踊る小児科医のblog

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平成17年度乳幼児保健講習会(1) 柳田邦男氏講演

2006年05月11日 | こども・小児科
平成17年度乳幼児保健講習会
日時:平成18年2月19日(日)
会場:日本医師会館大講堂
主催:日本医師会

メインテーマ「小児医療充実のための環境整備」

講演
1)IT時代と子どもの人格形成     
   柳田 邦男(ノンフィクション作家・評論家)

 1990年代後半から、動機の理解に苦しむ残虐な少年犯罪が顕在化している。岡田尊司氏(京都医療少年院精神科医)の『脳内汚染』と、その中で引用されている寝屋川市教育委員会調査結果によると、長時間ゲームやネットに耽る子どもは、否定的な自己像と現実的課題の回避、対人関係における消極性、傷つきや復讐へのとらわれ、抑圧傾向と攻撃性、共感性や状況判断力の不足、無気力・無関心な傾向などがみられたという。
 佐世保の事件の加害女児の人格特性として、1)自分を見つめ言語化することが苦手、2)基本的な安心感が希薄で他者への愛着が形成されにくい、3)文脈をとらえて理解する力が未熟、4)表現回避か攻撃への両極端に走る傾向がある、という4つが精神鑑定の結果概要の中で述べられていて、寝屋川調査とぴったり一致する。この女児は、幼少期から母親の無関心により基本的な愛着が形成されず感情が抑圧され、テレビ漬け育児からゲームやメールへと移っていく中で感情の分化が育たず、普段はおとなしいが怒ったら怖い、キレやすい子どもに育っていった。これらの特徴は今の子どもに普遍的にみられるものだが、それが重大な事件に連鎖的につながっていったことを重視すべきで、短絡的な原因論ではなく、それら一つ一つを丁寧につぶしていくような対策を取らなければならない。
 罪を犯した少年の精神発達は6-8歳の状態で止まっていて、自己中心的で、物事を白黒でしか判断できず、迷うことがない。某国の大統領にも似ている。
 メディア、特にゲームの影響は、麻薬の習慣性、依存性と同じであり、より強い刺激を求めるようになっていく。岡田氏は「子どもに笑顔や夢を与えようと買った玩具が子どもの脳を燃え尽きさせ、凶悪な犯罪者にまで仕立て上げてしまうこともある」と警鐘を鳴らしている。
 いま早急になすべきこととして、日本小児科医会の提唱するノーテレビデーの取り組みや、渡辺久子氏のアタッチメント形成理論などが紹介され、政府が進めている小中学校への情報教育をやめさせ、人格形成、ものを考える力、言語力、きめ細やかな感情を育てる教育の必要性が強調された。

2)母子保健をめぐる最近の動向
   佐藤 敏信(厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長)

 新生児・乳児死亡率のデータでみる限り、我が国の周産期医療は世界でもトップクラスにあるが、将来を不安視させる兆候も見え始めている。その最大のものは産科医・小児科医不足である。
 母子保健政策の歴史を概観し、現在は背景として少子化が進行し、地方分権による地方の責任が増大した状態にあり、主要なテーマも児童虐待、子育て、保育、子どもの心の問題への対応へと変化している。
 産科医・小児科医不足への対応として、医師数そのものは今後相当の過剰状態となる見込みで医学部定員増は事実上困難である。しかし地域偏在や診療科偏在は顕著であり、その背景として女性医師の増加、第二次開業ブーム、新研修制度、大学院重点化などがあげられる。これらに対し、医療資源の集約化、労働環境改善、女性医師のライフステージに応じた就労支援、診療報酬上の「手厚い対応」などが説明された。