かう中、漫画雑誌に夢中になっていた時、不意に声をかけられた。
「あっ、すみません」
 良い所だったのに、と思いつつ席を詰めた時だった。
「都賀さん?」
 思わず横顔を見て春彦はその苗字を口にしていた。
「えっ?」
「あっ、すみません。人違いです」
 春彦は、やべーと言う顔を浮かべて雑誌に目を移すと、
「あー、殿町くん…かな?」
 と言う声を聞いたとき、春彦は思わずドキッとしてしまった。
「はい。どうも久しぶりです」
 半ば白々しいなと思いつつ春彦は答えた。
「元気だった?どうしてるかな、とは思ってたんだ」
 柔らかい笑顔を浮かべて都賀は言われ、春彦はちょっと嬉しかった。
「この時間帯に、学校行ってるの?」
「うん。毎週この日だけね」
「そうなんだ」
 やっぱり、と春彦は思う。
「ねぇ、携帯ってアドレスとか変わってない?」
 不意に都賀が春彦に訊いて来た。
「うん。そっちも?」
 春彦は携帯を取り出すと彼女は頷いた。
「じゃあ、連絡取り合おうか。まぁ、会う時は」
 断られるかな?と不安を抱きつつ春彦が訊くと、都賀は予想に反して、「いいよ」と嬉しそうに応えたので、春彦はホッとした。
「良かった。また会えて。あれっきりなって思ってたんだ」
 さっきと同じ表情で都賀は言う。
「折角知り合ったのにそれで終わりかなって思ってたんだ。こういうのは嬉しい偶然だね」
「うん。だね」
 春彦はその時、今日は良い日になった、と感じた。


 連絡を取り始めてしばらく経ってから、2人は長い休みを迎えた。
 あの日の再会から春彦と都賀は、連絡をとりあった。
 週1回必ず会える、というのがあるので、取り立ててメールやら電話でのやりとりはなかったが、こうして休みを迎えてしまえば、やはりそれらに頼る事になる。
 休みの中、春彦はアルバイトして日々をやり過ごしつつ、時に友人達と会って飲んだり、遊んだりと言う生活をしていた中で、都賀の事を少し忘れかけていた。
(メールして良いもんなんだろうか?)
 休みが始まって時間が経過していく中でこれと言って何のやりとりも春彦は都賀としていなかった。
(物は試しでやってみるか…)
 こんな事にまでドキドキを感じる自分は人生経験が少ないなぁ、と春彦は思いつつ、その後どうしているか?という内容のメールを都賀に向けて送ってみた……が、やはりすぐに返事は来なかった。
(現実はこんなもんか)
 悲しい、と思いつつ春彦はあきらめる様に返事を待つ事にした。
(っと、そろそろバイトの時間か)
 春彦は家を出た。


(あれ、誰からだろう?)
 バイトの休憩の時、携帯にメールが来ている知らせがあった。

――私は元気だよ。そっちはどんな感じ?出来たら休みの間に会いたいね――

 メールは都賀からで、春彦は思わずドキっとしてしまった。何しろ春彦にとっては、女の子からメールを貰うのは初めての経験だった。少し震える手で近況を春彦は書いて都賀に返信した。
(こんな事もあるんだ)
 信じられない、と高まる胸の鼓動に身を任せつつ休憩時間が過ぎていった。


 それから10日が過ぎて、春彦は都賀と2人だけで会い、彼女の希望で動物園へ赴いた。
 初めてのデートとこれを言ってよいのか?と春彦は思いそして緊張しつつ園内をまわった。
「うん。いい感じだね」
 色々と身ながら彼女は満足げで、とりあえず春彦は安心したものの、会話が思う様に進まずどうしたらよいもんか、とか思っていたのであまり動物が目には入らなかった。

「楽しかった。付き合ってくれてありがとうね」
「こっちこそ。じゃ、また」
 といって2人はその日、別れた。
(あー疲れた。慣れない事はするもんじゃないな)
 彼女は平気な顔していたが、春彦は気が気でなく、とても長い1日となった。


 それから月日が流れ、2人が出会った4月20日を迎える事になった。
「はい、誕生日プレゼント」
 春彦は、彼女の誕生日であるその日にプレゼントを渡す約束をしていたので直接会って手渡しした。
「わっ、ありがとう」
 包みを受け取った都賀はこれまで以上に嬉しそうだった。
「それで、まぁ、今更になるかも知れないけどさ」
喜ぶ都賀に春彦は、
「俺の彼女になってくれないかな?好きなんだ」
 と想いを口にした。
「うん。確かに今更だね。けど、嬉しいから良いよ。私も春彦、好きだよ」
 こうして4月20日という日に2人の恋愛が始まった。出会いから1年経ったその日から…。

