不機嫌な太陽
-気候変動のもう一つのシナリオ― No.8
§9.人文社会科学と自然科学の統合
すべての科学は、統合すべきである。自然科学の中でも、気候学も地質学も、天文学から遺伝子学、医学まで、すべての分野の科学が統合されねばならない時代に来ている。医学は社会科学であると、シゲリストや白木博次たちが言ったが、医学だけでなく、気候学も同じであったのである。私は、若い時は、WHOを信頼し、その健康の定義、「健康とは、肉体的、精神的、社会的に良好な状態であって、単に疾病や虚弱のないことではない」を信条にし、WHOの委員にも「ネオヒポクラテス学派」の人がいるのではないかと思っていました。その後シゲリストの「医学は社会科学であり、病気は社会によって起きる。医学は、社会が病気と闘うための道具の一つに過ぎない」との言葉に出会い、さらにルネ・デュボスの言う「生体論的で環境的な医学」を目指すべく研究してきました。そして実践的なアメリカ医学を指針とし、アメリカ小児科学会のリコメンデーションに従い、アメリカの医学書で勉強してきました。しかし、1990年代後半からアメリカ医学も怪しくなり、2000年代には信頼できなくなりました。2009年には、WHOの新型インフルエンザのパンデミックの判定が、ヨーロッパの2人の委員の主張を入れて2段階も上げられました。その後その委員の利益相反が明らかになり糾弾されたのです。それに前後して、地球温暖化問題が登場したのですが、気候学も医学と同じ構造にあるとは思わなかったのです。その後、薬学も遺伝学も同じであることも分かりました。今は、何が正しいか、何を喜寿にしてよいかわからない時代です。アメリカのCDCもFDAも、IAEAもすべて信頼できない状況です。
8章 宇宙気候学の為の行動計画
気候変動の歴史は、高エネルギーの宇宙線により説明できる。今後、我々の天の川銀河の歴史を、より明確にする必要がある。それに、地球における気候変動の年代記も、より完全なものにする必要がある。我々が太陽に依存している現状を調査すれば、異星生物の探査に有効な情報が与えられる。気候科学は、将来の気候変動に対して対策を立てるのに役立つ情報を提供せねばならず、予言的なものであってはならない。
1節 宇宙線による気候変動の説明
特別な場合のミューオン量の変化
2006年、ドイツのコルシカ(CORSIKA)プログラムで計算し、地球大気中で宇宙線は、地球磁場が弱くなっても、気候に顕著な影響を及ぼさないことを説明できた。宇宙線の中で、大気の最も低い高度まで届くミューオンを生じるものは、エネルギーが高いので、地球磁場の影響を受けず、しかもミューオンは気候へたった3%しか影響しないのである。 また、コルシカ(CORSIKA)での計算により、宇宙線と気候を左右する地球以外の天体や太陽の活動過程が新たに解明された。 近くの超新星が爆発して発せられた宇宙線は高エネルギー粒子の比率が高いので、地球に届く前に銀河の外へ飛び出し、地球に届く時には、通常時と比べて、宇宙線量はそれほど変わらないが、ミューオンは3倍に増加する。したがって、10Beや他の原子が記録した宇宙線量から気候を推定する方法は、近くの超新星が気候に及ぼす影響を軽視することになる。 太陽磁場は、地球磁場よりもはるかに強い。太陽の11年周期の間に、高度2kmまで届くミューオンは、10%変化することが予想される。それは海面近くのミューオンの数値と一致しており、そのため太陽の1周期の間、地球を覆う雲の面積が3~4%変化する。
もう一つの問題は、フォービッシュ減少と呼ばれるもので、太陽表面での大爆発により生じた磁気衝撃波はしばしば、地球に届く宇宙線のカウントを、5~10%、時にはそれ以上、突然減少させる。この現象により、地球を覆う雲が大量に減少するはずなのに起きなかった。 これが、宇宙線が雲の形成に影響を及ぼすという理論を否定する根拠になった。 しかし、この場合もCORSIKAの計算により、太陽からの衝撃波が、通常の宇宙線の影響に比べて、ミューオンを生成する宇宙線に及ぼす影響は小さいことが確認された。このためフォービッシュ減少時に、雲の減少が期待できないのである。それでも1991年には、太陽の表面で数回起こった時に、僅かに雲の量は減少したことがある。
