児島 櫂生(こじま かいせい)が住む数軒先の家の2階から、たまに、曲名は解らないが、聞き応えるメロディを奏でる、少女の姿を、児島 櫂生(こじま かいせい)は、見ていた。
彼女の名前は、増間のぞみ(ますま のぞみ)と言った。増間のぞみ(ますま のぞみ)は、児島 櫂生(こじま かいせい)と同じクラスだった。だが、児島 櫂生(こじま かいせい)は、増間のぞみ(ますま のぞみ)とは、言葉を交わした事は、そうはなかった。
増間のぞみ(ますま のぞみ)の家は、肉屋を駅前の商店街で、営んでいた。休みの日に、児島 櫂生(こじま かいせい)は、何度か、増間のぞみ(ますま のぞみ)が、店先で仕事の手伝いをしているのを、見たことがあり、個人経営も大変だなあ…と思った事があった。
ピアノ演奏も得意な、増間のぞみ(ますま のぞみ)あるのだが、児島 櫂生(こじま かいせい)は、もう1つ、増間のぞみ(ますま のぞみ)には、特技があった。それは、包丁捌きだった。
学校の講義で、調理実習と言う、物を食えると言う意味では、人気があるのだが、その講義で、増間のぞみ(ますま のぞみ)が包丁を握って、食材を切る姿に、クラスメイトと担当教諭が、目を奪われた。魔法の様に、素早く、形も美しい切り方なのだった。
――さすがは、肉屋の娘――
と、誰もが思い、児島 櫂生(こじま かいせい)も例外ではなく、凄いの一言であった。
また、増間のぞみ(ますま のぞみ)は、家業の肉屋の名前は、真面目、と言った。真面目精肉店であり、増間精肉店、とは、言わなかった。そして、その真面目精肉店では、増間のぞみ(ますま のぞみ)の父親とおぼしき人物が、店内奥で、華麗な包丁捌きで、商売用の肉を切る姿があると言う話もあり、生半可な気持ちで、増間のぞみ(ますま のぞみ)に近づこうものなら、増間のぞみ(ますま のぞみ)の家が営む、肉屋の包丁で、裁かれるのではないか?と言う嘘みたいな噂もあり、増間のぞみ(ますま のぞみ)に、恋人やボーイフレンドがある、と言う話は、なかった。
そんな中で、児島 櫂生(こじま かいせい)は、増間のぞみ(ますま のぞみ)の容姿と華麗な包丁捌きに、ピアノ演奏、それに、講義にも勤勉で、クラスメイトとのやり取りを、教室の片隅から見ていて、ガールフレンドに出来たら良いな、と、思っていた。勿論、先述の嘘か真かの肉屋の包丁の話を、知った上でも。
学年進級が迫る3月がやって来て、3月13日のプレホワイトデーを迎えた日の放課後の教室で、児島 櫂生(こじま かいせい)は、1つの決断をした。
(貰っていないけど、貰えなかったけど、やってみよう)
あり得ない事だが、明日のホワイトデーは、今日と同じく通常講義日である事を、児島 櫂生(こじま かいせい)は、利用し、増間のぞみ(ますま のぞみ)の机の中に、ホワイトデーの贈呈品を、手紙と共に入れた。勿論、差し出し人が、児島 櫂生(こじま かいせい)の名を入れ、もし、来月の4月から、クラスになったら、普通に話せるような関係になりたい、と言う事を書いた。それを読んでなのか、増間のぞみ(ますま のぞみ)は、ホワイトデーを過ぎても、学年が終る最後の日まで、なかった。
(のぞみさん、なんて、書いたのは、失敗だったかな…)
修了式の日の放課後、児島 櫂生(こじま かいせい)は、無人の教室の中、増間のぞみ(ますま のぞみ)席だった机に立った。
(そう言えば、手紙に、のぞみさん、って書いたけど、そう呼べる日は、決して開かない扉の向こうかな?)