『青』

2010年05月04日 00時29分36秒 | 物語・小説
『青』


 鮮やかであり、その鮮やかさから、冷たさと共に息が張り詰めるような美しさを生み出す――青。
 

 デルフィールは、真っ白なキャンバスの前で腕を組んでいた。
(何を描けば良いのだろう?)
 今日1日ずっとこれまで考えても答えは出ないまま、気が付くと窓の向こうは夜になっていた。
(何かを描きたい)
 形にならない漠然とした想いだけがずっと胸の中の壁を叩き続けていた。
 だがしかしデルフィールは答えを出せないで居た。
(もう今日はやめよう)
 幾ら考えても無駄だ、と、その日何度目とも解らない溜息をデルフィールはついた。

(眠れない)
 絵を描くことを諦めた後、眠りつこうとしたがどうしても眠りにつく事が出来なかった。
(なんだろうな)
 やはりさっきのまっさらのキャンバスが気になった。
(しょうがないなぁ)
 デルフィールは躰を起こすと、頭を掻いた。
(一体、何だって言うんだろう)
 気持ちがはっきりとしない。
 まるで、右に行こうか左に行こうかを決めかねているような迷い。
’’立ち止まる事そして後に退く事はならない,,という条件が目の前の分かれ道の壁に書いてあるかの如くある中で、どちらへ行くかを必ず決めよ、と言う、見知らぬ声が彼に圧力をかけていた。

 彼はもう一度、キャンバスに向かい合った。
(もう今日はやめようと思ったのに)
 何でここに来てしまったんだろう、と彼は胸の中で呟く。
(早く描いてくれって、お前は言うのかい?)
 答える筈も無い白いキャンバスに向かって問いかけてみるが、やはりその答えは返ってはこない。
(まいったな。こいつは酷い行き詰まりだな)
 デルフィールは深い溜息をついて、椅子になだれ込む様に座った。
(お手上げだな、こりゃ)
 ふと横を見れば、窓の向こうには藍色の闇があり、か細い月が出ていた。
(夜空は黒じゃくて、深い青なんだよな)
 その時、夜風が音も立てずに吹いて、彼の前髪を静かに揺らした。
(青?)
 ふと目線を窓から外すと、青い絵の具が入った小瓶が見えた。
するとデルフィールはおもむろにその瓶を手にとってしばし眺めた後、キャンバスを見た。
(これでいける)
 突然のひらめきがデルフィールの中で絵の具が瓶から零れる様にバーッと広がる―――そして出来上がった絵は、キャンバスをただ青1色で塗り尽くしたものだった。
(よし完成した)
 青1色で塗られたキャンバスを見て、デルフィールは1人大きく頷いた。
その絵が一体どんな意味をもつというのか肝心な所は全く解らず不安が広がっていたが、出来たという達成感だけが彼を奮い立たせる様にそこにあった。

 だが、当然の如く、ただ勢いだけで描いたその絵はすぐにお蔵入りとなった。
 1晩経って、描いた絵を見た時、まるで別人の如く、

「なんなんだ、この絵は」

 という気持ちしか描いた張本人のデルフィールには思い浮かばなかった。
(無意味なもの描いちまったな)
 なんだったんだろう、と昨日感じた高揚感など既になく、さっさとその’’絵,,ならぬ’’青く塗ったくったキャンバス,,を片付けた。


 それから2年経って、デルフィールは今居る家を引き払う事になった。
「うん?なんだいこれは?」
 引越しの手伝いに来ていた友人のミミルが1枚のキャンバスを指差した。
「青だけしかないけど、海でも描いたのかい?」
 興味深々にミミルはキャンバスを見つめていた。
「ああ、それかい?それが何で描いたのか、何を描こうと思ったのか解らないんだ」
 素直にミミルにデルフィールは訳を話した。
「へー。そうなんだ」
 ミミルは絵を見たまま1人頷くと
「この絵、譲ってはくれないか?」
 そうデルフィールに問い掛けた。
「いいぜ。持ってってくれ」
 置いて置いても価値はない。それに置いておく事で気恥ずかしさが募る一方だったので、デルフィールとしては喜んで快諾した。
 これでこの絵はミミルの所へ移り行く事になった。

「どうしたのそれ?」
 その日ミミルが持ち帰って来たものを見て、妻のパーシスは思わずキャンバスを覗き込んだ。
「空…にしては、なんか色が濃いわね」
 パーシスは見たものの感想を言う。
「鮮やかなもんだろ?青ってタイトルの絵さ」
 そんなタイトル等ついては居ないが、とっさにミミルはそう妻に言った。
「青ねぇ。ふ~ん。で、これは一体どこから?」
 高いお金で買ったんじゃないでしょうね?という表情をパーシスは浮かべてミミルに訊ねた。
「デルフィールから貰ったんだ。要らないって言うから」
「へぇー。まぁでも綺麗だし、リビングにでも飾りましょうか」
 金がはらまなかった事が解るとパーシスは安心したようで、夫が持ち帰ったものを快く受け入れた。