スベンスマルクの研究態勢 2006年には、宇宙線と気候に関する研究は、急成長する科学の一分野となり、「宇宙気候学」と命名し、宇宙気候学研究センターを創設した。
2節 雲の分子機構の研究(クラウドCLOUD)
巨大科学としての取り組み ジュネーブにある2節欧州原子核研究機構(CERN)が、宇宙線と雲の繋がりを研究するために、クラウド(CLOUD)を作った。これは米英露など17の各種研究所から選抜された50名の研究者集団であった。
熱心な研究者集団 スベンスマルクのSKY実験装置をコペンハーゲンから、ジュネーブへ移して再実験を行った後の、2010年にはより精巧なクラウド(CLOUD)の設備が稼働することになる。
時間編 これは、1秒の数分の1から数時間、数日間まで、電子や分子が起こす変化を追跡できる。しかもこの装置は、古代の大気組成を再現して宇宙線の作用を調べることもできる。それで数十億年の時間枠の荷中に入って研究できる。
将来の研究課題 今後は、気球や研究用航空機を用いて、極微細粒子の計測をして、大気の理論と雲の形成の分子機構を精緻化させねばならない。
3節 この天の川銀河をもっと良く知るために
宇宙線の発生源
宇宙線の発生源から始めて、宇宙線の生成は、星の爆発から10万年後に強くなると考えられている。ナミビアのヘス高感度望遠鏡は、新たに数個のガンマ線天体を発見した。 今後人工衛星新たな望遠鏡によって、さらなる発見が期待される。
天の川銀河の磁場
銀河には腕に沿って磁場が組み込まれているので、宇宙線は、その方向に導かれる。その為、地球が渦状腕の中か外を通るごとに、宇宙線の流入量は増加したり、減少したりする。 地球が受けた宇宙線の流入量を過去に遡って調べるためには、銀河内における磁場の強弱を示したチャートを改善する必要がある。それには電波望遠鏡群を1km平方に配列した観測装置が良いと考え、南アフリカに準備している。また太陽が天の川銀河の円盤の上から下に、下から上に、3200万年の間隔で斜めに横切ることを繰り返すが、この円盤内の宇宙線の濃度も不明確である。
星間ガス
太陽が天の川銀河内を周回中に、星間ガスの比較的濃度の高い雲の中に入った時には、いつも、その雲により太陽圏と太陽の磁場は締め付けられる。これはグリーンランドと南極の6万年前と3万3千年前の氷中の10Beに高い宇宙線の強度が記録されていることから考え出されたものである。星間ガスの研究をしているシカゴ大学のフリッシュは、現在、太陽がある領域は、星間ガスが非常に薄い。だが「太陽の気道は、少なくとも数百万年以上は、大きくて濃いガス雲には遭遇しないであろう」という。
星の分布地図の作成
ヒッパルコス計画で、最も明るい星について、以前よりも正確な星の地図を作製できた。しかし、不正確さが残り、星生成の歴史は、未完成で、各星の誕生を4億年の間隔でしか把握できなかった。それを引き継いだガイア計画は、完成すれば、100億年にわたる星生成全体の歴史を語れるようになるが、まだ完成していない。また太陽の気道が、円形か楕円形かにも明確な答えが出る。そうすると太陽系が渦状腕を通過した時期をより正確に計算できる。その時期が氷室期に対応するのである。
他の銀河から得られる情報
ガイア計画での、宇宙探査機は打ち上げられて5年はかかる。ガイアは2015年に打ち上げられたので、それによって多くの知見が得られる見込みである。
4節 不可解なリズムで揺れる惑星
気候に及ぼす各種要因
今まで述べたのは、地球の気候の直接的調査とその地質学上の歴史的調査から、宇宙線が気候に数十億年にわたって強い影響を及ぼしてきたことを示す証拠についての概要でしかない。宇宙線にたいする評価を完全なものにするには、気候に影響を及ぼす他の多くの要因を把握しなければならない。それは、大陸の成長、山の形成、火山の一斉爆発、海流と極周辺の氷床に影響を及ぼす大陸の移動、大気組成の変化、生物の地球化学的作用、および彗星と小惑星の長期にわたる一連の衝突などである。
ミランコビッチ効果の実在性
