2007年の最後に相応しいような話の1つとして、ラジオ小説を紹介したい。タイトルは、『この夜の向こう側(パート2)』。今から12~13年前の篠原美也子氏の『オールナイトニッポン』のコーナーにあった「篠原美也子文庫」という番組オリジナル小説を扱う中で発表された作品である。
その作品は、マモルという18歳になろうとしている青年が、1人部屋の中で真夜中に受験勉強をしていて煮詰まる。そんな時、無性に誰かの声が聞きたいとマモルが思った時、窓の向こうから自称天使がやって来て、マモルに訊く。
「うん、君は何か望みがあるみたいだ。うん、僕がそれを1つだけ叶えてあげる。さあ、言ってごらん」
と。しかし、マモルは答えに窮してしまう。すると、天使が言う。
「そうだね。少し急すぎたかな。じゃあ7日後の同じ時間に、また来るからその時までに考えておいてよ」
と言われ、天使は姿を消し、マモルは、自分自身が望む事を過去に遡って考え始める。 幼い頃、彼は自分が一人っ子だった所為もあり、友達の兄弟喧嘩が羨ましくて「弟」が欲しかった、一方で、誕生日には、「自転車」を願ったこともあった。遠足の前には新しい「ナップザック」を欲しがり…と色々と出て来たが、果たして、「今、欲しいもの」は何なのかと考える。さしあたって「大学合格」だろうか、と彼は思うが、何か違う気がした。
その後、7日が経ち、約束の日が来た。
「うん、見違える程、いい顔だよ。さあ聞かせてくれるね」
天使が言うと、マモルは、
「色々考えては見たけれど、正直なところはよくわからない。だけどね、少し何かが見えた気がする。本当に望む事は、きっと望んだことを達成した後からついて来るんだと思うんだ。そうだ、僕の本当の望みが叶ったときに、僕のうれしそうな顔を見に来てくれるかい」
と言うと、天使は静かに頷きながら、この夜の向こう側を越えていくマモルを想像しなながら、
「マモル。きっと僕は成長した君を見つけられると思う。だって君は7日前の君よりいい顔をしているのだもの」
と言い、彼の願を承諾した所で、次の文が入って話が締めくくられる。
そして、夜は明けていく。すべての明日のために。
このスクリプトは、2ちゃんねるで見つけ、手元にデータをとってあるのだが、ずっと胸の中に残っている作品である。リアルタイムで聞いた時は中学1年か2年位だと思う。 こんな夜が自分にも来てほしいなと思うが、いざ、望みを叶えてもらえるとなったとき、私も答えには窮するだろう。
それはさておき、夜が明ければ、願いが叶う訳でも無いし、明日が来たから、あるいは来年が来たとて、自動的に、望みが叶うという訳でもない。
「本当に望むことは、きっと望んだ事を達成した後からついて来る」
という意味は今だに解らない。そして、何故にマモルは、自分が願う本当の望みが叶った時の自分の表情を天使に見てもらいたい、という事を望んだ事も。
またこの天使が想像した、「この夜の向こう側を越えて行くマモルの姿」は一体どんなだったのだろうか?夜を越えるとは何なんだろうか?
あと23時間少しで2007年は終わっていくが、今日このあとの夜を迎え、明日2008年1月1日を迎えた時、望まれた想い(多分それが、話の中の「天使」だと思うが)達は、望んだ主の元へ帰る事は出来るのだろうか?