厨2っぽい、と、児島 櫂生(こじま かいせい)は、自虐的な笑いを浮かべて、教室から出たのだった。
そして、何事もないままに、児島 櫂生(こじま かいせい)は、学年が1個上がり、クラスメイトも変わった。だが、その中に、物語のお約束で、貼り出された、児島 櫂生(こじま かいせい)の新クラスの名簿の中に、増間のぞみ(ますま のぞみ)の名前があった。
(同じか…そっか…)
増間のぞみ(ますま のぞみ)に、先月のホワイトデーに伝えた想いが、届いて叶うだろうか?と児島 櫂生(こじま かいせい)が思っていると、
「えっと、児島くんだっけ?」
増間のぞみ(ますま のぞみ)の声が、背後でしたので、児島 櫂生(こじま かいせい)が、振り向くと、先月までも容姿と雰囲気のままに、増間のぞみ(ますま のぞみ)が居た。
「ホワイトデーのお菓子ありがとう。バレンタイン渡してないのに、貰えたから、驚いたよ」
増間のぞみ(ますま のぞみ)は、嬉しそうに笑った。
「一緒のクラスになれたし、櫂生くんのガールフレンドとして、よろしくお願いします」
増間のぞみ(ますま のぞみ)は、児島 櫂生(こじま かいせい)に手を差し出した。
「こちらこそ。ボーイフレンドとして、宜しくお願いします」
児島 櫂生(こじま かいせい)は、少しうつ向き加減でそう言うと、周囲から、歓声があがり、新学期が始まったのだった。
(完)
彼女の名前は、増間のぞみ(ますま のぞみ)と言った。増間のぞみ(ますま のぞみ)は、児島 櫂生(こじま かいせい)と同じクラスだった。だが、児島 櫂生(こじま かいせい)は、増間のぞみ(ますま のぞみ)とは、言葉を交わした事は、そうはなかった。
増間のぞみ(ますま のぞみ)の家は、肉屋を駅前の商店街で、営んでいた。休みの日に、児島 櫂生(こじま かいせい)は、何度か、増間のぞみ(ますま のぞみ)が、店先で仕事の手伝いをしているのを、見たことがあり、個人経営も大変だなあ…と思った事があった。
ピアノ演奏も得意な、増間のぞみ(ますま のぞみ)あるのだが、児島 櫂生(こじま かいせい)は、もう1つ、増間のぞみ(ますま のぞみ)には、特技があった。それは、包丁捌きだった。
学校の講義で、調理実習と言う、物を食えると言う意味では、人気があるのだが、その講義で、増間のぞみ(ますま のぞみ)が包丁を握って、食材を切る姿に、クラスメイトと担当教諭が、目を奪われた。魔法の様に、素早く、形も美しい切り方なのだった。
――さすがは、肉屋の娘――
と、誰もが思い、児島 櫂生(こじま かいせい)も例外ではなく、凄いの一言であった。
また、増間のぞみ(ますま のぞみ)は、家業の肉屋の名前は、真面目、と言った。真面目精肉店であり、増間精肉店、とは、言わなかった。そして、その真面目精肉店では、増間のぞみ(ますま のぞみ)の父親とおぼしき人物が、店内奥で、華麗な包丁捌きで、商売用の肉を切る姿があると言う話もあり、生半可な気持ちで、増間のぞみ(ますま のぞみ)に近づこうものなら、増間のぞみ(ますま のぞみ)の家が営む、肉屋の包丁で、裁かれるのではないか?と言う嘘みたいな噂もあり、増間のぞみ(ますま のぞみ)に、恋人やボーイフレンドがある、と言う話は、なかった。
そんな中で、児島 櫂生(こじま かいせい)は、増間のぞみ(ますま のぞみ)の容姿と華麗な包丁捌きに、ピアノ演奏、それに、講義にも勤勉で、クラスメイトとのやり取りを、教室の片隅から見ていて、ガールフレンドに出来たら良いな、と、思っていた。勿論、先述の嘘か真かの肉屋の包丁の話を、知った上でも。
学年進級が迫る3月がやって来て、3月13日のプレホワイトデーを迎えた日の放課後の教室で、児島 櫂生(こじま かいせい)は、1つの決断をした。
(貰っていないけど、貰えなかったけど、やってみよう)
あり得ない事だが、明日のホワイトデーは、今日と同じく通常講義日である事を、児島 櫂生(こじま かいせい)は、利用し、増間のぞみ(ますま のぞみ)の机の中に、ホワイトデーの贈呈品を、手紙と共に入れた。勿論、差し出し人が、児島 櫂生(こじま かいせい)の名を入れ、もし、来月の4月から、クラスになったら、普通に話せるような関係になりたい、と言う事を書いた。それを読んでなのか、増間のぞみ(ますま のぞみ)は、ホワイトデーを過ぎても、学年が終る最後の日まで、なかった。
(のぞみさん、なんて、書いたのは、失敗だったかな…)
修了式の日の放課後、児島 櫂生(こじま かいせい)は、無人の教室の中、増間のぞみ(ますま のぞみ)席だった机に立った。
(そう言えば、手紙に、のぞみさん、って書いたけど、そう呼べる日は、決して開かない扉の向こうかな?)
厨2っぽい、と、児島 櫂生(こじま かいせい)は、自虐的な笑いを浮かべて、教室から出たのだった。
そして、何事もないままに、児島 櫂生(こじま かいせい)は、学年が1個上がり、クラスメイトも変わった。だが、その中に、物語のお約束で、貼り出された、児島 櫂生(こじま かいせい)の新クラスの名簿の中に、増間のぞみ(ますま のぞみ)の名前があった。
(同じか…そっか…)
増間のぞみ(ますま のぞみ)に、先月のホワイトデーに伝えた想いが、届いて叶うだろうか?と児島 櫂生(こじま かいせい)が思っていると、
「えっと、児島くんだっけ?」
増間のぞみ(ますま のぞみ)の声が、背後でしたので、児島 櫂生(こじま かいせい)が、振り向くと、先月までも容姿と雰囲気のままに、増間のぞみ(ますま のぞみ)が居た。
「ホワイトデーのお菓子ありがとう。バレンタイン渡してないのに、貰えたから、驚いたよ」
増間のぞみ(ますま のぞみ)は、嬉しそうに笑った。
「一緒のクラスになれたし、櫂生くんのガールフレンドとして、よろしくお願いします」
増間のぞみ(ますま のぞみ)は、児島 櫂生(こじま かいせい)に手を差し出した。
「こちらこそ。ボーイフレンドとして、宜しくお願いします」
児島 櫂生(こじま かいせい)は、少しうつ向き加減でそう言うと、周囲から、歓声があがり、新学期が始まったのだった。
(完)