セルビアの気候研究のアマチュアであったミランコビッチが1920年代に、それまでに氷期を説明するのに出されていたアイデアを精緻化した。それは、「世界の各地域における季節ごとの太陽光の当たり方が、数千年の間に、どのように変化するのかということを説明した。その根拠は、太陽系の他の天体から受ける引力が、宇宙空間に対する地球の姿勢に影響を及ぼし、太陽の周りを回る地球の軌道を変えるというものである」。 天文学者は、この変化を計算できる。地軸はふらついているコマのようにゆっくりと旋回するので、それにより北方領域における季節ごとの太陽光の当たり方が2万年のリズムで変化するのである。また地軸は、横揺れも起こすので、それにより空に昇る太陽の高さが、4万年の周期で変化する。そして10万年の周期で地球の公転軌道の形状が変化するので、これにより、季節ごとに地球は太陽に近づいたり、遠ざかったりする。 1970年代に、海底コアー中の重い酸素原子の含量の変化、気候変動の尺度に、ミランコビッチのリズムが明確に存在することを検出した。 1976年に英米の科学者は、地球軌道の変動を、氷期のペースメーカーと呼んでいた。その後、数億年前という、進行中の氷期が存在しなかった時代にまで遡った古代の堆積物中にも、このミランコビッチ・リズムが見つかった。それどころか地質学者は、堆積物に年代の目盛りをつけるのに、このリズムを用いている。
氷期における宇宙線の影響
他方、最近の氷期においては、このミランコビッチ効果の役割は、当てにならなくなった。過去100万年の気候の記録では、一般的な凍結状態から、比較的短い温暖な期間に切り替わった後、再び氷期に戻るということは、ほぼ10万年ごとに繰り返していることであった。 地球の気道の変化では説明できない。 気候の記録上に宇宙線の記録を重ねると、急激な温暖化または寒冷化した非常に短い期間は、宇宙線流入量の大きい変化を伴った。したがって、これらの気候変動は、空にのぼる太陽の高さよりも、むしろ太陽の磁気作用に結びつけられた。宇宙線の増減が気候に及ぼす影響は、現在の温暖な一時期よりも、一般的な氷期の方がずっと顕著であった。これはミランコビッチ効果以外の何らかの要因が、気候変動を起こし、地球の応答感度が変えられている可能性がある。 この謎を解くには、気候におよぼす感度を変える原因を見つけられるかにかかっている。氷期の間には膨大な量の水が、海から陸上の氷床に引き上げられて、海面は非常に非常に低くなっていることが、1つの要因である。寒冷期に広大な面積の大陸棚が露出されるのは、①欧州の北海、英仏海峡、アイルランド海、アドリア海、②ベーリング海峡とシベリア北方の広大な領域(ベリンジア)、③南シナ海、そしてインドネシアの島々の間、が干上がって海流を塞いでしまう。氷期の海面が低いことから、気候変動力に対する感度は、氷期の方が高いことが理解できる。しかし、温暖な間氷期の状態に急速に切り替わることについては、ミランコビッチ効果では説明できない。
今後の課題 ミランコビッチの意味は、過去200万年前までは、よく理解されるが、時間をさらに遡ると、気候変動の概要とそれを引き起こしたと考えられる理由が、ずっとあいまいになる。
5節 地球の過去の気候をもっと良く知るために
最近分かった過去の気候 2003年に、1億4000年前の白亜紀に氷河が存在していた証拠が発見された。さらに1990年代以降に、その白亜紀よりさらに古い年代に、全球凍結期が存在していた証拠も出てきたのである。これらの大きな発見がごく最近になされた。
掘削調査
過去の気候の説明は、1960年代以降に行われた海底掘削と氷床掘削の膨大な実績に基づいている。しかし、最も古いものは、1億8000万年前の海底堆積物でしかない。氷床コアーは、もっと新しいものでしかない。地球の歴史の残り95%を追求するには、最も古い岩石の形成が38億年前に起こっているので、それを探索するしかない。しかし、今までの古い岩石は、偶然見つけられたものでしかない。2004年に米国国立科学財団により組織された「過去の気候に関する学術会議」は、海洋の掘削経験をモデルにした大陸掘削計画を要請した。
気候変動モデルの作成
