踊る小児科医のblog

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平成17年度乳幼児保健講習会(2) シンポ「小児救急体制の新たな動き」

2006年05月12日 | こども・小児科
シンポジウム
テーマ「小児救急体制の新たな動き」

1)地域小児科医連携型:印旛方式
   西牟田敏之(国立病院機構下志津病院院長・千葉県小児科医会会長)

 印旛郡市11市町村(人口67万人)では、小児科診療所が少なく勤務医の比率が高い。小児救急医療体制の7つの基本パターンのうち、Gタイプにあたる4つの中核病院と1つの小児初期急病診療所(登録医48名:小児科医開業医13、他科開業医15、勤務医20)による24時間の診療体制を作りあげた。3年を経過して年間1万6千名の受診、紹介率3%で順調に定着している。ポイントは国立病院勤務医や小児を診療している他科医師の参加による負担の軽減にある。

I. 小児科主標榜医を主体に構築する場合
  一次(初期)救急 二次救急   三次救急
A 小児救急医療センター:24時間対応
B 地域中核病院単独        県内基幹病院
C 地域中核病院輪番        県内基幹病院
D 中核病院に初期  併設中核病院 県内基幹病院
  急病診療所併設
II. 小児科医師と他科医師によって構築する場合
  一次(初期)救急 二次救急   三次救急
E 中核病院に初期  併設中核病院 県内基幹病院
  急病診療所併設
F 地域医師会の   中核病院単独 県内基幹病院
  初期急病診療所
G 地域医師会の   中核病院輪番 県内基幹病院
  初期急病診療所

2)休日夜間急患診療所方式:町田市の事例
   豊川 達記(豊川小児科内科医院院長)

 町田市は人口約40万人で、1994年から稼働していた輪番制の休日小児準夜診療を廃止して、2003年より準夜急患こどもクリニックを市が開設し医師会が運営している。総登録医70名強(小児科医21名、内科医21名、勤務医など)、平日1名、週末休日2名の体制で、19時から22時までの診療時間に平均18.6名の受診者数であった。近接する市民病院の深夜受診者数はクリニック開設後も減少しておらず、コンビニ化の危惧が感じられる。受診の際には必ず電話をする体制にしているが、受付の電話相談化が課題となっている。経営的には市からの委託料3000万円でかろうじて成り立っている。

3)小児救急医療と電話相談事業:広島県の事例
   桑原 正彦(桑原医院院長・広島県小児科医会会長)

 広島県は小児医療環境が恵まれた地域と厳しい地域の格差が激しい。2002年より開業小児科医による小児救急電話相談のモデル事業を開始し、2005年から県の委託事業として継続している。土日祝日・年末年始のみの体制で、2年半の相談件数は5463件、一晩に約20件で、法的問題を起こした事例はなかった。現場の患者数の減少には結びついていないが、育児不安の解消やトリアージ機能など、県民の安心ネットとして貢献したと評価している。利用者の満足度は78.3%と高かったが、相談小児科医の負担が課題となり、勤務小児科医や看護師の協力を受けて365日体制に移行し事業の継続を計っている。

4)地域の開業医と勤務医が連携:鹿屋方式
   松田 幸久(まつだこどもクリニック院長) 

 鹿児島県大隅半島は2市17町で人口約27万人、基幹病院が1か所、小児科開業医は7名のみで、全国有数の小児科医不足地域となっている。一次救急を開業小児科医・内科医が担当し、二次救急は医療センターが担当する方式を導入したところ、夜間休日の小児救急患者数はおよそ4倍となり、担当医は疲労困憊して改善を求める声が多くなったため、対応策の検討を重ねている。

 発表に引き続き、討議では機能分担が進まず病院の患者が減っていない実態や、電話相談におけるトリアージ機能、看護師や保健師の参加、国や自治体からの補助、医師への手当など実情に即した議論が行われた。

 小児救急体制に理想的な一つの答えがあるわけではなく、地域の実情に即したシステムが全国各地で検討され実施に移されている。いずれも課題は維持していくためのマンパワーとそれに要するコストであり、小児科医だけで全国すべての小児時間外患者に24時間体制で対応することはできない。電話相談事業では看護師・保育師の参加を、初期救急医療では他科医師の協力を得ながら、基幹病院に勤務する小児科医の負担の軽減をはかりつつ、地域のニーズに応じた適切なシステムを構築し維持していくことが重要だと考えられた。