踊る小児科医のblog

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走る哲人 『走る人! 鹿児島-青森30日間2300キロ激走日誌』を読んで

2006年05月10日 | SPORTS
 2005年早春、卒業を間近に控えた一人の大学生が鹿児島から青森まで約2300キロを30日で走破した。1日平均80キロ弱を休みなく走り続けるという無謀とも言える挑戦を有言実行で成し遂げ、その克明な記録を自ら書き記した「熱血感動もの」との予想のもとに、感動と活力を少し分けてもらおうという安易な動機から応募してみた。しかし、その期待は良い意味で裏切られることになる。
 自身がクレイジーチャレンジと命名するこの挑戦は、前半で早くも壁にぶちあたる。広島を前にして、膝の上が大きく腫れ上がり、歩く程度の速さでしか進めなくなる。その後も深夜に及ぶ行程、危険なトンネル、心の緩みなどと戦いながらひたすら前に進み続ける。
 なぜそこまでして走るのかという誰もが抱く疑問に対し「自然と戦って人間の意志の強さ、肉体の強さを証明したかったから」だと明言する。この段階ではしかし十分に納得が得られたとは言えない。
 さらに、良いイメージを描くことの大切さを繰り返し強調する。人はイメージした以上のことを達成することはできない。そして、大きな目標を達成するために、小さな約束、毎日のノルマを守ることを自分に課していく。
 毎日ひたすら走り、休み、超人的に食べ、そして眠る日々の中で、回復力が疲労を上回る「超回復」を示し、疲労がピークに達しているはずの東北に入ってから、どんどん元気になり快走を重ねていくのだ。24日目には「人間の限界は自分で思っているよりずっと奥にある」とまで言えるようになる。
 そして、青森県に入ってから2つの小さな奇跡が起きるのだが、それは偶然ではなく自身で呼び寄せたものとしか考えられない。
 この挑戦は決してクレイジーでも無謀でもない。やり残したことは何もないと言い切る大学生活の豊かな経験の中で育まれたコミュニケーション能力、徹底した自己管理、イメージトレーニング、そして広がり続ける支援の人の輪。その中で活力をもらい、逆に与え続けながら、読者を巻き込みつつゴールを迎える。
 人はイメージ以上のことをやり遂げることができたのだ。
 これだけのチャレンジを常人はとても真似することはできない。しかし、月並みな表現だが、私たちは人生というゴールの見えない自分との戦いの中で、何度も壁にぶつかり、希望を失い、将来のポジティブなイメージを描くことができないまま疲弊を重ねている。
 その中で安易に癒しを求めるのではなく、自らへの限界に挑戦して打ち勝つことで、自分自身にも周囲の人にも新たな刺激を与え続けているこの若き「走る哲人」の生き方に、率直に学ぶべきところが大きいのである。

(これは某サイトの書籍プレゼントに当選して書いた宿題の書評なのですが、根拠のない間違った語句が挿入されるなどジャーナリズムとはかけ離れた校正が無断でなされていたので、そちらの方は無視して当ブログに掲載しました)