さしあたり、宇宙線の推定値を、他のいくつかの実働要因に関する知識と組み合わせて、単純な計算モデルを試みることは可能である。デンマークでは既に過去200万年よりはるかに古い時代にまで伸ばそうという提案がなされている。① 銀河の渦巻を横切ったこととの関連がよく理解されている5億万年前の顕生代まで、② 全球凍結が起こった25億年前の原生代まで、そして③ 最古の46億年前の冥王代や、比較的弱い太陽光の下での生命活動が始まった38億年前の始生代まで、と言うようである。気候に影響を及ぼした可能性のある全ての実働要因のうちで、数十億年前から数カ月までの総ての時間幅で、明確な足跡を残しているものは、宇宙線のみである。
6節 荒れ狂う宇宙における生物
異星生物の探査計画
21世紀初頭に研究者が目指す目標の中で、上位に占めるのが、他の星に生存する生物の探査である。欧州宇宙機構(ESA)とNASAが、他の惑星の大気中に、生物生存の可能性を示す水蒸気や他のガスが存在しないかを調べるために、赤外線を検出できるように設計することになっている。
生物の出現に必要な条件
地球そのものは、微惑星同士が高速で衝突することにより作られた。そして、海洋は、彗星の氷からもたらされたものであろう。その後、微惑星や彗星が地球に衝突する割合は、ずっと減少したが、それでも引き続いて起きており、時々、大規模な生物の死滅と環境破壊をもたらし続けている。 2005年にイタリアの宇宙物理学者ビグナミは、「宇宙構想: 2015~2025年の欧州のための宇宙科学」という報告書の作成を指導した。これには宇宙における生物の出現に必要な物理的条件を理解することの必要性から書き始められ、そして、1つの恒星とその惑星系との間に磁気結合が必要であると強調している。 「地球の居住性は、特に、ゆっくり進化している太陽により維持されている。というのは、この太陽は、ほぼ一定の日照を与え、また、銀河内の超新星からやってくる粒子群から、我々を守っているからである。高温の太陽コロナから発している太陽風は、太陽圏全体に広がり、荒れ狂う時期を太陽系末端の外まで運ぶことにより、宇宙線の流入量を劇的に減少させている。それ故、我々は、生命―特に進化した形態をした生物の生命―の維持に必要とされる条件を完全に明らかにするために、① 太陽の磁気体系、② その変動、③ 大規模な太陽爆発におけるフレア(太陽面爆発)の噴出、④ 太陽圏、各惑星の磁気圏及び大気の相互作用、を理解せねばならない」。
したがって、宇宙気候学は、星生成率が高い期間には、強い宇宙線により、太陽の磁気遮蔽圏が押し潰されてしまうことを示している。しかし、それにより、地球が全球凍結になった時でも、生物はしがみついて耐え忍んでいれば生き延びられるのである。我々の惑星は、太陽によって作られた宇宙線防護の太陽圏の内側で、特定の位置と環境にあることから、生物の棲み処として長い間、寄与してこられたのであろうか。その点で地球は、どれだけ特異的なのであろうか。そして地球上の生物の出現は、若い太陽からの強い太陽風により、強い宇宙線が存在しなかっただけで可能となったのであろうか。この疑問が異星生物を探索する鍵となろう。
生物の隆盛、多様化、および進化をもたらす条件
もう一つの発見は、生物存在のための条件について、何か重大なことを我々に語り掛けている。それは、強力な宇宙線強度と生物の生産性の極端なバラツキとが、驚くほど密接に結び付いていることである。この生物の生産性のバラツキが大きいことは、13C(炭素13)原子のカウントにより示された記録上に、最も高い生産性と最も低い生産性とが混在しているのである。このことから強力な宇宙線というストレスは、生物圏の生産性に有害な影響だけでなく、有益な影響も、もたらしていることは明らかである。 もしも、生物の生産性が気候変動に関係しているのなら、生物の多様性―全ての生物種の数―についてはどうであろうか。生物の多様性は、生物圏の良好さのもう一つの、しかし全く異なる尺度である。 変化した環境に古い生物種よりうまく適合した新しい生物種が出現し、古い生物種が絶滅する時には、気候の変化が進化を推し進めることができる。このことは古生物学者ははるか以前から認識していた。宇宙線に関係付けて語られた生物の歴史は、彗星や小惑星の衝突で、その時の気候状態に関係なく、生物の多様性を最も多く失わせ、大量の絶滅を引き起こすことは間違いない。このような絶滅の後には、多数の新しい生物種が出現して絶滅分の穴埋めがなされ、生物の生産性は、かえって以前にも増して急速に回復する。この生物の復元力は、ある意味で荒れ狂う宇宙の危機に対するために、あらかじめプログラム化されていることを暗示させる。 宇宙線は、直接的に、遺伝子の突然変異を引き起こすことにより、進化の速度に影響を及ぼしたのかもしれない。遺伝子の非連続的な(突然)変異に基づいている。その変異を見出すのである。比較遺伝子学によって、宇宙気候学は生物学の最先端に出会う。