 その後、青1色のキャンバスは、ミミルの家で飾られ、訪れる客人達の目を惹き、

「海ですか?」
「空ですか?」

 何れかの質問を決まってミミルや妻のパーシスに訊ねられた。だが、訳を1度話すと皆一様に興味を示さなくなった。

(1回こっきりの問いかけの絵か)
 ある時、飾ってある絵を見て、ミミルはそう胸の中で呟く。
(海でも空でもない青。一体何でこんな絵なんかあいつは描いたんだろうか?)
 勢いだけで描いたという事だったが、それにしては何の曇りや迷いなんてない位に綺麗にむら無く色が塗り尽くされている。
単色でただ塗りたかった、という点で言えば確かに衝動的な物は感じられる。だが、この色彩が妙に冷静さを与え、そんな荒々しいものをかき消してしまうものさえあるとミミルは感じていた。
(それでもちゃんと客人の目を引く存在ってのが、何か不思議なんだな)
 ずっと見ていると飽きてくるのは勿論だが、やはり「冷たい」という印象も出てくる。
(変幻自在な存在だな)
 良いもらい物をしたもんだ、とミミルは絵に話し掛ける様に言うとリビングを離れた。

 それも絵はリビングに飾られ続けた。
 時間の経過と共にその存在は薄れて行った。ミミルのもとを訪れる客もそう多い訳ではなく、絵への感心は遠のく一方だった。


 やがて月日が流れたある時、ミミルのもとへデルフィール本人が来る機会があった。
「何だよ、この絵、まだあったのか?」
 デルフィールがミミルに絵を指差した。
「ああ、これか」
 言われるまですっかりその存在をミミルは忘れていた。
「物好きなだなお前も。てっきり捨てられたかと思ったよ」
 アハハハとデルフィールは笑った。
「不思議と残ったな」
 捨てようと言う気にも、或いは、妻のパーシスからも捨てようか、というのは無かった。
「色が変わっちまったな。何か深くなったって言うか」
 自分で描いたものなのにデルフィールは誰かが描いたものを見るような目で絵を見つめた。
「空は無理でも、今でも海って言うなら充分行けると思うぜ」
 絵を見ながらミミルは言う。
「結構、昔はそれでも訊かれたもんだぜ、これが何の絵かって」
「へぇー。そうか。一応、人目は惹いたんだ」
 ミミルの言葉にデルフィールは意外と大書きした様な表情を浮かべた。
「空か?海か?かしかなかったけどな。当たり前の話」
 多くの客が言い当てた言葉だったが、どれも違うという答えに皆訝しげな顔を浮かべた事をミミルは話すと、そうだろうな、とデルフィールはケロっと答えた。そして、
「けど、本当に今もってしてもこれを描いた訳は解らないんだ」
 と、デルフィールは言う。
「昔の事だから余計だよな」
 仮に自分が描いたとしてももう訳なんか覚えては居ないだろうとミミルは思う。
「青一色。描いた時から比べると、もう鮮やかさは無いよな」
 不意に、そう言ってデルフィールは溜息をついた。
「これ描いた時は、時間が経ってないから当たり前だけど。俺も絵もなんか最近はどうもそんな物がなくなってね」
「へーそういうもんか?」
 ミミルには解らない世界の話だった。
「幾ら描いても、何か自分の悪い意味のが多いような癖ばかりが出てる気がしてさ。昔の作品と今のを見比べてみるとそう思うんだ」
 初めてにはもう戻れない、とデルフィールは遠くを見ながらそう続けた。
「生きていくとさ色々経験して、新しいって言う気持ちになれなくなって行く気がして。それは1つの経験で良い所もあるんだけどさ」
「なるほど」
 その様にして人は成長したり進化したりするものだろう、とミミルは思い頷く。
「けどまぁ、この絵見る限りじゃ、俺の絵は別に、最初っからそんな格好いいものなんて無かったのかもな」
 デルフィールは、フッと笑った。
「今、もしこの絵にタイトルをつけるとしたらどうする?」
 突然に思いついて、月並みな質問をミミルはデルフィールにぶつけてみた。
「うん。そうだな……」
 デルフィールはちょっと押し黙って考えた後、
「そのまま、『青』ってつけるかな。ひねりも無く」
「そいつはつまんないな」
 かつてミミルが名づけたのと同じ答えだった。もうちょっと格好いいものがつくかなとは期待していたのだが、見事に裏切られた。
「そう、その’’つまらない,,ってのが良いんだよ。良い所に気が付いたね」
 デルフィールは、嬉しそうな声と表情を浮かべてそう言った。
「何も飾らず、『青』。空でも海にでも夜にでもなれる青。見る人が見たまま感じる色としてそこにあれば良い、そう思うんだ」
「可能性を秘めた『青』って訳かい?」
「うん。何にでもなれる可能性がある。きっと人も同じくしてなんじゃないかなって思う。なってしまえば完成した物になる。この絵がたどり着いたのはそんな『青』。なって完成した『青』だからこそ、鮮やかさが抜けた『青』になった良い、そうこの絵に今は言いたいかな」
 デルフィールは飾られた絵を見つめたまま、ミミルにそう答えを出した。
それは長い年月と過ぎ去った時間の中で変化した1枚のキャンバスにタイトルがついたという瞬間でもあった。
この絵が描かれた訳は明かされるままに。(完)