7節 太陽活動の盛衰を読み取る
気候に及ぼす太陽の影響
ESA(欧州宇宙機構)は、太陽の幅広い研究を推進した。ESAのプロジェクトは、太陽が自分の存在を示すものとして3つの作用を評価している。それは、① 可視光と不可視光の放射作用、② 太陽風が地球磁場に影響を及ぼす作用、③ 宇宙線を制御する作用。
大気の低いレベルまで到達できる宇宙線が、気候変動に対して最も大きい影響を及ぼすが、それと比較して、① 太陽活動によると考えられている他の作用、② 火山爆発や、東太平洋と世界全体を温暖化させるエルニーニョ現象を含む、地球のいかなる他の自然現象から来る気候への強制は、気候に対して小さな影響しか及ぼさない。 宇宙線、雲、および気候間のつながりは、数十億年を対象にした場合に重要であるように、現代でも重要である。数年先や数十年先を予測するような短い期間では、銀河内の環境は変わらないので、気候変動に重要な宇宙線の変動は、太陽の磁気活動の変化に依存することになる。
黒点数の変化の影響
太陽の黒点数の予測はできない。黒点数とフレア(太陽面における爆発現象)発生頻度との間に関連性があるが、おおよそでしかない。宇宙線もまた、太陽の黒点との関連性も余り強くない。一般的には、宇宙線の流入量は、黒点少ない時には高く、多い時には低いが、関連性は少ない。
太陽の磁気活動の予測
放射性原子による宇宙線の記録は、太陽活動に長い期間が存在し、それに伴って、時期による宇宙線の遮蔽圏が、約200年と1400年との間隔で、強化と弱体化を繰り返すことを示している。しかし、太陽の磁気活動は誰も予測できていない。
星の磁気の観測
パーカーは、太陽類似星の数を10から1000へと増やすべきであるという。それによって、稀にしか起こらない現象を検出する機会が増えるから。 太陽の将来を予測することはまだできていないし、太陽の極の一方はまだ見えていない。
太陽活動の予報
21世紀の間には、予報された太陽活動と宇宙線の値を基礎に用いて、気候変動を本格的に予測できることが期待されている。しかし、太陽の物理学は現時点では不明確なので、宇宙気候学者は、21世紀に起こることについて、いかなる結論も出すべきでないだろう。
8節 今日の気候変動についての建設的な見解
予報士による長期気候予報の問題点
宇宙線が気候変動を引き起こす重要な要因なのに、その予測ができない現時点では、数十年先の気候予報をすることは科学的にはできない。1970年代にプリンストンのスマゴリンスキーは、「間違った気候予報を出すくらいなら、全く出さない方がましである」と警鐘を鳴らしたが、いまでも真実である。気候モデルはまだ仮定や簡略化が用いられているので、まだ疑わしい。 地球の気温への炭酸ガスの影響の可能性は、今でも、気候モデル作成者の自由裁量によって決まり、幅広い範囲内から選ばれた予測値に依存している。21世紀の間にやってくる温暖化の予測値は、今では0.5~6℃近辺にまで及んでおり、多い予測値は3~4℃あたりである。
この炭酸ガスの温暖化効果の明らかな過大評価を下方修正することは、炭酸ガスを生成することとなる化石燃料の無駄遣いを推奨することではない。気候とは関係なく、化石燃料消費の節約を要請する理由は、他にいくらでもある。例えば、① 健康を害するスモッグをできるだけ削減するため、② 地球の限られた燃料資源を長持ちさせるため、③ 貧しい国のためにエネルギー価格を低く維持するため、などである。
宇宙線の変化により雲の形成量が変化するという因果関係は、現在の気候変動を10年ごとに見た場合の重要な特徴を今でも説明している。炭酸ガスの影響は、予想値よりもはるかに小さいように思われることが度々あるのはなぜか、説明することが気候科学において緊急の課題である。 20世紀末の気候モデル作成者にとって、炭酸ガスに焦点を当てたことによって、長期の気候予側が実現可能に見えたのであろう。しかし、当分の間、長期の気候予測は原理的に不可能である。なぜなら太陽は今後、どのように変わっていくのか、また地球の雲量に今後どれだけ影響を及ぼすか、ということに誰も答えられないからである。 地球温暖化を警告している大部分の予測が、大げさすぎるようだということが分かっただけではない。世界の貧困地域の人々にとって、気候変動は貧困や餓死を意味するが、気候変動の機構が正しく理解されれば、より有意義な忠告がその人たちにすることができ、それが活用されることになるだろう。 破壊的な、洪水、渇水、防風に対処している人にとって、それは地球温暖化による災害だと言っても何の役にも立たない。それは建設的な行動を起こすことに何も貢献しないからである。
宇宙気候学者が貢献できること
宇宙気候学は、長期の気候予報はできないにしても、地域ごとの気候変動の理由とパターンに関しては、深い見識を提供できるはずである。それにより、被災民は助けられ、為政者は最悪の結果を回避できるだろう。 地球を覆う雲量が変化するパーセント(%)を特定することにより、各緯度帯に地表の気温が温暖化か、それとも寒冷化することを示す利点がある。南極だけは他の地点とは逆の変動をすると示せるのも、その一つの例である。 アジア・モンスーンは、熱帯および亜熱帯地域を照射する夏の太陽と、広大な領域を覆う雲の塊を、動力源としており、数十億の人々はモンスーンの雨に依存して繁栄している。過去にモンスーンが発生しなかった時には、大規模な飢饉が度々起こり、時には文明が崩壊している。反対に雨が多すぎた時には、インド、バングラデシュ、中国に大洪水が起こっている。
2005年に南京師範大学のワン・ヨンチンのチームは、南中国の洞窟から得た石灰質の層状石(石筍)を調査し、過去9000年の間に、太陽活動が雨季の雨量に繰り返し影響を及ぼしていること示して、太陽の明るさが原因であると推定した。 しかし、そのデータそのものは、別の原因、つまり、宇宙線流入量が多い時には、モンスーンが弱められて降雨量が少なくなり、宇宙線流入量が少ない時には、モンスーンが強められて降雨量が多くなっている。 その理由は、宇宙線量が少なくて熱帯海域上の雲が少ないと、海水の表面温度は高く温められ、余分な水分が風の中に供給されるので、水分の多い風が、数日後に陸上のモンスーン地帯に雨をもたらすからである。 同じ関係が、太陽の活動と夏の雨との間にも存在することが、過去50年の間に、アジアだけでなく、アフリカのサヘル(サハラの南縁の半乾燥草原地帯)でも確認されている。
インド宇宙物理学研究所の太陽物理学者のヒレマスは、インド・モンスーンの過去130年にわたる変動を調査し、2006年の「太陽圏と地球環境に及ぼす太陽の影響に関する国際宇宙科学研究会議」で、スベンスマルクの理論を引用して、「降雨量の変動幅、太陽活動、および銀河宇宙線の間に因果関係が存在するように思われる」と語った。それは① モンスーンの発生、② 太陽活動の活発化、③ 赤道直下の太平洋における海水温を上昇させるエルニーニョ現象の発生、という3者のつながりに関してのパズルである。 エルニーニョが発生すると、その後にはいつもではないが時々、インドで厳しい干ばつが起こる。そして季節予報に太平洋のデータしか用いないと、干ばつ警報を出しても起こらなかったり、出さないのに干ばつが起こることがある。それに対し、予報士が太陽活動をも考慮に入れると、ずっとよく当たるのである。 そしてヒレマスが示唆しているように、もしも、雨期の雨量が多くなったり、少なくなったりする周期が、太陽の磁気活動の22年周期に結び付いているなら、それに合わせて計画を立てることができる。そうすれば、農民は、現在の宇宙線強度に合わせて、彼らの収穫量、および灌漑用水の排水量を加減することができるだろう。食料援助を担う救助機関にとっては、これは重要である。
予言の戒め 気候科学は、対策を立てるのに役立つものでなければならない。太陽活動の全貌を充分に理解できていないうちに、将来を予言することは邪道である。当たる確率は低く、世間を惑わせることでしかないからである。
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